しばらくして自らの部屋の前に到着した。
そこまでの道中はというともちろん仲良く会話というわけではなく……お互いに無言であった。
まぁ下手に文句を言われるよりはマシだろう。話題を振れば逆に反撃を受ける可能性もあるしな……。
手に持つ鍵で自分の部屋の扉を開けると、結衣と共に中へと入る。
俺よりも先に結衣が部屋の奥まで入り、なにやらあたりをキョロキョロとしていた。
「何もない部屋って殺風景ですね。あなたにはお似合いです」
「おい、どういう意味だ」
「変に着飾る必要がないってことですよ」
随分とまぁ好き勝手言ってくれるな……。
こいつに限っては今始まった話ではないか。それに路上生活をしていた俺からすれば事実ではあるしな。
結衣の発言について考えていると結衣はこの部屋にたった一つしかない椅子へと腰をかけた。
「なにぼやっとしているのですか? この椅子借りますよ」
「あ、あぁ。」
借りますよと言いながら既にもう座っているじゃないか。
突っ込みたくなるのを抑えて、仕方なく俺はベッドへと腰掛けた。
「さてと……ではSFSとそれから特殊機動班について。お話します。一度しか言いませんからしっかりとそのどうしようもない頭に叩き込んでください」
「一言余計だぞ」
「この世界は厳しい世界なんです。軽い気持ちで生き残れるほど優しい世界ではないのですよ。だからこそ今のうちに厳しさを理解してもらおうと思ったまでです。何か不満ですか?」
それについてと結衣の態度については話が違うような気がしなくもないが……。
まぁ彼女なりに気を使っているのかもしれないし、下手に突っ込まない方がいいか。
「……わかったよ。続けてくれ」
「わかりました。ではまずSFSについてから。赤見班長からも少しお話があったかもしれませんが、SFSは"Special Forces Savior"の略。活動目的は世界の平和を脅かすデュエルテロ組織の壊滅。8年前の法改正時にその見本となるようにいち早く設立されました」
増大するデュエルウェポンの驚異に対応するためにデュエルテロ組織への攻撃や自衛行為については、武力行使が認められるとかなんとかって言ってたやつか。
当時の記憶はあまりないけど、今よりも被害はひどかったのかもしれないな。
「SFSは警備から指定物の防衛。それから犯罪者の捕縛や戦闘から、対テロリストへの戦闘。依頼された情報の収集等、デュエルウェポンの力を使用したあらゆる任務を受け持つなんでも屋といったところです」
テロリストの戦闘以外にもいろんなことをやっているみたいだな。
実際デュエルウェポンっていうのはカードがあればなんでも召喚ができるようだし、本当になんでも行うことができそうだ。
「その中でも特殊機動班は……他の班とは少し目的の性質が違います。特殊機動班は国より依頼された一つの組織についての壊滅だけを目的として動いています」
「それが……ジェネシスってことか?」
「ええ。ですので特殊機動班はジェネシスについての任務を最優先として活動しています。人手不足等がない限りは他の日常任務は他の班がやることになりますね」
なるほどな……。ジェネシスだけに集中して活動する。
そうなれば確かに俺の復讐を達成するには効果的かも知れない。赤見さんが言っていた内容も頷ける。
「具体的にはジェネシスの動きを注視しながらその情報収集。そこからテロリストの殲滅や捕縛。そして、その報告書等の作成。戦闘訓練……大体そんなところですね」
「ちなみにその……ジェネシスっていうのはかなり有名なデュエルテロ組織なのか?」
「当たり前じゃないですか。国内では最大規模と言われており、この真跡シティ近隣で活動していると言われています。国防軍でもなかなかその情報を掴めないことから、SFSはその調査委託を引き受けているといったところですよ」
国内最大規模……それにそこまで国にマークされているってことはかなり凶悪な組織なのだろう。
実際に俺の父さんを殺したあの青年も無慈悲に住民を殺しているようだったし、その凶悪さには納得する。
