ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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 先日、沼津へロケハンに行きました。土地の雰囲気を掴んだようなそうでないような………。微妙なのでお盆休みあたりにまた沼津へ脚を運ぼうと思います。




第2章 転校生をつかまえろ! / 俺の変身!
第1話


   1

 

 物心ついた頃から、音楽が好きだった。

 ピアノの教室に通って、レッスンの時間だけでは物足りなくて、そんな娘に両親は決して安くないピアノを買い与えてくれた。それから梨子の人生はピアノと共にあったと言って良い。

 もっと上手くなりたい。もっと綺麗な音を奏でたい。自分にしか弾けない曲、自分にしか作れない音色が欲しい。

 暇さえあれば鍵盤を叩いていた梨子が上達するのは必然的なもので、自然とコンクールにも上位に入れるほどの実力を身に着けていった。

 ピアノは好きだからこそ続けてきたし、楽しく弾いていた。それが、あのコンクールの日から砂の城のように崩れていった。

 まだ音ノ木坂学院に在籍していた頃に出場したコンクールだった。大規模なホールを舞台にドレスを着て演奏するなんて随分と慣れたものだから、緊張なんてしないはずだった。事実、壇上で観客に礼をするまで、梨子の所作はとても自然になされた。

 でもいざピアノに向かったとき、梨子の指は石膏で固められたように動かなくなった。鍵盤の前でかざした手はコンクールの課題曲を何度も弾いてきた。ミスタッチは全て修正したし、動けば楽譜通り完璧に弾けるはずだった。

 ――わたしがやりたい音楽って、これなの?――

 梨子の意識の奥底にある疑問が、手を固めてしまったようだった。ピアニストに求められるのは楽譜が指示する通りに演奏すること。完成された曲にアレンジを加えることなく、作曲家の描いた音の連なりを忠実に再現することにある。完璧な演奏とは、悠久の時を経て昔の音楽を現代に蘇らせる崇高な行為。教室の講師がそう言っていた。

 若気の至りなのかもしれない。思春期のつまらない反骨精神なのかもしれない。それでも、蓋が開かれたピアノの中に梨子の音楽は見つからない。ここに自分の音楽は、音はない。

 そのコンクールで梨子は弾くことができなかった。ざわめく観客に礼をして、ステージを逃げるように退いた。

 あの日を境に梨子は鍵盤に触れることすらできなくなった。自分に相応しい音を見つけるまで触れさせない。そうピアノに拒絶されているような――いや、それは物言わぬピアノに責任転嫁しているだけ。拒絶しているのは梨子のほうだ。

 それでも何度もピアノを弾こうと試みたのは、梨子がまだピアノへの思慕を捨てきれていないから。辞めることなんてできない。梨子にとってピアノとは人生の大半を占めるものだから。ピアノはある意味で魔物だ。美しい歌声で惹き寄せられた者を殺すセイレーンのよう。

 梨子もピアノという美声の魔物(セイレーン)に惑わされているのかもしれない。歌声は目蓋のない耳に入り、知らずのうちに呪いとなって首を絞められるように息苦しくなる。

 

「ごめんなさい!」

 

 だから梨子は、千歌から差し伸べられた手を拒んだ。申し訳ない、と深々と頭を下げて、でもはっきりとした口調で。

 わたしにはピアノがある。

 たとえピアノに呪われていても、逃げるわけにはいかないの。

 大好きなものは、捨てられないから。

 

 

   2

 

