ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
第1話
1
まだ生徒たちが登校していない学校は静かだった。耳を澄ませばドアを隔てた理事長室での会話が聞こえてきそうだが、防音性が高いようで聞くことはできない。
「きっと、何とかなるよね?」
理事長室前でただ顔を揃えて待っているだけの現状に耐えかね、千歌が皆に問う。最後まであがく。それで望みが叶うとは限らなくても。ついさっき決めたばかりなのに、興奮が冷めるとどうしても不安になってしまう。
「しかし、入学希望者が増えていないのは事実ですわ」
ダイヤが冷静に言う。善子も同様に、
「生徒がいなくちゃ、学校は続けられないもんね」
その生徒を増やすための施策は、2年前から既に試みられていたし、それが功を奏すことができなかったからこそ統廃合の話になった。学校の経営陣たちが立ち直そうとしたけどできなかった問題を、生徒のAqoursが解決できるのか。
理事長室のドアが開いた。交渉の電話を終えた鞠莉に「どうだった?」と果南が訊く。鞠莉は申し訳なさそうに苦笑し、
「残念だけど、どんなに反対意見があっても生徒がいないんじゃ、て………」
そう、現実問題として生徒がいなければ根本的な問題にはならない。
「やっぱり、そうよね………」
予想はしていた返答に、梨子は落胆を漏らす。既に突きつけられていたことだが、2度目でもやはり辛いものは辛い。でも、それは少々早とちりだったらしい。
「だから言ったの。もし増えたら考えてくれるか、て」
鞠莉の言葉に「え……」と果南が息を詰まらせる。
「何人いれば良いの、て。何人集めれば、学校続けてくれるか、て」
「それで?」と待ちきれないのか曜が急かす。鞠莉は千歌たち全員を見据え、
「100人」
「100人………」と千歌はその数字を反芻する。「ええ」と鞠莉は続ける。
「今年の終わりまでに少なくとも100人入学希望者が集まったら来年度も募集し、入学試験を行う、て」
メンバーの中で声をあげたのはダイヤだった。決して喜びとは言えない。
「100人て……。今は10人しかいないのですよ」
「それを年末までに100人……」と梨子も弱音を漏らす。今年は残り3ヶ月。その間に希望者をあと90人集めなければならない。
「でも、可能性は繋がった」
確かに厳しい条件ではある。千歌だってそれは理解しているが、チャンスを掴んだのも事実。
「終わりじゃない。可能か不可能か、今はどうでもいい。だって、やるしかないんだから」
これが、鞠莉が掴み取ってくれた最後のチャンス。Aqoursに残された奇跡への、1本だけの筋道。
「まあ、確かにそれもそうか」
果南が溜め息交じりに言う。できるか否かを議論するより、「やる」ためにどう行動を起こすかを議論するほうがAqoursらしい。
「鞠莉ちゃん、ありがとう」
まずはここまでのお膳立てをしてくれた理事長への感謝を述べ、
「可能性がある限り、信じよう。学校説明会もラブライブも頑張って、集めよう100人」
自分たちに提示されたゼロ。
ゼロから1へ。
1から10へ。
そして、10から100へ。
「
不意に男の声が聞こえた。その言葉の意味を理解するよりも先に、千歌の視界が眩い光に覆われる。
千歌だけでなく、その場にいたメンバー全員にも同じことが起こっていた。
目が覚めたとき、はっきりと思い出すことのできる直前の記憶が脳裏をよぎり果南は跳ねるように頭を上げる。
浦の星の廊下はどこへやら、そこは豪華なロビーだった。ロビーの柔らかい絨毯の上で、果南たちは9人とも眠っていた。
「ここ、どこ………?」
