ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第2話

 

   1

 

 病院というのはどうも退屈だ。この前まで忙しく息をつく暇もなかったせいか、尚更にそう感じる。だからといって尾室が暇つぶしにと持って来てくれた雑誌を読む気にもなれず、退院を明日に控えた誠はベッドで動かず天井を眺めていた。こうして寝ている間にも、世の中は動き続けている。

 また不可能犯罪が発生した。被害者は、現場となった沼津市内に支店を構える大手銀行の女性行員だった。営業中の店舗内で、客や行員たちの多くが、被害者が天井から降ってくるのを目撃したという。聞き込みを進めた河野によると被害者は事件発生当時、職場のあるオフィスビルの屋上で同僚と昼食を摂っていたらしい。同僚が飲み物を買いに屋上を離れ、戻ってきたときに被害者の姿はなかった。そして同時刻、1階にある職場の銀行で被害者は転落死している。遺体の損傷具合から、かなりの高さから落下したという検死結果が出た。

 つまり、被害者は屋上からビルの床や天井をすり抜けたということになる。取り敢えず、いつも通り被害者の遺族に護衛を付けるというのが現状での捜査方針だ。

 タイミングとして最悪だ。ただでさえ対策本部も慌しい状況だというのに。こうなったのも僕のせいだ、と誠は何度目か数えるのを止めた溜め息を吐く。とはいえ、誠が捜査に参加したところで進展する、だなんて傲慢さは持ち得ていないが。ましてやアンノウンが再び現れたとき、G3-Xとして出動するなんてこともできない。

 誠は窓際へと目を向けた。サイドボードに花束が挿された花瓶が置かれている。小沢が見舞いの品に持って来てくれたものだ。そういえば、と誠は思い出す。

 ――あなた、何でいつも自分を責めるの? G3-Xのほうに問題があるとは思わないの?――

 どうして小沢はあんなことを言ったのだろう。自身を天才と自覚している彼女なら、あんな弱音に似た言葉は絶対に吐かないはずだ。事実、G3-XはG3に足りなかった性能を全て補う完璧なシステムとして完成している。それが装着員である誠に弊害をもたらしたからといって、それは彼女の落ち度ではないはずだ。

 ――あなたは何も悪くないのよ。もっと自信を持ちなさい――

 その違和感が、誠をある結論へと導く。

 小沢さん、まさか僕を庇って――

 もし小沢が責任を取ることになったら、彼女はどうなるのか。まさか警察を去ることになのでは。推測でしかないが、それは全て悪い方向へと思考してしまう。

 駄目だ。彼女を追放するなんて、日本警察にとって大きな損失になってしまう。彼女以外に誰がG3ユニットを率いる。誰も代わりなんて務まるはずがない。設計した彼女の指揮下でこそ、G3-Xは運用できるのだから。

 誠はベッドから降りた。明日には退院だが、そんな悠長に待っている場合じゃない。何もかも手遅れになってしまったら、誠は何も行動しなかった自分を生涯呪うだろう。

 

 

   2

 

「G3-X?」

 昼下がりに十千万を訪ねてきた誠に、翔一は怪訝な声を返す。誠は出されたお茶に手を付けず、腰を落ち着かせることもせず翔一を真っ直ぐ見据え、

「はい。先日小沢さんも言っていましたが、是非君に装着してほしいんです」

「あれ本気だったんですか。氷川さんがやればいいじゃないですか」

 すると誠は勢いを失った、沈んだ声で言う。

「やりました………。でも、上手くいかなくて」

 何でこんなに弱気なんだろう、と翔一は疑問に思った。以前小沢と来たときは頑なだったのに。翔一はそこで、さほど気にも留めていなかった数日前のことを思い出す。アンノウンとの戦いに介入し翔一と一戦を交えた、G3-Xと刻印された機械じみた青の戦士。

