ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第3話

 

   1

 

 アリのような姿をした人型の生命体が拳を突き出してくる。それを容易く受け止めた涼の右腕が、緑色に変化を遂げる。しばしの休養を経たおかげか、戦う体力は取り戻せたらしい。

「変身!」

 闘志を滾らせると共に、全身が変わった。増強された筋力で敵の腹に拳を突く。歯が不揃いに生えた口から唾液が飛んでくるが、そんなものは気にも留めず右脚で下顎を蹴り上げる。

 宙を跳んだ敵の体はそのまま重力に従って地面に伏すはずだが、上へと跳んだまま姿が消える。どこだ、と周囲を見渡していると、不意に頭上から何かが圧し掛かってくるような衝撃で涼の体が倒れる。圧し掛かってきたのは敵だった。まさか蹴られた際に天井に張り付いていたのか。そんな虫みたいな芸当を。突き出そうとした拳が阻まれる。だがそれで涼に攻撃手段が奪われたわけじゃない。

 手首に何かが蠢くような不快さを覚えてすぐ、触手が皮膚を突き破って伸び敵の首に巻き付く。狼狽えた敵を蹴りで突き放し、更に顔面に拳を打ち付ける。触手を引き千切った涼の踵から尖刀が伸びた。跳躍し、ヒールクロウを敵の肩に叩き込む。致命傷を与えられた敵は頭上に光輪を掲げながら呻き声をあげるも、自ら発した爆発でかき消された。

 闘志の波が引いていくと共に、体が元の姿に戻る。手強い相手ではなかったが、疲労感は凄まじいものでその場で膝をつく。まだ本調子ではないらしい。もっとも、この体になってから体調が万全だったことなど無いが。

 辺りに人はいない。敵に追いかけ回されていた少女は無事に逃げ延びたらしい。涼は重い脚で立ち上がる。騒ぎを聞きつけた警察の厄介になるのは面倒だし、家でゆっくり休みたい。あの悪夢のような逃走劇が終わったとも限らない。どこでまたあの男に襲われるのかも分からないのだから。

 バイクを停めた路肩までそう距離はないのだが、少し歩くだけで息が粗くなる。思えばこのバイクも不思議なものだ。海に流れ着いた涼が岸まで泳ぐと、まるでこのXR250は涼の場所を知っていたかのように岸に鎮座していた。このマシンに乗りながら変身すると、マシンもまた変化を遂げる。涼に生じた変化が機械にまで伝播したのだろうか。

 一見すれば既に生産が終了した今やひと昔前のバイクに近付くと、その陰からまだ幼さのある顔が飛び出してくる。

「ずら⁉」

 その先ほど怪物に追われていた少女は涼の顔を見て、奇妙な声をあげた。

 

 一難去ってまた一難。

 青年と視線を交わした花丸の脳裏に、そんな言葉が浮かぶ。港でアンノウンから逃げているうちに皆とはぐれ、路肩に停めてあったバイクに身を隠していたらまさか持ち主と鉢合わせるなんて。アンノウンに襲われました、なんて正直に言って信じてくれるだろうか。何か上手い言い方はないか、と言葉を探しあぐねていると、

「危ないぞ」

 そう無愛想に吐き捨てながら、青年は花丸を押し退けるようにバイクのシートに跨る。鍵を挿してヘルメットを被るとハンドルのスイッチを押したが、エンジンは空回りする音を立てるばかりで一向に駆動する気配がない。青年は何度もスイッチを押すのだが、音は次第に勢いをなくし遂には完全に沈黙する。

 はあ、と溜め息をつきながら青年は無造作にヘルメットを脱ぐと、シートを車体から外す。何をしているのか花丸は好奇心のまま傍で見ていると、青年はシートの下から無骨なハンドバッグを取り出した。地面に広げると、それが工具袋だと分かる。

