ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第2話

 

   1

 

「Smash!」

 ネイティブな発音で告げられる掛け声と共に、鞠莉のラケットで打たれたボールがコートに引かれたラインを掠める。寸でのところまで迫っていたにも関わらず逃してしまった果南は「ああ」と空を仰ぐ。この日も快晴で、猛暑は過ぎたもののまだ暑い。

「ゲームセットですわ」

 と審判席についていたダイヤが告げ、鞠莉は「Yeah!」とガッツポーズする。

 そのゲームをコートの隅にあるベンチで見守っていたメンバー達の中から善子が呆れ気味に、

「ねえ、こんな事してる場合?」

 同意を示すように、皆揃って苦笑する。

 時間を少し遡ること、この日の朝。東海地区予選の結果を間近に控え、通過を前提として決勝大会に向けて練習ということで集合したのだが、結果待ちというのはどうしても落ち着かず練習に身が入らない。その雰囲気を察してか自身が我慢ならなかったのか、

「テニスしましょ!」

 という鞠莉の唐突な提案で現在に至る。テニス部の練習がないのを良いことに理事長権限で部室から備品のラケットとボールを拝借し、練習でなくテニスで汗を流すということに。

 まあ、ずっと練習漬けだったし息抜きもいいかな、と千歌は思った。予選通過の通知を待って、それで気を引き締めてまた練習に励めばいい。

「はい千歌」

 とベンチに来た果南がラケットを差し出す。

「千歌の番だよ」

 「うん」とラケットを受け取る。「千歌ちゃんがんば!」「頑張ってね」と曜と梨子が激励を投げてくれる。あまり握り慣れていないラケットを軽く素振りし、コートへと入る。対戦相手は既にコート入りしていた。

「いいよ千歌ちゃん! 準備オッケー!」

 と乗り気でいる翔一に、千歌は溜め息の混ざった苦笑を零す。何故翔一がいるのかというと、千歌の忘れた昼食の弁当を届けに来てくれたところ、このテニスに参加することになった。

 それは別に構わないのだが、翔一の手に構えているものがどう見てもこのテニスコートには場違いなもので。

「翔一くん、それフライパンだよね?」

 そう、翔一の構えているのはラケットじゃなくフライパンだ。因みに家庭科室から借りてきた。

「何でフライパンなの?」

「持ち慣れた物のほうがいいかな、て」

 そう言いながら翔一はフライパンを素振りする。いくらラケットと形が似ているからといって勝負になるのだろうか。翔一にテニスの経験があるとも聞いていないし、そもそも本人が覚えていない。

 千歌だけでなく他の面々、鞠莉ですら呆れている顔なんてものともせず、翔一はフライパンを構えた。

 

 丘に建つ浦の星女学院の門を潜り、誠はテニスコートへと向かった。何でスクールアイドル部なのにテニスコートにいるんだろう、という疑問を抱きながら。

 事務員の言った通り、スクールアイドル部の面々は金網で囲まれたコートでテニスに興じていた。これがアイドルの練習なのだろうか。そんなことを思いながら、誠は隅のベンチへと呼びかける。

「桜内さん」

 誠に気付いた面々が振り返る。「氷川さん」と梨子を始めとして皆は戸惑いながらも会釈してくれる。コートにいた千歌もプレーを中断してこちらへ駆け寄ってくる。

「すみません。お宅にお邪魔したんですが、こちらだと窺ったもので」

 まだ夏休みで、見たところ他の生徒たちも登校していないのに熱心だ。梨子の母によると、大会で地区大会まで進んだとか。

「それにしても、どうしてアイドルの練習がテニスなんです?」

 ささやかな質問に、梨子は「ああ、それは……」と気まずそうに苦笑を漏らす。他の皆も細めた目を金髪の少女へと向ける。一斉に視線を受けた少女はちろ、と舌を出した。確か小原鞠莉といったか。淡島のホテルを経営している一家の娘らしい。何でも浦の星女学院の理事長だとかいう出鱈目(でたらめ)な噂話も聞いたが。

