ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
1
「随分機嫌良いですわね」
そう呟くダイヤの視線の先では、千歌が鼻歌を歌いながら雑巾で部室の窓ガラスを磨いている。聞くところによると今朝も早く登校して練習していたらしい。
「こんな時に………」
「もしかして忘れてるのかも」
なんて善子と梨子が口々に言う。まさか昼休みにわざわざ部室に集まってただ掃除だなんて、流石に千歌もそこまでは能天気じゃないだろう、と思いたい。
「その可能性が高い気がする」
呟いた曜が、恐る恐る「千歌ちゃん」と呼びかけ、
「今日、何の日か覚えてる?」
そう訊くと、振り返った千歌はさも当然であるかのように、
「ラブライブの予備予選の結果が出る日でしょ?」
百点満点の回答に、思わず全員で歓声を揃えた。「覚えていたずら」なんて花丸も言ってしまう。
「き、緊張しないの?」
と訊くルビィのキーボードに這わせた指は微かに震えている。「ぜーんぜん」と千歌は即答した。
「だってあんなに上手くいって、あんなに素敵な歌を歌えたんだもん。絶対突破してる。昨日、聖良さんにも言われたんだよ。トップ通過、て」
ああ、だから機嫌が良かったのですね、とダイヤは納得できる。あの聖良がそう評したのなら自信がつくのも分かる。でもどんな予想も覆されてしまうのがラブライブの醍醐味。油断は禁物だ。ほんの微かな油断やミスが、足元を掬われ一気に転落していく。
「いつの間にそんな仲良しさんに」
少し羨ましそうにルビィが言ったところで、ぴこん、とノートPCが起動音を鳴らす。
「来た!」
とルビィが受信アイコンを表示するメールアプリを開いた。メールの文面に添付されたURLのサイトにアクセスし、メンバー全員で画面を食い入るように見つめる。サイトはラブライブのホームページ、エントリーしたグループに割り当てられた予備予選結果発表のページだった。まだ結果は画面にはない。ページ中央にあるENTERボタンを押して、結果が出る仕様になっている。
「い、行きます!」
ルビィは震える手でマウスを動かし、アイコンをボタンの上に乗せてクリックする。ページは一瞬で切り替わった。
エントリーナンバー24 Aqours
予選突破
「おお!」と狭い部室に歓声が沸いた。「もしかしてこれ、トップ、てこと?」と梨子が興奮気味に言っている。順位は分からないが、そう思っても悪いことじゃない。
「やったずら!」
と花丸が果南に抱き着いた。果南も満更でなさそうで、「うむ、よきにはからえ」と後輩の頭を撫でている。別のところでは善子と鞠莉がハイタッチしていて、ふたりで堕天使ポーズを決めている。
「ダイヤさんも」
え、と振り返ると、千歌が挙手するように構えている。「は、はあ」と気のない返事をしながらダイヤも手を挙げると、千歌のほうから力強いハイタッチをしてくれた。
「そうそう」
思い出したように千歌は言う。
「翔一くんが今度皆でうちに来て、て言ってたよ。この前のお弁当のお礼にご馳走作るから、て」
どうやら千歌の上機嫌さは、ラブライブだけじゃないらしい。
「良かったですわね、津上さんが元気になって」
ダイヤが言うと続けて善子も得意げに「堕天の力ね」と笑っている。あの堕天使の涙とかいう黒焦げタコ焼きを弁当に入れたらしいのだが、翔一は本当にあんなものを食べたのだろうか。だとしたらよく腹を下さなかったものだ。
「わたし達はただお弁当作っただけよ。どっちか、ていうと葦原さんのお陰じゃない?」
梨子が言うと千歌は「うん」と笑みを返し、
「翔一くんも凄く嬉しそうだったんだよね。同じ変身できる人と会えた、て」
「でもさ」と曜が切り出した。少し気難しそうな顔で、