「壊れちゃったんですか?」

 恐る恐る聞いてみると、青年はまだいたのか、と言わんばかりの訝し気な視線で花丸を一瞥し、

「プラグが駄目になっただけだろ。応急処置すればまだ走れる」

 そう言いながら青年は慣れた手つきでバイクの無数に伸びたコードの1本を抜いて、そこから細長い筒状の部品を工具で抜く。これがプラグ、というものなのだろうか。

「未来ずら………!」

 煤で黒くなったプラグをブラシで磨いている様子を見て、花丸は感嘆の声をあげた。また青年に訝し気な視線を向けられたことで無意識に出た口癖に気付き、咄嗟に口を手で覆う。何度も直そうとした方言はなかなか改善の予兆が見えない。皆はそのままで良い、と言ってくれるが、やはり地方民のようで花丸自身としては恥ずかしい。

「バイク、好きなのか?」

 唐突に告げられたその問いに、花丸は咄嗟に頷いてしまう。正直、バイクにはあまり興味がないのだが、先ほどまで険しかった青年の声と表情が幾分か柔らかくなったことに驚いての反応だった。ほんの微かに、青年の頬が緩んだ気がした。

「珍しいな」

 応急処置の効果は残念ながらなかったようで、煤を落としたプラグを戻しても結局エンジンは掛からなかった。諦めた青年は手でバイクを押していくことになり、花丸も車体の後部に手をかける。翔一のものと比べたらひと回りほど細身なのに、バイクはとても重かった。青年によると140キロもあるらしい。

 まだセミの鳴き声が残る晴天の下でバイクを押しているうちに、花丸の着ている制服が汗で濡れていく。青年のシャツも汗で背中に張り付いていた。

「もういいぞ。バイク屋まで結構ある」

 疲れた様子で言う青年に、花丸も絶え絶えな息で応える。

「いえおらも――、マルも一緒に行きます………」

 ようやく辿り着いた小さな整備工場では、研削機械が金属を削る甲高い音が火花と共に散っている。その音に負けじと、青年は「おやっさん!」と声を張り上げる。車の下から汚れた作業着姿の中年男性が出てきて、涼を見ると「おう」と朗らかに笑った。

 おやっさんと呼ばれた整備士は青年のバイクを見て、

「相変わらず荒っぽい乗り方してるな。ちょっと待ってろ、すぐ直す」

「よろしく」

 青年は店先の自販機で花丸に冷たいお茶を買ってくれた。自分の分のコーラも買って、ベンチに座るとすぐにプルトップを開けて缶を煽る。花丸も腰を落ち着かせて水分補給する。随分と汗をかいたからか、お茶がとても美味しく感じられた。

「家どこだ? バイク直ったら送ってく」

「ありがとうございます」

 礼を言いながら、花丸は皆のことを想う。皆は無事でいるだろうか。連絡しようにもスマートフォンを持っていないし、店の電話を借りても電話番号を覚えていない。

 それに戻れば、またいつもの日常が始まる。ラブライブ優勝を目指し、そしてアンノウンに怯える日々に。

「戻りたくない、て顔だな」

 顔に出ていたのか、青年がそう言ってくる。

「いえ、ちょっと考えちゃって」

「何を?」

 花丸は薄い雲が浮かぶ空を見上げながら想像してみる。いつか読んだ小説にあったマコンドの街のように、自分で居場所を創り出せたら。そこは蜃気楼のように朧気でほんの些細なことで砂城のように崩れてしまうけど、何の怯えもない理想郷。そこなら全てを最初からやり直すことができる。そこにいるうちに、幻が本物になって、本物だった過去も幻に変わるかもしれない。

「どこかずっと遠くに行ったら、もしかしたら今が嘘になるかな、て」

 我ながら抽象的すぎたと思い、花丸は笑ってはぐらかそうとする。訳が分からない、と一蹴されるかと思ったのだが、青年は顔を俯かせたまま黙り込む。変なことを言ってしまっただろうか。青年の裡に刺さるようなことを。

「おーい!」

 そこに、工場の奥から整備士の声が飛んでくる。

「ちょっと手貸してくれ!」

 コーラを一気に飲み干し青年は立ち上がる。だがすぐには行かず、花丸に告げた。

「どこへ行ったって同じだ。今は嘘になんかならない」

 