ロビーを見渡していると、皆も次々と目を覚まし始める。自分たちのいる場所を見て、その反応は似たり寄ったりだ。唯一、未だ気持ちよさそうに寝ている千歌は梨子に肩を揺さぶられているが。
「千歌ちゃん起きて!」
「ん……、もう朝あ?」
「寝ぼけてる場合じゃないでしょ!」
果南たちの目覚めを見計らったかのように、階段から靴音を鳴らして男がロビーへ降りてくる。
「悲しみはこれからも続く。それを終わらせるには、お前たちの力が必要だ」
その声に果南は聞き覚えがある。闇から産まれてきた、影のような声を持つこの男によって、果南は力を与えられた。
「あなたは………?」
皆を庇うようにして前に立ち、果南は男を睨みながら問う。
「沢木哲也。お前たちを、救う者だ」
名乗られたところで、この男の得体が知れないことに変わりはない。この沢木と名乗る男もまた、果南と同じなのだろうか。そうとしか思えない。果南に力を与え、果南たちを学校からこの屋敷に連れてきたのだから、相当な力を持っているはず。
警戒を露わにする果南に、沢木は笑みを零す。
「そう身構えなくてもいい。お前たちを傷付けはしない。お前たちは、
沢木はそう言って降りてきた階段へ踵を返す。
「着いてこい。見せたいものがある」
自然と、果南たちは沢木を追って階段を上り始める。何故足が彼のもとへ向くのか。これも彼の力によるものなのか。そもそも、この屋敷は一体どこにあるのか。様々な疑問が浮かんでは消えていく。階段を上り終えてすぐの部屋に通されると、そこは寝室のようだった。豪奢なベッドの脇には点滴のバーと心電図を刻む機器が置かれていて、機器に繋がれた人物は口元にシリコンの透明なマスクを当てられ無理矢理に酸素を肺へ送り込まれている。
「涼!」
その顔を認めた瞬間、果南はベッドへと駆け寄っていた。
「果南ちゃん、知り合いなの?」
訊きながら、千歌もベッドの脇に来て涼の寝顔を見つめる。
「この方が、果南さんの?」
ダイヤの質問に、果南は無言で首肯する。遅れてやってきた1年生たちの中で、花丸が息を呑んだ。
「この人……!」
「ずら丸知ってるの?」という善子の問いに、花丸は過呼吸気味でありながら声を絞り出す。
「この人、マルを助けてくれた人ずら………」
「涼が?」と果南は言った。千歌が自衛隊に攫われた頃、行方不明になっていた花丸が若い男と一緒にいたという話は聞いている。名前を聞かなかったらしいから誰かは分からなかったが、まさかこんなところで涼との縁ができていたなんて。
「どうして、この人はこんなことに?」
梨子が訊いた。沢木は淡々と答える。
「この男を怖れる者によって殺された。だが、この者のある部分によって、辛うじて命を繋ぎ止めている。長くはもたないだろう」
涼と繋がれた機器は、一定のリズムで心電図を刻んでいる。でも、その脈を涼は自力で刻むことができない。ベッドで眠り続ける涼の目蓋は、このままでは開くことなく本当の終わりを迎えることになる。
「お前たちの力で、彼を蘇らせてほしい」
我慢できなくなったのか、善子が噛みつくように言った。
「あなた誰なのよ。わたし達にそんなことできるはずないでしょ!」
「いや、お前たちは自分の力に気付いていないだけだ。中には気付き始めた者もいるはずだ」
そう言って沢木は果南へ、次に梨子を一瞥する。その視線を向けられ、梨子は一瞬肩を震わせた。「お前たち」とはどういうことか。果南の他に、Aqoursの中で力を持つ人間がいるとでもいうのか。
「彼はギルス。アギトと同じ力を持つ者」
「アギト……」と千歌がその言葉を反芻する。
「この人も、翔一くんと同じ、てことですか?」
「そうだ。お前たちもアギトのことは知っているはずだ。この世には、アギトなる者が必要なのだ。彼にはできなかったが、お前たち全員の力なら」