「じゃあ、あれもしかして氷川さんだったんですか? 何てことするんです。何度も氷川さんのこと助けてあげたのに。いきなり襲いかかってくるなんて」

「何を言ってるんです?」

 しまった、口を滑らせた。誠は翔一がアギトだと知らない。別に隠すことでもないけど、知られたら面倒だから「何でもありません」と笑って誤魔化しにかかる。

「とにかく、お願いします。小沢さんが目を付けた人だ。きっと、君には何かがあるに違いありません」

 誠の真剣さは伝わったし、あの鎧を身に纏う素質を見出してくれたことに悪い気はしない。

 しばし逡巡するが、翔一はきっぱりと告げることにした。

「嫌です」

「嫌? この間は面白そうだ、と言ったじゃないですか」

「気が変わりました。G3-Xですか……、何か怖い感じがします」

 実際に拳を交えて感じた、あの精密すぎる挙動。人間味を全く発しない無機質さ。もし鎧を装着したら、自分もあんな風になってしまうのか。翔一も今でこそアギトの力を使いこなせるようになったが、変身できるようになったばかりの頃は裡から沸き出す力の奔流に意識が呑まれそうな錯覚を覚えた。あんな恐怖はもうごめんだ。

 「そんな………」と誠は分かりやすいほどに肩を落とした。

「それに、俺色々と忙しいんです。やることがいっぱいあって」

 例えば洗った食器の乾拭きとか。その後は布団も干したいし、菜園の手入れもしなければならない。

 台所へ向かうと誠が後をついてくる。

「僕がやります」

「結構です」

「やりますよ」

「結構ですって!」

「貸してください!」

 翔一が布巾で水気を取ろうとした皿が誠に奪われる。だが濡れていた皿は滑りやすく、誠は勢いあまって手から落としてしまった。床と衝突した陶器の皿は、ばりん、と音を立てて盛大に破片を散らす。

 口を半開きにしながら、誠が何か言いあぐねている。こうなると思っていたから断ったのに。その文句を溜め息に留め、翔一は台所の隅に置いてあるポリバケツを取って割れた皿を中へ入れていく。

「貸してください僕がやりますから」

 と生真面目な青年刑事はバケツに手をかけるのだが、

「いや本当に本当に結構ですから」

 とその厚意を押し退ける。正直、有難迷惑だ。この人に触らせると物がどんどん壊れていく。

「では、G3-Xを装着してくれますか?」

「だから嫌ですって」

「ああもう貸してくださいよ!」

 と誠はバケツの取っ手を掴んでもぎ取ろうとしてきたのだが、それほど頑丈にできていないポリエチレン製の取っ手が外れてしまう。互いに引き合ったせいで、勢いあまってふたりとも後ろで転んでしまう。床に頭をぶつけた翔一は鈍く痛む頭を上げる。誠のほうは打ち所が悪かったのか、苦悶に顔を歪めた。

「氷川さん?」

 翔一の呼びかけに応じることなく、誠は持ち上げようとした頭を床に伏せた。

「どうしたんですか? 氷川さん!」

 

 東京スクールアイドルワールドでの投票数はゼロ。

 それはもう乗り越えた過去だ。むしろあの時の悔しさをバネにしたからこそ、ゼロを本当の始まりとして再スタートを切ることができた。だから予備予選も無事通ったはず。

 だけど今度の、学校説明会参加者ゼロという、2度目のゼロという数字は流石に千歌にも堪えた。

「またゼロかあ………」

 ドルフィンハウスのテラスでうなだれながら、千歌は溜め息と共に言う。

「入学希望となると別なのかな」

 かき氷をストローでつつきながら、曜が呟く。曜も2度目のゼロで、予備予選通過の酔いが醒めたらしい。もっとも、部室にいた全員がそうだったのだが。

「だって、あれだけ再生されてるんだよ。予備予選終わった帰りだって――」

 会場を出てすぐのこと。ライブの観客らしき少女から果南がサインを、別のところでは曜が写真撮影を求められた。突然のことにふたりは戸惑いながらも応じ、ルビィは人見知りなあまり逃げ回っていた。ダイヤだけは乗り気で応じようと自ら歩み寄ったのだが、その返事はこうだ。

――どちら様ですか?――

 帰りの電車の中で不貞腐れていたことを笑い話にできるのは、ずっと後になりそうだ。

「大人気だったのに………」

「ダイヤさんの件はいらなかった気がする」

 人気は確かなはずなのに。努力が必ずしも結果へ繋がるとは限らないことは、既に思い知っている。でも、こんなにも結果が伴わないことがあるのか。微塵も報われていない気がする。

