ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第2話

   1

 

 渡したい物があるから、まだ近くにいるなら会場まで来てほしい。

 女性スタッフからその旨の連絡を受けて、千歌たちは会場前まで戻ってきた。イベントが終わってある程度経ったから、会場の建物周辺にあまり人はいない。それでも内浦に住む千歌にとっては東京ではありふれた人の多さが縁日並に感じる。そういえば沼津はもうすぐ夏祭りだった、と今更ながらに千歌は思い出した。

「ごめんなさいね呼び戻しちゃって。これ渡し忘れていたから、って思って」

 会場前で待っていた女性スタッフは申し訳なさそうに言いながらA4サイズの封筒を差し出してくる。「何だろう?」と後ろのほうでルビィの声がする。「もしかして、ギャラ?」と期待する善子に「卑しいずら」と窘める花丸の声も。

 千歌はすぐに封筒を受け取ることができなかった。不安が込み上げてくる。続けて紡がれた女性スタッフの言葉はまるで予感を裏付けるように、

「今回、お客さんの投票で入賞グループ決めたでしょ。その集計結果」

「わざわざすみません」

 手の震えを何とか抑えつけ、ようやく千歌は封筒を受け取る。

「正直どうしようかなあ、ってちょっと迷ったんだけど、出場してもらったグループにはちゃんと渡すことにしてるから」

「はあ………」

 「じゃあ」と挨拶もそこそこに、女性スタッフは建物に駆け足で入っていった。

「見る?」

 曜が訊いてきて、千歌は「うん」と応える。皆が集まって、視線を封筒に集中させている。封筒を開けることができた根拠が勇気によるものなのか、正直なところ分からない。この時、千歌は不安も期待も抱いていなかったように思えるし、同時に両方を抱いていたとも言える。不安も期待も同じ量で、互いを相殺し無になっていたのかもしれない。

 封筒に入っている紙は2枚あった。

「上位入賞したグループだけじゃなくて、出場グループ全部の得票数が書いてある」

 左から順位、グループ名、得票数という順に記されている目録の中で、Saint_Snowは9位に位置している。入賞は8位までだから、惜しいところまで行ったということだ。

「Aqoursはどこずら?」

 花丸に促され、千歌は上からグループ名を追っていく。1枚目に記されたのは15位まで。2枚目を差し替え、16位からのグループ名を追っていくと、ようやくAqoursの名前を見つけることができた。

 目録の最後にある30、つまりは最下位に。

「30位………」

 「ビリってこと⁉」と声をあげる善子に「わざわざ言わなくていいずら」と花丸が文句を飛ばす。

「得票数はどれくらい?」

 あくまで冷静に梨子が訊いてくる。微かな望みを取り零すまいと、千歌は右端に記録されている数字を見た。

 記されていた数字は――

「………ゼロ?」

 得票数ゼロ。それの意味することを理解するのに、千歌はしばしの時間を要した。ようやく実感が持てたのはルビィが「そんな……」と漏らし、続けて梨子の述べた言葉によってだ。

「わたし達に入れた人、ひとりもいなかったってこと?」

 つまりはそういうこと。ステージ上で、Aqoursは何も成せなかったということになる。

 観客の誰も笑顔にできず。

 観客の誰も感動させられず。

 Aqoursの誰も輝くことができなかった。

 全身が冷たくなっていくように錯覚する。ライブ前に感じていたはずの熱が消えて、足元がふらついてくる。

「お疲れ様でした」

 その声に紙から視線を離すと、Saint_Snowのふたりが立っている。

「Saint_Snowさん………」

「素敵な歌で、とても良いパフォーマンスだったと思います」

 皮肉などおくびにも出さず聖良は告げる。ふたりにもこの集計結果は渡されているはず。自分たちの結果は勿論、こうして声をかけたのならAqoursの結果も知っているのだろう。ここは同じステージに立ったライバルとして千歌も健闘を称えるべきだった。でも何も言葉が見つからず、千歌がただ口を半開きにしている間にも聖良の言葉は続く。よく通る声で、とても冷たく。