「葦原さんも変身できる、てことは他にも同じような人がいるんじゃないかな?」
考えてみれば、確かにその通りだ。変身できるのは翔一ひとりだけじゃなかった。涼もまたアギトと同じ力を持つ者、と屋敷の主人は言っていた。あの力がふたりだけが持つ特異性でないのなら、まだダイヤ達の知らないところで力に目覚めている人間がいる可能性がある、ということ。
「もしそうなら、翔一さんもっと喜びそうずら」
花丸の言葉で、翔一の笑顔が容易に想像できてしまう。そんな想像が現実になってもおかしくないのが、あの青年の人徳といったところか。
「アギトの会とか作ったりして。皆で週に1度集まって、翔一くんの料理食べるとか」
楽しそうに千歌は言うが、それはどうだろう、とダイヤは思った。あの金色の戦士が何人も集まるとは。サークル活動じゃあるまいし。
でも、翔一なら本当に作ってしまいそう、とも思えた。
男は手術室へ向かった。関係者以外立ち入り禁止と札のある扉を何の躊躇もなく開けると、中から執刀医らしき声が聞こえてくる。
「何だ君は? ここは関係者以外立ち入り禁止だが」
「実はお願いがありましてね。先ほど運ばれてきた女性の
「何言ってるんだ君は?」と執刀医はせせら笑う。傍から聞いて涼も何を考えてるんだ、と思った。中を覗き込むと執刀医は既に手術着に着替えている。一切の細菌の侵入を阻む準備室に土足に踏み込んだ男はサングラスを掛けた表情を崩すことなく、
「失礼ですが、あなたにはあの
「出てってくれ」と執刀医は言うが、男は聞かず動こうとしない。「誰か、誰か来てくれ!」と大声をあげ始める執刀医に、
「失礼する」
それだけ告げて男は腹に拳を沈めた。体をくの字に曲げた執刀医は力なく崩れ、倒れようとするその体を男は抱き留めてゆっくりと寝かせてやる。サングラスを外したその瞳は、自身のした事、これからしようとしている事に対して一切の後悔や躊躇など感じていないように見えるほど強く、視界の全てを捉えている。
服を脱いだ男は素早く棚にある手術着に着替え始めた。
札が点灯しているということは、手術が行われているということ。閉ざされた扉の前を、涼は離れることができなかった。アンノウンい襲われた女性も、一緒に病院に運んだ男も、どちらも面識のない他人なのに。もう涼の出る幕はない。そのはずなのに、男の方はこの事態を終わらせるどころか更に複雑化させている。
本当に、奴が手術をしているのか。患者の状態にしても、彼は殆ど何も知らないはず。診察室で見せられたレントゲンとCT画像。あの男はそれだけで患者の状態を見極めたというのか。
扉の前にいたまま、どれ程の時間が経っただろうか。そんなに長くはなかったと記憶している。手術室のプレートランプが消灯し、開かれた扉からは着替えを終えた男がサングラスを掛けながら出てくる。室内の騒ぎが涼の耳にも届いた。目を覚ましたらしい本来の執刀医が「オペは⁉」と喚いていて、まさか部外者が執刀していたなんてことを知らない看護師はやや興奮した声で「先生、無事成功しました」と告げる。
丁度そのとき、内線電話で呼び出されたのか、先ほど診察室で涼たちに患者の状態を説明してくれた中年の医師がやってくる。その医師にも看護師は嬉しそうに、
「新任の先生ですかあの人? 凄い人ですね。今まであんな
中を覗き込むと、執刀医と中年医師は手術台に寝かされた患者を見下ろしている。執刀医はかぶりを振りながら、
「信じられない。この短時間でこれだけの仕事をしたというのか。あの男は何者なんです?」
中年医師のほうは何やら得心がいったのかひとり頷く。
「こんなことをできる人間は、ひとりしかいない。まさか、ここに居たとは」
「知ってるんですか、彼のこと?」
