ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第3話

 

   1

 

 もしあの時。ラブライブの予選に勝って本大会に進んでいたら、未来は変わってたのかな?

 未来は違ってたのかな?

 

 ひとりバスに乗って帰宅すると、玄関先で翔一がしいたけにブラッシングをしている。

「お前もそろそろ冬毛かあ」

 ブラシに付いた大量の抜け毛を見ながら、翔一が感慨深そうに呟く。「ワン」としいたけが鳴いたところで千歌に気付き、

「お帰り、今日は遅かったね」

「………うん」

 翔一の鷹揚さに付き合う気分になれず、気の抜けた返事をする。察しているのかそうでないのか、翔一はいつもの調子を崩さない。

「さっきむっちゃん達来てたよ。凄いの持って来てくれたからさ、部屋行ってみなよ」

 そう言って翔一は手早くブラシから落としたしいたけの抜け毛をビニール袋に入れて、千歌の背中を押して部屋へと誘導していく。

 部屋に着くと、壁に千羽鶴が吊るされていた。色とりどりの鶴たちと一緒に束ねられた短冊には「目指せ‼ ラブライブ」とメッセージが綴られている。

「これ………」

「皆で折ったんだって。凄いよねえこんなに沢山。千羽越えてるんじゃないかな?」

 折られた鶴の1羽ごとに込められた生徒たちの願い。Aqoursがラブライブに優勝できますように。学校が存続しますように。皆から託された、活力を与えてくれた願いが、今はとても重くて苦しい。

「千歌ちゃん、どうしたの?」

 無言のままの千歌を不思議がってか、翔一が訊いてくる。「何でもない」と千歌は笑顔を作り、

「ありがとう」

 翔一は分かりやすいほどに眉を潜めながらも、それ以上追求することなく部屋から出て行く。ひとりになって、鞄を無造作に床に置くとベッドで体を丸める。

 説明会中止。

 それと同時に圧し掛かってきた事に、千歌の背中は押し潰されそうになる。

 わたしが、超能力者?

 そんな不思議な力、今まで使ったことなんてない。わたしは普通星に生まれた普通星人。特別な力なんて持たず、平凡に生きていくだけ、と信じて疑わなかった。

 でも、北條が言っていた。超能力者は無自覚に能力を使う、と。今まで千歌自身が気付いていなかっただけで、身の回りで何か起こっていたのか。

 千歌は思い出す。小学生の頃、近所に住んでいた老婆が亡くなった。病気で長く入院していたが、完治して退院した矢先での死だった。高齢だったから別の病を患っていたのかもしれない、と母は言っていた。

 もし老婆の死が、自分の力によるものだとしたら――

 荒唐無稽だが超能力だ。不可能なことも可能にしてしまう。千歌の知らないところで力が発現していたのなら、気付きようがない。

 だとしたら、離れた場所にいる人間を殺してしまう可能性だって否定できない。

 千歌は過去の記憶を手繰り寄せる。幼稚園の頃、東京にある父の家に行ったときの記憶。娘の訪問に父はとても喜んでくれて、玄関で迎えると小さな千歌を軽々と抱き上げてくれた。その日、千歌は父と指相撲をして遊んでいた。千歌が勝ったのだが、大人に敵うはずないから父は手加減してくれたのだろう。でも父は千歌よりも喜んでいて、大きな手で頭を撫でてくれた。

 ――強くなったなあ千歌――

 まだ残暑が厳しいのに、寒気で体が冷え込む。千歌は抱えた膝に顔を埋めて、纏わりついてくる恐怖に打ち震えた。

 

 

   2

 

 曜たちに告げられた翌朝に、緊急の全校集会が開かれた。生徒たちは何だろう、と口々に疑問を述べていたが、曜たちAqoursのメンバーは内容を知っている。それでも言わなかったのは、違うかも、という期待もあったのかもしれない。

