ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
1
「さて、迎えに行くか」
嘆息し、相良はソファから立ち上がる。まったく急ぐ素振りの見えないその姿は、果南には同類ながら異様に映る。
「戻ってくると思う? 千歌は――」
「じきに分かるはずだ。彼女も、そしてお前も、本当の居場所はここしかない、てな」
相良は果南を一瞥し、
「お前も忘れたままでいるのが1番だと思っていたが、結局どちらにしても同じだったか」
前に会ったとき相良は言っていた。思い出したら地獄を見る、と。その地獄とは何なのか、果南は一体何を忘れてしまっているのか。
「お前も見るといい。彼女の力を」
相良は玄関へ向かっていく。果南はその後を追った。
ある程度マンションから距離を置いたところで、翔一と千歌はようやく足を止めた。全速力だったせいで、少し呼吸が粗くなる。バイクで逃げればよかったな、と冷静になった頭を掻いていると、千歌はおもむろに口を開く。
「ありがとう翔一くん。でも、わたし帰らないほうが良いのかも………」
「え、どういうこと?」
千歌は答えてくれない。いつもは無邪気な顔はひどく沈んでいる。
「一体何がどうなってるわけ? 詳しく話してくれなきゃ。志満さんも美渡も、Aqoursの皆も心配してるし」
翔一が促してようやく、千歌は重そうに口を開く。
「ねえ翔一くん、覚えてる? いつかわたしに言ってくれたよね。皆の居場所を守りたい、て」
「うん」
覚えているも何も、それは翔一が常に思っていることだ。何故アギトの力が自分に宿っているのか。理由は分からなくても、この力を素性の分からない自分を受け入れてくれた人々のいる場所を守るために使いたい。
「最近思い始めたんだ。わたしの居場所ってどこだろう、て」
「何よそれ。千歌ちゃんには皆がいるじゃない。志満さんや美渡や、Aqoursの皆がさ」
「うん。でも違うのかな、て。ここにわたしが居て良いのかな、て………」
当たり前じゃない、とは言えなかった。翔一もアギトの力に気付いた頃、今の千歌と同じ悩みを抱えていた。答えを見出させてくれたのも千歌だ。
「翔一くん、わたし探してみたいんだ。わたしの本当の場所」
だから、千歌自身に気付いてもらわなければならない。千歌の居場所は、千歌の思っているよりもずっと近くにあることを。
そのとき、悲鳴が轟いた。咄嗟に目を向けると、男が異形の手に頭を鷲掴みにされている。傍では、悲鳴をあげた少女が腰を抜かして動けずにいた。
「果南ちゃん!」
駆け寄ろうとする千歌を引き留めているうちに、男は何度も腹を蹴られ無造作に投げ捨てられる。その髪を乱暴に掴んで持ち上げるアンノウンは、まるでカニのように人型の全身が甲羅に覆われている。
翔一は駆け出し、アンノウンに突進を仕掛けた。不意打ちに男が異形の手から離れ、力なく地面に倒れる。
「逃げて!」
アンノウンに組みつきながら叫ぶ。千歌と、ようやく立てた果南は痛みに喘ぐ男を支えながら起こしその場を離れていく。
アンノウンの肘が翔一の腹をついた。ごほ、と咳き込みながらも体勢を立て直し、間合いを取ったところで裡に宿る力を呼び起こす。
「変身!」
姿を変えた翔一の姿を認め、アンノウンは「アギトォ」と呻き右手の巨大なハサミを構える。向かってきたその動きはそれほど速くはなく、翔一は振るわれたハサミを避けつつその胸に拳を打つ。だが、胸を覆う甲羅は拳の衝撃を完全に跳ね返しアンノウンは不気味に笑う。殴ったこちらが痛むほどの硬さだ。
跳躍し再び間合いを取って翔一はベルトからハルバードを抜き、鎧を
一瞬の焦り。そこを突かれ、アンノウンのハサミで顔面を殴られる。すぐさまハルバードを構え直し追撃は阻止するが、互いに武器を打ち合っていては泥沼で体力を削られる。
翔一は念じた。そう遠くないところに停めておいたはず。