「ただ、もしμ’sのようにラブライブを目指しているのだとしたら、諦めたほうが良いかもしれません」

 聖良は笑顔だ。それなのにとても恐ろしく感じられる。

 絶対に諦めない。

 せっかく見つけた夢を、そう簡単に手放したくない。

 諦めちゃ駄目なんだ、ってμ’sも歌っていた。それで彼女たちは成し遂げた。

 わたし達にだってできるはず。

 ライブ前なら、反論の言葉をいくらでも並べることができただろう。でも後になっては、得票数ゼロのパフォーマンスを晒した千歌が言っても負け犬の遠吠え。実力も伴わずに大声ばかりを張り上げる愚者の妄言だ。

 聖良は去っていく。でも理亜のほうは千歌たちへ鋭い視線を向けたまま動かない。

「馬鹿にしないで」

 ステージ上での歌声は聞いたが、こうして会話上での理亜の声を聞くのは初めてだった。まるで棘、いや剣のように鋭い声色だが、千歌の意識が向いたのは彼女の吊り上がった目尻に浮かぶ涙だった。

「ラブライブは、遊びじゃない!」

 それは、本気でイベントに臨んだ者が流せる涙だ。遊びじゃないのはこっちも同じ、と言うべきなのだが、千歌は理亜の涙で気付く。Saint_Snowよりも散々な結果だったのに、ついさっき1番のパフォーマンスだった、と豪語していた千歌には、反論する資格なんて無い。

 涙を乱暴に拭い、理亜は聖良の後を追っていった。

 

 

   2

 

 半日の間に東京と沼津を往復してきて流石に疲労を否めないが、沼津署に戻った誠と小沢に休息を取る暇はなかった。そもそも沼津へ戻ることになった理由が沼津署で行われる「アギト捕獲作戦」の会議で、G3ユニットの誠たちにも当然出席義務がある。

 会議室へ向かう廊下で、できることなら会わせたくない顔と遭遇する。もっとも、ここで避けられたとしても会議で顔合わせになるのだが。

「お久しぶりです小沢さん」

 相変わらずスーツが瀟洒な北條の挨拶を「はいどうも」と適当にいなし、小沢はそのまま素通りしようとする。だが「ああそういえば――」と続けようとする北條の声に小沢は深い溜め息をつき足を止め、誠も彼女に倣う。

「まだお礼を言っていませんでしたね」

「お礼?」

 「ええ」と応える北條はとても溌剌としている。

「短い間でしたがあなたと一緒にG3ユニットで働けて、とても勉強になりました」

「そう、良かったわね」

 それ以上の会話をしたくないのか、小沢は再び歩き出す。誠も彼女を追おうとしたとき、「ああ、氷川さん」とまた北條に呼び止められる。

「いらしたんですか。影が薄いせいで今気付きましたよ」

 極力関わろうとしなかった小沢も我慢の限界が来たのか、誠の代わりと言わんばかりに声を荒げて北條に詰め寄る。

「ちょっとあんた喧嘩売ってんの?」

「冗談ですよ。でもアギト捕獲作戦が成功したらどうでしょう。対アンノウンの戦力としてアギトを制御できるようになったら、本当にG3は影が薄くなるでしょうね」

 もしアギトが警察に協力してくれたら、と誠は想像してみる。きっと殆どのアンノウンはアギトによって撃破されるだろう。戦果を挙げないG3ユニットは規模が縮小され、やがて解散に追い込まれて完全に戦力はアギトに取って代わられるかもしれない。でも誠に危機感はなかった。G3装着員の立場を北條に取って代わられた頃、とうに決心したことだ。たとえG3装着員でなくなっても、自分はアンノウンと戦う、と。

「失礼します」

 そう告げて一足先に会議室へと歩いていく北條の背中に向けて、小沢は吐き捨てる。

「まったく信じられないわ。あんな嫌な奴が現実にこの世にいるなんて」

「でも、本当に可能なんでしょうか? アギトの力を制御して利用するなんてことが」

「さあね、捕まえてみなければ何とも言えないけど」

 