執刀医に訊かれ、中年医師は口を結んだ。訳ありか、と察しながら涼は裏口へと走る。バイクを置いた場所まで行くと、男は鞄をリアシートに括りつけている所だった。
「驚いたな。あんた医者だったのか」
「少し心得があるだけですよ」
あまり自分について語りたがらない性分らしく、男はグローブをはめた手でヘルメットを取る。
「名前は?」
一応として尋ねたが、男はヘルメットを被ると「失礼します」とだけ言ってエンジンを始動させる。アイドリングもろくにせず、軽いオフロード車のボディをターンさせ去って行った。
2
予備予選を通過したら、次のステージは地区大会。放課後はそこで披露する曲についての打ち合わせ、ということで部室に集まったのだが、千歌は気まずそうに貯金箱をテーブルに置いて項垂れている。
「今度は何?」
と梨子が訊いた。
「ほら、説明会とラブライブとふたつもあったでしょ? だからお金が――」
「この前千円ずつ入れたのに」「もうなくなっちゃったの?」と果南とルビィがぼやく。
いくら浦の星の広告塔とはいえ、スクールアイドル部を贔屓することはできない。生徒会でも厳重に審査して、他の部と大差ないよう部費を割り振った。それでもラブライブへの参加を考えると厳しい、ということで大会前にメンバーから各千円を徴収しやり繰りしよう、となったのだが。
パンを食べていた花丸が言う。
「このままだと予算がなくなって、仮に決勝に進出してもボートで移動、なんて事態ずら」
「沈むわい!」
善子との漫才は放っておくとして、まずは現状確認。「いくら残ってるの?」と梨子が貯金箱を手に取った。三津シーパラダイスのキャラクター、うちっちーを模した貯金箱の底から、軽い音を立てて硬貨が1枚だけ落ちる。
金色の穴の空いた硬貨を拾い上げた鞠莉は物珍しそうに、
「Oh! 綺麗な5円デース!」
買い物は基本クレジット決済の鞠莉にとって、5円玉はさぞ珍しいだろう。でも総額がその5円玉ひとつ、という事実に驚きのあまりルビィは「ごごご5円⁉」と呂律が回らない。
「ご縁がありますように」
「So happy!」
なんて曜と鞠莉の能天気さに善子が「言ってる場合か!」と漫才じみたやり取りを繰り広げている。
他愛もないやり取りだ。メンバー同士、学年の垣根を越えて遠慮なく物を言い合えるのは、見ていて微笑ましい。もっとも、ダイヤは笑えてはいなかったのだが。
「どうしたんです?」
と千歌がダイヤの顔を覗き込んでくる。
「いえ。果南さんも鞠莉さんも、随分皆さんと打ち解けた、と思いまして」
曲制作の際に講じた策が上手くいった証拠だ。自分が望んでいたことなのに、どうしても素直に喜べず、裡に何かが引っ掛かっている錯覚を覚える。
「果南ちゃんはどう思うずら?」
「そうだねえ」
花丸の口から出た呼び名を、ダイヤは裡で反芻する。
果南、ちゃん――
次の曲へ取り掛かる前に、まずは活動費の確保。活動費が無ければ衣装も舞台演出の小道具も作れないし、ライブ会場が遠方だった場合の遠征もできない。最悪の場合、学校のステージにて制服で歌うなんてこともありうる。
そういうわけで学校を出たダイヤ達は、メンバー総出で淡島へ赴いた。因みに千歌の案で。ここに費用の伝手でもあるのか、と期待してはみたのだが、訪れたのは連絡船乗り場からホテルオハラの中間にある祠。千歌は湧き水で唯一の活動費である5円玉を洗い熱心に両手を合わせる。
「いきなり神頼み?」
「お願い聞いてくれるかな?」と気遣いある言葉を述べられるルビィは、我が妹ながら優しく育ってくれたものだ。手を擦り合わせて祈っている千歌が、参拝者というより物乞いに見えてしまう。
「何卒5円を5倍、10倍……、いや100倍に――」
「100倍は500円だよ」
と曜がやんわり指摘すると、気付いた千歌は擦る手を止める。5円を活動費として膨らませるには、最低でも万倍は欲しい。