呼応するように、それはすぐにやって来た。翔一の力を受け変化したバイク。そのカウルが、アンノウンの体に突進する。流石に猛スピードでの衝撃には耐えられないらしく、アンノウンの体は大きく宙を跳んだ。
停まったバイクに跨り、ハルバードを抱えたまま発進させる。すぐさまマシンをスライダーボードへ変形させ、シートに両足を落ち着けると共に武器を構え更にスピードを上げていく。アンノウンが腕で防御の体勢を取った。耐え切るつもりでいるらしい。
翔一はシートから跳躍した。スピードが上乗せされたハルバードの切っ先が、アンノウンの体を串刺しにする。着地すると、慣性によって吹っ飛んだ体は地上へ戻ることなく、宙で爆散した。
2
戦いの場から逃れた果南は、千歌と共に相良の肩を支え住宅街を拙い足取りで進んでいく。そうするうちに緊張が少しばかり治まったおかげか、救急車を呼ぼうと冷静な思考ができるようになりポケットからスマートフォンを出す。
「いい……」
と相良は端末を持つ果南の手を制した。その手はとても弱々しくて、治療が必要なことは素人でも明白だ。額からは血を流して、今も絶えることなく鼻筋を伝って顎から滴り落ちている。
「連れて行ってほしいところがある。ここの近くだ」
そんな悠長なこと言っている場合か。「でも――」と千歌は反論しようとするが、
「頼む」
そう告げる相良の声は掠れていたが、表情はとても強かなものだった。血は流れ続け、地面に落ちた紅い雫は果南たちが辿ってきた道標のようになっている。もう目の焦点も定まっていない。この男の意識を繋ぎ止めているのは、最期が訪れる前に果たしたい望みだけ。
「――はい」
その意志を果南は受け取る。「果南ちゃん⁉」と千歌が困惑の声を投げるが、「行こう」と果南は相良の肩を支え直す。
道案内に従って訪れたのは朽ちた一軒家だった。家を囲む塀は各所に蜘蛛が巣を張っていて、住人が去ってから結構な時間が経っていると分かる。玄関に残っている汚れた表札には「相良」と刻印されていた。
管理も杜撰なようで、玄関の鍵は開けられている。土足のまま足を踏み入れた果南は、支えとして壁に触れた瞬間この廃屋の在りし日の光景を視る。
――この家、花でいっぱいにしたいの――
そんな明るい声がこだまする家の中は綺麗に整頓されている。ふたりで済むには広すぎるが、やがて家族が増えて狭く感じてしまうかもしれない。でも、そんな未来が楽しみでもある。新しい家族が駆け回るだろう広い庭は至る所に植木鉢が並べられていて、色も姿も様々な花が咲き誇り、風が花々の甘く爽やかな香りを窓の開け放たれたリビングに運んでくれる。
――ほら、これ買ってきたの――
楽し気に花を眺める女性の隣で笑っているのは相良だ。ふたりの左手の薬指には、将来を誓い合った指輪が光っている。
――可愛いな、この花――
女性がジョウロで水をかけた花は、花弁に乗った雫を日光に反射させ煌かせる。その煌きが庭に、この家中に満ちていた。
でも煌きは、幸福は短すぎた。
――また引っ越す、てどういうこと? この間ここに越してきたばかりじゃない――
女性が寄り添う相良の顔は、先ほど視た思い出とは様変わりしている。現在と同じように、怯えに満ち表情を強張らせている。
――ねえ、何があったの? 旅行から帰って来てから、あなた少しおかしいわよ――
妻の問いかけに相良は答えない。口を更に結び、最も信じるべき相手から目を逸らす。
――どうして何も言ってくれないのよ。私たち夫婦じゃない?――
悲しげなその問いかけにも、相良は答えなかった。
何に追われているかも聞かされず、得体の知れない恐怖が募っていくだけの日々は妻を消耗させていった。その恐怖が、ふたりの誓い合った未来を閉ざした。
――もう、あなたには着いていけない――