『これが、君が遭遇したという敵かね?』

 警視庁警備部長の厳しい声が、スピーカーから流れてくる。誠の意識は声に込められた威圧よりも、PCの液晶が映すG3に搭載されたカメラの映像に向けられている。

 そこには何も映っていない。誠が戦った敵がいたはずの場所にはオーロラのようなもやがかかっていて、その姿が朧気でシルエットすらも捉えることができていない。

『戦闘オペレーションの実行時間は21分41秒と記録されている』

 記録映像が途切れたところで、警備部長補佐官の声が淡々と、

『だが録画された映像は僅か12秒。しかもこの状態で、G3は大破』

 「分かりません、何故映っていないのか」と誠はPCに接続されたマイクに向かって応じる。

「あの時、G3のカメラで確かに敵の存在を捉えたはずなんですが」

 『まさに未確認だな』と警備部長は言う。『それからこれ』と続けて、

『最終的にこの未確認生命体を倒したという謎の生物だが、何なのかね?』

 慎重に言葉を選別し、誠は答える。

「分かりません。しかし私が遭遇したのは、人間ではないと思います。人間であれば、たとえ防弾装備を固めていたとしても、G3システムの武器で制圧できたはずです」

『人間を超えた敵が現れた、とでも言いたいのかね?』

 補佐官の問いに誠は一瞬の間を置いて「はい」と答える。こんな報告、嘲笑か憤慨を買っても文句は言えない。だが映像になくても、大破したG3の装甲が物語っているはずだ。

 人類は未知の敵に遭遇した、と。

『君の言うことが本当なら、君が遭遇した生物はアンノウンとしか言いようがないな』

 アンノウン。

 警備部長による便宜的な呼び名を、誠は裡で反芻する。あれが現時点でまだ未発見の、道の生命体である以上、警視庁は呼称をそう定めるだろう。

『G3は修理中だが、また敵が現れるかもしれない。警戒を怠らないよう、捜査に取り組んでほしい。以上』

 当たり障りのない警備部長の口上で、聴聞会が締め括られる。PCの通話ウィンドウが閉じられた。張り詰めていた気分が解け、誠は深いため息をつく。誠は沼津警察署。警備部長と補佐官は東京の霞が関にある庁舎。電波越しでの報告であれほど緊張したとなれば、直に面と向かってしまうとまともな受け答えができるのか自信がない。

 PCをシャットダウンし、誠は会議室を出る。会議室を出てすぐの所にある階段で、男性刑事が腕を組んで佇んでいるのが視界に入る。明らかに自分を待っていた。それを悟りながらも、誠は何食わぬ顔で北條透の横を素通りしようとしたのだが、

「氷川誠」

 名指しされては、無反応はできない。やれやれ、と思いながら誠は同じ警視庁の刑事である北條へと向く。

「静岡県警からG3ユニットにスカウトされたと聞いたときに素朴な人間だろうと思いましたが、とんだ食わせ物でしたね」

 「何のことです?」と誠は訊いた。何て白々しい、とでも言いたげな視線を北条はくべて、

「謎の敵と遭遇したという、君の作り話だ。違いますか?」

「作り話……。私が何のためにそんな?」

「莫大な予算と大規模な人事異動をかけておきながら、現実的に考えてG3ユニットは大した成果を望めない。テロが起こったとしてもSATで事足りる。このままでは間違いなくG3ユニットは解散になる。それを防ぐために君は話をでっち上げた」

 誠はつい笑ってしまう。極めて特殊な部署に配属された故に皮肉や陰口を言われることは慣れているが、ここまで面と向かって言い掛かりをつけられるとは。刑事という身において不釣り合いなほど瀟洒(しょうしゃ)なスーツを着こなす男を見据えて、誠は告げる。

「聞きましたよ。北條透といえば本庁きっての若手エリート。でも意外と暇なんですね」

 北条の顔が僅かに曇るのも構わず、誠は続ける。

「そんなことを言うために私を待ってるなんて」

 礼儀正しく会釈し「失礼します」と誠は階段をのぼっていく。出世を目指しての蹴落とし合いは飽きるほど見てきた。誠の本庁への異動が決まったときも、静岡県警で同僚たちの陰口は嫌でも耳に入った。異端者扱いされているG3ユニットの連中がどれだけ成果を上げようと評価なんてしてやるものか、という本庁に移ってからの声も。

 ただ自分は職務を全うするだけだ、という決意を誠は裡で繰り返す。

 警察官として、市民を守るという職務を。

 

「アンノウンかあ。上手いこと言ったもんね」

 Gトレーラーに戻り、聴聞会の内容を誠から聞いた小沢は感心したように言う。トレーラーのカーゴベイは戦闘オペレーション用のものだが、待機を名目としてユニットメンバーは常にこの車内をオフィスとしている。現在の一時的な停留所である沼津警察署にメンバーのオフィスは設けられていないし、本庁の庁舎にはオフィスがあるのだが周囲からの冷たい視線に長時間晒されるのは勘弁願いたい。

