ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

75 / 160
断章 PROJECT G4
第1話


 

   1

 

 死とは、生きている限り常に付き纏っている。

 

 まるで生き物のように、背後から命を刈る絶好の機会を伺っている。それは命を持つもの全てが例外なく背負っているものだ。大抵の者がその事実に気付かず、死という概念を意識するのは難しい。だからといって、死への意識を強めることを推奨すべきかは微妙なところだ。誰もが生を受ける瞬間が1度しかないのと同様、死も1度しか訪れないのだから。できることなら、目を背けていたい。たとえ欺瞞(ぎまん)であっても、穏やかな心持ちで日々を過ごせたら十分に幸福と言えるだろう。

 でも、我々の背後にいる死神はそれを赦してはくれない。目を背けようとしたとき、目を瞑ろうとしたとき。否応なく死神は目蓋を開けさせ、事実の方角へと顔を向けさせる。そうして死に直面させられた人間は、決して忘れることのできない恐怖や絶望を突き付けられる。それは呪いのように、背後にある死神の視線を意識させられることになる。どんなに安全な居場所にいても、常に自身が死と隣り合わせに身を置いていることを知り脳裏から離れることはない。

 まさに生きながらの地獄だ。本当の地獄とは死後ではなく、「生きた」頭の中にあるのかもしれない。

 

 氷川誠が死神からの視線を意識するようになったのは、あの激動ともいえる年の夏がもうすぐ終わろうとしている頃だった。これまでもそうだったように、その日もアンノウンらしき生命体の通報は唐突にやってきた。それは誠が正式にG3-Xの装着員として赴く初めての任務だったのだが、既に2度の出動を経験していた誠は怖気づくことなくスーツを装着し、ガードチェイサーで現場へ急行した。

 現場は富士山のすぐ南にそびえる愛鷹山(あしたかやま)の麓。GPSには陸上自衛隊の訓練場として登録された施設だった。丘陵に整備された道路で、一般人にはあまり縁のない自衛隊の施設へは何の障害もなく、ガードチェイサーで向かうことができた。

 GX-05を抱えて入った施設のエントランスは、不気味なほど静かだった。人はいる。でも、立っている者はひとりもいない。野戦服を血で濡らした自衛官たちが、そこかしこで横たわっていた。マスクに搭載された生体センサーを起動させるも、生体反応を発する体はどこにもない。つまり、転がっている者たちは全て死体になっているということだ。

『氷川君、1時の方角に熱源があるわ。生存者かもしれないけど、アンノウンの可能性もある。警戒して』

「了解」

 小沢の指示に応じ、誠は建物の奥へと進んでいく。道中に横たわっている者全てに視界の焦点を合わせていくが、どれからも生体反応がない。その肩や頭といった部位を抉られた最期は、まるで熊にでも襲われたように見える。でも熊じゃない。熊ならば、彼らが抱えている小銃で十分に対処できたはずだ。薬莢も転がっていることから、発砲はされた。それでも獲物を仕留められなかったということは、敵は弾丸が通用しない存在。

 未だ警察が正体を掴めずにいる存在、まさにアンノウン。

 Gトレーラーから送られてきた座標の部屋を前にして、誠は一気に扉を開け放つ。昼にも関わらず、窓のない部屋は暗闇だった。

『氷川君、十分注意して』

「はい」

 敵はどうやら近いらしい。GX-05のバレルに取り付けたサーチライトを点灯させ、進みながら部屋中に証明を当てる。

「っ!」

 転がっている死体のひとつの顔が照らし出されたとき、誠は戦慄し息を呑んだ。ライトを当てられても開いた瞳を微動だにさせないその死体は少年だった。まだ小学生くらいだ。そのすぐ隣に光を当てると、そこでは同年代らしき少女が眠っているかのように死んでいる。

 何だここは。どうして自衛隊の訓練場に子供がいるんだ。一体ここは何の施設なんだ。

 暗闇のなかで、何かの影が誠の眼前を横切った。すぐに動体センサーで索敵し、ポインタが示すところへ銃口を向ける。銃口と同じ方向へ光を向けるサーチライトが、その暗闇に溶け込もうとする黒い異形の姿を照らし出した。

 躊躇なくGX-05を発砲する。恐ろしい俊敏さで弾道を避けたアンノウンが、誠へ跳びついてきて手からGX-05を払い落とす。すかさず抜いたGM-01 も払われた。それでもまだ平静を保った誠は、AIが割り出した敵の体躯を読み取りその腹に蹴りを入れる。視界は最悪だが、上手く敵を捉えることができた。相手が宙に投げ出されている隙にGX-05を回収する。