「あれ、氷川さん。どうしたんですこんな所で」

 質問の答えが返ってくる前に、翔一が歩いてきた。それはこっちの台詞だ、と返したいところだが、それ以上に翔一の手に持っている物のほうに気が向いてしまう。

「それは何です?」

「やだなあ氷川さん。フライパンも知らないんですか? 主に食べ物を炒めるときに使う調理道具ですよ」

「そんなことは分かっています。何故ここでフライパンなのかと訊いているんです」

「それは――」

 と説明しようとする翔一の前に千歌が割って入り、

「氷川さん、相手にしなくていいです」

 千歌の言う通りだ。翔一に付き合うと話が大幅に逸れる。

「すみませんが、桜内さんを少し貸してもらえますか?」

 「ええ、わたしは大丈夫です――」と梨子がベンチから立ち上がろうとしたところで、

「ちょっと待ってくださいよ。もしかしてアンノウンとかですか?」

 翔一が割って入ってくる。

「まあ、無関係というわけではないですが………」

「駄目ですよ。どんな危険な目に遭うか分からないじゃないですか」

 初めて翔一の年長者らしい面を見た気がする。感心していても、捜査情報をあまり出すわけにいかないからどう説明したものか。大抵は説明不足に相手の気分を害すものなのだが、このAqoursの面々はそれをおくびにも出さない。

「良いんじゃない? 氷川さんが付いてくれるわけだし」

 果南が助け舟を出してくれる。以前に護衛した恩義のつもりだろうか。同じくアンノウンから保護したことのあるルビィと花丸も強く頷いている。曜に至っては「刑事さんだもん」と敬礼している。でも翔一は納得していないようで、

「どうかなあ。氷川さん頼りないしなあ不器用だし。テニスなんてできないでしょ?」

「テニスなら、多少は」

「多少?」

「インターハイで準優勝したことがあります」

 誠の経歴で数少ない自慢事だ。誠本人よりも母のほうが喜んでくれて、実家の居間にトロフィーと賞状を飾ってくれた。何気なく告げた経歴に、Aqoursの面々は「すごーい!」と声を揃えて羨望の眼差しを向けてくる。あまりひけらかすのは趣味じゃないが、こういった反応は満更でもない。話を振ってきた翔一は面白くないのか険しい顔をしていて、ようやくこの青年に1杯食わせることができた誠は得意げな笑みを見せる。

「じゃあ氷川さん、俺とひと試合お願いします」

「では僕が勝ったら、桜内さんを貸してもらえますか」

「ええ良いですよ。いくらでも貸してあげます!」

 大人ふたりのやり取りに鞠莉が興奮に満ちた声をあげる。

「Oh! 梨子の奪い合いね」

 決してそういう意味ではないのだが、当の梨子は困惑しながらも頬を朱くして満更でもなさそうだ。そんな複雑な胸中に気付くことなく、誠は背広を脱いで千歌から借りたラケットとボールを手にコートへ入る。

 ラケットを握るのは高校を卒業して以来だが、グリップの感触は案外覚えているものだ。相手サイドに翔一が立ち「お願いします!」とフライパンを掲げている。

「まさか君のラケットは」

「はい、これですが」

 と手元でフライパンを回す翔一をつい笑ってしまう。考えてみたらこんな勝負、する必要がそもそも無いじゃないか。

「やめときましょう。無駄なことです」

 馬鹿馬鹿しい。早く梨子から話を聞いて署へ戻ろう、と溜め息をつきながらコートを離れようとする。

「あれ、逃げるんですか氷川さん? 男らしくないなあ」

 安い挑発だ。でもそれが誠の闘志に火を点けてしまう。ラインの縁に戻り、ボールを地面にバウンドさせる。懐かしい感覚だ。ブランクがあるとはいえ、素人相手に負けるはずがない。しかも向こうの道具はフライパン。舐めているにも程がある。

