ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

52 / 160

てぇんさぁい「スクールアイドルとしてラブライブ出場を目指すAqours。だが彼女たちの道のりにはアンノウンと呼ばれる謎の生物が立ちはだかっていた。そこに現れたのが、我がてぇんさぁいの先輩ヒーローである仮面ライダーアギト――」

筋肉バカ「なあおい」

てぇんさぁい「何だよ先輩のあらすじ紹介させてもらってるのに」

筋肉バカ「アギトって『仮面ライダー』なんて単語出てこないのに言っていいのかよ?」

てぇんさぁい「万丈がまともなこと言ってる……!」

ドルオタ「うわ怖え……!」

ヒゲ「雨が降るか? 槍が降るか? それともまたスカイウォールの惨劇が………!」

筋肉バカ「お前ら失礼すぎんだろっ!」

てぇんさぁい「良いんだよこういうメタな台詞が俺たちの持ち味なんだから」

ドルオタ「お前は黙ってプロテインでも飲んでろ筋肉バカ」

筋肉バカ「誰が筋肉バカだ! どうせなら『プロテインの貴公子』とか――」

ドルオタ「さあプロテインバカはほっといて!」

筋肉バカ「バカって付いてんぞ!」

てぇんさぁい「おお、突っ込みのタイミングバッチリ」

ヒゲ「成長したな………」

ドルオタ「今回からスクールアイドルの頂点を目指すみーたんとかずみんのラブストーリー『ラブみーたん! feat.仮面ライダーグリス』が始まります!」

てぇんさぁい「始まらない!」

ドルオタ「え?」

てぇんさぁい「何先輩の作品乗っ取ろうとしてんの。今回も『アギト』が主役。どうなる第10章!」


 多分『アギト』世代の方には分からないネタだと思うので一応説明を。
 あらすじ紹介に登場した4人は去年放送された『仮面ライダービルド』の主要キャラクターでございます。
 すみません、ずっと真面目な作風に疲れてしまったのです………。




第10章 シャイ煮はじめました / 暴走する力
第1話


 

   1

 

 それは翔一が十千万の玄関を掃除している昼間のことだった。もうすぐ本格的な海水浴シーズンが訪れ、十千万も繁盛期になる。それほど大きくはないが古風な趣が売りの十千万には全国から宿泊の予約が来て、シーズン前にして既に全部屋埋まっている。

 遠路はるばる来てくれるのだから最大のもてなしを用意しよう、と念入りに箒でゴミを掃き、砂利を均等に敷いていたときに、そのお客は訪れた。

 いや、お客ではないことは一目瞭然だった。訪ねてきたのは若い男なのだが足取りはおぼつかず、顔は汗で濡れていて目の焦点も合っていない。

「あの……、お客さんですか?」

 一応確認してみたが、青年は答えなかった。答えられるほどの余裕すらないようで、翔一の声も聞こえているのか怪しいほどに。それでも翔一があまり青年に対して警戒を抱かなかったのは、しいたけが吼えることなく小屋で寝ていたからだった。しいたけは人を見る目がある。この犬が大人しくしているのなら、相手は悪い人じゃないはず、と。

 青年は翔一の前で足を止めて、崩れるように砂利の上に倒れた。

「どうかしましたか⁉ 大丈夫ですか⁉」

 翔一が肩を揺さぶって呼びかけても、青年はこめかみを手で押さえながら苦しそうに呻くだけだった。

 

「あーつーいー!」

 本格的な暑さをもたらす日光に押し潰されているように、千歌は肩を落とす。「ずらあ」とメンバーの中で体力不足気味な花丸と、黒のローブを日除け代わりに纏っている善子も。

「天の業火に闇の翼が………」

 「その服やめたほうがいいんじゃ」とルビィが的確な指摘をする。黒なんてかえって熱が籠りやすいだろうに。善子もそれは理解しているはずなのだが、黒は堕天使の色と譲らない彼女のこだわりだ。

