千雨が引きこもり生活を取り戻す物語   作:MRE

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特異点F 3

 食後に歓談しつつ体を休めていると、Dr.ロマンが通信越しに叫ぶ。

 

『ごめん、話は後あと! すぐにそこから逃げるんだ!』

 

 何事かと、皆に緊張が走る。

 サーヴァントは即座に周囲を警戒するが、私たちマスターとアニムスフィア所長は一拍おいてゆったりと立ち上がる。

 

『そこにいるのはサーヴァントだ!』

 

「サーヴァントか、丁度良いじゃないか、ネギ先生と佐々木小次郎。知名度補正抜群のサーヴァントの実力を見せてもらおうじゃないか」

 

「そうね、そうよね」

 アニムスフィア所長も胸元で拳を握りしめながら追認し、さらに指示を出す。

「マシュも戦いなさい! 同じサーヴァントよ、三対一だし、なんとかなるでしょう!?」

 

「……はい、最善を尽くします!」

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「はああ――ッ!」

 黒い、小さな影が鎖のついた大鎌のような武器を振り回す。

 

「ええ!? 鎌の方を投げるのですか?」

 

 綾瀬の驚きに共感して頷きながら言う。

「鎖鎌みたいに分銅の方を投げるんじゃないのか。英霊ってのは私たちの一般常識を覆す戦い方をするんだな」

 

「貴女が常識とか言っても説得力ないわよ」

 アニムスフィア所長の言葉に藤丸が大きく頷いている。というか、そんなに大げさに何度も首を振るな!

 

「というか、長谷川のサーヴァントも小さいけど、敵も小さいじゃない!

 英雄って普通は歴史に名を残した戦功を持つはずでしょ!

 あんなに小さな鎌使いの女の子がどんな英雄譚を残したっていうのよ!?」

 

 確かにそれは気になる。天界での退屈な生活の反動か、魂が娯楽に飢えていたのか、今生では前世を思い出す前から貪るようにオタ趣味に没頭していた。当然、世界の神話なんてものにも目を通した事がある。

 

「確かに、神話や歴史に該当する英雄はいないな」

 

「そうですね、一体どんな英雄なんでしょう」

 

 綾瀬ですら分からないとなると、正体を探るのも難しい。

 

「所長は敵の正体が分かれば倒し方のヒントになるって言ってたよね。でも、このまま数で押しつぶしちゃえば、倒した敵の名前なんてどうでも良いよね」

 

「藤丸の言う通りね。あなた達、しっかりとサーヴァントをサポートしなさいよね!」

 

 相手のクラスすら分からないまま、戦いは続く。アサシン佐々木小次郎の物干し座をの間合いから逃れるように敵は素早いステップで飛び回り、鎌で刈り取ろうと凶刃を振るう。時には懐に入る事もあるが、小次郎も軽やかに避けたり刃を合わせて鎬を削る。

 縦横無尽に飛び回る二人に合わせるため、ネギ先生は杖に乗って空から敵に魔法を打ち下ろす。小次郎への誤射を避けるため、魔法を放つ回数は少ない。

 

「魔法の射手・連弾・光の11矢!」

 

 ダメだ。何度か直撃しているがまるで効いてない。

 

「高ランクの対魔力スキルを持ってそうね……」

 アニムスフィア所長の言葉に知ってるのか雷電と言いたくなるのを堪える。

 

「雷の暴風」

 敵が大きく下がり、小次郎から離れた瞬間にネギ先生が大呪文を放つのに合わせて私も弾幕を撃ち込む。

 

 爆風から鎌が飛んで来る。私への反撃ではなく、狙いは藤丸だ。

「先輩!」

 倒しやすい奴から始末しようとしたのだろうが、キリエライトが盾で防ぐ。

「あ……、ありがとう、マシュ!」

 藤丸の引き攣った笑顔とマスターを守り、気を引き締めるキリエライト。

 

「そういえば、ネギ先生の宝具を聞いてなかったな……」

 小さく呟いて念話で確認する。隣のアニムスフィア所長は「え? 確認してないの?」と驚き、綾瀬は「闇の魔法じゃないんですか?」と首を傾げる。

 

「えっと、本人が言うには今の霊基では闇の魔法は使えないらしい。しかも、闇の魔法は宝具じゃないらしい……」

 

 綾瀬がアニムスフィア所長にゆっくり問いかける。

「さっきから見ていると、いくら背格好が子供先生時代のものだとしても、その後の記憶があるにも関わらず、私たちの知るネギ先生と比べて、魔法の威力が低いうえに中国拳法も使ってなかったりするのですが……」

 

「えっと……」

 アニムスフィア所長は見るからに大粒の汗を浮かべて視線を彷徨わせる。

 

「私の小次郎さんは純粋な剣術の腕で戦っている? これが知名度補正?」

 

 綾瀬に続いて口を開こうとしたところで、もう会えないかと思った声が聞こえた。

『ちうさま!』

 

『うわああああ!? なんだこの謎生物は!』

 