 「アンノウン、ですか?」と尾室は訊いた。意味を尋ねる意図を汲み取った小沢は言う。

「例えば、国籍不明の戦闘機とか航空機に対して使う呼称ね。要するに正体不明ってこと」

 なるほど、と頷いた尾室は誠へと視線を移し、

「その敵を倒した謎の生物も気になりますね。本当に我々の味方なのかどうか」

「アギト………」

 誠は虚空に向かって呟く。「え?」と尾室が訊き、誠は視線を向ける。

「アンノウンが倒される直前、そう言っていました」

「それが、謎の生物の名前なんですか?」

 「名前だけ分かってもしょうがないわ」と小沢が打ち切った。

「まず、敵の正体を知りたいところね」

 そう、まずはそこだ。アンノウンがどこから現れたのか、何故人間を殺すのか。

 「でも手掛かりが何も……」と尾室が言う。そこで誠は思い出した。制服の内ポケットから出した1枚の、ビニールに包まれたそれを見て小沢が「何?」と訊いてくる。

「アンノウンに殺されたと思われる佐伯安江さんは、僕に見せたいものがある、と連絡をくれました。約束の場所に行ったとき彼女は既に亡くなっていたんですが、現場に落ちていたバッグのなかにこの写真が入っていたんです」

 小沢と尾室が、誠が持つ写真を覗き込む。池か湖の(ほとり)で、どこかの山を背景にひとりの少年を撮影した写真だった。少年の顔が佐伯一家殺害事件の最初の被害者、ひとり息子の信彦(のぶひこ)であることは記憶に新しい。データの状態で保存する今のご時世にわざわざ現像したところ、額に入れて飾っておくつもりだったのかもしれない。誠は漏れそうになった溜め息を堪えた。聴取であがった佐伯家のリビングには、家族写真や息子の成長を記念した写真が多く飾られていた。これほど愛情に溢れた家族がどうして全員殺されなければならなかったのか。

 「どこの写真かしら」と小沢の手へ写真が移る。小沢は現像された写真の右端にプリントされた撮影日時の数字に目を凝らし、

「日付は最近のものね」

 「ええ」と応じた誠はデスクに置かれたファイルを開き、まとめられた捜査資料を確認しながら述べる。

「佐伯家の人間は安江さんだけでなくご主人の邦夫(くにお)さん、ひとり息子の信彦君までが殺されています。写真の日付は、信彦君の死亡推定時刻の前の日です」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいこの写真。何か変ですよ」と尾室が慌てた様子で小沢の手から写真を取る。誠が覗き込むと尾室は写っている信彦の右肩を「ほら、ここ」と指さす。

 誠は目を剥いた。現場維持のために落とさなかった汚れと思っていたもの。それは背後から信彦の肩を掴む手だった。

 まるで、殺される前日の信彦を死者の国へと引きずり降ろそうとしているかのように。

 

 

   3

 

「翔一、いつまで寝てんの? 千歌もう学校行っちゃったよ」

 美渡の声が、頭まで被った布団越しに聞こえてくる。続けて志満の声も。

「翔一君、熱でもあるの?」

 翔一は答えない。無言のまま布団に顔を埋め、暗闇へと自分を沈めようと試みる。それでも布団の隙間から外の光は容赦なく入り込んできて、完全な孤独に至ることは難しい。

 「翔一が寝坊なんて初めてじゃない?」と美渡が言った。「そうね………」と志満が応じた後、襖が静かに閉められる音が聞こえた。

 布団のなかで翔一は体を丸める。母のなかで胎児が眠るように。その頃の温もりを思い出そうとするように。でも、翔一にはその頃の記憶がない。記憶喪失でなくても、母の胎内にいた頃の記憶なんて誰も覚えていないだろう。そもそも、と翔一は恐ろしい核心への疑問を抱く。

 ――俺は人間なのだろうか――

 自分は母の胎から産み落とされてこの世界に誕生したのだろうか。そんな馬鹿げた疑問を抱いてしまう理由は、昨夜の出来事に他ならない。夕飯の準備をしていた際に頭のなかで響いていた叫び。それが誰のものかは分からなくても、それがどこから発せられたもののか、翔一には分かった。行かなければならない。獲物を見つけた肉食動物がそうするように、翔一は叫びのもとへとバイクを走らせた。

