ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第14章 ネクストステップ / 人の居場所
第1話


   1

 

 輝き、て一体どこから来るんだろう?

 わたし達に降り注ぐ光。

 どんな暗闇も照らしてくれて、わたし達に進むべき道を示してくれる。

 目指す光は確かに視える。でもその先にあるものは、とても眩しくて視えない。ずっと直視していると目が眩んできて、でも瞬きをしたら消えてしまいそう。

 わたし達は輝きを目指して走ってきた。

 脇目もふらず、ただひたすらに。

 あとちょっと――

 もうちょっと――

 ようやく追いついたものを掴もうと手を伸ばした瞬間に、わたしの足元が脆いガラスのように砕ける。

 ようやく進んで昇ってきたのに、わたしはまた始まりへと落ちていく。

 全ての出発点になる「ゼロ」へ。

 

 がば、とバネが反発したように起き上がる。見渡すと、見慣れた自分の部屋だった。よく着替えやお菓子の袋を放置するけど、毎日翔一が掃除をしてくれて清潔さを保っている、普通の高校生の部屋。暗闇も、そこに降り注ぐひと筋の光もない。

 夢、か――

 安堵の溜め息をついたところで、目尻に違和感を覚えて指先で掬いとる。指を濡らしたそれは涙だ。何てひどい目覚めなんだろう。

「千歌ちゃん」

 廊下に面した障子が、部屋の前に立つ影を映している。目を擦りながら「おはよう翔一くん」とまだ呂律の回らない口で応じる。

「え⁉」

 と上ずった声をあげ、翔一は障子を開けて驚愕の表情を見せた。

「まだ寝てたの? 遅刻するよ」

 朧気な意識で、机に置いてある時計に目をやる。その時刻は、千歌の眠気を一気に吹き飛ばした。

「えええ⁉」

 

Hello,everybody!(ご機嫌よう皆さん)

 理事長のネイティブな英語が体育館に響き渡る。一応断っておくとここは英語圏の国じゃない。日本語が母語の日本静岡県沼津市内浦にある浦の星女学院だ。ついでに説明すると壇上にいる金髪の理事長は自分たちと同じ制服を着て生徒も兼任している小原鞠莉。何故生徒が理事長の座に就いているのかは――参考になるかは分からないが――第3章を読み返してもらいたい。

「本日より、Second seasonのstartでーす!」

 卓上にマイクがあるのだからそんなに声を張る必要なんて無いのだが、彼女は何をするのも大仰だし声も大きい。慎ましさがまだ1部では美徳とされるこの島国では容姿も相まって少々浮きがちだ。とはいえAqoursの面々をはじめ全校生徒にとっては見慣れたものだし、鞠莉の賑やかさはむしろ美徳と理解している。

「セカンドシーズン?」

 と梨子の前に並んでいる曜が小声で聞いてきて、「2学期、てことよ」と梨子は応じる。なるほど、と曜は嘆息し、

「それにしても千歌ちゃん遅いね」

 その言葉に梨子も溜め息をつく。

「これからはひとりで起きるから、て言ったそばから遅刻………」

 登校時にバス停にいなかったから悪い予感はしていたが、やはり的中したらしい。今までは翔一が、たまに曜や梨子が起こしに部屋まで上がり込んでいたことに流石に本人も反省したようなのだが、まだ朝の弱さは克服できていないみたいだ。

「理事長挨拶だと言いましたですわよね」

 壇上の隅から控え目な声が聞こえてきて、鞠莉は英語交じりのハイテンションなスピーチを一旦中断する。梨子たちのほうにまで声が届いている時点で隠せてはいないが。

「そこは浦の星の生徒らしい節度を持った行動の勉学に励む――」

「雪像を持つ?」

「せ・つ・ど!」

 とうとう生徒会長が大声と共に舞台袖から身を乗り出してしまう。こんな感じで、浦の星女学院の今年度2学期(Second season)は生徒たちが苦笑を漏らす緊張感のない体育館で迎えることになった。

Shut up!(お黙らっしゃい)