 ボールを頭上へと投げ、打点を見切り誠はラケットを振りサービスショットを炸裂させる。高校時代のフォームは骨身に染みついていたようで、ボールは翔一側のサービスライン際でバウンドする。

 勝った、と確信した矢先、翔一はボールの軌道を先回りしフライパンでボールを打ち返した。かん、というどこか間の抜けた音と共に、でも鋭い打球が中央に張られたネットを越えて誠のほうへ迫ってくる。慌てて打ち返したボールは翔一側のラインを掠め、追いつけなかった翔一の前を過ぎ金網にぶつかる。

 まずは先制。ふう、と深呼吸しながら誠は額に浮いた汗をシャツの袖で拭う。素人でフライパンだからと油断していた。あれでも翔一は改良前のG3-Xを使いこなしてみせた逸材。ポテンシャルは高い方だろう。

 相手の陣地に転がっていたボールが誠へと寄越される。ルール上、次のサービス権も誠にあるわけだが、このまま実力差を見せつけたまま圧勝というのも大人げない。少しは手加減してもいいだろう。誠はボールを翔一へと投げる。

「君のサーブでお願いします」

「良いんですか? 素人だからって甘く見てません?」

「それが嫌なら、フライパンではなく普通のラケットを使ってください」

 む、と翔一は唇を結びながらフライパンを睨む。そんなにこだわることだろうか。だが結局は折れたようで、翔一はベンチへ駆けて鞠莉が持っていたラケットを受け取り戻ってくる。

「行きます!」

 翔一は頭上へボールを投げる。初心者でファーストサーブとは大胆な。翔一のショットは力強いが、だが力みすぎている。軌道の角度がつかず、ボールはサービスラインを越えるだろう。このまま何もしなくてもフォルト(枠越え)で自滅だ。

 構えを解いた誠の視界が、顔面の衝撃と共に突如暗転する。重心を崩し仰向けに倒れた誠の近くでぽん、と軽い音を立ててボールが転がった。

 後から聞いた話によると、ボールは見事に誠の鼻筋に直撃していたらしい。

 

 

   2

 

 練習の邪魔をしてしまったお詫びということで、誠は千歌たちを沼津港前のラーメン屋に連れて行ってくれた。別に練習じゃなくて遊んでいただけなのだが、そこはせっかくの厚意として甘えることに。

「遠慮せず、皆さん好きなものを頼んでください」

 誠が愛想よく言うと、皆で「ありがとうございます」と元気よく応える。それぞれ思い思いに食べるものを決めて注文してしばらく、まとめて運ばれてきた料理の中に店の一押しメニュー「富士山デカ盛りラーメン」と「富士山デカ盛り冷やし中華」があって、その2品は誠の前に置かれる。

 談笑の声が止み、皆の視線が誠に集中する。気付いていないのか、誠は割り箸を割ると無言で手を合わせて冷やし中華の山頂にあるもやしを食べると、顔を出した麺を啜る。その次には湯気を立ち昇らせるデカ盛りラーメンの麺を啜り、また冷やし中華へ。冷たい麺と熱い麺と両極端な品を交互に食べ進め、両方とも半分ほど減ったところで味に飽きがきたのか冷やし中華には酢を、ラーメンには胡椒を大量にかけて食べ進める。細身な体躯に不相応な豪快な食事を前にして、千歌をはじめAqoursの面々と翔一は自分の料理に手をつけず見ていることしかできない。

「未来ずら………」

 そんな花丸の声も耳に入っていないようで、酢の酸味と胡椒の辛味にむせながらも誠は無言のまま食べ続け、食べ盛りな運動部員も真っ青なメニューを遂に完食。ラーメンはスープまで飲み干した。

「わざとやりましたね」

 食事中、ただひたすら咀嚼することに専念していた誠の口からようやくそのひと言が放たれる。

「見損ないましたよ。僕に勝てないからって、あんな形で潰しにかかるとは」

「違いますよ」

 翔一は一応否定したものの、続きの言葉を探しあぐねているようでしばし視線を右往左往させ、しまいには自分のラーメンを啜る。千歌もようやく冷やし中華に手を付け始めた。因みに千歌の冷やし中華は並盛。