「ただ……ジェネシスについては私も詳しくは知りません。知っているのは、襲撃した際に金品の強奪とは別に人の生命エネルギーの吸収を行なっていることくらいです」
この間ちらっと話していた吸収。
デッキと共にその人物の生命エネルギーを吸収するという非現実的な行為だ。吸収されてしまうとどうなってしまうのか考えるだけでもぞっとする。
「奴らはなんで生命エネルギーの吸収なんて……」
「それがわかってたら苦労しませんよ。デュエルウェポンの力を使えば簡単に人を殺すことができるのにわざわざ吸収している……。なんでそんなことをするのかいまだにわかっていません」
ジェネシスは活動目的に不明なところが多いんだな……。
だからこそ特殊機動班が調査をしなければならないってことか。
「そして、ジェネシスの襲撃は大規模であることがほとんどです。なので、任務は重要でかつ危険なものとなります。それを確実に遂行するためには一人一人に大きな覚悟とどんな局面でも戦い続けられる体力。それにデュエルの腕が特殊機動班には求められるのです」
「なるほどな……。佐倉、お前ももう何度か任務は行っているのか?」
「"結衣"で呼んでください。私、苗字で呼ばれるのあまり好きじゃないんです」
班員がみんなこいつの名前を下の名前で呼んでいたのはそういうことか。
上地はまぁ……例外だと思うが、みんな下の名前で呼ぶのも珍しいなと思っていたところだ。
「任務についてはそうですね。私は調査はたくさんありますが、襲撃時は何度かジェネシスの構成員とデュエルしたくらいしか今のところはないです。幹部クラスともなるとあまり表立って動いてくれませんし」
まぁ、確かにそうだよな。
実質国防軍に指名手配されているようなものだ。身元は隠すだろう。
「ちなみにその調査や襲撃対応以外っていうのはどういうことをしているんだ?」
「そうですね。赤見班長やその他国防軍から依頼があればその情報収集をしますし、あとは報告書の作成なんかもします。それもなければ今回のようなデュエル強化週間って感じです」
「なるほどな……デュエル強化週間ってどういう感じなんだ?」
「簡単なことです。デュエルの特訓やデッキ調整。あとはデュエルテロ時に備えて体を鍛えたり……。個人の実力アップや班内のチームワーク向上が目的って感じですね。郷田さんみたいな自由にやっている人もいますが……」
体を鍛えるってことは、一応郷田さんがやっているトレーニングは間違ってはいないようだ。
デュエルウェポンによるデュエルは、確かに体への負担が大きかった。
過酷な任務を継続していくには体力作りは重要だろう。
「あと他には……SFSの中で定期的にデュエル試験があります」
「デュエル試験?」
「ええ。定期的にデュエル大会のようなものがあるんです。それで個人個人の成績が決まり、班の異動等の人事に反映されていく形ですね」
「デュエルの腕前で班構成が変わるってことか」
「そうですけど、特殊機動班はあまり関係ないですね。任務内容的に元々希望がなければこの班には配属されませんから」
まぁ……これだけ危険な任務が多いんじゃ希望出す人もいないだろうし、腕に自信がなければ命を捨てるようなものだ。
希望がない人を異動させるわけにはいかないんだろう。だからこそこんなに班員が少ないのだろうが。
「まぁあなたが参加でもしたら、きっとみっともないデュエルをして、特殊機動班の印象が悪くなる一方なのでやめていただきたいですけどね」
「おいおい、それはやってみないとわからないだろ?」
「そもそも、特殊機動班は重要任務を任される特別な班なんです。それがあなたのようなろくでもない男がいると知られては好ましくありませんから」
ろくでもないですか……。
こいつにとっての俺の第一印象が襲撃時のホームレス姿だったから、余計にそう思われているのかもしれない。
なんとかしてこのイメージを覆せないものかな……。
まぁそれは置いといて、こいつはなんで特殊機動班に所属したんだろう?