 会議の様相は、これまでとは異なるものになっていた。

 不可能犯罪対策本部、ひいては警察においての会議とは大抵の場合事件が起こってから行われる。まだ何も起こっていないこの場は会議というより、PC越しにいる警備部長からの報告会に近い。

『これまでの例を見て、G3システムの活躍を期待しても、アンノウンの出現に際して常に速やかなる対応ができるわけではない。諸君らも既に知っていると思うが、我々幹部会がアギト捕獲作戦を決議したのもそのためだ。同作戦が成功すれば、アンノウンに対抗する新たな手段が見出せる。我々はそう信じている』

 誠の隣に座る小沢はひどく機嫌が悪そうだった。北條が指揮を執るということもあるだろが、恐らく上層部がG3ユニットの意見を聞くことなく作戦を決議したことも気に入らないのだろう。アンノウンとアギトに最も肉迫しているのは自分たち、特にG3装着員として前線に立つ誠だ。アンノウンの恐ろしいほどの強さと、それに渡り合うアギトの力を誠は間近で目撃している。だからこそ、この捕獲作戦が果たして上手くいくか疑問を拭えない。果たして捕獲に成功したとしても、何をもってアギトの力を制御しようというのか。相手が言葉を持つ生命体なのかも分からないのに。

 北條が進言する。

「安心してください。期待を裏切るようなことにはなりません。既に機動隊の人員を借り、アギト捕獲のための特別チームを編成しました。隊員たちは既にこちらへ到着しています。いつでも動くことができるでしょう」

『しかし問題はいつどこでアギトが現れるかだ』

「焦ることはありません。必ずチャンスは訪れます」

 すると北條は誠のほうを一瞥し微笑を浮かべ、

「アンノウンに襲われて生還した人物が、また襲われる可能性があります。その人たちに護衛を付けましょう。既に3名ほど絞り込めています。先日東京で襲撃を受けた黒澤ルビィ、国木田花丸。2ヶ月ほど前に襲われた松浦果南」

 何が護衛だ、と誠は裡で怒りを覚えた。まるで彼女たちがアンノウンをおびき寄せる囮じゃないか。守るはずの市民を、作戦のために敢えて危険に晒そうなんて。

 反対してくれることを期待して警備部長の映るPCへ目を向けるが、部長も補佐官も合点がいったかのように頷いている。我慢しきれず誠は立ち上がった。

「ひとつ質問があるのですが」

『何かね?』

「我々の敵はアンノウンのはずです。アギトよりもまず、アンノウンの捕獲を優先するべきではないでしょうか?」

 「私も氷川主任の意見に賛成です」と小沢も立ち上がり、

「我々はまだアンノウンについて何も知らない。アンノウンを捕獲できれば貴重なサンプルになると思いますが」

 ふふ、と鼻で笑う音が聞こえた。見やるとその音源はやはり北條で、やれやれ、といった表情を向けてくる。

「どうやらあなた達は大きな勘違いをしているようですね」

 「勘違い?」と小沢が威圧するように訊くが北條は余裕な佇まいを崩さず、

「我々はアギトもアンノウンと同種の者と考え、この捕獲作戦を立案したんです。当然でしょう。アギトもアンノウンも我々の常識を遥かに超えた力を持っている。アギト捕獲も、アンノウン捕獲も同じことですよ」

 悔しいが反論ができない。反論するのに、現状で誠たちには知らないことが多すぎる。アギトの正体も、アギトがアンノウンと戦う理由も。

 会議が始まる前に小沢が言っていた通り、捕まえてみないことには何も分からない。何せ、相手は正体不明(アンノウン)の存在なのだから。

 