「どうしたんですか? 全員集めて」

 曜が集合をかけたダイヤに尋ねる。よりにもよって夏休みの、しかもこんな直射日光が容赦なく射し込む屋上に。

 暑さなんかに負けてられない、と言わんばかりに涼しい顔をしながら、ダイヤは「ふふ……」と不敵に笑い、

「さて、いよいよ今日から夏休み」

 「Summer vacationといえば……」と鞠莉が言って、「はい、あなた!」とダイヤが千歌を指名する。一体何の話なのか、戸惑いながら千歌は答える。

「やっぱり、海だよね……?」

 次に曜が、

「夏休みはパパが帰ってくるんだ」

 次に花丸。

「マルはお婆ちゃんちに」

 そして善子がローブをばさり、と翻し、

「夏コミ!」

 夏コミとは夏に開催される同人誌――個人出版した本――の即売会のことらしい。夏のコミックマーケットを略して夏コミ。

「ぶっぶーですわ!」

 ダイヤの怒号で、一部を除く全員が慄く。鞠莉と果南は慣れているのか、微笑まし気だ。

「あなた達それでもスクールアイドルなのですか? 片腹痛い片腹痛いですわ!」

 夏休み期間にあるスクールアイドル関連のイベントといえば、ラブライブの予選くらい。それもまだ時期的に余裕がある。現在それに向けた新曲の制作中だ。もっとも、千歌が歌詞を完成させていないから早くも遅延が生じているが。

 詳しい説明のために場所を部室に移すと、ダイヤはホワイトボードに円グラフを書いた紙を貼った。

「いいですか皆さん。夏といえば――」

 そこでダイヤは視線を横へ流し「はい、ルビィ」と隣に立つ妹を指名する。ここまで来れば流石に話も見えてきて、ルビィは自信満々に答えた。

「多分、ラブライブ」

「流石我が妹。可愛いでちゅね、よくできましたあ」

 見事正解した妹を猫なで声で褒めながら頭を撫でている。ルビィ本人も満更でないようで「がんばルビィ」とスクールアイドルとしての決め台詞をくべる。そんな姉妹の様子を呆れ顔で眺めていた善子が隠すことなく、

「何この姉妹コント」

「コント言うな!」

 普段からは考えられない口調で噛みつくとダイヤは改まって話を続ける。

「夏といえばラブライブ! その大会が開かれる季節なのです」

 ダイヤはホワイトボードの紙を指さし、

「ラブライブ予選突破を目指して、Aqoursはこの特訓を行います!」

 紙面にあるのはAqoursの夏合宿の日程スケジュールを表した円グラフだった。

「これはわたしくが独自のルートで手に入れた、μ’sの合宿のスケジュールですわ」

 「すごいお姉ちゃん!」とルビィが目を輝かせているが、千歌はじめとする他の面々は真逆に訝し気な視線をホワイトボードに送っている。どんな入手ルートかはともかく、その練習メニューが遠泳10㎞とランニング15㎞、更に腕立て腹筋20セットとでたらめな内容で。一応歌唱レッスンやダンス練習も含まれているのだが、そんなものは申し訳程度に組み込んだようなもの。因みに精神統一というものまで組み込まれている。本当にμ’sはこんな練習をこなしていたのだろうか。

「こんなの無理だよ………」

 千歌は呟くが、

「ま、何とかなりそうね」

 と果南が涼しい顔で言ってのける。スクールアイドルから離れていた頃も体力作りに余念がなかったことは承知だが、こんな練習メニューをこなしていたらラブライブどころかトライアスロン大会も優勝してしまいそうな気がする。

「熱いハートがあれば何でもできますわ」

 こんな根性論を言ってしまうダイヤはどうしたのか、その疑問を曜が述べる。

「何でこんなにやる気なの?」

 答えたのは、最もこの場ではしゃぎそうな鞠莉だ。

「ずっと我慢してただけに、今までの想いがShinyしたのかも」

 つまりこの興奮ぶりは2年間の反動ということか。彼女が生粋のスクールアイドルファンであることを考えれば納得はできるが、それと着いていけるかどうかは別なわけで。

「何をごちゃごちゃと! さあ、外に行って始めますわよ!」

 張り切ったダイヤはそう言うが、外を見ると蜃気楼で景色が揺らめくほどに暑いのが分かる。

「そういえば千歌ちゃん、海の家の手伝いがある、て言ってなかった?」

 曜が芝居めいた棒読み口調で訊いてくる。助かった、と思いながら、

「ああ、そうだそうだよ。自治会で出してる海の家手伝うように言われてるのです」

 一応、嘘はついていない。十千万と周辺の旅館やホテルが所属する観光協会で海の家を出店するため、その手伝いをするよう志満から言われていた。

「あ、わたしもだ」

 果南も思い出したように言う。ドルフィンハウスも夏は絶好のダイビングシーズンだから繁盛するだろう。

「そんなあ。特訓はどうするんですの?」

 露骨に肩を降ろすダイヤに申し訳ないと思いつつ、

「残念ながら、そのスケジュールでは………」

 曜も補足するように、

「勿論、サボりたいわけではなく………」

 ダイヤは腕を組みしばし考えるように目を伏せる。すぐに代案を思いついたらしく、不敵に笑った。まさか海の家の営業が終わったらグラフのメニュー全てこなすとか言いそうで、千歌と曜は「ひっ……」と短い悲鳴を漏らす。