 

   2

 

 沼津から約3時間の移動は、緊張に満ちてとてもGトレーラーのカーゴでくつろげる余裕はなかった。八王子駐屯地から臨める高尾山は登山客で賑わっているだろうが、陸上自衛隊基地はそんな行楽とはかけ離れた無骨さに満ちている。

 沼津港でのオペレーションの直後、誠たちG3ユニットは駐屯地に案内された。迷彩の野戦服に身を包んだ自衛官の後について、誠は小沢と共に施設内へ通される。エントランスでこちらを待っていた先ほどの女性自衛官の姿を見た瞬間、小沢は歩調を早めて彼女のもとへ行く。

「研修生が聞いて呆れるわ!」

 研修生。ということは彼女が深海理沙(ふかみりさ)か。誠がユニットを離れている間に派遣され、僅か1週間で去ったという。

「あなた私のPCから盗んだわね。G4システムの設計図を!」

 小沢の怒気をはらんだ口調にこれまでにない気迫を感じ取り、誠は制止させることができない。一方の深海は余裕な佇まいを崩さず、

「盗む? 人聞きが悪いですね。埋もれていた宝を世に出しただけですよ私は」

「あなたあれが、G4システムがどういうものか分かってるの?」

「天才小沢澄子が設計した最高傑作」

 そう言って深海は小沢の肩に手を添えるも、小沢は乱暴に振りほどく。それよりも誠が気になっていたのは「G4」というシステムだ。G3の後継機は既に設計段階で存在していたというのか。小沢の剣幕から、G3の後に正当な後継機として採用されなかった理由がありそうだが。

「素晴らしいシステムです」

「違うわ!」

 小沢の怒鳴り声がエントランスホールに反響する。続けて小沢は激しく、一方で深海は穏やかにまくし立てる。

「あれは存在してはならないシステムよ。あなたにも分かってるはずだわ」

「あなたはG3システムと同時に既にG4システムを完成させていた」

「違う! 完成なんて――」

「そしてテスト段階での些細な事故のせいで同システムを破棄した」

「些細な事故? G4の装着員に会わせなさい!」

「しかし偉大な成果の前には犠牲も付き物ですよ小沢管理官」

「あれを装着してただで済むはずがないわ!」

 いよいよ小沢が殴りかかりそうになったので、護衛役の自衛官が銃を携えて無言の圧力をかける。流石に小沢も頭が冷えたようで、唇を結ぶ。

 対象的だがこのふたりは似ている、と誠は思った。特に自分の主事主張を決して曲げず、相手の主義主張を決して認めないところが。

「心配は無用です。こちらへどうぞ」

 深海はそう言い、小沢とは違って控え目で淑やかな靴音を立て歩き出す。その後を小沢はつかつか、と盛大な靴音で付いていき誠も追おうと足を踏み出すのだが、

「氷川主任、申し訳ありませんがお待ちいただけますか? 技術者同士、深い意見交換を行いたいので」

 その言葉に誠本人よりも小沢のほうが肩を怒らせるのだが、すぐ溜め息交じりに告げる。

「すぐ戻るわ」

 エントランスの奥へと消えていくふたりを見送り、手持ち無沙汰になった誠はどこで腰を落ち着かせようか周囲を見渡す。そこかしこにいるのは野戦服かダークグレーの制服を着た、いかにも戦いに身を置く者たちの醸し出す泥臭い圧を感じる。日本に自衛隊が創設されて半世紀以上、本格的な武力行使は1度もないが、それでも国防を担ってきた組織独自の「匂い」というものは警察組織とはまた違ってくる。

「君が――」

 不意に背後からそんな声が聞こえ、誠は咄嗟に振り返る。いつからいたのか、そこには戦士と呼ぶより兵士という言葉が相応しいダークグレーの制服を体に馴染ませた自衛官が立っている。その顔、特に目標を射貫かんとばかりな鋭く冷たい眼光は、誠の脳裏に深く焼き付いている。