 昨日のことは、ただの夢だったのかもしれない。

「諸般の事情により、説明会は中止。この浦の星女学院は正式に来年、統廃合となることが決まりました」

 理事長の鞠莉が告げて、現実だったことを認めざるを得なくなる。ざわつき始める生徒たちの反応は昨日の曜たちと同じ、困惑が大半を占めていた。

「準備を進めていた皆さん。大変申し訳ありませんが、説明会は取りやめになりますので、至急ポスターなどを撤去してください」

 ダイヤからの通達が、生徒たちの耳に届いているかは分からない。

「千歌ちゃん、本当に来てないんだね」

 自分のクラスの列を見渡して、曜は呟く。登校するときにメールが来たから知ってはいたが。同じく連絡を受け取っていた梨子は重々しそうに、

「それほどショックだったのよ。これから、て時だったんだから」

 説明会の中止で落ち込んでいる。この時の曜はそう思っていた。でも事実は、そんな曜たちの予想よりも複雑だったことを知るのはもう少し後になる。

 

 1日の始業時刻になってすぐに訪れた来客に、誠は戸惑いながら応対することになった。何故ならその来客は2学期が始まった学校に登校しているはずの千歌だったからだ。制服を着て学生鞄を提げていることから、家人には登校する素振りで反対方向にある沼津署まで足を運んできたのかもしれない。

 そんな千歌が訪ねてきた要件に、誠は驚かされる。

「自首したい? 一体何の話です?」

 ひどく沈んだ表情の千歌は、表情と同じく沈んだ口調で言う。

「わたし………。わたし、お父さんのこと本当はわたしが犯人なんじゃないか、て………」

「千歌さんが、高海伸幸氏を? 何言ってるんです?」

「北條さんも言ってたじゃないですか。無意識のうちに超能力を使っちゃう場合がある、て。だから……、もしかしたらわたしが………」

「北條さんの言ったことなら気にしないでください。少し思い込みが激しいところのある人で。すいません」

 思考が飛躍し過ぎな気もするが、北條もこんな少女を怖がらせるなんて。後で注意しておかなければ。

「でも、お父さんが超能力で殺されたなら、わたしの他に心当たりないですし………」

「それについても、北條さんが勝手に推測しているだけです。何の証拠もないんですから。考えすぎですよ」

 大体、事件当時に高海伸幸は家族と別居している。担当していた河野は念のため聴取して、千歌たち高海家のアリバイが判明している。身内による犯行は捜査の初期段階で外されているのだから。

 そもそも事件内容が不明瞭過ぎて、どんな推理も憶測の域を出ない。北條の超能力説も、誠のアンノウン説も。

 

 氷川さん、困ってたな。

 通勤ラッシュを過ぎた時間帯だから、沼津の街にそれほど人通りは多くない。梨子には連絡しておいたけど家族には何も言わずに家を出たから、今頃学校から連絡が来ているだろうか。帰ったら姉たちに叱られるだろう。

 暇を潰そうにもゲームセンターで遊ぶ気分にもなれず、行く当てもなく虚ろに歩く。

「千歌ちゃん」

 馴染みのある声。振り返ると、買い物袋を提げた翔一が駆け寄ってきた。

「こんなとこで何してるの? 学校は?」

「ごめん、ちょっと気分悪くて………」

 我ながら嘘が下手だ。体調不良ならそう言って家で休めばいいのに、わざわざ街を徘徊するなんて。

「どうかした?」

 翔一にも悟られるなんて、きっと今はとても分かりやすいほどに沈んだ顔をしているのかもしれない。

「ねえ、ちょっと付き合ってくれない?」

 翔一は戸惑いながらも「うん」と頷いてくれる。思えば一緒に暮らして2年、翔一はいつも優しくて怒った顔なんて見たことがない。それは彼が変身すると知っても、彼が記憶を取り戻していた間も変わらなかった。千歌と同じように「普通の人にはない」力を持っているのに。

 千歌にとってどんな姿でも、どんな名前でも翔一は翔一のままだった。それは千歌も同じになれるのだろうか。千歌の裡にある力が完全に目覚めても、千歌は高海千歌でいられるのだろうか。

 コンビニで買ってもらったかき氷を手に、千歌は翔一と市街を流れる狩野川の畔に腰掛けた。好きなミカンシロップのかき氷なのだが、食べる気になれない。

「ねえ翔一くん、ちょっと訊いてもいい?」

「何?」

「翔一くんから見て、わたしってどう? どんな人?」

「え?」

 眉を潜めながら、翔一は「うーん」と考え込む。

「急にそんなこと言われても……、何かよく分からないけど………」

「そうなんだ……。訳が分からないんだ、わたし………」

「そういう意味じゃなくて、誰かのことをこういう人だとか言っても、そんなの分かんないじゃない」

「そりゃそうだけど………。でも、わたしのお父さんは凄く分かりやすい人だったよ。優しくて正直な人だったから」

「そうなんだ」

 思えば、父は翔一に似ていた気がする。千歌や志満や美渡。娘たちをとても可愛がってくれて、千歌もその愛情を確かに感じ取っていた。翔一が高海家と同居するのをすぐに受け入れられたのは、翔一の人柄もあるが彼の笑顔に父の影を無意識に見出して、父を失ったことの虚しさを埋めようとしていたのかもしれない。もっとも、翔一は父親というより兄のような存在だけど。