「それより、氷川さんはわたしに何の用で来たんですか?」

 と梨子が言う。ああ、と口を半開きにしたところ、誠自身もすっかり忘れてしまっていたらしい。

「実は桜内さんと、あと皆さんにも訊きたいことが。ESPクイズというメールをご存じですか?」

 「ESPクイズ?」と千歌と翔一は声を揃える。「ええ」と誠は応じ、

「そのクイズに全問正解した人たちが、アンノウンに殺されている可能性があります。なので、皆さんのもとにメールが来ても絶対に回答しないように、と」

 誠の話を聞きながら、千歌はちらり、と食事しながら談笑する別のテーブルを一瞥する。

「ねえ、もしかしてそれって――」

 と千歌が指さした先で、1年生たちがスマートフォンの画面を見ながらはしゃいでいる。注文した料理を待っている間、善子のスマートフォンに何やら妙なメールが届いたらしい。

「また正解!」

 ルビィの感嘆に善子は得意げに笑い、

「堕天使ヨハネの力があれば造作もないこと」

「偶然じゃないずら?」

 「偶然で4問連続で当たらないでしょ」と花丸に噛みつく善子は端末を操作する。

「あ、次で最終問題みたいね」

「テレパシーで本物の王様を当ててね、だって」

 ルビィの読み上げた問題文を聞いて、誠の顔が青ざめる。「駄目です!」と善子へ手を伸ばそうとしたとき、がた、と店内の賑わいにも負けない大きな音を立てて翔一が椅子から立つ。クイズに夢中だった1年生たちも、それをやめさせようとした誠も、その他のメンバー達の視線が翔一へ集中する。

「翔一くん?」

 千歌の見上げた翔一の表情は何も浮かんでいない。この顔は何度も見ているから、これから何が起ころうとしているのか、千歌は悟った。

「みんな逃げて!」

 その言葉の意図が分からずいる皆は、ただ困惑に満ちた眼差しを翔一へ向けている。

「早く! ここにいたら危ない!」

 唯一、彼の様子を理解している千歌も「行こう! 逃げないと」と皆を店の外へ促す。まだ戸惑いながらも、ひとりまたひとりと席を立って店を出て行く。

「津上さん、どうしたんです?」

 と誠も追おうとするが、それは店員の「ちょっと、お金!」と制止させられる。そんな誠を一瞥することなく、翔一は「こっち!」とメンバー全員を率いるように港を駆けた。

 埠頭まで走ったところで、ようやく足を止めた翔一は周囲を睨む。

「ちょっと、一体何なのよ」

 息をあえがせながら善子が文句を飛ばした。隣で花丸が「苦しいずら……」と腹を手で押さえている。胃に何か入れた直後に走らされたせいで気持ち悪い。

「津上さん?」

 ダイヤが翔一へ歩み寄ろうとしたとき、不意に翔一のほうからダイヤへ覆い被さるように迫ってきた。驚くのも束の間、間髪入れず次の衝撃が襲ってくる。ダイヤに覆い被さろうとする翔一の背中に、黒い異形が圧し掛かっている。まるでアリのような触覚を持つ怪物を後ろ手に組み付きながら、翔一はダイヤからじりじりと離れる。

「逃げて皆!」

 腰を抜かすダイヤの肩を鞠莉が抱いて立ち上がらせる。メンバー全員で固まって駆け出したところで、果南が言った。

「ねえ、翔一さんは?」

 「大丈夫!」と千歌は即答する。「大丈夫、て……」と困惑した果南は足を止めて振り返る。釣られて他の皆も揃って翔一へ視線を戻すと、彼は背にいるアンノウンに裏拳を見舞い引き剥がしていた。