そこで、果南は相良のことを思い出す。彼は人を殺したことを言っていた。殺した相手を頼まれて蘇らせようとしたことも。その全てが繋がる。彼の話していたのは涼と、沢木のことだったということを。
「手をかざせ」
沢木が言う。果南としては勿論、涼を目覚めさせたい。だけどそれで何か起こってしまうのか、想像できることが怖ろしい。果南ひとりが危険に晒されるのなら構わない。でも皆は、Aqoursの皆まで巻き込んでしまうのは――
「やろう」
そう強く告げてくれたのは千歌だった。その言葉にはメンバー達だけでなく、沢木も目を見開いている。千歌は涼の寝顔を見つめながら、
「この人、果南ちゃんの大切な人なんだよね。だったら助けなくちゃ」
彼女にいち早く反応を示すのは花丸だった。
「今度は、マルが助ける番ずら」
親友の情にあてられたのか、ルビィと善子もベッドの傍に立つ。梨子と曜も、ダイヤと鞠莉も、ベッドに眠る涼を囲むように立つ。
その輪に加わろうとする千歌の腕を、沢木は掴んだ。
「お前にはできない」
「え?」と返す千歌に、沢木はたたみ掛ける。
「お前に力はない」
「さあ、こっちだ」と沢木は千歌の手を引いて部屋から出て行く。ドアを閉める前、沢木は果南たちの方を振り返った。
「力の使い方は、お前たち自身が知っているはずだ」
バタン、と閉められたドアをしばらく見つめた後、曜が不安げに呟く。
「力の使い方、てどうすれば良いんだろう?」
この中で、果南の他に自分の力に気付いた者はどれだけいるのか。気付いたとしても、自在に扱える域に達しているかどうか。かくいう果南も、昏睡状態にある人間の体をどう癒せばいいかなんて分からない。人を殺せるほどの力は、実は相良の力だったのだから。
「願うの」
鞠莉が口を開く。
「この人が目を覚ますよう、願いを込めるの」
言われた通り、果南は涼の顔へ手をかざす。他の皆も倣い、その掌からぼんやりと光が灯る。果南は祈る。涼の目が再び開かれることを。
彼を生かしている力が、彼に未来を与えてくれることを。
千歌が連れてこられたのは、果南たちの居る部屋から少し歩いた客間だった。開け放たれたバルコニーへの窓からは屋敷を囲む山々が一望できて、それを堪能するためか窓の前には丸テーブルが置かれている。
家具のひとつひとつが豪華なのは千歌でも分かるのだが、一際目を引くのは壁に立て掛けられた絵画だ。
それは油絵のようだった。2メートルほどの高さのあるキャンパスはまだ制作中らしく、下のほうは白紙になっている。作業のためかキャンパスの前にはパレットと筆が置かれた小さなテーブルがある。
「この絵、あなたが描いたんですか?」
「そうだ。お前に力はないが、他人事では済まない。お前もまた、この世界に生きる人間ならばな」
「どういう、ことですか………?」
「これは世界の始まりと現在、そして未来を描いたものだ」
千歌は未完成の絵を見上げる。絵の上部には3対の翼を持った人のようなものが描かれている。まるで天使のよう。7人の天使たちに囲まれるように、一際大きな翼を持った人が佇んでいる。その下にも翼を持った人――いや人じゃない。体は人間だけど、頭は牛や象やカメといった動物で、翼も1対だけ。まるでアンノウンみたいだ。その更に下には多くの動物と人間が描かれている。どちらも翼はない。
キャンパスの中部から、絵の様子は様変わりする。右に人間、左に天使たちと分かれ、武器を手に戦っている。人間たちの先頭に描かれているのは、人間とはかけ離れた緑色の生き物。戦いに倒れている者もいて、それは人間の側が圧倒的に多い。その狭間にいるように、中心ではひとりの天使が人間の女性に赤ん坊を授けている。
また視線を下げていくと、天使のひとりが胸を剣で貫かれ堕ちていく。そのまた下には1隻の船に乗ったひと組の男女と、ふたりに抱かれた赤ん坊。