「これで生徒が全然増えなかったら、どうすれば良いんだろう?」

 現状でやれることは全てやっているはずなのに。

「μ’sはこの時期にはもう廃校を阻止してたんだよね」

 曜の何気ない言葉に千歌は身を乗り出す。

「そうだっけ?」

「うん。学校存続がほぼ決まってたらしいよ」

 この時期には既に目標を達成していて、その上でラブライブに優勝してしまうなんて。流石は伝説のスクールアイドル、と片付けてしまいそうだけど、Aqoursはその伝説を追っている。一体、根本的に何が違うのだろう。彼女たちと、自分たちと。

「差、あるな……」

 「仕方ないんじゃないかな」とダイビングスーツを濡らした果南がテラスへ上がってくる。

「ここでスクールアイドルをやるってことは、それほど大変てこと」

「それはそうだけど――」

「うちだって、今日は予約ゼロ。東京みたいにほっといても人が集まるとこじゃないんだよ」

 千歌は淡島から望む内浦の景色を見渡してみる。海沿いにある集落。山々に囲まれていて、建物よりも森林の面積が広い。とても静かでカモメの鳴き声が聞こえてくる。東京だったら、こんな静かすぎる光景は無いだろう。あの人がひっきりなしに行き交う大都市は、何かすれば人の目に留まりやすい。でもこの地方集落は違う。何かするにしても、それを見てくれる人が少ない。

「でも、それを言い訳にしちゃ駄目だと思う」

 ここには何もない。以前はそう思っていたけど、この街にだって少なくても人はいる。良いものは人の目に留まるはず。自分たちを通じて、自分たちのいるこの街の魅力をもっと伝えることができれば。

 μ’sだってそうだったはずだ。ほっといても人が集まる東京で学校が廃校になりそうになって、それでも彼女たちは辛い現実を覆してみせた。場所なんて関係ない。例え留まる目が少なくても、良いものは良いと誰もが分かってくれる。

「それが分かった上で、わたし達はスクールアイドルやってるんだもん!」

 千歌は溶けかかったかき氷を一気にかき込む。

「千歌ちゃん、一度に全部食べると――」

 曜の忠告も聞かず、千歌はかき氷を平らげてテラスから駆け下りる。

「ひとりでもう少し考えてみる!」

 それだけ言って港へ向かいながら、千歌は思考を巡らせる。μ’sとAqours。一体何が違うのか。どうして彼女たちは学校を救うことができたのか。

 働かせようとした頭がずきん、と痛み出す。思考を無理矢理中断させられた千歌は、痛む頭を抱えた。

 

 一応ベッドに寝かせたはいいが、どうしたものか翔一は頭を悩ませる。小沢に連絡するべきなのだろうが連絡先を知らないし、知っている志満も今は不在。以前同じように休ませていた葦原涼のように数日も目を覚まさなかったら、今度はしっかり病院に連れて行かなければ。

 そういえば、涼は今頃どうしているだろう。世話になった、と書置きだけ残して姿を消したが、元気にしているだろうか。しっかり食事を摂っているか気掛かりだ。

 誠の閉じられた目蓋が痙攣したように微動する。すぐに目を見開き、跳ねるように体を起こした。

「氷川さん」

 呼ぶとこちらを向いてくれるあたり、はっきりと意識はあるようだ。

「もしかして、どっか悪いんじゃ」

「いえ、疲れてるだけです」

 思い出したように誠はベッドから降りて、

「それよりお願いします。G3-Xを装着してください」

 真正面から肩を掴まれる。いくら誠や小沢が翔一に装着の素質があると見ても、やはり躊躇はある。目の前で装着した本人が倒れられては、そんな危なっかしいことはしたくない。今日だってこれから夕飯の準備をしなければならないし、もうすぐ千歌も帰ってくる頃だから練習着の洗濯もしたい。

 逡巡する翔一に、誠はすがるように言った。

「お願いします」

 

 

   3

 

 連絡船で淡島から戻ってきた千歌が十千万へ着くと、丁度翔一が玄関から出てきた。隣には誠もいる。

「あれ、氷川さん?」

 「高海さん、お邪魔してます」と誠は会釈し、

「すみませんが、津上さんを少し借ります」

「え?」

 何やら慌しい様子で、誠は車へと早足で向かっていく。

「ごめん千歌ちゃん。夕飯までには帰るからさ」

 そう言って翔一も車に乗り込む。既に誠がエンジンをかけた車が走り出し、「ちょっと、翔一くん!」という千歌の声などお構いなしに去って行く。

 