 と鞠莉の声がハウリングして、生徒たちの耳をつく。一応厳かに進めたいらしいが、肝心の理事長自身が厳かとは程遠いわけで。

 目的通り生徒たちの声が止むと、鞠莉はスピーチを続ける。

「確かに、全国大会に進めなかったのは残念でしたけど――」

 そこへ、鞠莉の隣にダイヤがついた。これが当初予定していた段取りだったのだろう。

「でも、ゼロを1にすることはできた。ここにいる皆さんの力ですわ」

 ラブライブの東海地区予選でAqoursは惜しくも落選。票数では、全国大会まであと僅か、というところだった。でも捨てる神あれば拾い神あり、と言うように悪い事ばかりじゃない。鞠莉が学校説明会の受付を確認したところ、希望者数の「ゼロ」が「1」に変わっていた。たったひとり。世間からすれば嘲笑を浴びる数値だろう。でも浦の星にとって、それは数字では量ることができない。

 「1」に至るまでの物語があったのだから。

 その「1」も膨らみつつある。説明会の希望者、即ち暫定的ではあるが入学希望者は10になった。

「それだけではありませんわよ」

 ダイヤが言い、鞠莉が引き継ぐ。

「本日、発表になりました。次のラブライブが」

 「ラブライブ⁉」「本当?」と生徒たちから興奮の声が漏れる。例年では、ラブライブは年に2度開催される。地区予選を突破できなかったが、まだチャンスは潰えていない。

「同じように、決勝はアキバdome!」

 そこへ、体育館に足音が飛び込んでくる。やっと来た、と梨子は笑みを零す。この学校の生徒の中で、そのニュースを誰よりも待っていたはずの生徒が。

「Too late!」

「大遅刻ですわよ」

 壇上のふたりが待ちわびたように言うと共に、全校生徒が2学期初日から遅刻をかましてきた生徒へ目を向ける。ここに満ちる興奮を彼女とも分かち合おう、と。

「次のラブライブ」

 走ってきたのか、彼女は息をあえがせながら口にする。

「千歌ちゃん!」

 梨子がその名前を呼び、メンバー達は立て続けに問う。

 まずは曜。

「どうする?」

 次に果南。

「聞くまでもないと思うけど」

 花丸、ルビィ、善子。

「善子ちゃんも待ってたずら」

うゆ(うん)!」

「ヨハネ!」

 呼吸を整え、彼女は残暑に汗を浮かべた顔を上げる。答えは分かり切っている。

「出よう、ラブライブ! そして……そして、1を10にして、10を100にして、学校を救って。そしたら、わたし達だけの輝きを見つけられると思う!」

 まだスタート地点から、少しだけ進んだばかり。

 これから躍進していこう。立ち止まることなく、どこまでも。

 ラブライブに優勝する。

 学校を救う。

 それらのことを成し遂げられれば――

 

 きっと輝ける。

 

 

   2

 

「やっぱりビールが無いと食べてる気しないわね」

 ぼやきながら、小沢は網に乗る肉をトングで返していく。G3ユニットでは事ある毎に焼肉だが、今回は勤務中での昼食。誠たちは警察の制服姿で来店している。こんな出で立ちで白昼堂々ビールなどあおろうものなら、いくら小沢とはいえ懲戒処分ものだ。勿論、彼女が本心から言っているわけではないことは承知だが、それでもいつアルコールに手を出すか誠は気が気でない。小沢はいくら飲んでも全く酔った様子を見せないのだから。

「でも氷川君も随分G3-Xの扱いに慣れたみたいね。やっぱりあなたを装着員にして正解だったわ」

 そう言われてこそばゆい気分になる。誠自身、G3-Xを使いこなせているか自信はない。でも、小沢が言ってくれているのならそうなのだろう。この上司は正直だ。良い意味でも悪い意味でも。

「ありがとうございます。全て小沢さんのお陰です」

「何言ってるの。あなたの力よ」

 「ほら食べなさい」と小沢は誠の取り皿に程よく焼けたカルビを乗せてくれる。

 G3を運用していた頃から何度も誠の装着員としての資質を疑問視されたが、そういった声は今となっては下火になっている。性能的には上位互換のG4システムに勝利したことが、上層部にとって目を瞑ることのできない判断材料になったそうだ。