リビングに入ると、相良は果南と千歌の腕から離れた。千鳥足で歩きながらも床に転がっていた植木鉢を抱え、放置されていた椅子にどす、と座る。だらりと頭を垂れた相良は、リビングから見渡せる庭を虚ろな目で眺めた。急な転居だったからか、家具はそのまま残され蜘蛛の住処にされていた。雑草が伸び放題の庭に放置された鉢の花々は全て枯れ、茶色く果てた茎を力なく垂らしている。住人が去った家に住み着いたひぐらしが我が物顔でしきりに鳴いていた。
「結局、俺は俺の居場所を見つけることができなかった………」
かつての居場所――居場所にならなかった家に帰宅を果たした男は告解する。額から流れる血は止まることなく、床に敷かれたカーペットに紅い染みを広げていく。
「俺の場所は、思い出の中にしかなかったんだ………」
相良は抱える鉢へと視線を落とす。その鉢に植えられたものも枯れていて、かつてどんな花を咲かせていたのかもう分からない。
「お前たちに謝りたいことがある」
相良は首をもたげ、最期に立ち会おうとしている果南と千歌を見上げる。まずは千歌へ、
「お前は超能力を使っていない。お前に力なんてない」
今度は果南へ、
「お前も、人を殺していない」
息を呑んだ。あの時憎悪のままに振るった力。それは果南のものではなかった、とこの男は告げている。
「全部俺がやったんだよ。俺が警官を殺して……、お前たちの友達を襲ったんだ………」
果南は唖然とした。今まで自分は消えることのない罪を背負い、千歌は同じ運命を背負わされたと信じ込んでいたのに。その全てはこの男による誤解だった。初めから背負うものなんて何もなかった。
ふう、と真実を告げた相良は深く嘆息する。
「どうして、そんなことを………?」
果南は訊いた。息を引き取る前に、それだけは聞かなければならない。
「家族ごっこが、したかったのかもな………」
その悲しい自嘲を聞いて、果南はこの男の全てを悟る。
裡に目覚めた力。それは相良に追われることの恐怖をもたらし、最愛の人を奪った。閉ざされた未来に見切りをつけ、同じ力を持つ仲間を集い新しい居場所を求めたが、所詮そこは偽りでしかない。求めてやまないものは過去にしかなく、思い出に縋り付いても虚無が浮き彫りになるだけ。失った人は自分のもとには戻らず、彼女と似た笑顔を浮かべる「持たざる」少女も、代替にはなれない。
懸命に未来を求めながらも、結局のところ過去にしか目を向けられなかった。その結末が失われた過去の遺物であるこの家で迎えるとは、悲しいが相良にとっては必然でもある。
「見つかるといいな……。お前たちの場所が………――」
相良は祈ってくれているように思えた。それが自身にできる唯一の償いであるかのように。お前ら子供たちには未来があるんだ。輝きに満ちた未来がな。
お前たちの行きつく先が輝いていることを祈っているよ――
手から鉢が滑り落ちた。相良の頭が力なく垂れる。目の前でひとりの生命が消滅したことに恐怖はなく、かといって不必要な罪を転嫁させられた憎しみもない。果南の胸の裡を満たしたのは、ただ憐れな男が報われることなく死んだという、深い哀れみだった。千歌も同じなのか、自身を攫った相手の死に無言のまま鎮魂の涙を流している。
相良の落とした鉢が光を放った。光は庭の鉢にも伝播している。仄かな、それでいて温かな光に包まれた茶色い茎が伸び、乾いた茶色が瑞々しい緑に変わっていく。茎の先で、色とりどりの蕾が膨らんでいき、花弁を開かせる。
まるで水を撒いた後の露のように、花弁は光を煌かせていた。
3
後の処理を誠に任せ、学校を無断欠勤した千歌の1日はもうすぐ終わろうとしている。場合によっては家に帰れないことも覚悟していたから、いつものように踏むことのできた三津海水浴場の浜辺の感触に奇妙な感慨が沸いた。
太陽が西の水平線に半分ほど沈んでいる。間もなく夜になるだろう。
「良かった、無事で………」
しばらくぼう、と砂地に座っていると、後ろから梨子の声が聞こえた。Aqoursの皆が総出で街中を探し回ってくれたことは、果南から聞いている。
「梨子ちゃん、ごめんね。皆に迷惑かけちゃって………」