そこから下は白紙だ。
「この絵は、まだ未来の部分が完成していない。アギトこそが、未来を左右する」
沢木は何も描かれていない下部分から明後日の方向を見やる。
「………成功したようだな」
再び、千歌の視界は光に覆われ、そして暗転する。
2
目が覚めたとき、最初は誰もが夢だと思った。夢というのは朧気なもので、いつしか夢を視た、という記憶すら喪失してしまう。奇妙な屋敷なんてなかった。沢木哲也なんて男はいなかった。未来が白紙の絵画なんてなかった。
千歌たちAqoursはいつものように学校にいて、授業を受けて、練習して。いつもと同じ日のはずだったのだが、千歌はどうしても違和感を拭えないままだった。でも、違和感を忘れなかったのは千歌だけではなかったらしい。
「ねえチカっち、放課後時間ある?」
そう誘ってきたのは鞠莉だった。他のメンバー達には適当に理由をつけて、校門前で待っていた家の送迎車に千歌を乗せて沼津市街へ向かった。目的地が近付いていくにつれて千歌はまさかという焦燥に駆られる。見覚えのある街並みは幼い頃から来慣れているのだから当然なのだが、そこにまつわる記憶はあまりにも鮮明で千歌の動悸を速めていく。
予感は的中し、鞠莉が送迎車を止めさせたのはあのマンションだった。相良が、仲間を集めようとしていた拠点。彼が「居場所」にしようとしたところ。
「鞠莉ちゃん、どうして………」
「Sorry,詳しいことは後で必ず話すから」
そう言われると、ここではそれ以上のことは訊けない。黙って着いていくと、鞠莉は相良たちの部屋の前で足を止めインターホンを鳴らす。ほどなくしてドアホンから警戒心を露にした声が来る。
『………はい』
「関谷さん。私、マリーよ」
どたどた、という足音が奥から聞こえた後、幾重もの開錠音を経てドアが開けられる。
「あなた………。ねえ相良さん知らない? ずっと帰って来てないの」
「話すから、中に入れてもらえます?」
関谷と呼ばれた女の質問をいなしながら、鞠莉は慣れたように部屋へ上がりこむ。殺風景なリビングに入ると、「相変わらずね」と溜め息を零した。
「鞠莉ちゃん、ここ来たことあるの?」
「ええ」
鞠莉にしては短い返答だ。彼女は台所でポットにお湯を沸かし、棚からカップと紅茶のパックを出す。まるで自分の家のように。
「ねえ相良さんは? 相良さんはどうしたのよ?」
関谷はしきりにまくし立てる。そのヒステリックさを半ば無視するように鞠莉は紅茶を淹れる。ダイニングテーブルについて紅茶をひと口啜ったところで、ようやく質問に答えた。
「死んだわ」
「え………」と関谷は眼球が零れそうなほどに目を見開く。
「最期を看取ったのはこの子よ。そうよね、チカっち」
と鞠莉が千歌を手で指し示すと、関谷はよろよろ、とまるでゾンビのように緩慢な歩みで千歌に寄ってくる。
「ねえ、本当なの?」
「は、はい……。アンノウンに襲われて………」
千歌が途切れ途切れに告げると、関谷は崩れるように床に座り込む。
「相良さんの力でも、まだアンノウンに対抗できない、てことね」
鞠莉はそう告げると紅茶を啜る。関谷は無言のまま立ち上がる。先まで浮かべていた恐怖の色は消えていて、その様子には鞠莉も眉を潜めている。
関谷は別室へ早歩きで向かった。ドアを開け放ったまま、クローゼットから衣服を大振りの旅行鞄に詰めているのが見える。
「どこに行くの?」
鞠莉が尋ねると、関谷は目も向けず衣服を乱雑に詰め込みながら、
「決まってるでしょ、逃げるのよ。相良さんが殺された以上、あなた達みたいなお子様と居てもしょうがないわ」
膨らんだ鞄を重そうに抱えて、関谷は玄関へ急ぎ足で向かい部屋を出ていく。その手早さに何もせず見送ってしまった千歌に、鞠莉は溜め息交じりに告げる。