 その腰に光が渦巻いて、ベルトが出現する。

「変身!」

 裡から沸き出す奔流のような光を解き放ち、翔一はアギトに変身した。その姿を始めて見る3年生たちは目を剥いてその場に立ち尽くしている。

 翔一はアンノウンに反撃の余地も与えず拳を見舞っていく。信じていた勝利が千歌のなかで確信に変わった矢先、背後から同じアリのようなアンノウンが翔一に組み付いてきた。続けて3体目が加勢してくる。それでも翔一は臆することなく3体を相手取っていたのだが、敵はどこからか沸いて出て埠頭を覆い尽くそうとしている。まるでアリが大群を率いて獲物を食い殺そうとしているみたいだ。

 際限なく増え続ける敵を前にして、翔一は逃げる素振りを微塵も見せない。黄金の鎧を赤く染め上げて、ベルトのバックルから刀を抜き近付いてきた1体に一閃する。一瞬、翔一の赤い両眼が千歌たちのほうへ向けられた。

 ――逃げて――

 違う姿になっても、その顔は無言で告げていると理解できる。千歌たちとは逆方向へ駆け出す翔一を、アンノウン達が追っていく。

「今は逃げよう!」

 千歌は強く言う。いくら混乱していても、現時点での最優先を判断できる面々は頷き踵を返すのだが、

「あれ?」

 ルビィが周囲を見渡しながら、悲痛な声をあげた。

「花丸ちゃんがいない!」

 

 沼津港埠頭にて大量のアンノウン出現。現在アギトが交戦中。

 Gトレーラーで小沢から聞いた通り、現場はアンノウンに満ちている。それはまだ記憶に新しい、愛鷹山の自衛隊基地で撃破した個体とよく似ている。

《認定 前オペレーション時の個体と類似》

 AIも演算処理の結果としてその判断を下す。

《推奨 GM-01による牽制》

 ディスプレイに浮かぶAIの指示に従い、誠はガードチェイサーのハッチから取り出したGM-01を手にする。ディスプレイに次々と照準ポインタが浮かんだ。誠はただ銃を構え、トリガーを引くだけでシステムに補正されたスーツが照準を修正し精密に目標を撃ち抜いていく。

 AIの判断通り、このアンノウン達はそれほど強固な肉体ではないらしい。いつもは牽制にしかならないGM-01の弾丸で、次々と光輪を浮かべ爆散していく。その爆炎から抜け出すように、まだ生き残っているアンノウン達が誠を敵と断定したのか向かってきた。

 ちらり、と10時の方向に目をやる。そこでも爆炎が立て続けにあがっていた。その中心に、刀を振るう赤い鎧の戦士が見える。

《認定 アギト》

 いくらアギトでも、これだけの数を相手取るのは手こずるらしい。誠のほうでも近接戦で対処は可能だが、問題は数だ。いくら撃破しても次々と沸いてくる。近くにこのアリ達の巣穴でもあるのか。

 零距離で発砲しようとしたGM-01を叩き落とされる。咄嗟にガードアクセラーを抜き応戦するが、こんな警棒では不十分だ。AIもそれを承知らしい。

《推奨 一時離脱しGX-05を使用》

 指示するのは簡単だが、無尽蔵に取り囲まれた状態でガードチェイサーまで走り武器を回収するのは至難だ。それにGX-05ならこれだけのアンノウンも一掃できるかもしれないが、AIは増援を視野に入れていない。弾倉だって限りがあるというのに。

 ばりばり、という空気を裂くような音が、アンノウン達の呻きに割り込むように聞こえてくる。取りついた1体を振り払い、誠は空を仰いだ。ヘリだ。どこかの報道局の機と思ったが、それはモスグリーンに塗装された機体によって否定される。機尾にペイントされた赤い丸は日の丸を表す。だとしたら自衛隊の機か。

 ヘリは空を旋回しながら高度を落とし、埠頭上空で機体を安定させる。そのハッチから、ひとりの人影が降りてきた。落下傘兵にしては高度が低すぎる。パラシュートを開く間もない。だが人影はパラシュートなんて開くことなく、重力に任せたまま埠頭に降り立った。