 結局G3ユニットの意見は聞き入れられないまま、会議は終了した。機動隊まで参加するほどの作戦だから、上層部としても面子を保つために今更覆すことなんてできない。捕獲対象もアンノウンに切り替えることもできず、作戦の変更は一切なし。会議室から出た小沢は北條をバカ男アホ男と、上層部を頭の固い親父連中と悪態をつくことなく、誠の横で静かに歩いている。

 完全に自分たちは蚊帳の外だ。G3は万が一の事態に陥った場合の保険でしかない。そもそも、警備部長だって作戦の立案当初はG3ユニットの参加に前向きだったはずだ。それをしなかったのは、きっと北條の進言だろう。G3システムに頼らず自らの手でアギトを捕獲し、優秀性を認めさせるために。

 彼のことを考えてしまったせいか、「小沢さん」と本人の声に振り返る。相手が明らか拒絶を表情に出しているにも構わず、北條は小沢へと歩み寄る。

「今日は嬉しかったですよ。あなたの人間らしい一面が垣間見えて」

「嬉しい? 何のことよ?」

「アギトを捕獲されたくないという、あなたの気持ちですよ」

 心情を読み取られまいと、小沢は黙って口を結ぶ。それを良いことに北條の弁は止まらない。

「アギトを我々の戦力として制御できるようになれば、G3の必要性が薄くなるかもしれない。あなたはそうなることを怖れているんだ。出来の悪いG3システムでも、生みの親のあなたとしては愛着があるようですね」

 「何言ってんのよ」と小沢は語気を強め、

「出来が悪いのはあなたのほうでしょ!」

「まあそうムキにならないでください。G3システムにもまだ使い道はあります」

 すると北條は誠へと向き、

「交通整理くらいならできるでしょう。ね、氷川さん」

 ぽん、と肩に手を置いて颯爽と歩き去っていく。その背中が見えなくなると、ようやく誠は気付いたことを口に出す。

「小沢さん、いま初めて思いましたよ。北條さん、やっぱり嫌な人かもしれない、って」

「今更何言ってんのよ。でも最近益々グレードアップしてるみたいだけど」

 じゃあ、前から北條は嫌な人間だったということか。それも今更ながらに気が付いた。既に知っていたとは、やはり小沢は天才と謳われるだけある。

 

 

   3

 

 線路を走る電車の音が絶えず響いているが、東京の喧騒に比べると不思議と静かに思える。実際車内は静かで、皆の誰もが会話もせずシートに身を預けている。ちらり、と曜が花丸のほうを見ると、東京駅で買ってきた饅頭を手に持ったまま口に運ぼうとしない。

「泣いてたね、あの子」

 花丸の隣に座るルビィが、走行音でかき消されそうなほどか細い声で呟いた。

「きっと悔しかったんだね、入賞できなくて」

「ずら………」

 「だからって」と善子は苛立ったように、

「ラブライブを馬鹿にしないで、なんて――」

 言葉を詰まらせ、善子は沈んだ顔で視線を落とす。馬鹿になんてしていない。それは曜も同じだ。曜だけでなく、この場にいる皆も同じはず。本気でラブライブを目指して練習してきた。だからといって熱意で実力が付くかと問われれば、肯定もできるわけじゃない。

「でも、そう見えたのかも」

 曜がその事実を告げると、場の雰囲気がまた深く落ちていく。AqoursやSaint_Snowだけじゃなく、あのイベントに出場した全てのグループがお遊び気分だったわけじゃない。皆が本気だった。本気だったからこそ、観客の誰からも支持されないパフォーマンスでステージに立ったAqoursを理亜は許せなかったのかもしれない。

「わたしは良かったと思うけどな」

 車窓から見える海を眺めていた千歌が言った。

「精一杯やったんだもん。努力して頑張って東京に呼ばれたんだよ。それだけで凄いことだと思う。でしょ?」

 「それは……」と花丸が言いかけたが、続きを詰まらせる。同意したいけど、して良いものかためらったように見える。千歌は続きを遮るように、

「だから、胸張っていいと思う。今のわたし達の精一杯ができたんだから」

 こんな時でも、千歌は笑顔を絶やさない。幼い頃からそうだった。一緒にやっていた水泳を辞める時も、父の葬式の時も、千歌は曜に一切悲しい顔なんて見せなくて、笑顔を浮かべていた。