「ううん、良いのよ。大変だった、て氷川さんから聞いたわ。色んなこと、重なりすぎよね」
梨子の優しさが、この時ばかりは辛く刺さる。少しくらい罵倒されていたほうが、まだ気が楽だった。罵倒されて恐怖するなり反発するなりしたほうが、この虚しさも紛れる。
「わたしね、廃校が決まったのは勿論残念だけど、ここまで頑張ってこれて良かった、て思ってる。東京とは違って、こんな小さな海辺の街のわたし達がここまでよくやってこれたな、て」
慰めなのか、本心なのか。梨子の真意が分からない。千歌は浜辺に立つ梨子の背中に尋ねる。
「本気で言ってる?」
梨子にも力はある。千歌にはない、「普通」じゃない力が。力のない自分よりも現実に抗う力があるはずなのに、今まで一緒に抗ってきたのに、こんなにも簡単に諦めることを正当化しようだなんて。
「それ本気で言ってるんだったら、わたし梨子ちゃんのこと軽蔑する」
これまでの関係全てを壊しかねない言葉だが、これが千歌の本心だ。彼女が、彼女たちが千歌の居るべき場所じゃないのなら、離れることになっても構わない。
「がおー!」
梨子が千歌に顔を近付けて大声をあげる。突然のことだったから、千歌は目を剥いた。
「ぴー! どかーん! 普通怪獣りこっぴーだぞー! くらえ、梨子ちゃんビーム!」
そんな怪獣ごっこをひとり繰り広げた後、梨子は千歌に微笑を向ける。
「こんなんだっけ?」
不思議と、千歌にも笑みが零れる。初めて会ったとき、それをやったのは千歌のほうだった。
「やっと笑った………」
梨子は嘆息して海へと顔を向け、
「わたしだって、Aqoursのメンバーよ。皆とこれから一緒に歌おう、て。曲もいっぱい作ろう、て思ってた。良いなんて思う訳ない。これで良いなんて………」
「梨子ちゃん………」
ああ、そうだ。そもそも梨子を誘ったのは千歌のほうだった。作曲ができるから、という腕を見込んでもあるが、彼女の裡にある輝きを確かに感じたからこそ一緒に輝きたい、と思った。それなのに自分から突き放すようなことを言うなんて、何て我儘なんだろう。
「どうすればいいか分からないの。どうすればいいか………」
震える声で告げると、梨子はその場に座り込む。千歌は自身の視野の狭さを自嘲した。またひとりで全部抱え込もうとしてた。皆で一緒に歩いていこう。楽しさも悔しさも、皆で分かち合いながら。初めてゼロを突き付けられたあのとき、確かにそう決めたはずなのに。
Aqoursの皆はいつだって千歌に寄り添ってくれていた。説明会中止を告げたときの鞠莉たち3年生も、思い返してみれば辛そうに震えそうな口を結んでいた。鞠莉は涙を堪えて千歌に「ごめんね」と謝った。
誰ひとり、納得なんてしているはずがなかった。納得しようと何度も何度も自分に言い聞かせた。所詮一介の高校生にどうこうできる問題じゃなかった。むしろあそこまでよくやった。希望の光がほんの一瞬垣間見えただけでも大したものだ。そうやって嘘までつこうとしたけど、自分自身に嘘はつけない。Aqoursは皆が、自分の本当の願いに正直になって歩んできたのだから。
地区予選のステージで歌ったとき、千歌は確かに輝きを視た。自分たちが、学校の皆が織り成す太陽よりも眩しい光。暗闇の中から射し込む光が、ほんの一瞬だが世界の全てを照らすほど大きく輝くのを視た。
あと少し、あとちょっと。届きはしなかったけど、確かに輝きは存在した。できる、という希望があった。
間もなく完全に沈もうとする夕陽に向かって、1羽のカモメが飛んでいく。それを見て、千歌は幼い頃に紙飛行機を飛ばした日を思い出す。曜と、他にもうひとり知らない少年と一緒だった。あの日、少年が千歌に何か言ってくれていたような気がする。
彼が何て言ったのか、彼の顔も今となっては思い出せない。
4
目蓋を透過する朝の光を感じ、千歌は目を覚ます。数分もしないうちに身支度を整えて、家を飛び出した。
「おはよう! 行ってくる!」