 落下時の凄まじい衝撃で、コンクリートの地面が足の型を取るように穿たれる。にも関わらず、降り立った足に纏う装甲は衝撃を全て吸収したらしく、それは膝を折ることなく悠然と立っていた。その姿を認め、誠は唖然と声を絞り出す。

「黒い……G3?」

 そのシルエットは、紛れもなくGシリーズと同系列のものだった。G3-Xとの違いといえば、黒い装甲と青いセンサーアイしかないほどに。胸部装甲に施されたエンブレムは警視庁じゃない。日の丸を護るように交差させた軍刀と鞘は、自衛隊のエンブレムだ。

『そんな……、まさか………』

 モニターしている小沢の声が漏れている。どういうことだ。Gシリーズの開発者である小沢の知らないシステムとは。

 突如として現れた敵を、アンノウンは取り囲んでいく。黒いG3はそれらを青い目で見回し、交戦に入る。まず1体、最初に接近してきたアンノウンの頭が鋼鉄の拳で砕かれた。赤い血と脳漿を撒き散らし、地面に伏すと同時に爆散する。仲間の死に怒ったのか、他のアンノウン達が次々と襲い掛かった。黒いG3に一気に3体ものアンノウンが組み付くが、まず背中の個体が力づくで振り払われる。続けて両腕に抱えた2体を組み伏せ、その頭を鷲掴みにして地面に打ち付け叩き割る。間髪入れず向かってきた1体の腹に拳を埋めるのだが、埋まった拳はアンノウンの体を貫き背中から飛び出した。まだ向かってくるもう1体は、足を引っかけられ無様に転んだところで頭を踏み潰される。思い出したように、最初に振り払った個体は海へと蹴飛ばされ数舜後に間欠泉のような飛沫をあげた。

 ものの数十秒足らずで、黒いG3は自身を取り囲むアンノウンを撃破してみせた。G3-XのAIはデータベースに検索をかける。

所属不明(unknown)

 だとしたら、あの黒いG3は警視庁が認知していないシステムだ。

 アンノウンはまだ大量にいる。周囲のアンノウンを蹴散らした黒いG3は残りのもとへ向かうことなく、そこで佇んだままでいる。その上空についたヘリから物資が投げ込まれた。G3-Xと同じくAIの補正があるのか、黒いG3は見事にその身の丈ほどある物資を掴み取る。物資は携行型のミサイルランチャーだ。4本の砲塔が装填された発射装置からコードが引っ張り出され、G3-Xと同じベルト型バッテリージェネレーターの側部コネクターに接続される。

 肩に担がれた砲塔の2問が、推進剤を吹かして発射された。アンノウンの群れに直撃すると同時に炸裂した弾薬が爆炎をあげ、埠頭に粉塵を撒き散らす。アンノウンの断末魔なのか、爆発が連鎖した。

 煙が海風に吹かれると、そこには何もいない。ミサイルによって捲り上がったコンクリートの瓦礫が散乱しているだけだった。

 誠はセンサーを索敵モードに切り替え周囲を見渡す。AIが判断を下した。

《アンノウン殲滅》

 向こうのAIも同じ判断なのか、黒いG3は両の側頭部に手をかける。マスクの着脱まで同じらしい。後頭部のカバーが開いたらしく、顔からマスクが外される。

 青い目に隠された顔は壮年の男だった。唇は固く結ばれ、仮面に覆われていた本来の目が誠を見つめる。その底なしに冷たい瞳は、まるでG3-Xの装甲なんてものともせず誠を射貫く。

 男の後方で着地したヘリから女性自衛官が降りてくる。随分と若い。

「あなた………」

 気付けば、小沢が誠の隣に立っていた。すぐ後ろにはGトレーラーが停まっている。

 小沢の姿を認めた女性自衛官がふ、と微笑を零す。その隣に立つ装着員の男は、戦いの緊迫を固めた表情を崩さないままだった。

 






h:hirotani 友:友人(梨子ちゃん推し)

h「テニスの件っているかな」
友「いるでしょ。あとラーメンと冷やし中華の同時食い」
h「だよねー」
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