 銃口を向けるが、その時既に敵は体勢を立て直していて、GX-05の銃身に掴みかかってくる。力ずくで振り払おうとするが、腕力が拮抗したまま壁にもたれかかり、そのままコンクリートを突き破って白昼の下へ晒される。はっきりと視認できた敵の姿は、まるでアリのような姿をしていた。額から伸びた2本の触覚を気味悪く動かしながら、アンノウンは誠に接近してくる。

 落としたGX-05を回収している余地はなかった。ガードアクセラーを抜き、AIの指示通り敵の脇腹を叩く。AIが割り出す有効部位の算出はあくまで人体を元にしているが、それは人型のアンノウンにも有効らしい。次に首筋を叩いて重心を崩し、その腹に拳を沈める。

 いくら殴打しても、そこは人間よりも遥かにタフネスなアンノウンだ。多少たじろぎはしつつも、痛みなど感じないのか誠に掴みかかってくる。腰に組み付いたアンノウンの背に肘を打ち、更に腹を膝蹴りする。

 AIが次の動作を促してくる。顎を下から拳で突き上げ、天を仰いだ敵の胴を蹴り上げる。宙を飛んだアンノウンが、受け身も取れず地面に伏した。その間にGX-05を回収した誠は、残った弾丸全てを消費するようにガトリング砲を撃ち放つ。全身に穴を開けられ、手足を吹き飛ばされたアンノウンの頭上に光輪が浮かぶ。それでも誠は発砲を止めず、弾倉が空になるまで撃ち続けた。

 弾切れになる頃には、既にアンノウンの体は原型を留めないほどにまで破壊し尽されている。ミンチ状になった肉片を辺りに散らし、下顎を失った口で断末魔の悲鳴をあげながら、アンノウンは残った体も爆散させた。

『氷川君、施設内を捜索して。まだ敵がいるかもしれないわ』

「了解」

 弾倉を交換し、誠は屋内へ戻る。そのとき、G3-Xの装甲を纏った誠の背中を追う生存者がいたのだが、誠はその視線に気付いていなかった。ましてやその瞳が同じ系譜の仮面を付けて自身と対峙することになるなんて、予知できるはずもない。

 G3-X。正式名称はGENERATION-3 eXtension。

 G3システムの発展強化型として開発されたこの後継機に割り振られた番号が何故「3」のままなのか、それはG3ユニットで誠と尾室との間でも度々話題に挙がっていた。G3はG1、G2を経て完成しているのに、何故後継機には「4」の番号が与えられなかったのか。第3世代型から第4世代型といえるほど革新的なシステムではないから、と憶測ばかりが広がっても、開発者の小沢本人からその理由が明かされることはなかった。あの事件が起こるまでは。

 今回は、その理由を語りたい。

 

 これは死を背負う者の章。

 そして生を背負う者の章。

 

 ふたりの「G」の章だ。

 

 

   2

 

 この日の朝も翔一は朝6時に起床して、畑の世話をし、千歌たちのために朝食を作ってくれた。翔一の作ってくれる料理。少し薄味だけど、食べると安心できる味。

 あの日から何日か経ったけど、翔一は普段と変わらないままだ。何かを思い出した素振りを見せず、自分から思い出そうともせず、日々を過ごしている。

 でもこのまま、というわけにはいかない。「かつての」彼を垣間見てしまっては、翔一も前へと進まなければならない。千歌たちAqoursが前に進み始めたように。

 朝食の後、畑の世話に向かおうとする翔一を引き留めた志満がそのことを告げると、翔一はとても驚いた。

「え、じゃあ俺記憶を取り戻したんだ」

 居間に揃った千歌たち3姉妹は、じ、と翔一の表情を見つめる。母は昨日東京に戻った。向こうでの仕事がまだ多忙らしい。

 ここ何日かの様子を見ると、翔一はどうやら思い出した過去ばかりか、思い出していた期間の記憶すらも失ってしまったようだった。

 ラブライブ地区予選から帰ったとき、千歌たちの前に姿を見せた翔一はまるでいつもと同じように買い物に行ってきたかのような素振りだった。約1週間の記憶が抜け落ちても、毎日同じことの繰り返しな日常を送っていた彼はさほど違和感を覚えなかったようで、元々そういったことはあまり気にならない性分だから特に支障はなかった。