 そこにいたのは青の鎧を纏った戦士と、戦士を(なぶ)る異形の存在。翔一は異形の存在が敵と分かった。あのとき、翔一は自分の人格が消えたように思える。体が変化したにも関わらず、それに恐怖も迷いも抱かずに異形と戦った。格闘技の心得なんて無いはずなのに、翔一には戦い方が分かった。頭で理解するよりも、体が知っていた。

 何か思い出した、という千歌や美渡から頻繁に投げかけられる質問に、翔一は恐怖した。本物の恐怖だった。布団に温められたはずの体がぶるぶる、と震えだし、歯をがちがち、と打ち鳴らす。

 俺は何者なんだ。

 俺はどこで、何から生まれたんだ。

 その疑問に相反する願望を、翔一は認識する。

 

 何も、思い出したくない。

 

 

 

   4

 

「ごめんなさい」

 「だからね、スクールアイドルっていうのは――」という千歌の声には耳を貸さず、梨子はすたすたと廊下を歩き去ってしまう。

 

「ごめんなさい」

 食後のお茶を啜る梨子に「学校を救ったりもできたりして、すごく素敵で――」と憧れのグループが成し遂げた偉業を説明しようとしたのだが、テーブルを叩く缶の音で遮られる。梨子は席を立ち、弁当箱を手に食堂から出ていく。

 

「どうしても作曲できる人が必要で――」

 体育の授業中にグランドを走る梨子の背中へ呼びかけるが、「ごめんなさい」と梨子はスピードを上げて距離を取っていく。「待って――」と千歌もスピードを上げようとしたのだが、脚がもつれて盛大に転んでしまう。

 諦めちゃ駄目だ。その想いで立ち上がり、千歌は「桜内さーん!」と走り出す。

 

 

   5

 

 ずるずる、と思い脚を動かし涼は地下道を歩く。地上へ続く階段の先にある光を目指し、まるで胎児が産道から外へはい出そうとしているように思えてくる。脚がもつれて倒れそうになり、涼は壁に手をついた。荒い吐息と、激しく脈打つ心臓の音が聞こえる。立って歩けるくらいは容態も落ち着いたと思ったのだが、まだ熱があるようだ。

 医師によると、涼の体は未だに筋肉の発熱と痙攣を起こし、それが激しくなっているらしい。それは涼の筋肉組織が膨張を続けていること、と医師が両野に説明しているのを涼はベッドで聞いていた。

 ――俺の体は、どうしたっていうんだ――

 未だ朦朧とする意識で、涼は自分自身に問う。まだ退院できる体じゃないのに病院から抜け出した理由は、昨夜の出来事に他ならない。

 ベッドで寝ていた涼の体は、何の前触れもなく再び発作を起こした。全身が熱くなり、腹のあたりが疼いた。診察衣を剥ぐと腹が光を放っていた。まるで涼の体に宿った何かが産まれようとしているかのように。

 驚愕よりも先に、涼は恐怖した。男である自分の胎から何が産まれようとしているのか。本来なら何も産むはずのない自分から産まれるもの。それは決して良くないものだ、と確信できる。

 何かの病気か。病気だとしても、これは医者に治せるようなものじゃない。

 ぽたり、と涼の額から玉のような汗が落ちた。発熱のせいで常に汗が噴き出している。服も汗を吸って随分と重くなり、涼の体力を奪っていく。それでも、と涼は地上への階段を上る。一段上るのにかなりの体力を使い、転倒しそうになる。

 地上から射し込む光に向かう涼に、もう迷いも恐怖もなかった。ただ熱で脳細胞ごと溶けそうな、陶酔にも似た感覚が頭のなかでかき回されていくようだった。

 

 

   6

 

 撮影に使用されたスマートフォンのGPS記録によると、写真が撮影された場所は沼津市と伊豆の国市の境にある山岳地帯。発端丈山(ほったんじょうさん)葛城山(かつらぎやま)の間だった。沼津警察署から車で約1時間程度の距離ということもあり、誠は現場へ向かうことにした。