「翔一くん、手見せて」

 千歌が言うと、翔一は戸惑いながらも手を差し出す。彼の掌に、千歌は自身の掌を合わせる。台所での水仕事のためか、翔一の手は少し乾燥肌気味だ。

「結構翔一くんも手大きいんだね。お父さんも大きかった。大きな手でわたしを抱き上げてくれたり、頭を撫でてくれたり。でも、翔一くんの言う通り人のことなんて分からないよね」

 いくら娘でも、千歌は父がどんな仕事をしていたのかよく知らない。大学で教鞭を取っていた、とは聞いていたが、職場で父がどんな顔をしていたのか、父の周りに誰がいたのかも知らない。

 他人のことが分からないのと同様に、時折自分のことも分からなくなることがある。自分は何が好きなのか。本当にそれが好きなのかすらも。

「いくら大好きでも、わたしだってお父さんに怒られたことだってあるし」

 それは千歌自身も気付いていなかったことなのかもしれない。気付かない振りをして目を背けていただけなのかもしれない。

「もしかしたらわたし、心の奥でお父さんを憎んでいたのかも」

「何よ急に。そんなこと、ないんじゃない?」

 翔一はこんな時でも優しくしてくれるけど、千歌はその優しさを素直に受け取ることができずにいた。わたしでもわたしのことが分からないのに、翔一くんに何が分かるの。そんな芽生えかけた苛立ちが、また恐怖を引き起こす。

 ぼごん、と川面が波立った。「ん?」と翔一がその一点へ目を向けた瞬間、川面から飛沫をあげて何かが飛び出してこちらへと向かってくる。かき氷をぶちまけながらも避けたから、直撃は免れた。

「何だ?」

 緊迫した表情で、翔一は川から飛んできたものを凝視する。それは自転車だった。ずっと長く川底に沈んでいたせいか、フレームの殆どが錆に覆われている。

 まただ、また力が――

 この力のせいで、千歌自身も認識できない力が父を殺してしまったのかもしれない。裡に隠されていた憎悪に呼応して力を振るってしまえば、これからも身近な誰かを傷付け殺してしまうかもしれない。

 翔一を。

 Aqoursの皆を。

 千歌はその場から逃げだした。「千歌ちゃん!」という翔一の声も無視し、あてもなく逃げ続ける。

 わたしはもう、皆とはいられない。翔一の守ってくれている「居場所」にわたしはいるべきじゃない。

 赤信号を無視して交差点を渡ろうとしたから、大型トラックの直進上に出てしまう。機転を利かせた運転手のお陰でトラックが避けてくれたから轢かれずには済んだが、驚いて転んだ拍子に足首を捻ったらしい。

 痛みを堪えて立ち上がろうとする。そんな千歌の傍で1台の車が停まる。

「大丈夫か?」

 車から出てきた男が訊いてきて、「はい」と千歌は応じる。不意に、千歌の眼前に男の手がかざされた。一体何なの、と思ったところで、視界が歪む。景色全ての形が認識できなくなり、街の喧騒も遠ざかっていき――

 千歌の意識はそこで途切れた。

 

 

   3

 

「ただいまあ」

 帰宅した翔一を迎えてくれたのは、志満と志満が応対していた馴染みの来客だった。

「氷川さん?」

「お邪魔します。ちょっと、千歌さんとお話したいことがありまして」

「え? 千歌ちゃんまだ帰って来てないんですか?」

 河畔ではぐれた後も探し回ってはみたが、見つからないからバスに乗って帰ったのだと思っていた。

「うちのほうにも学校から来てない、て連絡が来たの。そしたら氷川さんから警察署に来た、て聞いて」

 志満が眉根を潜める。

「妹は何をしに行ってたんですか?」

「え、ああ……、それは………」

 言葉を探しあぐねた既に、誠は「それよりも」と話題を変える。

「千歌さんは携帯電話を持っていますか? 連絡してみましょう」

 はぐらかされたが、志満は特に不満な顔は見せず固定電話の受話器を取る。翔一は誠と一緒に志満が耳に当てる受話器を注視していたが、いくら待っても応答は来なかった。

 