「千歌ちゃん」

 曜はじっと千歌の顔を見つめ呼ぶ。千歌の笑顔に今まで元気を与えてもらった。でも、その笑顔が苦しめてしまう時だってある。だから曜はその問いを投げなければならなかった。

「千歌ちゃんは悔しくないの?」

 他の皆の視線を一斉に感じる。この問いは、皆が抱いていたものだ。ずっと笑顔で1番の出来だった、良かった、と言う千歌に向けての。曜は再び問う。それがどれだけ酷な質問だろうと。

「悔しくないの?」

 千歌は戸惑いながらもまだ笑っている。

「そ、そりゃあちょっとは。でも満足だよ。皆であそこに立てて。わたしは……嬉しかった」

 どうして、と曜は訊きたかった。得票率ゼロで、ラブライブ出場は諦めたほうが良いなんて言われ、馬鹿にしないでと吐き捨てられた。悔しがっていい。悔しがったって誰も咎めない。それなのに、どうして千歌はここまで笑顔でいられるのだろう。どうして満足だなんて言葉を告げることができるのか。

「…………そっか」

 曜はそう言って会話を打ち切るしかできなかった。悔しくないの、とまたしつこく問い詰めたところで千歌は一貫して「満足」と返すだろう。埒の明かない口論をするには旅で疲れすぎた。

 

 

   4

 

 西の水平線に沈もうとしている夕陽の眩しさに、涼は目を細めた。海面には反射した陽光が一筋に伸びている。穏やかな波に揺れて不安定なその道はほどなくすれば消えてしまいそうで、異界へ繋がる道のように感じられる。

 ふと、涼はあの光の道を辿ってみようか、と考えてしまう。連絡船の操縦士に頼んで陽が沈んでしまう前にあの夕陽を越えれば、どこか違う世界へ行けそうな気がする。苦しみも悲しみもなく、何も失うこともない世界へ。

 でも、そんなことはできないだろう。水平線の先まで泳いでいきたい、と幼い頃は願っていた。でも水平線は延々と続くだけで、向こう側なんてものは存在しない。涼の乗る連絡船だって、長く航海できるほどのエンジンは積んでいないだろう。この連絡船が行くのは本土の目と鼻の先にある淡島だ。

 船着き場の桟橋を踏んだ涼は、そこから見えるダイビングショップへと視線を向けた。またここに来るなんて、と質の悪い悪戯のような縁に嬉しいのか悲しいのか分からない感慨を覚える。

 ポケットから出した手帳を開く。開いたページの中身は昨日初めて見つけた。隣のページと密着していることに気付いて開いてみると、そこに綴られた名前は涼に衝撃を与えるに十分なものだった。

 小原鞠莉。

 黒澤ダイヤ。

 松浦果南。

 3人目の名前は、最初こそ同姓同名の別人と思った。でも住所は間違いなくドルフィンハウスのもので、店のホームページにアクセスして確認してみると一字一句違えることなく一致していた。

 何で父さんが果南のことを。何度繰り返したのかも分からない問いを携えながら、涼は店へと歩いていく。足を進めていく毎に体が重くなり、動悸が激しくなっていく。一旦足を止め、深呼吸しても体の不安な強張りは治まる気配がない。

 ウッドデッキのテラスへ上がると、営業を終えた彼女は箒を手にテラスの掃き掃除をしている際中だった。

「あ、すみません。今日はもう閉店で――」

 愛想よく振り返った彼女の顔が、涼と視線を交わすと同時に険しくなる。こんな顔をされることは予想していた。こんなときは敢えて明るく「久しぶりだな」と声をかけるのが良いものか、涼が言葉を探しあぐねているうちに果南のほうから口を開いた。とても刺々しい口調で。

「何しに来たの?」

 

 

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