「こちら氷川、Gトレーラー出動をお願いします」

 車内通信機に告げると、スピーカーから運転手の戸惑いの声が返ってくる。

『え、ですが小沢さんも尾室さんもまだ――』

「構いません、指揮は私が執ります。装着員も既に同行しています」

『は、はい………』

 合流地点を指示し、誠は通信を切った。

 不謹慎だが、アンノウンが現れてくれたのは良いタイミングだった。お陰で翔一を半ば無理矢理だが連れ込むことができたのだから。

「これからGトレーラーと合流し、そこでG3-Xを装着してもらいます」

「はい」

 助手席で気の抜けた返事をする翔一は、未だ自分の置かれた状況に実感が追いついていないようだった。無理もない。強引に連れ出され、そこで怪物と戦え、だなんて言われたら誰だって戸惑う。

「安心してください。僕がサポートしますから」

「………はい」

 合流地点で車を路肩へ停めると、ほどなくしてGトレーラーが到着する。ふたりで乗り込んだカーゴの中には小沢も尾室もいない。オペレーティングシステムのマニュアルはしっかりと読み込んでいるから、誠でも扱えるはずだ。PCのキーを叩き、ユニットメンバーにしか配布されていないパスワードを入力し、装着員の登録者から誠の名前を外す。代わりに翔一の名前と、先ほどスキャニングした網膜のデータを追加し装着員として登録した。

 インナースーツに着替えた翔一が、ラックに収納されたG3-Xの装備を見上げる。翔一の顔から普段の笑顔は消えていたが、緊張しているという面持ちでもない。まるで歴戦の戦士のように落ち着いていて、裡の戦いの勘を研ぎ澄ましているように感じられる。

「装着、お願いします」

 誠が促すと、翔一はしっかりとこちらを見据えて応じる。

「じゃあ行きます」

 胸部、脚部、腕部。ベルト型のバッテリーメーターを点灯させ、最後にマスクを顔に装着する。システムは新たに登録された装着員を認証し、その後頭部をカバーで覆う。

 装備一式が装着されたわけだが、まだ完了じゃない。

「オートフィット機能、作動します」

 キーを叩きシステムを呼び起こす。装甲に搭載されたエアシリンダーによって、装甲が翔一の体形に合わせて引き絞られていく。

「これで体にフィットしたはずです」

 このスーツを装着員に合わせるシステムが搭載されたことで、装着員が変わっても改修する手間が省ける。G3より迅速に出動できるようになった。翔一は着心地を確かめるように、グローブに覆われた手を握る。

 PCの液晶がG3-Xの情報を映し出す。システムリンクの接続状況、武装の弾数、装着員のバイタル、AIとの同調率。

「ガードチェイサーに乗ってください」

 誠の指示に従い、翔一はカーゴに鎮座するガードチェイサーのシートに跨りエンジンを駆動させる。

「ガードチェイサー、発進」

 後部ハッチが開き、道路へスロープが伸びる。ロックが解除されたハンガーから、ガードチェイサーが滑るようにカーゴから吐き出されていく。

 路面を滑るマシンは搭載された姿勢制御機構によってバランスを保ち、パトランプを鳴らしながらガードチェイサーを追い越していく。マスク内ディスプレイとリンクした画面で確認すると、GPSが現場へのルートをナビゲートしてくれる。交通状況をリアルタイムで観測して割り出されたルートは、翔一を順調に現場へと導いてくれる。

 路上の真ん中でパトカーが数台無造作に停まっているのが見えた。パトカーの脇を通過すると、先に出動していた警官たちに囲まれた異形の怪物をG3-Xのカメラが捉える。まるでエイのような姿のアンノウンを、翔一は躊躇することなくガードチェイサーで撥ね飛ばす。

 マシンを停めた翔一は、撥ねられる直前のアンノウンが手をかけようとした男性へと視線を向けた。おそらくは護衛対象になった被害者の親族だろう。男性は顔に恐怖の感情を貼り付けながらも、護衛にあたっていた刑事に連れられ現場を離れていく。