 黒いG3――G4システムの装着員。

「君がG3-Xの装着員、氷川誠か?」

 その無骨な声は決して大きくはないが、誠には明瞭に聞き取ることができる。全身から放たれる気迫に圧されそうになりながらも、誠は「はい」と応じ深く頭を下げる。

「先ほどは、ありがとうございました」

水城史朗(みずきしろう)だ」

 無骨に名乗り、水城は手に持っていた帽子を被る。

「付いてこい。君に見せたいものがある」

 それだけ告げて歩き出す水城に着いていくか、誠は逡巡する。この場を離れて小沢を待たせてしまったら。そう思っている間に水城の背中は小さくなって、誠は迷いを振り払い小走りで後を追った。

 エレベーターで地下へ降りるとすぐ、鋼鉄製の扉が出迎えてくる。水城は扉の横に備え付けられたディスプレイに慣れた様子でパスコードを入力しロックを解除する。その先に広がるコンクリート造りの通路には根拠の見当たらない冷気が漂っていて、まだ残暑の厳しい地上との寒暖差に誠は身震いする。

 通路を少し進んだところにある部屋にもパスコードロックがあったのだが、水城はそれも難なく開錠する。ドアが横へスライドした瞬間、閉じ込められた冷気が一気に廊下へと流れてくる。

 水城はそれを意に介さず部屋に踏み入り、照明を点ける。それほど広くはない部屋には人の身の丈ほどある長方形の箱が数個横たえられていて、素材は透明なガラスのようだが表面が冷気のせいで霜に覆われ中が見えない。どうやら冷気はこの箱の中から発せられているらしい。

 まるで棺桶みたいだ、と誠が思っていると、水城は箱の霜を手で拭き取る。すると、中に収められているものが露になり、誠は息を詰まらせる。

 それは人の顔だった。見たところまだ若い男の、血色の失せた顔。

「これは………」

 箱が棺桶のよう。それが不謹慎な予想ではなかったことを察しつつ、誠は声を絞り出す。

「G4システムを装着した者たちだ」

 納められた亡骸に向けられた視線をこちらへと移し、水城は告げる。何の感情も込めず。

「いずれ、俺もこうなる」

 その瞳にある冷たさは、この部屋に満ちた冷気よりも低く思える。

「皆、俺の同僚たちだ。今でも目に浮かぶよ。彼らの死の瞬間、G4システムは糸の切れた人形のように動きを止めた。だが再びすぐに動き始めた。まるで自らの意思を持っているようにね」

 誠は骸たちを見つめる。俺もこうなる、と水城は言っていた。この永遠の冷気のなかに沈む骸と同じ場所に逝くことを、彼は受け入れている。

 そもそもだ。これだけの装着員を犠牲にするほどの欠点を抱え、まだ解決されていないにも関わらず防衛省はG4システムを実戦投入へ踏み切ったのか。片道だけの燃料と爆弾だけ積んだ飛行機で敵艦へ体当たりして散れ、なんて前大戦時にまかり通っていた思想が、平和が叫ばれ半世紀以上経った現代に蘇っているなんて。

 でも水城の声には自身の思想に対する疑念を全く感じない。かと言って、まともな思考ができずにいる狂気も感じられない。

「君はさっき、俺に礼を言ったな。君は自分の命が助かったことを喜んでる。自分の生に執着してる。だが、生への執着がある限り十分な戦いはできない」

 彼は正気だ。正気で、かつ確固な信念を裡に秘めている。

「以前の俺がそうだった。アンノウンに仲間を殺されていくなか、同じように死ぬはずだった俺は生き残った。生き残ったことに安堵した。その安堵、生への執着こそが俺の弱さだった。アンノウンと正面から戦って倒してみせた君を見て、つくづく自分の弱さを思い知ったよ」

 誠は思い出す。愛鷹山の施設に転がっていた自衛官たちの死体。あの中にはまだ息のある者もいて、それが水城だった。そうなると、あの時はG3-Xが水城に力を示し、それを目の当たりにした水城がG4として誠に力を示したことになる。