「そういえばどうしてるのかしら、北條透は?」

 おもむろに小沢がその名前を口にする。

「ええ、捜査一課で頑張ってると思いますが」

「怪しいもんね。あの男がこのまま大人しくしているとは思えないわ」

 V-1プロジェクトが凍結されてから、北條は今のところG3ユニットに対して何の行動も起こしていない。それはそれで誠たちは妨害なくユニットを運用できるから大助かりなのだが、彼は何もせず燻っているわけではなさそうだ。

 北條の様子がおかしい、と河野から相談を受けたのは先日のこと。休憩スペースでコーヒーを飲みながら、河野は北條が高海伸幸殺害事件について捜査し始めたことを話してくれた。東京の高海邸にも足を運んでいるらしい。3年前の捜査が行き詰まり時効を待つだけの事件なんて、北條は興味を持ちそうにないのに。

 まあ、考えても仕方ない。今は食べよう、と誠は焼けたカルビを網から拾い上げる。柔らかい焼きたてを口に運ぶと、突然隣に座っていた尾室が席を立つ。トイレかと思ったら、尾室は出口へ小走りで向かっていって店を出てしまった。空いた彼の席に視線を移すと、彼のタレは肉を浸けていないのか脂が全く浮いていない。食欲がないのだろうか。

「どうしたんでしょう尾室さん」

「さあね。青春、てことかしら?」

 とさほど気にする素振りも見せず、小沢は肉を食べる。どういう意味なのか誠は理解できず、とはいえ理解する必要も感じず網の肉へ箸を伸ばした。

 

 

   3

 

 夏休み明けの2学期ということで、多くの生徒たちは久々の学校に気分も新たにしたいところかもしれない。Aqoursもそれに乗りたいところだが、生憎夏休みも殆ど練習のために登校していたこともあってあまり久しぶり、なんて感覚はない。当然他の生徒たちも登校しているから、賑やかになってはいるが。

 そういうわけで、初日だからといって放課後に屋上で練習する日課に変わりはない。

「善子ちゃんは相変わらず体硬いよね」

 ふたり組のペアを組みながら、果南が呻き声を上げる相方に告げる。

「ちゃんとストレッチやってる?」

「ヨハネ!」

「そんなんじゃダメダメ」

 と果南が長座体前屈をする善子の背中に全体重を乗せた尻を押し付ける。押す、というよりもはや乗っている。「痛い痛い!」と悶えながら、善子は減らず口を止めない。

「待ちなさいよ。この体はあくまで仮初め。堕天使の実体は――」

 なんていつもの発言を無視し、果南は悪戯な笑みを浮かべながら更に体重を乗せた。ぐぎり、なんて鈍い音がして、「あーたたたた!」と善子の喚き声が開けた屋上に響くも他のメンバー達は無視を決め込む。曜もペアを組む梨子とストレッチを再開する。

「花丸ちゃんは随分曲がるようになったよね」

 ルビィが言うと花丸は得意げに腕を伸ばしながら、

「毎日家でもやってるずら。それに腕立ても」

「本当?」

「見てるずら」

 と花丸はストレッチを中断し、うつ伏せになった体を両腕で持ち上げる。これにはメンバー達は注目した。インドア派の花丸は体力こそ日に日に付いているが、まだ筋力不足気味ではある。体を降ろそうと腕を曲げる花丸を、全員で固唾を飲んで見守る。

 胸が床に着こうとするところで体を持ち上げようとするが、限界が来たらしくそのまま腕を投げ出して床に伏せた。

「………完璧ずら」

 何故か達成感を告げる。でもペアのルビィは「凄いよ花丸ちゃん!」と労い、鞠莉も「It’s miracle!」と称賛を述べる。

「どこがよ!」

 と至極真っ当なことを言ったのは善子だ。とはいえ、腕を曲げられるようになったのは確かに進歩している。前の彼女は体を支えるだけで精一杯だったのだから。家でもトレーニングに励んでいるとは、花丸をそこまで動かすきっかけはどこにあったのだろう。あの日、千歌が攫われた頃に世話になった、という人物の影響だろうか。曜も会ってみたいと思うが、生憎名前も連絡先も知らないらしい。