「というか、神頼みするくらいなら………」
と梨子につられ、全員で財布が豊かなメンバーへ懇願の視線を向ける。
「鞠莉ちゃん!」
「小原家の力は借りられまセーン!」
あっけなく撥ねつけられる。援助を受けられるのなら、もっと早い段階で可能だったはずだ。
「……ですよねー」
千歌のとぼけた声に、皆で笑っている。傍から見ていたダイヤには、その談笑が自身には場違いに思えて輪に入るのを躊躇してしまう。
「鞠莉、ちゃん………」
その呟きは誰の耳にも届いていない。このAqoursは紛れもなくダイヤの居るべき場所なのに、この疎外感は何なのだろうか。
「鞠莉ちゃん、またねー」
手を振りながら連絡船に乗り込む千歌に「See you」と返す。
「果南ちゃん、明日本持ってくずら」
そう告げて千歌に続く花丸に果南も「うむ」と返した。花丸の影響もあって、果南は読書を嗜むようになったらしい。あまり活字慣れしていないから、児童文学が多いらしいが。因みに鞠莉が冗談で勧めてみた『カラマーゾフの兄弟』は即返品された。理由は登場人物の名前が憶え辛いから。
「お姉ちゃんも早く!」
ルビィに呼ばれても、ダイヤは聞こえていないらしく桟橋の柵にもたれかかっている。視線の先には淡島水族館で飼育されているイルカが水面に顔を出していた。もっとも、ダイヤはイルカなんて見ていないだろうが。
「Sorry,ルビィ。ちょっとダイヤ借りるね」
と断りを入れて、果南とふたりダイヤのもとへ歩いていく。自分から話があると言っておきながら上の空とは、ダイヤらしくない。
「で、何のtalkですか?」
率直に鞠莉が切り出すと、ダイヤは「え?」と分かりやすく狼狽えながら、
「いえ、大したことはないのですが、その………」
何ともじれったいが、ここは急かさず待ってみる。何となく面白そうだから。
「ふたりとも、急に仲良くなりましたわね」
表情に疑問符を浮かべながら果南と顔を見合わせ、再びダイヤへ向ける。
「仲良く?」
「わたしと、果南が?」
「違いますわ。1年生や2年生たちとです」
夕焼けに染まり朱くなったダイヤの頬をじ、と見つめてみる。どうやら夕陽のせいではないらしい。
「もしかしてダイヤ、妬いてるの?」
果南が悪戯っぽく訊くと、ビーチボールを擦り合わせたような音が聞こえた。イルカの鳴き声だ。イルカは知能が高いから、この会話を面白がっているようだった。ダイヤが睨むと、すぐさまイルカは海中へ逃げ込む。
「ま、まさか。生徒会長としてちゃんと規律を守らねば、皆に示しがつきませんわ」
曲作りのときに仲良くなれ、なんて言っていたのはダイヤなのに。
「またそういう固いこと言う」
「Very hardね」
ふたりで口を尖らせる。ダイヤは目を伏せながら「ただ」とか細く言い出し、中々続きを言わないものだから果南と声を揃えて「ただ?」と促す。
「ただ………」
と口を開きかけたとき、またイルカが茶化しに来た。ダイヤは再び睨みで追い払い、
「何でもありませんわ。ただ、鞠莉さん達も上級生であることの自覚をなくさないように」
そう堅苦しく告げて、ローファーを鳴らしながら連絡船へと歩き出す。どこまでも淑やかな友人の背中を見送っていると、隣で果南が「どう思う?」と耳元で訊いてくる。
「
と冗談はこのくらいにしておいて、
「しばらくすれば尻尾見せるでしょ。ダイヤは自分のことになると、へっぽこピーだから」
「へっぽこピー?」
昔のアニメでそんな台詞があった気がする。よく覚えていないが、ニュアンスとしては繊細になってしまうということ。
でも、そんな彼女だからこそ自分たちが話を聞いてやらなければならない、という事も知っている。
「あ、そうそう」