 翔一は対峙すべき敵と向き直る。時速60㎞のバイクと正面衝突したにも関わらず、アンノウンは何事もなかったかのように突如現れた戦士を睨みつけている。

《GM-01、ガードアクセラー装備》

 AIの指示に従い、翔一はリアトランクから出したGM-01を右脚のマウントラックに固定し、ガードチェイサーの右ハンドルを引き抜いて左脚のホルスターに収める。

「GX-05アクティブ」

 誠がキーをタイプすると、ガードチェイサーのリアシートに積載された武装のロックが外される。GX-05ケルベロス。G3-X開発時に追加された、最大出力を誇る新装備。アタッシュケース状に折り畳まれた装備を取り、翔一はゆっくりとした足取りでアンノウンへと歩み寄る。

「GM-01 アクティブ」

《GM-01 で銃撃》

 敵との間合いを保ちつつ、AIの指示を受けた翔一はGX-05を地面に置く。それがまるで開戦の合図のように、アンノウンが接近してきた。

 すかさず翔一はGM-01 を抜き発砲する。AIの補正もあって、狙いは正確だ。1発も損することなく全弾を命中させる。射撃の腕そのものに憂慮はしていない。でも、初めて銃を使うはずなのに、翔一はAIの指示があったとはいえ微塵の躊躇もなく引き金を引いてみせた。

 以前より弾薬が強化された銃撃にたじろぐアンノウンが、光輪から武器を抜く。両刃の剣なのだが、まるで牙がノコギリのように並んでいる。

 翔一は再び発砲する。だがアンノウンは武器で飛んでくる弾丸全てを弾きながら接近し、ひと振るいで翔一の手から銃を払い落とした。続けざまに上段から剣が振り降ろされるが、翔一はその場から動くことなく、自分の頭を叩き斬ろうとしてくる刃を両手で挟み込む。

「白刃取り⁉」

 思わず誠は驚愕の声をあげてしまう。武術の達人でも習得が至難とされる技で攻撃を防いだ翔一は、蹴りを入れて敵を引き離すと左脚からガードアクセラーを抜いた。所詮は警棒だから、アンノウンに対して有効打は期待できない。だが翔一は敵の剣を避けつつ、攻撃の隙を突いて脇腹を警棒で叩く。思わぬ反撃に身を悶えさせたアンノウンはそれでも再び剣を振ろうとするのだが、翔一はそれよりも素早く、敵の手首に警棒を打ち付け武器を払い落とす。

 素手同士での戦い。好機とみた翔一は次々と敵に拳を浴びせ、追い打ちにガードアクセラーを叩きつける。

 翔一が渾身の拳を振ろうとしたのだが、そこに僅かだが隙が生じた。アンノウンはそれを見逃すことなく、跳躍して翔一を飛び越えようとする。逃走するつもりか。

 だが翔一の反応は速かった。頭上を通過しようとするアンノウンの足を掴み引きずり落とす。受け身も取れず地面に伏した敵へ容赦なく、翔一はその顔面を蹴り飛ばした。

「津上さん、GX-05を」

 驚かされることが一瞬のうち連続しているが、誠は何とか平静を保ち指示を飛ばす。

「GX-05アクティブ」

 武器を拾い上げた翔一が、解除コードを入力する。GX-05は設計上アンノウンに有効打を与えられる装備だが、逆に言えば強力すぎて市街地での使用はあまり推奨できない。そのためガードチェイサーでの積載ロック、オペレーターからのトリガーロック、パスコードによるバレルロックと3重ものセキュリティが施されている。積載とトリガーはオペレーターのほうで解除できるが、銃身のパスコードは装着員自身が解除しなければならない。

 事前に誠が伝えた解除コードを翔一はしっかりと覚えていて、1・3・2の順でコードを入力する。

《解除シマス》

 無機質なアナウンスが鳴った。バレルが展開し、翔一はガトリングの銃口を敵へ向けるとGM-01 のときと同じく躊躇なく引き金を引く。回転する銃口から間髪なく弾丸が発射され、アンノウンの体を穿っていく。蜂の巣にされた敵の頭上に光輪が浮かぶと、翔一は銃撃を止めた。大量に排出された薬莢が乾いた音を立てた一瞬の間を置いて、アンノウンが爆散する。

『やった、やりましたよ氷川さん!』

 戦闘の緊張が解けたからか、翔一はいつもの明朗な声音で報告した。

『聞こえますか? やりましたよ!』

 

 

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