ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第3話

 

   1

 

「果南ちゃん出ないなあ」

 通話の応答が無かったスマートフォンの画面を眺めながら、千歌は呟く。食材の買い出しに行くと言っても、もうスーパーだって閉店間近の時間帯。それに食材が無いわけでもないから戻ってくるよう何度も電話をかけているが、虚しく着信履歴には果南の名前と番号が記録されていくばかり。

「もう待ちきれないから先に食べちゃわない? I’m berry hungry」

 鞠莉が腹をさすりながら言う。確かに千歌も空腹だ。

「先に食べよっか。果南ちゃんの分残しておけば大丈夫だよ」

 曜もそう言っている。「うん」と千歌は応じ、果南宛てに短くメッセージを送った。

「さて………」

 スマートフォンをポケットにしまい、海の家の厨房に目を向けた千歌は溜め息を漏らす。食材に関しては本当に無問題だ。何故なら昼間の営業での売れ残りが大量にあるから。

「どれくらい余ったの?」

 テーブルについたメンバーの中から梨子が訊いてくる。

「ヨキそばはほぼ売り切れたんだけど、シャイ煮と堕天使の涙、全く売れてなくて………」

 厨房に広がっているのは大量に作られた堕天使の涙――黒焦げのタコ焼きのようなもの――と寸胴鍋からはみ出したシャイ煮の具――熊の手のようなものが見えるのだが食べられるのだろうか――と、いくら9人いても食べきれるかどうか。保存が効けば明日の営業でも売ればいい話だが、生憎売れ残りにそんな期待は持てない。

「申し訳ない!」

「デース!」

 善子と鞠莉が三つ指を揃えて深々と頭を下げる。とはいえこの場にいる誰もがふたりを責める雰囲気はなく、むしろその売れ残った料理に興味を示す。

「それってどんな味がするんですか?」

 ルビィが訊くと「マルも食べてみたいずら」と花丸も目を輝かせる。ただひとり、ダイヤが怪訝そうに眼を細めたのが気になったが、それに気付かない善子と鞠莉は揚々と立ち上がり、

「良いですわ!」

 と声を揃えて応じ厨房に立つ。ふたりとも出来上がりを温めるだけなのだが、火にかけた鍋をかき回す鞠莉は魔女のように見え、電子レンジから出した堕天使の涙に善子は何やらぶつぶつ呟きながらマヨネーズをかけている。

「堕天使の涙に溺れなさい」

 それぞれの器にごった煮と黒い球焼きが行き渡ったところで、ふたりは自信満々に告げる。

「さあ、召し上がれ!」

 見るからに両方ともゲテモノなのだが、まさか毒なんて入っていないだろう。唯一の不安要素といえば、全く売れていないからお客からの評判が分からないだけ。そう、それだけ。

 自身に言い聞かせながら、千歌は箸で摘まんだ魚のヒレのような具を恐る恐る口に運ぶ。

「シャイ煮美味しい!」

 このプルプルとしたゼラチン質の舌触りはフカヒレだ。魚介の出汁を吸い取っている。他の皆も頬を綻ばせていて、かき込んで食べた花丸は「おかわりずら」と空の器を見せる。

「でも一体、何が入っているの………?」

 丸ごと入ったアワビを箸で掴みながら、梨子が恐る恐る尋ねる。「ふっふっふ……」と鞠莉は笑みを浮かべ、

「シャイ煮はわたしが世界から集めたspecialな食材で作った究極の料理デース!」

 小原家の財力なら取り寄せることも可能なのだろうが、丸ごと入っている食材はどれも素人の千歌から見ても高級なものばかりだ。タイに伊勢エビにタラバガニに、松茸や牛肉まで。あと食材として入れたのか出汁として入れたのか分からない熊の手。