「本当に覚えてないの?」

 千歌は訊いた。

「翔一くん調理師学校に行ってたこととか、お姉さんのこととか、わたしに話してくれたじゃん」

「俺に、姉さんが………?」

 あまり馴染みのなさそうな響きで、翔一は呟く。

「うん、でもお姉さん亡くなったみたいなんだけど………。それで翔一くん何でお姉さんが亡くなったか調べたい、て」

 自殺とは言えなかった。そう教えてくれたのは目の前にいる当人なのだが、いくら記憶がなくても身内が自殺した、なんて事実でいたずらに翔一の不安を煽りたくない。

「それもこれも、全部忘れたわけ?」

 美渡の質問すら耳に入っていないようで、翔一は険しい表情のまま沈黙する。ここで頭を抱えたところですぐに記憶が戻ることはないだろう。この数日間も全く戻った様子がなかったのだから。

「そう」

 ため息交じりに志満が言うが、穏やかに笑っている。

「でも、これで希望が見えてきたじゃない。一時的でも、記憶を取り戻すことができたんだから。翔一君の記憶は永遠に失われたわけじゃない、てことよ」

 慰めになっていないのか、翔一の険しい表情は変わらない。元々、思い出すことにどこか消極的だった過去だ。思い出して再び忘れた、なんてことは当人にとっては問題じゃなかったのかもしれない。

「ねえ千歌ちゃん。ひとつ訊いていいかな?」

「何?」

「俺、どうだった? どんな奴だった?」

 その不安げな質問で、険しい表情の理由が分かり千歌は笑みを零す。

 翔一にとって重要なのは記憶が戻るかどうかじゃなくて、記憶が戻ることで自分が変わってしまうのでは、という恐怖だった。今の翔一の人柄が記憶を失った故のものなら、過去を取り戻すことで今の自分でなくなってしまうことを怖れていた。

 それはきっと、翔一が高海家で過ごす日々に幸福を感じているから。

「全然変わらなかったよ。翔一くんは、翔一くんのままだったよ」

 千歌の答えに、志満と美渡も笑顔で同意を示す。翔一の顔にようやく笑顔が広がった。

「そっか」

 

 流れに揉まれ続けたせいか、目覚めたときは上も下も分からなかった。息を吸おうと開けた口に塩辛い水が入り込み、そこでようやく自分が水中にいることを思い出す。

 水中に注がれる光を追うと、水面に太陽の輝きが揺らめいている。その光へと向かって水をかき、ようやく水中から顔を出すことができた。

 ようやく得ることのできた空気を思い切り吸う。肺に水が溜まっていたのか、咳き込んで水を吐き出した。ようやく酸欠の苦しみから解放され、呼吸を繰り返し確かな自身の生命を実感する。

「助かった………」

 か細く口ずさんだ言葉にどうしようもない虚しさを覚える。生きているからといって、どうするというのか。父の死を調べたところで何も得られず、それどころか異形故に命を狙われた。

 俺の人生は、一体何なんだ。何で俺がこんな目に遭うんだ。

 神という存在がいるとしたら、それはどこまでも自分のことが嫌いらしい。それでも、持たされた荷物は捨てることができない。この命と力は生涯付きまとってくるだろう。

 たとえ神から見放され、人から拒絶されたとしても生きていくしかない。生きる目的なんて無いけれど、今はまだ死にたくない。

 川から海に流されたが、まだ岸からはそう離れていない。凄まじい疲労に抗い、涼は波に逆らって泳ぎ始めた。

 

 

   3

 

 警察は国家の治安を守る機関。

 自衛隊は国家の独立を守る機関。

 対処する脅威が内側と外側という違いはあれど、その理念は市民防衛という部分で共通している。今年度に入って頻発しているアンノウンという脅威に際し、警視庁と防衛省が協力体制を組むのにそう時間はかからなかった。自衛隊としては花形装備であるG3――当時はまだG3が運用されていた頃だ――の技術を欲しがっている、というのが小沢の見立てだが、警察としても自衛隊の協力を得られるのは大きな収穫だ。世界的にも第1戦級の装備を保有している自衛隊の技術で、ユニットの装備を更に充実させることができるかもしれない。

 そういった思惑を含みながらも、協力体制の要であるG3ユニットには陸上自衛隊から深海理沙(ふかみりさ)一等陸尉が研修生として派遣された。とはいえ、彼女が派遣された頃のユニットは内部でのトラブルでほぼ活動停止状態にあって、誠も装着員から外されて捜査一課にいた。そのあたりの詳しい事情は、この物語の第6章を参照してもらいたい。