 市街を抜けて海沿いの道を通る途中でスマートフォンが着信音を鳴らす。近くの静浦漁港で車を停めた誠は端末を耳に当てて「はい氷川ですが」と応じる。小沢の声だった。

『全国の山の画像を検索して照合してみたんだけど、写真の背景の山は富士山らしいわね』

 「富士山?」と誠は眉を潜め、ジャケットから出した写真の背景を凝視する。続けて窓から見える富士山へと。

 見比べてみると確かにシルエットが同じだ。だが、今の時期富士山は頂にまだ雪が残っている。富士山頂の雪は夏になってようやく溶ける。

「富士山によく似た、別の山ではないんですか?」

『私もそう思ったのよ。写真の山には雪が無いし。でも、照合結果で一番確率が高いのは富士山だわ』

 光の加減だろうか。そう思うも、富士山の青みがかったシルエットが被る雪化粧はよく映える。スマートフォンに搭載されたカメラでも、その景色を捉えることは可能のはずだ。

「とにかく、まずは撮影場所に行ってみます」

 そう言って誠は通話を切り、再び車を走らせる。合成写真なのだろうか。だがそれは科学警察研究所の解析結果で否定され、何の加工もされていない写真であることが証明されている。一体どういうことか。春に夏の富士山が撮影されているなんて。

 思考を巡らせる間もなく、誠の車は目的地へ到着した。カーナビは目的地到着とアナウンスしたのだが、誠は困惑を拭えない。写真のなかで、信彦は山中の池か湖の畔で立っていた。なのに、誠が到着した場所はマンションが立ち並ぶ集合住宅街で、さらに新しいマンションの工事が進められている。工事現場の前には完成予定の建物の写真と、「入居者募集中」と書かれた看板が掲げられている。

 誠は写真のなかと、マンションの間に佇む富士山を見比べる。距離も角度も同じだ。違いといえば雪の有無だけ。カーナビに設定した住所はスマートフォンのGPS記録と一字一句同じだから、撮影場所はここで間違いないはず。なのに、どうしてこんなにも様相が違うのか。

 ひとまず小沢に連絡しよう、とスマートフォンを取り出したのだが、端末のバッテリーは残り10パーセントを切っていた。充電を忘れていたらしい。周囲に視線を巡らせると、開発されてまだ年月の経っていない住宅街には不釣り合いな古めかしい駄菓子屋がある。こういった店には公衆電話が置かれている、と中年の先輩刑事から聞いたことがある。誠は煙草の自動販売機に挟まれた引き戸を開け、店に入った。先輩刑事の言った通り、入ってすぐ近くの壁際にピンクの電話が置かれている。

「すみません、電話をお借りしたいんですが」

 誠がそう言うと店の奥で本を片手に詰将棋を指していた店主の老人が「あ、どうぞ」とぶっきらぼうに答える。受話器を取り小銭を入れようとしたとき、誠の視線が壁に掛けられた写真に留まった。富士山を背景に池を取った風景写真だった。信彦を写した風景とよく似ている。この写真の富士山は雪を被っているが。

「あの、これは………」

 誠が尋ねると、面倒臭そうにこちらを向いた店主が受話器で指し示された写真を見て「ああ」と、

「この辺りの昔の写真ですよ。青澄沼(あおすみぬま)っていいましてね、ヘラブナがそりゃあよく釣れたもんです。でも10年ばかり前に、埋め立てられてしまいましたけどね」

 「10年前?」と誠は訊いた。店主はこちらには見向きもせず詰将棋を再開し、「ええ」という声と共に盤を打つ駒の音が小さく響いた。

「マンションの建設計画が持ち上がりましてね」

 

 






 『アギト』は前年度に放送された『クウガ』との繋がりが示唆されていますが、本作では『クウガ』の要素はカットし、G3は対テロ用の装備として開発されたという設定にしてあります。『サンシャイン』とクロスさせた上に『クウガ』まで交えるとややこしいので………。

 実は本作は前作の『ラブライブ! feat.仮面ライダー555』と同じ世界観という設定で、未確認生命体はオルフェノクということを考えていました。ですが前作の結末の形から実現は難しいのでその設定もカットしました。繋がりを持たせたとしても前作のキャラクターを登場させる予定はありませんので、あくまで裏設定です。
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