「1杯いくらするんですのこれ?」

 ダイヤが訊くと鞠莉はさらりと、

「さあ? 10万円くらいかな?」

 その金額を聞いた途端、鞠莉と善子以外の全員が口に含んだシャイ煮を吹き出す。

「高すぎるよ!」

 千歌が言っても「え、そうかなあ?」と金銭感覚がまるで違う鞠莉は腑に落ちない顔をする。屋台や出店で1万円札を10枚出せるのか、と訊きたくなるが、きっと彼女はクレジットカードで決算を済ませているのだろう。庶民にとって金銭がどれほど重いものか分かっていない。

 苦笑しながらルビィが気を取り直すように、

「次は堕天使の涙を………」

 と大皿に山盛りになっている球焼きのひとつを爪楊枝に刺して口に運ぶ。皆が反応を見守る中、堕天使の涙を口に含んだまま微動だにしなくなったルビィの顔がみるみるうちに紅潮していき――

「ピギャアアアアアアアアアアアアアア‼」

 「辛い辛い辛い辛い!」と喚きながら外へ飛び出していく。

「ちょっと、一体何を入れたんですの⁉」

 ダイヤが問い詰めると、善子は不敵に笑いながら堕天使の涙をひと粒取る。

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けした、これぞ堕天使の涙」

 善子も堕天使の涙を口に放るのだが、その辛さに顔色ひとつ変えることなく咀嚼を続ける。もしやルビィが辛いものが食べられないだけでそんなに辛くないのでは、と一瞬だけ考えたが、やはり食べるべきじゃないだろう。全く売れなくて良かった。もし食べたお客がいたら店が営業停止になっていたかもしれない。

 堕天使の涙についてダイヤと鞠莉が善子に質問していると、会話に取り残された2年生の3人は自然と集まる。

「そういえば歌詞は?」

 梨子に訊かれ「うーん、中々ね……」と歯切れ悪く応える。

「難産みたいだね。作曲は?」

 今度は曜が梨子に訊いた。

「色々考えているけど、やっぱり歌詞のイメージもあるから」

 詰まるところ、千歌が歌詞を作らなければ曲の制作は進まないということ。梨子も先に曲を作っても、千歌の歌詞に合わせて大幅に変えることになったら限られた時間と労力を浪費するだけ。それに何より、妥協はしたくない。

「良い歌にしないとね」

 地区予選を通りたい。もっと輝きたい。もっと上手く踊り歌いたい。もっと、という望みが千歌の裡を満たしている。元々ゼロだった。ならばこれから先は失うものなんてなく、きっと何かを得ていくのだと思える。集まった9人で。

「うん」

 梨子は頷いた。

「外の空気吸ってくる。ルビィちゃんも心配だし」

 そう言って梨子は店を出ていく。やっぱり何か様子が変だ、と千歌は思った。昨日からどこか上の空で、意識が別のところへ向いている気がする。本人に直接訊くべきだろうか。でも、梨子自身が言いたくないことだったどうしよう。悩みがあるのなら言ってほしいが、無理強いして傷付けたくはない。決めあぐねていると、曜の声が飛んでくる。

「千歌ちゃーん。ソース切れちゃった」

「分かった。取ってくるね」

 急ぎ足で店を出ると、ルビィがペットボトルで水を飲んでいた。ようやく辛さが治まったらしい。いつもは静かな三津海水浴場には波の音に海の家から聞こえる少女たちの声が上乗せされていて、ささやかながら祭り気分になってくる。十千万の玄関に着いてガラス戸を開けようとしたのだが、寸前で千歌は手を止めた。

「ピアノコンクール?」

 翔一の声だった。暖簾の間から覗き見ると、翔一と梨子によく似た彼女の母親が話している。そういえば、野菜のお裾分けをしによく家を訪ねていると言っていた。今日も翔一から受け取ったのか、大量のキュウリが入ったビニール袋を手に提げている。

「ええ。案内が来たらしいんだけど、あの子出るとも出ないとも言ってなくて」

「うーん、千歌ちゃんからは何も聞いてないですけど」

 ピアノコンクールって、と会話に入ろうとしたのだが、そこで翔一の眼差しが変わった。ぞわり、と千歌の背中に寒気が走る。翔一があの目をしたということは、あれが現れたということだ。