 目蓋を開くと、知らない天井が視界に映っている。

「目が覚めたか」

 その声を聞き、跳ねるように上体を起こす。ベッドに寝かされていた体に、乱暴されたような跡はない。それでも恐怖を拭う根拠にはならず、ベッドから降りようとするが足首に激痛が走った。

「捻挫だ。心配するな」

 見れば、足首には包帯が巻かれている。ベッドの傍で椅子に座るこの男は、どうやら邪な目的で攫ったわけではないらしい。視界に髪の毛が入り込んでくる。指で触れると、留めていたヘアピンがなくなっていた。

「あなた、誰なんですか?」

相良克彦(さがらかつひこ)だ」

 相良と名乗った男は不躾に応える。

「どうしてわたしを?」

 続きの質問に相良は答えようと口を開いたのだが、それは別の声によって遮られる。

「何度も言うけど私は反対だから」

 咄嗟に声の方向を向くと、部屋の隅で若い女性が小さく座っていた。あまりにも縮こまっているから気が付かなかった。女性は眼鏡越しの瞳にある嫌悪を隠そうともせず千歌へ向ける。

「どうしてこんな子を仲間にしなくちゃいけないの? 私たちとは何の関係もないじゃない。だいいち、木野さんの許可は取ったの?」

「木野さんとはもう1週間も連絡が取れない。それに、ある意味で俺たちと彼女は仲間だ」

 深く溜め息をつき、女性は部屋から出ていく。苛立ちが激しいのか、不必要なほどドアを閉める音を立てて。

 一体何の。そう訊きたくなったところで、相良はおもむろに立ち上がり包帯が巻かれた千歌の足首に手をかざす。気が付くと痛みが引いていた。患部に触れてみても、回してみてもまったく痛くない。

「お前にもあるはずだ。これと似たような力が」

 仲間、と相良は言っていた。だとしたら、女性のほうも同じ超能力を持っているということか。

「家に帰りたいか?」

 訊きながら相良に椅子に腰を落ち着け、

「しかしお前に、帰る場所があるかどうか」

「帰る……場所?」

「お前も俺たちも、普通の人間にはない力を持っている。思い出してみろ。そのせいで辛い想いをしたことがあるはずだ。だがその辛さは誰にも分かってもらえない。いや、誰かに相談することすらできないかもしれない」

 このとき千歌が思い出していたのは梨子だった。彼女が誠の事件捜査に協力していたとき、千歌が抱いたのは羨望だった。でも梨子も力に苦しめられたことがあるのかもしれない。

「でも、どうしてわたしをこんな所に連れてきたんですか?」

「それはいずれ分かることだ。俺たちはお前を傷付けようとは思ってない。俺たちにはできるだけ多くの仲間が必要なんだ。お互いに分かり合うために。自分の力の意味を知るために。そしてその仲間が揃ったとき、そこが俺たちの居るべき場所になる」

「わたしの……、場所?」

 

 

   4

 

 千歌が帰ってこない。

 その連絡を翔一から受けて、放課後になるとすぐにAqoursは捜索を開始した。簡単ながらチラシを作って、市内の掲示板に手分けして貼りながら探す。翔一が誠に捜査を依頼してくれたのだが、千歌の年齢から失踪して数時間程度では事件性は認められない、とのことで期待はできない。

「もう、心配かけて」

 愚痴りながら、果南はチラシを町内掲示板に画鋲で留める。チラシには千歌の顔写真と家を出たときの服装、見つけてくれたときの連絡先として十千万の住所と電話番号を記載している。

「すみません、こんなことぐらいしかできなくて」

 申し訳なさそうに頭を下げる誠に、翔一は「いえ、そんなことないです」とかぶりを振る。果南も同じように、

「そうですよ。助かってます」

 警察が捜索に動かないとはいえ、誠も協力してくれている。車を持っている彼なら、捜索範囲も広いからありがたい。それに、チラシ配りを助言してくれたのは誠だ。

「あ、もうチラシ少ないな。果南ちゃんは?」

 手持ちを数えながら、翔一が訊く。果南の分も残り数枚しかない。結構な範囲で配ってきたが、まだ範囲を広めたいところだ。

「では、僕がコピーしてきます」

 そう言って誠は果南からチラシを1枚受け取って、近くの路肩に停めておいたクラウンへ向かっていく。走り出した車を見送ると、「じゃあ次行こっか」と言う翔一に着いて彼のバイクへと向かう。