 そこで鞠莉が助け舟を出してくれた。

「じゃあ、昼は全員で海の家手伝って涼しいmorning and eveningに練習、てことにすれば良いんじゃない?」

 「それ賛成ずら」と代案に花丸が同意する。でもダイヤはそうはいかないようで、

「それでは練習時間が………」

 そうだ、と千歌は我ながら良いアイディア、と自画自賛できる案を思いついた。

「じゃあ夏休みだし、うちで合宿にしない?」

 「合宿?」と全員で反芻する。

「ほら、うち旅館でしょ? 頼んでひと部屋借りれば、皆泊まれるし」

 意図を察してくれた曜が、

「そうか、千歌ちゃんちなら目の前が海だもんね」

 寝食と海の家以外の時間を全て練習に当てるのなら、皆で一箇所に固まったほうが効率が良い。それなら合宿という形が1番。それも海岸が目と鼻の先にある十千万に。

「移動がない分、早朝と夕方時間とって練習できるもんね」

 果南が言った。「でも」と花丸はまだ懸念があるらしく、

「急に皆で泊まりに行って大丈夫ずらか?」

 旅館の予約状況がどうなっているかは確認してみないと分からないが、千歌はあまり深く考えなかった。

「何とかなるよ。じゃあ決まり!」

 その後は合宿の日程についての話し合いに移ったのだが、それは善は急げということで明日に即決した。

「では明日の朝4時、海の家に集合ということで」

 ダイヤの言葉に「お、おお……」と全員で戸惑い気味に応じつつ、この日は解散になった。部室からぞろぞろと皆で出て行くなか、ふと千歌は未だ部室から動かない梨子に気付く。梨子は宙に視線を向けていて、その目には何も映っていないように見えた。

「梨子ちゃんどうかした?」

 ようやく部室に自分だけであることに気付いた梨子は「ううん」と笑いながら歩き出した。

「何でもない」

 

 

   2

 

 氷水を絞ったタオルを額に乗せると、その冷たさに反応してかぴくり、と青年は顔を震わせる。でも閉じられた瞳は開かず、粗い呼吸を繰り返し続ける。どこかで見たような顔だが、一体どこの誰だか思い出せない。妙な既視感だが、記憶喪失の翔一にとっては慣れたものだから気に留めることでもない。

 ひとまず自室のベッドに寝かせたは良いが、姉妹たちには何て説明したらいいものか翔一は頭を悩ませる。汗を大量に滲ませていたから熱中症かもしれないが、寝ているときに水を無理矢理飲ませるのもあまり良くない。見たところ顔色は優れないが重篤というわけでもなさそうだ。しばらく様子を見て目が覚めるのを待とう。花村ベーカリーが閉店した今の時期、翔一は1日中十千万にいる。

 店主の花村久志が殺人事件で死亡した後、唯一の店員になった翔一はひとりで店を続けていこうと考えていた。レシピは受け取ったし、生前の花村からも望まれていたことだ。でもすぐに店舗を貸し出していた大家から立ち退きを命じられ、店舗経営の知識なんてまるで無い翔一は従うしかなかった。理不尽な事情で無職に戻ってしまった翔一を気遣って大家はベーカリーの後に新しく開店するラーメン屋で働くことを勧めてくれたのだが、どうしてもその気になれず断った。丁度十千万の繁盛期に入ろうとしていたから、それを理由に。

 かくして花村ベーカリーは閉店したわけだが、消滅したわけでもない。花村の遺産とも言えるレシピはまだ翔一が持っているし、いつでも花村の味を復活させられる。別のパン職人に託すか、翔一がパンを作っていくか。どちらの選択を取るかは悩みどころだが。

 翔一はレシピノートを開く。十千万の厨房には流石にパン専用のオーブンなんて備えていないが、家庭用オーブンでも作れるパンはある。その試作でもしようと、ノートを片手に翔一は部屋を出た。

 

 日が暮れた自室の照明を点けることもせず、梨子はピアノの前に佇んでいた。作曲作業に使うようになってからは毎日触れているし、鍵盤を弾く指が震えることもなくなった。ピアノの呪いは解けつつある。スクールアイドルとして曲を作っていくうちに、解放される日が来るのかもしれない。思いのほか、その機会は早くやってきた。

 先日の夜、梨子のスマートフォンに届いたメール。送信元は以前出場したことのあるピアノコンクールの運営委員会で、間もなく大会のエントリー締め切りが近いことの通知だった。