 梨子の母も翔一の変化に戸惑ったのか、「翔一君?」と呼びかける。でも翔一は無言のまま、玄関に置いてあるヘルメットを掴むと靴の踵を踏み潰す勢いで履いて外に出る。

「翔一くん!」

 すぐ傍にいた千歌の声も届かず、翔一はバイクに跨るとエンジンを吹かして夜の闇へと走り出した。

 

 

   2

 

 内浦湾沿岸の民宿にて変死体発見。

 民宿の女将からの通報で、要請を受けた誠は現場へと急行した。

 普段ならば静かに波の音だけが響く夜の民宿の駐車場には、警官と野次馬たちがひしめき合っている。

「河野さん、お久しぶりです」

「おう」

 久々に捜査を共にする河野への挨拶もそこそこに、誠は事件について尋ねる。

「アンノウンの仕業かもしれないと聞きましたが」

「それがな……」

 河野は捜査をメモした手帳を見ながら説明してくれる。

「被害者は中野博和(なかのひろかず)。警視庁機動隊第8中隊の機動隊員なんだが、致命傷となるような外傷はどこにも見当たらない。内臓が破壊されてるらしいというのが、現時点での鑑識の意見だ」

 致命的な外傷なし。内臓が破壊されている。そのふたつの事項がぴたりと当てはまる前例がある。

「それじゃあまるで――」

 河野も同じことを思っていたのか「ああ」と頷き、

「3年前の高海伸幸殺しと同じ手口だ」

 一体どういうことか。今回の犯行がアンノウンによるものだとしたら、高海伸幸もまたアンノウンに殺された可能性が高い。しかし、河野の捜査では伸幸は人間に殺されたという見立てだ。だとしたら今回も人間によるものか。だとしてもどうやって。

 ごちゃ混ぜになった思考を整理しようとしたとき、「何⁉」と河野の上ずった声が聞こえた。他の捜査員から報告を受けていたらしい。

「どうしました?」

「駅前通りの方でも変死体が見つかったのは知ってるか?」

「ええ」

 それは現場への道中に車に届いた通信で聞いている。民宿での通報から1時間も経たず、市街のほうでも死体が発見されていた。

「そっちの被害者もこっちと同じ手口で殺されてるんだが、被害者はふたりとも機動隊の同じ隊所属で、アギト捕獲作戦に参加していたらしい」

「アギト捕獲作戦に? どういうことです?」

「分からん。ただ作戦のメンバーが襲われたとなると、次は北條が狙われるかもしれん」

 誠は素早くスマートフォンで北條に電話をかける。車に搭載された通信機に切り替わったということは、今運転中なのだろう。

「氷川です。北條さん今どちらですか?」

『駅前モールの駐車場で死体発見の連絡を受けましてね。今現場へ向かっているところです。どうかしましたか?』

「それが――」

 誠が説明しようとしたところで、端末のスピーカーから甲高い音が響き咄嗟に耳を離した。次に鈍い衝突音が。

「北條さん? 北條さん!」

 誠がいくら強く呼びかけても、北條は応答せず回線が途絶えた。

 

 街灯の弱々しい光が、急停止した車の運転席を照らしている。運転手は戸惑いの表情を浮かべていた。それも当然のことだ。運転手がブレーキペダルを踏んでいないにも関わらず、車のブレーキが作動したのだから。

 果南が念じると、車は発進し右へ急カープを描く。運転手は勝手に回ったハンドルを戻そうと手をかけるが動かない。止められないようブレーキペダルもがっちりと固めておいた。

 車はビルのコンクリート壁へと突っ込み、スピードを緩めないまま激突する。ボンネットが開き中のパーツが火花を上げるが、爆発するには至らない。距離が近すぎたか。

 膨らんだエアバッグに顔を埋めもがく運転手を見て、果南はきつく歯ぎしりする。失念していた。エアバッグも潰しておけばよかった。まあ、別にいい。少しずつ(なぶ)り、最大の苦痛を与えた上で息の根を止めればいいだけの話。