玄関先でしいたけに餌をやっていた翔一が「千歌ちゃん⁉」と驚いた声をあげる。いつも起こしてくれるから、驚くのも無理はない。まだ始発のバスも出ていない時間帯だが、構わず千歌は通学路を駆けていく。
まだ朝陽も出ていない時間帯だ。空は青いけど暗く、内浦を囲む山々と北にそびえる富士山も霞がかっている。暗いトンネルを抜け、湾岸沿いの道を休まず走り続ける。丘を登り、無人のグラウンドに入るとその中心で千歌は叫ぶ。
「がおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」
普通でも、力がなくても構うものか。普通星に生まれた普通怪獣にしかなれないのなら、なってやる。普通怪獣になって現実を変えてやる。
「起こしてみせる。奇跡を絶対に!」
まだ全部、終わったわけじゃない。まだ学校は存在している。何もしなければ、それこそ本当に可能性はゼロのままだ。本当に諦めるのは、全てやり切ってからでいい。
「それまで泣かない。泣くもんか」
休みなく走り続けて叫んだせいか、額からの汗が頬を伝った。目に浮かぶものはまだ落ちていない。まだ流すには早い雫を乱暴に腕で拭うと、背後から声が聞こえた。
「やっぱり来た」
振り返ると曜がいた。
「曜ちゃん、どうして………」
「分かんない。でも……、ほら」
と敬礼しながら、曜が明後日の方向を向く。その視線を追うと、グラウンドの隅に設置されている鉄棒に、他のメンバー達が集まっていた。
「皆……」
練習もミーティングも聞いていないのに。しかもまだこんな早朝に。
「気付いたら来てた」
梨子が微笑しながら言う。千歌の目は鞠莉へと移った。前は諦めていたその目は、エネルギッシュな力を取り戻している。
「何かよく分かんないけどね」
照れ笑いを浮かべる曜に、果南が「そう?」と、
「わたしは分かるよ。きっと――」
その続きが委ねられたことを感じ取り、千歌は告げる。
「きっと、諦めたくないんだよ」
千歌に他者の心を読む力なんてない。どこまでも普通な高校生に過ぎない。でも、それは理由になんてならない。皆もそれを知っている。Aqoursの皆の気持ちはひとつだ、て分かる。
「諦めたくないんだよ。鞠莉ちゃんが頑張ってたのは分かる。でも、わたしも皆も、まだ何もしてない」
こんなところで物語を終わらせるのは早すぎる。こんなあっけないバッドエンドなんて認めない。
「無駄かもしれない。けど、最後まで頑張りたい。あがきたい。ほんの少し視えた輝きを探したい。見つけたい」
「諦めが悪いからね。昔から千歌は」と果南が皮肉る。「それは果南さんも同じですわ」とダイヤがまた皮肉り、「お姉ちゃんも」と更にルビィにまで皮肉られる。そんなおかしな連鎖に笑う皆に、千歌はいま1度問う。
「皆はどう?」
これからは、今までよりもより過酷な努力が必要になってくる。その努力も報われるかは分からない。もっと辛い現実を突きつけられるのかもしれない。
「チカっち、皆………」
この現実に最も抗おうとしてくれた鞠莉が呟く。
「良いんじゃない? あがくだけあがきまくろうよ」
果南がいつもの調子で告げる。相良の死を共に看取った果南も、居るべき場所を見つけたいに違いない。このAqoursこそが果南と、千歌の居場所だという確信を。
「そうね」と応じたダイヤも、
「やるからには、奇跡を!」
その言葉が、次々とメンバーの間を駆け抜けていく。
「奇跡を!」とルビィに。
「奇跡を!」と善子に。
「奇跡を!」と花丸に。
「奇跡を!」と果南に。
「奇跡を!」と梨子に。
「奇跡を!」と鞠莉に。
「奇跡を!」と曜に。
朝陽が東の山陰から姿を現す。その世界を照らす光が海に青を、山に緑をもたらす。
「起こそう奇跡を! あがこう、精一杯! 全身全霊、最後の最後まで!」
これが
「輝こう!」
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