 ヘルメットを被ってリアシートに跨ろうとしたとき、下を向いた果南の視線が地面の1点で留まる。アスファルトの道路に落ちているのは緑色の、四つ葉のクローバーを模したヘアピンだった。

「どうしたの果南ちゃん?」

「これ、千歌のヘアピンだよ」

 拾い上げて匂いを嗅ぎ確信する。千歌の髪の香りだ。だとしたら、千歌がここにいたことは間違いない。他に手掛かりはないかと周囲を見渡す。近くに立っているマンションの駐車場。そこに停まっている黄色の乗用車へと目が向いた。見覚えのある車だ。近付いていくにつれて、記憶が蘇ってくる。できれば思い出したくはないが、涼を殺された――とその時は誤解していた――復讐に警官を殺そうとしたとき、果南を止めた男の車だ。派手な色だからよく覚えている。確か彼は相良克彦といったか。

 車に触れてみる。脳裏にほんの数秒だが、像が浮かんだ。相良が車から、眠っている千歌を抱えている。

「千歌!」

「どうしたの?」

「千歌はここにいる!」

「え?」

 駐車場に割り振られた番号は301。果南は駐車場のマンションへと走った。翔一は「え、果南ちゃん?」と戸惑いながらも着いてきてくれる。万が一のことがあれば、果南の力で助け出せる。あれから1度も力は使っていないから、思うようにいくかは分からないが。

 301号室の前に着くと、果南はドアを力いっぱい叩く。

「千歌! 千歌!」

 何度か叩いていると、がちゃ、とロックが開錠される音がする。前に来た時と同じように3回も。ゆっくりとドアが開かれ、その陰から千歌が顔を出した。すぐにドアの陰から抱き寄せ、隣にいる翔一に渡す。

「翔一さんお願い」

 「ああ、うん」と翔一は千歌と共にマンションの階段を駆け下りていく。果南も逃げるべきなのだろうが、どうしても相良に聞きたい。足を踏み入れた部屋は、前と同様に生活感がまるでない。テーブルとソファだけの殺風景なリビングで、相良はソファでくつろいでいた。眼鏡の女性が果南を見て別室へ逃げ込んだが、そんなことはどうでもいい。

「よう。無事に生きてたか」

 何の気なしに言ってのける相良に、果南は強気な姿勢で言う。

「何のつもりですか? どうして千歌を」

「彼女も俺たちと同じ超能力者、仲間だ」

「千歌が?」

 驚愕を隠し切れない。千歌もまた果南と同じだなんて。そこで思い出す。プラサヴェルデで鞠莉が突然吹っ飛んだことを。あれは千歌がやったのか。

「お前も俺たちの仲間にならないか? お前の力も強力だ」

「前は無暗やたらに使うな、て言ってたじゃないですか。アンノウンに嗅ぎつかれるから、て」

「アンノウン。あの化け物はそんな名前なのか」

 と相良は嘆息する。誠によると、あくまで便宜上として警察が呼んでいるから、本当の名前は分からないらしいが。

「奴らは俺たちの力を怖れている。つまり、俺たちの力は奴らに対抗できる、てことだ。きっと彼はそのために、俺の力を強めた」

「彼?」

「ああ。名前は聞かなかったが、俺は彼に頼まれてある男を蘇らせようとした。俺の力では駄目だったがな。そもそも殺した相手を蘇らせるなんて、はなからそんな気なかったが」

「殺した?」

「そいつは災いをもたらす、てのが俺たちのリーダーの判断だ。だから俺がこの手で殺した」

 果南は相良の瞳を見つめる。以前の相良は、どこか怯えているように感じられた。その怯えは今もあるのだが、同時に希望めいたものも感じられる。人を殺せるほどの力が、相良に希望を与えたのか。

 決意するように拳を握り、相良は言う。

「俺たちにはもっと強い力と、同じ力を持つ仲間が必要だ。(きた)るべき時のためにな」

 

 

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