 相変わらず騒がしいDr.ロマンを無視して、カルデアに残してきた電子精霊に声を掛ける。

 他のカルデアスタッフも大混乱しているようで複数の悲鳴が聞こえる。

 

「はんぺ! お前消えたんじゃなかったのか!?」

 

『ちうたまがネギ・スプリングフィールドを召喚した後になぜか復活しました』

 

『たぶん、サーヴァントという、マスターと同一の存在がいる事でパクティオーカードが復活したものと思われます』

 

 はんぺの言葉に、綾瀬と同時にパクティオーカードを確認する。

 

「本当にカードが活きてるです」

 綾瀬は大事そうにパクティオーカードを胸元で抱きしめる。

 

『カルデアの守護英霊召喚システムフェイトは英霊の複数召喚とマスターの負担軽減を両立するため、意図的に劣化した状態で召喚しています!』

 

「ちょっとーっ、なんでそのポケモンみたいなヤツがカルデアの機密を知ってるのよ!

 貴女使い魔に何させてんのよ!」

 アニムスフィア所長に胸元を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。

 

『あーっ! 長谷川さん、カルデアのシステムをハッキングしてるね!』

 

「実行犯ははんぺだ」

 

「使い魔がやってるんだから、結局貴女がやってるんでしょー!

 何が視察よ! 同じ国連の組…」

 

「小次郎さん! ネギ先生! 爆発的な魔力の高まりを感じます!

 敵は宝具を使う気です!」

 

 綾瀬の言葉に、アニムスフィア所長が咄嗟にしがみ付いてくる。

 震えているのに気づき、ここでヒステリックにわめかれても迷惑なので抱きしめ、子供をあやすように背中を軽くぽんぽんと叩いて落ち着かせる。

 所長の視線を感じるが、口を閉じているので無視して戦いの行方を見守る。

 いつでも令呪を切れるように、拳を握りしめる。力みすぎたのか、所長を抱きしめる力が強くなってしまったのか、アニムスフィア所長が「あ……」と熱い吐息を漏らす。それが首筋にかかるが、気にする余裕はない。

 

「その指は、その髪は」

 敵の足元から瘴気が噴き出す。

 

 綾瀬はアーティファクトの図鑑を展開して正体を暴こうとしている。

 

 今のネギ先生の防御魔法で宝具を防げるとは思えない。令呪で転移して回避させても、マスターが狙われたら終わりだ。

 

「その囁きは天砕く」

 

 敵は瘴気を纏い、地を駆ける。幸い、狙いは佐々木小次郎のようだ。

 ネギ先生は時々魔法で援護しているだけだから、優先度が低いのか。

 

 敵は大鎌で滅多打ちにするが、小次郎は全てを防ぐ。

 流石は伝承に残る剣士だ。これで劣化しているというのだから恐れ入る。

 

 敵が大きく後退し、周囲に漂う瘴気、魔力、神気を眼に集める。

 

 怪しく光る瞳に恐怖を感じた私は宙を舞い、即座にスペルカードを発動する。

 

 

 

 要石「天地開闢プレス」

 

 

 

「これがわたし」

 

 間に合え!

 

「きゃああああ――っ!?」

 アニムスフィア所長の悲鳴を聞いて、集中するあまり、抱きしめたままである事に気づく。

 

 巨大な要石を召喚し、敵に叩きつける。

 

「カレス・オブ・ザ・メドゥーサ!」

 

 瘴気を纏った閃光が溢れる。

 

 衝突の衝撃で要石が砕ける頃には光が収まる。

 

 間一髪で宝具を防ぐことに成功。

 

 距離を取る。

 

 すぐ脇を佐々木小次郎が駆け抜け、白刃を振るう。

 

「秘剣、燕返し」

 

 長刀物干し竿で三つの円を同時に描く斬撃により、初めて敵サーヴァントを倒した。

 

「敗北、しました。姉様……」

 力なく、今わの際に言葉を残して光の粒となって消えていく。

 

「死に際にそんな事を言われると、なんだか悪い事をしたような気分になります」 キリエライトが辛そうに呟き、藤丸が彼女を背中から抱きしめる。

 

『今倒した敵の正体はギリシャ神話に登場するメドゥーサだ!』

 敵が宝具を使う際に叫んでいたので、みんな分かっている。しかし、情報の整理と共有をするため、Dr.ロマンが通信越しに伝達する。

 

「い、いつまで抱いてるのよ! 敵に飛び込むなら離しなさいよ!」

 真っ赤な顔で怒鳴るアニムスフィア所長を離し、MVPを眺める。

 桜咲の使う京都神鳴流という、とんでも剣術を見慣れたはずのネギ先生をはじめ、皆が小次郎を囲んで勝利を喜んでいる。

 

 知名度補正があっても、今の霊基のネギ先生はあまり戦力にならなかった。

 敢えて劣化した状態で召喚しているというのだから、何か対策があるのだろう。

 改めて砕けた要石を見る。石になった注連縄を見て足が震える。

 私はあくまでも、中途半端だと再認識して気を引き締める。




天竺イベは周回するために周回するのが面倒でしたが、北斎ちゃんが無事にスキルマできました。

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