 呪いを解くには、その呪いが生じた場を克服しなければならない。その瞬間に覚えた恐怖と絶望を塗り替えなければいけない。そうしなければ、いくら効力が弱まったとしても完全に解かれたとは言えない。時間が解決してくれないのが呪いの厄介なところだ。

 演奏する曲はある。Aqoursの曲を作る合間に書いていた譜面が。淡島でのダイビングで聴いた海の音を元に、自分なりに咀嚼しメロディに起こし曲にしたもの。納得の出来になったし、既にタイトルも決めてある。今すぐにでもコンクールのホームページにアクセスしてエントリーすることは可能だ。

 でも、わたしにはAqoursがある。

 ゼロから1へ、と皆で決めて走り出したばかり。予選に向けた新曲だって制作中なのだから、コンクールの練習に当てる時間もないだろう。ましてや明日から合宿。生活は完全にスクールアイドル中心になっている。

 ピアノが大事であることに変わりはない。

 でも、スクールアイドルが大事という気持ちだって、嘘じゃない。

 

 

   3

 

 青空に浮かぶ太陽が燦々(さんさん)と光を地上に注ぎ、砂浜を白く、海を青く反射させる。「いやっほう!」「眩しい!」と砂浜を駆ける千歌と曜が水着で海へと跳びこみ、上昇する気温で熱くなった体を海水で冷やす。すぐに海中から顔を出した千歌の顔面にビーチボールが直撃し、痛くはないだろうが驚いて再び海中へ押し戻される千歌を鞠莉がボールを拾いながら笑っている。

 沖合いのほうでは果南が波に押し上げられたサーフボードを見事に乗りこなしていて、別のところではルビィが浮き輪に乗って穏やかな波に揺られながらくつろいでいる。水面下で何かに掴まれたのか、じたばたともがいていると浮き輪が転覆し海中に沈んでしまう。でもすぐに浮かび上がってきて、悪戯の犯人である曜に抱えられたルビィは少しばかり疲れた様子だ。

 こうなるだろうな、とは思っていたけど。

 海水浴を楽しむメンバー達を砂浜で眺めながら、梨子は溜め息をつく。

「結局遊んでばかりですわね」

 同じく腕組みして事を眺めるダイヤが皮肉を漏らした。

「朝4時に来たら、マル以外誰もいなかったずら」

 砂浜に刺したパラソルの影の下で、花丸が溜め息交じりに言った。その隣で日光浴をしている善子が「あったり前よ。無理に決まってるじゃない」と皮肉を飛ばす。遅れないように、と釘を刺しておきながら見事に自身も寝坊したダイヤはそっぽを向きながら、

「ま、まあ練習は後からきちんとするとして。それより手伝いは午後から、て言ってましたわね、確か」

 砂浜に建てられた簡易小屋を前にして、それほど広くない三津海水浴場を見渡す。

「はて、そのお店はどこですの?」

 「現実を見るずら」と花丸が容赦なく言った。もっとも、目を背けたくなるのも無理はない。建てられたのは数日前だというのにかなり年季の入った店に仕上がっているのだから。きっと何年も木材を新調せずに使い回しているのだろう。古き良き、と言えば聞こえは良いが、言い換えればオンボロ。閑古鳥が鳴く、という比喩がこれほど似合う有様もない。

 かといって、海水浴客が梨子たちAqoursメンバーだけ、というわけでもない。他にもお客はいるし、人がいるなら飲み物や軽食を求めて海の家はそれなりに繁盛する。

 なのに何故自治体運営の海の家がこれほど閑散としているのかというと、お客が全て隣のもうひとつの店舗に流れているから。隣の店舗は木材が白く塗装されたオープンテラスで、解放的な南国のバーを思わせる雰囲気になっている。湘南の海水浴場ではよく見かける店舗なのだが、沼津では珍しいようでほぼ満席になっている。

「都会ずらあ」

 花丸が目を輝かせた。ダイヤのほうは肩を落としている。

「駄目ですわ………」

 店に立つ前にして戦意喪失したところで、海のほうから鞠莉が、

「都会の軍門に下るのデースカ?」

 その言葉に皆の視線が集まる。どこか芝居じみているようにも聞こえるが、彼女の場合本気にも聞こえるからどちらか判断しがたい。

「わたし達はラブライブの決勝を目指しているんでしょう。あんなチャラチャラした店に負けるわけにはいかないわ!」

 こんなことを言っているが、あの店舗はホテルオハラの出店と聞いている。それでもダイヤには鼓舞が響いたらしく、

「鞠莉さん。あなたの言う通りですわ!」

 そうして張り切って――主にダイヤが――海の家の手伝いを始めることになったのだが、

「これ、何?」

 互いの恰好を見て、梨子と千歌は声を揃える。ふたりとも店の脇に置いてあった箱型の看板で首から下をすっぽり覆っているのだが、これを指示したダイヤは声高々に、

「それで、この海の家にお客を呼ぶのですわ。聞けば、去年も売り上げで隣に負けたそうではありませんか。今年はわたくし達が救世主となるのです!」

 何ともスケールの大きい。千歌から聞いた話によると、去年は翔一がスイカ焼きそばなる新作料理を出していたのだが売れ行きが芳しくなかったとか。そのためか今年はシフトから外されているらしい。