 もう、果南に良心の枷は外れている。ふたりも殺してしまった。一生かけても償えないし、死後の世界があるとすれば自分は間違いなく地獄へ行くだろう。人としての誇りが、魂がいくら穢れてしまおうが構うものか。既に超えてはいけない一線を越えてしまったのなら、後は際限なく進むしかない。

 何よりの理由は、涼を殺されたことへの憎しみ。さっき殺したふたりも、そしてこの男も、葦原涼という「人間」の命を奪った。彼にも人生があったのに。彼とふたりで生きていこうと思ったのに。例えスクールアイドルに、千歌たちのもとへ戻れなくても構わない。全てを捨てることになっても涼がいれば生きていける。その希望を奪われた。人間じゃない、その異形な姿で化け物と決めつけられて。

 その償いはさせなければ。果南は念の力でドアを開け、男を運転席から引っ張り出した。宙を跳ねる男は背中をガードレールに打ち付け、地面に倒れると痛みのあまりに悶絶する。

 ――痛い? でもね、涼はもっと痛かったんだよ――

 男はガードレールに手をかけてゆっくりと立ち上がる。周囲に視線を這わせているが、宵闇に隠れる果南を見つけることはできない。果南は更に強く念じた。ガードレールの鋲が弾け飛び、金属製の厚いガードレールが男の体に巻き付く。男は驚愕の次に苦悶と表情をころころ変えて、それがどこか滑稽に見える。ガードレールを強く締め付け、男の体を圧迫していく。男の悲鳴は弱かった。肺が圧迫されて呼吸もままならないのだろう。みしみし、と肋骨が軋む音が聞こえる。

 どうしてやろうか。このまま窒息死するのを見届けようか。それとも更に苦痛を与え悶え死なせるか。

「っ!」

 肩を掴まれ、咄嗟に果南は振り向いた。力が途絶えてしまう。

「あまり目立つ真似はするな」

 果南の肩を掴む男は言う。知らない男だ。いつからそこにいたのだろう。

「奴らが来るぞ」

 男がどこかを指さした。その先を視線で追うと、暗闇の中で光る眼が果南と男を睨んでいる。その眼を光らせる人影はゆっくりと街灯の光が届く所まで歩み出てきた。人に似たシルエットでありながら、ジャガーのような顔をした異形の存在。

「こっちだ、早く!」

 男は果南の腕を掴んで走り出す。ジャガーは追ってくるかと思ったが、割り込むように走ってきたバイクに行く手を阻まれた。男に連れられてその場を離れた果南は、そのバイクに乗って現れたのが誰なのか分からなかった。

 

 ジャガーのアンノウンは闇夜へ消えたふたりの人影から、翔一へと光る眼を向けた。頭上に浮かべた光輪から剣を出すところから、標的を翔一へと切り替えたらしい。翔一が奴らの存在を感じるように、やはり奴らも翔一の裡にある力を感じ取れるらしい。何故なのかは分からないが、戦うのに都合が良いから気にはしない。惜しみなく使わせてもらう。

「変身!」

 翔一はアギトに変身した。ジャガーが剣を振り降ろすが、それよりも速く翔一の拳が敵の腹を打つ。痛みを感じたのか多少たじろいだものの、ジャガーは剣を構え直す。突き出された剣を避けると、剣先は空を切り翔一の背後に建つビルのコンクリート壁を豆腐のように切り裂いた。

 敵の後ろへと回り込み腰に蹴りを見舞う。よろけたジャガーは足を踏ん張り、体を反転させながら剣を振るい翔一と対峙する。上段からの攻撃はバックステップを踏んで避け、突き出された剣も紙一重で避け、敵の得物を取る腕を脇で固めその顔面に拳を打つ。鼻面は流石に効いたのか、ジャガーはたたらを踏みながら後退した。