「それで、次のラブライブっていつなの?」

 曜が訊き、梨子が「多分、来年の春だと思うけど――」と応えたところで、

「ブッブー、ですわ!」

 とダイヤが入ってくる。

「その前にひとつやるべきことがありますわよ」

 いまいち当てはまるものが思い当たらず、曜と梨子は揃って首を傾げる。するとダイヤは得意げに、

「忘れたんですの? 入学希望者を増やすのでしょ?」

 「学校説明会……」と梨子が呟いたところで「あ、そうだ」と曜も思い出す。予定されていた説明会の日程が近い。当然Aqoursもスクールアイドル部として学校のPRをしなければならないし、そもそもAqoursが説明会の要と言っていい。浦の星女学院唯一のPR要素なのだから。

「Of course! 既に告知済みだよ」

 鞠莉が意気揚々と告げる。理事長としての仕事は抜かりなくこなしてくれているらしい。廃校寸前なのだからそうでなくては困るが。

「せっかくの機会です。そこに集まる見学者たちにライブを披露して、この学校の魅力を伝えるのですわ」

 ダイヤが言うと、「それ良い!」と真っ先に賛同の声が挙がる。それを告げたのは、たった今屋上へやってきた千歌だ。

「それ、凄く良いと思う」

 遅れてやってきたリーダーに善子が皮肉を飛ばす。

「トイレ長いわよ。もうとっくに練習始まってんだからね」

「人のこと気にしてる場合?」

 と果南がまた背を押して黙らせた。

 学校説明会でのスクールアイドル部によるPR。その手段として、ライブをするのは最善だ。自分たちが何をしているか、何を以って学校を存続させようと奮闘しているか。実際にその活動内容を見てもらうのが、1番良い。

 それに関して、曜は反対する気なんて微塵も無かった。他のメンバー達も同じように。

 

 ユニットの定例会議を終え、Gトレーラーへ戻る道中にできれば会いたくない顔に遭遇する。同じ職場なのだから致し方ないし、会ったとしても当たり障りなく挨拶を交わして離れればいい。でも、そうはいかないのが北條透だ。

 彼への嫌悪感を隠さない小沢は無言のまますれ違おうとしたのだが、避けようとしたところ北條も同方向へ避け、その後もコントじみた立ち往生を繰り広げる。埒が明かないのか、北條は立ち止まり小沢を始め誠たちG3ユニットの面々を見回す。その顔に浮かぶのは、余裕綽々な怪しい笑み。

「何よ?」

 不遜に小沢のほうから声をかけることになった。こうなったら穏便にはいかない。

「いえ。こうして見ると、妙にあなた達が小さく視える」

 とやはり北條の嫌味が炸裂した。

「何言ってるの?」

 真っ向からそう言われれば、当然小沢も苛立ちを隠さずにはいられないだろう。

「悟ったんですよ、私は。G3-XだのV-1システムだの、そんなことはもうどうでもいい」

「そんなものもあったわね。あなた、まだ根に持っていたの?」

「可哀想な人たちだ。あなた達は何も知らずに最前線で働いている者。将棋で言えば歩に過ぎない」

「あなたは歩にもなれなかったけどね」

「いい加減に目を覚ましたらどうです? アンノウン関連の事件で1番大事なことはその根幹に何があるか、それを探ることです」

「それで?」

 核心を求める質問をしたところで北條は逡巡を挟み、

「それはそうと小沢さん、匂いますよ。また焼肉を食べましたね。知りませんよ。そのうちに角が生えてきても」

「角が生えたら真っ先にあなたを弾き飛ばしてあげるわよ」

 皮肉の応酬の末、北條は不敵な笑みを向けて去って行く。アンノウン事件の根幹。北條はそこへ辿り着くものを見つけたのだろうか。河野から聞いた、高海伸幸の事件に関係しているとでも。追いかけて問い詰めてみても聞けそうにない。何せ誠たちG3ユニットは最前線の、歩の業務に手いっぱいだ。捜査一課のほうで北條が謎を追ってくれるのなら、そのまま邁進してほしいものだが。