「だが、今の俺は違う。今の俺は死を背負って戦っている」

「死を、背負って………?」

「君なら分かるはずだ。聞いてるぞ、あかつき号のこと」

 まさか自衛隊にまで知られているとは。いや、水城が誠のことを知っているのなら、あかつき号事件のこともいずれ知られることだ。

「暴風雨のあかつき号に飛び込んだ君は、死に飛び込んだはずだ。だからこそ君は、あれだけの働きができた」

 本当にそうだろうか。誠があかつき号へ向かったとき、死ぬつもりなんて微塵もなかった。死んでしまえば誰も助けることができない。でも、あのとき誠も死ぬ危険があったことも事実だ。小型ボート1隻で嵐の海に漕ぎ出すなんて無謀すぎる。若さ故の無鉄砲さかと思っていたが、あの時海水に塗れながらフェリーに飛び乗った誠もまた、死を背負っていたのだろうか。永遠の零下へ沈むことを受け入れていたのだろうか。

 水城は告げる。正気のまま静かに。でも鋼のように固く、そして冷たく。

「死を背負うことこそ、我々の使命だ」

 

 

   3

 

 港での戦いの後、十千万に集まったメンバー達の間に重い沈黙が漂う。翔一が皆のお茶を出してくれたが、誰も手をつけない。千歌も未だ混乱から抜け出せずにいるし、冷静になれたとしてもどうしたらいいのか分からない。

「花丸ちゃん………」

 目尻に涙を浮かべながら、ルビィがこの場にいない親友の名前を口にする。それを皮切りに、善子が頭を抱えて喚く。

「あーもう! 何でずら丸はスマホ持ってないのよ!」

 そう、何より問題なのは花丸が携帯電話を持っていないことだ。連絡は家の固定電話で事足りたから支障はなかったが、こういった非常事態で連絡手段が無いのでは安否が分からない。もしやアンノウンに襲われてしまったのでは、なんて不安が根拠もなく増大していくばかり。

 スマートフォンでネットニュースを見ていた曜が安堵したように溜め息をつき、

「港の騒ぎで犠牲者は出てないみたい。きっと無事だよ」

 だからといって不安が消えたわけじゃない。ずっとせわしなく部屋を右往左往していた果南は、

「花丸ちゃんの行きそうなとこ探してみる。本屋さんとか」

 襖を開けようとする果南をダイヤが「おやめなさい」と制止させる。

「下手に動いたらすれ違いになりますわ」

 「そうよ」と鞠莉も同意を示す。

「取り敢えず夕方まで待って、帰ってこなかったら警察に行きましょ」

 「それまでここで待ってろ、ていうの?」と善子が噛みつく。何もせずにいるというのは歯がゆい。逆に言えば、今ここでしかできないことを千歌は告げる。

「信じることならできるんじゃ、ないかな?」

 皆の視線が一気に向けられる。考えてみれば、自分たちはいつも起こるかも分からない奇跡を信じていた。

 わたし達ならラブライブに優勝できる。

 学校を廃校から救うことができる。

 輝きを見つけられる。

 その願いのなかに、花丸の無事が追加されただけのこと。奇跡は起こる。そう信じることで何かが始まる。

 千歌は鞄からシュシュを出した。「それ……」と梨子が声を漏らす。

「いつだって繋がってる。信じれば、きっと花丸ちゃんにも届くと思う」

 そう言って千歌はシュシュを手首にはめる。

「そうね」

 梨子も頬を綻ばせて、自分のシュシュをはめた。皆も各々の、色違いのシュシュを手首にとめていく。自分たちはいつだって繋がっている。

「そうそう!」

 と翔一がお盆を手に部屋に入ってきた。お盆には人数分のおにぎりが乗っている。

「まずは腹ごしらえしよ。俺も花丸ちゃん探しに行くからさ」

 

 一方その頃の花丸は、

「美味しいずら」

「俺のも食っていいぞ」

「ずらあ」

 工場の座敷で水羊羹を堪能していた。

 

 

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