 それほど手強くはないが、武器を持っている点では向こうが有利か。あまり長期戦は得策じゃない。翔一はベルトの球に手をかざし、現れた刀の柄を掴み引き抜いた。

 ジャガーが再び剣を振り降ろし、刀で受け止める。同時、翔一の鎧が超越感覚の赤(フレイムフォーム)に染まった。敵の力の緩みが、刀身越しに伝わってくる。その隙を逃さず、翔一は剣を弾きその腹に膝打ちする。不利と見たのか、ジャガーが踵を返して走り出した。

 逃がさない。

 跳躍した翔一は敵を飛び越え、その行く手に降り立つ。敵は進路を変えることなく、迎撃を決めたのか剣を構えて跳びかかってくる。翔一は手元に力を込めた。刀の鍔にある角が開き、赤熱した刀身を肉迫した敵の頭に突き刺す。すう、と滑らかに、翔一の刀はジャガーの体を切り裂く。

 左右ふたつに別れた敵の体は背後へと流れ、ふたつの爆発を起こして木端微塵に散っていった。

 刀の鍔が閉じる。姿を戻そうとしたとき、翔一の鋭敏になった聴覚はひゅ、と空気を裂く音を捉えた。咄嗟に右手へ刀を向けると、長い錫杖が刀身に叩きつけられる。それを握っているアンノウンもジャガーのような姿をしているが、体躯はまるで女性のようにしなやかだ。錫杖を弾いて間合いを取ると、背後からも別のアンノウンが現れ翔一を羽交い絞めにする。動きを封じられた翔一の胸に女性のようなアンノウン――雌豹は錫杖を打ち付けた。ごほ、と咳き込むが構わず雌豹は錫杖を叩き込もうと構える。比較的自由な脚を振り上げ、翔一は迫ってきた敵の武器を防いだ。

 背後の力に緩みが生じる。するりと抜いた腕で背後のアンノウンに肘打ちを見舞い、よろめいたところで背中を刀の柄で叩く。

 もう1体のアンノウンもジャガーの姿をしている。先ほど倒した個体と色以外は同じ容姿。さしずめ雄豹といったところか。

 振り降ろした刀が雌豹の錫杖に防がれる。そのとき生じた隙で、雄豹に腹を蹴られた。かなりの脚力で、翔一の体が大きく宙に蹴り飛ばされ地面に伏せる。すぐさま立ち上がるが、2体のアンノウンは翔一に襲い掛かろうとしない。ゆっくりと後退し、暗闇の中へと姿を消していく。

 追跡しようにも翔一の体にはそれほどの力が残っていない。敵が去ったことへの安堵かそれとも単純に疲労のためか、翔一は膝をついた。

 

 

   3

 

 沼津署の通信司令部に確認を取ったところ、北條の車は市街で停まったまま動いていないとのことだった。通信はしたが応答はないらしい。毎秒ごとに誠のなかで焦りが募っていき、車のアクセルペダルを踏む足も強くなる。

 通信司令部の警官が言った通りの場所で、北條の車はビルの壁に頭から突っ込んでいた。しかも結構なスピードで衝突したらしく、ボンネットがひしゃげヘッドライトの破片が散らばっている。その近くで北條は白い物体に巻き付かれ、まるで(はりつけ)にされたように直立のまま頭を垂れている。

「北條さん!」

 車から降りた誠は北條のもとへと走る。彼の体に巻き付いたものを剥がそうとしたが、とても堅くて人力では動きそうにない。よく見れば、その白い物体はガードレールだ。本来なら真っ直ぐ伸ばされているはずのガードレールが丸まって北條の体を締め付けている。

「北條さん! しっかりしてください!」

 呼びかけながら、誠は北條の肩を揺さぶる。彼の目が僅かに開いた。何か言いたそうに口が動くが、「ああ……」と呻いた後に再び目を閉じる。

 良かった、生きている。ひとまず安堵した誠は、北條に纏わりつくガードレールを緩めようと全力で引っ張る。でも事故の被害最小化を目的に造られた金属板は人力で曲がるほどやわじゃない。

 北條が不思議な力で襲われたのは間違いない。でもアンノウンの仕業と決めつけることはできなかった。今回の事件は、人間によるものという可能性が出てきたのだから。

 

 

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