 当初、深海一等陸尉には3ヶ月間ユニット活動を共にしてもらう予定だった。だが先述の通り、活動ができないユニットにいても意義はないという本人からの進言により、彼女は研修開始から僅か1週間で八王子の駐屯地へ戻った。そういうわけで、誠は深海一等陸尉と直接対面したことがない。これまでこの文面で彼女のことが触れられなかったのは、1週間の中で彼女について特筆すべきことが何もなかったから。強いて挙げるなら、深海一等陸尉に一目惚れした尾室が酷く落ち込んでいたということだけ。

 でも彼女の「研修」は、少しばかり遅れてから実を結ぶことになる。G3ユニット、特に小沢にとっては最悪な形で。

 

 後の急展開など予想できる能力なんて持っていない誠は、その日はいつも通り事件の捜査をしていた。まだアンノウンらしき生命体の目撃情報はないが、捜査本部内では不可能犯罪という見方へと既に傾いていた。

 今回の事件もまたかつてない奇妙さだ。既に全国各地で12人もの被害者を出しているが、その全てが水のない場所で謎の溺死を遂げている。似たようなケースが以前にもあったのだが、今回の特異な点は被害者たちに血縁関係がないことだ。アンノウンが無差別に殺人を起こすことも以前あった。そうなると警察としては次に狙われる人物の予想ができず完全にお手上げになってしまうのだが、今回の場合は少しばかり事情が異なる。

 血縁関係はなくても、被害者たちには共通点があった。

「ESPクイズ? 何ですかそれは?」

 誘われた休憩スペースで缶コーヒーを飲みながら、誠はその話題を持ち出してきた河野に尋ねる。河野はブラックの缶コーヒーをひと口啜り、

「いわゆる迷惑メール、てやつだ。被害者たち全員のスマホや携帯に、そのクイズのメール着信があった」

 携帯電話とインターネットが普及した現代で、迷惑メール――正確にはスパムメール――は珍しくもない。誠のスマートフォンにも定期的に登録した覚えのないウェブサイトから広告メールが送られてくる。電話番号やメールアドレスといった個人情報はどこからともなく流出し、違法に取引され詐欺を生業とする集団の「顧客」として狙われる。多くのケースとして何らかのキャンペーンに当選した、法的なトラブルに見舞われた、と相手の興奮や不安を誘発させ指定した銀行口座に金銭を振り込ませる。口座から捜査の足がつかないように、と現金を手渡しで受け取るケースもある。主に被害に遭うのがインターネットの知識に乏しい高齢者世代で、電話でのオレオレ詐欺がインターネットへと畑を移し変異したようなものだ。

 とはいえ全ての迷惑メールが本当に迷惑というわけでもなく、中には企業が新規の顧客獲得のために大量にばら撒くように配信するものもある。とはいえ流出した個人情報を扱っているのだから違法なことに変わりはないのだが。

「被害者の全員がそのメールを開いて、クイズに全問正解している」

 「これ見てみろ」と河野から手渡されたファイルを開くと、中には印刷された端末のスクリーンショットが綴じられている。問題の内容は、複数の選択肢から正解を選ぶという至ってシンプルなもの。ただしヒントはなく、同じ内容の問題が5問連続。完全に直感で解くものだ。果たしてクイズと言えるのかすら怪しい。だが被害者たちは全員、この直感で答えるクイズに全問正解している。その事実が誠をある結論へと至らせた。

「つまり、被害者たちはこのクイズで無意識に超能力を発揮しアンノウンを引き寄せていた、と?」

「まあ偶然かもしれんがな。大体、そのメールをばら撒いた奴がアンノウンと何の関係があるのか分からん」

 アンノウンがメールを使って超能力者を探している。何とも想像しがたい光景だ。

「メールの配信元は?」

「海外のサーバーをいくつも経由してるから特定はできないだろうな。リンクが貼られたクイズのサイトも閉鎖されてるらしい」

 この手の犯行の常套手段だ。インターネットという無限にも等しい場所で起こるサイバー犯罪は、ある意味で現実世界で起こる犯罪よりも捜査が困難になる。コンピュータの発達による技術の高度化や複雑化によって法整備も追いつかず、いたちごっこになっているのが現状だ。対策としては、市民に怪しいメールは開かないように、と呼びかけるしかない。

「ありがとうございました」

 河野にファイルを返すと、誠は缶に残ったコーヒーを飲み干してベンチから立ち上がる。

「ん、何か分かったのか?」

「いえ、そういうわけではないんですが………。ちょっと出てきます」

 それだけ言って誠は休憩スペースを離れる。犯人の心当たりはないが、被害者になってしまいそうな人物に心当たりがある。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。