「果南さん!」

 次にダイヤは果南に詰め寄る。

「さあ、果南さんはこのチラシを。商売もスクールアイドルも大切なのは宣伝! あなたのそのグラマラスな水着姿でお客を引き寄せるのですわ。他の砂利どもでは女の魅力に欠けますので」

「何か顔が怖いんだけど………」

 戸惑いながらも果南はチラシを受け取る。言い方に棘はあるものの、納得の人選ではある。果南のスタイルには敵わない。

「砂利ってなあに?」

 その意味を千歌から訊かれて、梨子は苦笑と共に返した。

「知らないほうが良いと思う」

 腑に落ちない千歌が首を傾げていると、ダイヤは更に人員の配置を進めていく。

「そして鞠莉さん、曜さん、善子さん」

 「ヨハネ!」という善子の抗議は無視して、

「あなた達には料理を担当してもらいますわ。都会の方々に負けない料理でお客のハートを鷲掴みにするのですわ!」

 あの3人は料理できるの、と疑問に思ったが、当人たちは割と乗り気らしい。

「面白そうだね」

「堕天使の腕の見せどころ」

「じゃあLet’s cooking!」

 

 

   4

 

 本格的な暑さに、誠は額にじっとりと滲む汗をハンカチで拭き取る。一応沼津署内は冷房が備えられているのだが、省エネルギーとして気温が30度以上でなければ電源は入れられない。庁舎の維持は市民の税金で賄われているのだから、あまり贅沢はできない。とはいえ公務員だって税金を納めている。多少は快適な職場環境を享受する権利はあるはずなのだが、世間というものはそこまで寛容に見てくれない。

 定例会議を終えて小沢とGトレーラーへ戻る道中、廊下に相変わらず季節に不釣り合いな高級スーツの背中が見えた。

「北條君」

 あまり棘のない声で小沢が呼ぶ。珍しい光景だった。以前なら小沢のほうから声は絶対にかけなかったし、北條のほうからかけられても小沢は適当に応じて関わらないようにするのが常だったのに。

「………何か?」

 振り返った北條は短く応じた。以前とは真逆だ。小沢は北條の前で足を止め、誠もそれに倣う。

「もし良かったら一緒に食事でも行かない? これから焼肉食べに行くんだけど」

 「ええ、是非一緒に」と誠もなるべく明るい口調で、

「今日は僕が奢りますが」

 北條はふ、と不敵な笑みを零す。

「心外だな。ひょっとして、司さんの一件でこの私に同情しているんですか?」

「別にそういう訳じゃないけど」

 小沢はそう言うが、実のところ図星だ。そうでなければ北條と食事なんてするはずがない。同情もあるが、北條を警察官として見直した、ということもある。例え尊敬する上司でも、罪を犯したとなれば見逃さず断罪する。そんな警察官としての矜持を北條透も携えている、と。

 北條は言った。

「断っておきますが、司龍二はこの私が自首に追い込んだんです。私の名推理で彼の犯行を暴いて。あの男は昔から目の上の(こぶ)だった。全く清々しましたよ」

「あなた本気で言ってるの?」

 そう訊く小沢の声は、以前北條に向けるものへと戻っていた。

 「当然です」と即答した北條は皮肉に笑い、

「しかし、昼間から焼肉ですか。どうでもいいが、しばらく私に近付かないようお願いします。あの匂いが嫌いなんです」

 そう言ってかつかつ、と革靴の音を鳴らして去っていく。

「一瞬でも同情した私が馬鹿だったわ」

 まだ本人に聞こえる距離だというのに、小沢は隠すことなく言ってのける。あんな言い方は酷い、と誠も思うのだが、それでも北條に対して嫌悪ばかりを向ける気にはなれなかった。

 実際に断罪する場を目撃したからといって、誠に北條の心情を理解できるなんて超能力はない。でも確かなのは、北條もまた自分と同じ、市民のために戦う刑事だということ。和気藹々とまではいかなくても、同志として彼を認めていたい。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。