とこれからのスケジュールを思い出す。危うく忘れて帰宅してしまうところだった。
「これから涼と会いに行くんだけど、良い?」
「え、涼と?」
その名前が出た瞬間、果南は表情に明らかな動揺を出す。一応友人の想い人と会うわけだから、断りは入れなければならない。
「別に良いよ。わざわざわたしに言う必要、ある?」
「だって、果南の彼氏なんだし」
「ちょ――」と果南は耳まで朱くさせる。その反応が面白い反面、切なさを隠すため鞠莉は「大丈夫」と肩を叩いた。
「果南が心配するような事にはならないから」
「心配なんてしてないよ」
想いは通じ合っているはずなのに、どうしてふたりとも別々の道を行こうとするのだろう。本当は道が交わることを望んでいるはず。それなのに涼は自身の力を、果南はAqoursを理由にして逃げている。
何と言うか、似た者カップルだ。お互いに頑固で自分の意思を曲げようとしない。それが正しい、と自身の願いなんてそっちのけだ。でも、鞠莉としてもふたりが交わるのは、あまり歓迎できない。
涼もまた、あかつき号に関係しているのだから。
3
「この部屋はどうするつもりだ?」
住人を喪ったマンションのリビングを見渡しながら、涼は尋ねる。もうこの部屋に住んでいた相良克彦と関谷真澄――今更になってようやく自身を殺そうとした者たちの名を知った――は死んだ。こうして落ち合う場所にしても、使い道なんてない。ソファに腰掛ける金髪の少女は物憂げに目蓋を伏せ、
「近いうちに引き払うわ。関谷さんが仕事辞めてからは、うちの名義で借りてた部屋だったもの」
「あんたの?」
「Yes. わたしがパパに頼んで、皆の住まいを援助していたの。皆、ひとつの場所に留まるのを怖がっていたから」
「それより」と鞠莉は涼を見据える。
「何であなたはあかつき号にこだわるの? お父様が亡くなった理由がそんなに気になる?」
確かに当初はそれを知るために事件を調べていた。でも、今の涼にとってそれは大きなものではなくなっている。所詮、父の死を調べることは一時しのぎでしかなかった、ということ。
「それもある。あかつき号には俺がどうやって生きるべきか、そのヒントが隠されている気がするんだ」
ヒントが見つからなくても、船での出来事が明らかになってようやく、自分のために歩き出せるような気がする。そんな涼に鞠莉は申し訳なさそうに眉を潜め、
「でも、言えないの。言ってはいけないのよ。果南とダイヤには知ってほしくない。薫が良い、て言えば別だけど」
「薫?」
「木野薫。わたし達にとっては指導者よ。本人はそう呼ばれるの嫌がってるけどね」
「また木野か………」
思えば相良も関谷も、何かにつけて「木野さんが」と言っていた。涼を殺そうとしたのも木野なる人物らしい。会ってもいないが、自分を殺そうと仕向けた人間に好印象は持てない。
「大体、あなたはもう凄い力持っているんだし、悩む必要なんて無いんじゃない?」
「力を持てば良い、というもんじゃない。目的がなければ意味がない」
「そうかなあ?」と鞠莉は溜め息をついた。
「もしお前が力を持ったら、何をするつもりだ?」
「うーん、ステージで変身とか、凄いperformanceじゃない?」
その回答に思わず笑ってしまう。見た目こそ大人びてはいるが、やはり中身は子供だ。力を持ってしまうことのリスクと、その先のことを知らなすぎる。でも、その無垢さが眩しく見えてしまう。
「でも、正しい力の使い方は薫が教えてくれるわ」
「ほっ」と鞠莉はソファの反発を利用して勢いよく起き上がる。
「そうと決まれば、早速探しに行きましょ」
「木野をか? 近くにいるのか?」
「分からないから探しに行くのよ。Let`s together」
やれやれ、と涼は気疲れしながらも立ち上がる。
津上の次は子供のお守りか。