 

 

   4

 

「そっか、秋になると終バス早くなっちゃうんだね」

 学校前のバス停で時刻表を見ながら、曜が肩を落とし気味に告げる。ただでさえ空白まみれの時刻表が、これからの時期は更に余白が目立つことになる。東京育ちの梨子は、この地方ならではの時刻表を見てとても驚いたとか。内浦育ちの果南たちからすると、向こうのすし詰めにされた時刻表のほうが驚きなのだが。

「日が暮れるのも早くなっちゃうから、放課後の練習短くなっちゃうかも」

 ルビィが言うとダイヤも苦々しく、

「説明会まであまり日はありませんわよ。練習時間は本気で考えないと」

 ならバスの時間が過ぎてもトレーニングも兼ねて走って帰路につけばいい、と思ったのだが、それぞれ家までの距離にばらつきがある。あまり練習量に個人差をつけるのは好ましくない。普段の練習量の調整が難しくなる。

 そこで果南は名案を思い付いた。

「朝、あと2時間早く集合しよっか?」

 皆が「うーん」と考え込んでいるが、特に反対意見はなさそうだ。

「じゃあ決まりね」

「早すぎるわよ!」

 と善子から文句が飛んでくる。そもそも現時点でも朝練習の集合時間は始発バスで来る時刻なわけだから根本的な解決にはなっていないのだが、果南がそのことに気付くのは後になってから。

「それと善子ちゃん、もう少し早く帰ってくるように言われてるんでしょ?」

 梨子が思い出したように言うと、善子は分かりやすいほどに目を泳がせる。いつものように「ヨハネ!」と訂正しないあたり、かなり動揺しているらしい。

「ど、どうしてそれを………」

「うちの母親がラブライブのとき、善子ちゃんのお母さんと色々話したらしくて。何か部屋にも入れてくれない、て」

 自分のいないところで話された「色々」はかなり不都合なことばかりらしく、善子は顔を青ざめるも、すぐにいつもの調子を持ち直して、

「だ、だから、ヨハネは堕天使であって、母親はあくまで仮の同居人というか………」

 そこで千歌が疑問を投げる。

「お母さんてどんな人なの?」

「学校の先生なんだって」

 と梨子が答えると、ルビィと花丸が得心したように悪戯っぽく笑う。親としても教育者としても、娘が自称堕天使では心配事も多いだろう。梨子の母に吐露したくなるのも理解できる。

「善子ちゃん幼稚園まで哺乳瓶離さなかったから、お母さん――」

「うにゃあああああああっ‼」

 それ以上の暴露は善子の絶叫によって阻止される。場が笑い声に包まれたところで、梨子は思い出したように、

「待って。沼津からこっちに来るバスは遅くまであるのかな?」

 その疑問に笑い声が止み、皆は再び「うーん」と唸る。あまり利用しない時間帯だから、この場で知っている者はそういない。

「仕事帰りの人がいるから………」

 そう千歌は呟いてから表情を明らめて、

「向こうで練習すれば良いんだ!」

 これは名案だ。沼津市街からなら通勤通学のために便も充実しているだろう。

「それなら時間も確保できるずら」

「ルビィ、賛成!」

 果南も異議はない。

「そうだね、鞠莉は?」

 訊くと、鞠莉は「え?」と上ずった声で応じるもすぐにいつもの笑顔で、

「No problem」

 その様子に果南は違和感を覚える。鞠莉が人の話を聞かないことはよくあることだが、こういった皆での話し合いにはしっかり参加する。

「よし、じゃあ決まり!」

「明日練習場所になりそうなところ、皆で探しましょ」

「新たなリトルデーモンたちを増やそうぞ」

「善子ちゃん張り切りすぎずら」

「ヨハネ!」

 そんな皆の他愛ない談笑にもすぐ加わるはずなのだが、鞠莉は物憂げに目蓋を垂らして海を眺めていた。

 

 

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