「No problem. きっとお友達のところに行くのよ。ほら、チカっちも座って。紅茶が冷めちゃうわ」
「うん」と促されるままに千歌は椅子に腰かけて、まだ熱い紅茶を飲む。
「あんな人だけど悪く思わないで。誰かに頼ってないと生きていけない人なの」
「ねえ、鞠莉ちゃんはどうしてここを知ってるの?」
先延ばしにされていたその質問がようやくできる。何となく予想はできていた答えを、鞠莉は告げる。
「わたしも、ここの仲間だから」
「仲間、て超能力者の?」
「うーん……。ちょっと違うけど、そんなものかな」
どっちなのだろう。そんな千歌の表情を見てか、鞠莉は困ったように笑った。
「本当にごめんなさい。詳しくは言えないの。言ったら、何が起こるか分からないから………」
「鞠莉ちゃん………」
「ねえチカっち。ここでの事、皆には言わないでくれる? 特にダイヤと果南には」
「うん……。でも何でわたしに?」
「わたしは知ってしまったから、きっと逃げられない。でもチカっちや皆は知らないから逃げられるわ。だからせめて覚えていてほしいの。わたしの代わりに」
その言葉の意味がよく理解できず千歌は首を傾げる。きっと、鞠莉が明かすことのできない「詳しい」ことを抜いた、せめてもの言葉だったのかもしれない。
でも彼女の言葉が、千歌には遺言じみたものに聞こえてならなかった。
3
女子高生というものが多感だということくらい、誠も理解はしている。しかしその理解は漠然としたもので、一体彼女らが何にどう悩むのか、悩みの種はどこにあるのか、という具体的なものは何も知らない。そもそも性別が男の誠がいくら思考を巡らせたとしても正解に辿り着くわけがない。実際に女子高生の経験のある者に教えを請うのが1番だ。誠にとって最も身近な経験者といえば、陽光が一切射し込まないカーゴに1日中缶詰めになっても平気な上司。
「女子高生の心理について? 何よそれ?」
プライベートな相談にも乗ってくれる小沢は頼りにはなるのだが、今更ながら果たして彼女の意見が参考になるのか不安になってくる。一般的な女子高生の年齢の頃、彼女は既にアメリカの大学を卒業している。もはや女子大生ですらなかったということだ。とはいえ自分から相談を持ってきた手前やめるわけにもいかず、誠は話を続ける。
「実は、知り合いの女の子が大きな悩みを抱えてるみたいで。その年頃の女の子って何を考えてるのかな、て………」
「あ、女のことなら僕に任せてくださいよ」
と尾室が自信満々に、
「やっぱりほら、プリクラとか、カラオケとか――」
「難しい年頃よね」と小沢が完全無視を決め込む。正直なところ誠も参考にはならない、と早々に見切りを付けていた。そんな娯楽で千歌の懊悩を消すことなんてできない。
「些細なことで落ち込んだり、どうでもいいことで有頂天になったり。私にも覚えがあるわ」
「小沢さんに、ですか………?」
誠は上司の顔を覗き込む。この天才肌な彼女にそんな時期が。部屋に籠ってひたすらPCに向かって研究ばかりしているイメージしか浮かばない。
「何よそれ、当然でしょ」
どうやら思考が表情に出てしまったらしい。
「それは、そうですが………」
「とにかく優しく接してあげないと。ガラス細工を扱うみたいにね。その歳に受けた傷は尾を引くものなんだから」
「ガラス細工ですか………」
そう、と細心の注意を払って触れるべき、ということだろうか。分からない。女心とは全く分からない。
天より落ちる炎が人と交わるとき
焼かれた胎より邪悪なるものが産れる
それは人ならざるもの
忌むべきネフィリムなるもの
その牙は聖なる翼をもぎ血を啜る。
その声は天地に恐怖をもたらす
巨人の書