普通の人だったらこんな危険な任務ばかりの班は嫌だろう。
「そういえば聞きたかったんだが、結衣はなんで特殊機動班に所属してるんだ? 成績1位だったなら、司令直属班や決闘精鋭班に入れただろう?」
「……」
その問いに対して結衣は言葉を詰まらせる。
何か言えない事情でもあるのか。
「……いえ、特殊機動班のような危険な任務は、私のように優秀な人にしか務まりませんから入ったまでです」
なんというか……言いたくないことがありそうだな。
触れられたくない内容なんだろうし、これ以上突っ込んでも怒られそうなので聞くのはやめておこう。
「さすが、成績トップは伊達じゃないな」
「……何か含みのある言い方ですね。馬鹿にしてるんですか」
ちょっといじわるっぽく言ってみたけど、すぐに突っかかってくるあたりわかりやすい反応をするな。
いつも言われてばっかりだからこれくらいはいいだろう。怒らせない程度に……。
「まったくこれだからダメなんですよあなたは……。そういえば……」
「なんだ?」
「この間の襲撃の時になぜあなたは逃げずにデュエルをしていたのですか? それにホームレスだというのにどこからデッキを……」
そういえば、赤見さんには色々と話したが、他の奴らは何も知らなかったか。
普通の人だったらまぁ逃げるよな。目の前で爆発とか色々起きているわけだし。
「気になるか?」
「別にあなたに興味があるわけじゃないですけど、質問されてばかりじゃ不満なのでお返しです。あの襲撃規模だったら普通の人はまず逃げますし、まともな服すら持っていないあなたのそのデッキは一体どこから出てきたんですか」
確かに服なんかよりデュエルモンスターズカードの方がよっぽど高い。
カードを売ってしまえば、まともな服も着れたし、しばらく食い物にも困らなかっただろう。
「……カードは俺にとっての唯一の仲間。デュエルが自分の生きがいみたいなものだったからだ」
「仲間? どういうことですか?」
あれ、食いついてきた? こいつのことだから馬鹿にしてくるかと思ったが……。
柄じゃないが、せっかくだからちょっと昔の話をしてみるか。
「昔な、俺はデュエルモンスターズが大好きで、暇な時間があればいつもデュエルを楽しんでたんだ。カードがあればデュエルができるし、そのデュエルした相手と共に楽しさを分かち合える。そう、人との"繋がり"をもたらしてくれるものが俺にとってはカードだった」
「……」
結衣は俺の話を無言で聞いている。
こいつの正確なら何かしら口を挟んできそうなものだが……なんとも珍しい光景だ。
何かこの話について思うことでもあるのだろうか。
「だけど、そんな毎日を過ごしていたある日。デュエルテロによって俺は家も家族も失い、当然学校にも通うことができなくなってしまった。唯一あったものはポケットにしまいこんでいたカードだけだったんだ」
「そんな……」
「それからの路上生活は毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際。でもカードだけはいつもそばにあった。このカードたちを持っていれば、また前みたいに誰かとデュエルすることができるし、もしかしたら今の生活から脱却できるかもしれない。それにまた父さんに会えることができるかもって思ったんだ」
「その……お父様はまだ生きているのですか?」
生きているかはわからないけど、死んでる可能性の方が高いのかな。
だけど死んだのを俺自身の目で確認したってわけじゃない。だから俺は生きていると信じてはいる。
まぁただ単に俺自身が死んでいるという現実を受け入れたくないという思いが、今も生きていると信じている要因かもしれない。
「わからないけど、俺は今も生きているって信じてる」
「そうですか……」
なんかしんみりした雰囲気になってしまったな。
これは気まずい。なんか話を切り替えるか。
「まぁそのおかげでこうやってSFSに入れたわけだ。デュエルモンスターズ様々ってところだな」
「え、ええ……。というかこの間の襲撃の時、私がいなかったらどうなっていたことか」
「いや、別に俺はデュエルに勝っていたじゃないか」
「何を言うんですか、図に乗らないでください。救護呼んだのは私ですし、何よりあなたをあそこ止めていなければ今頃死んでましたよ」
そういえば、我を忘れて続けてテロリストと戦おうとしてたっけ……。怒りに身を任せて少しおかしくなっていたような感覚は覚えている。
ある意味救ってくれたのかもしれないな結衣は。憎しみに囚われていた自分を。
今更ながらで少し恥ずかしいが、そのお礼はまだ言えてなかった。一応こいつにも感謝しなきゃだな。
「そうだったな……忘れていたよ。あの時止めてくれたことは感謝してる」
「い、いえ……。大したことはありません……。それよりも今後は気をつけること! 特殊機動班なんですから、今後は恥のないような行動をしてください」
お礼を言われて結衣は少し動揺したようだったが、すぐにいつもの鋭い表情へと戻った。
「まったく……。あなたのせいで余計に時間を消費してしまいました。説明はある程度終わりましたし、今日はこれで失礼しますよ。質問があるのなら赤見班長にでも聞いてください」
「あぁ、時間とってもらって悪かったな。結衣」
「お礼ばかり言ってるくらいなら、今度はその気持ちを行動に……そうですね、今度は私が来た時に紅茶ぐらいは用意しておいてください。それでは」
結衣は少し不機嫌そうに言うと、少しだけ足早に俺の部屋を出て行った。
なんというか……話してみると悪いとこばかりって感じでもないな。
真面目な話はちゃんと聞いてくれてたし、それになんやかんやで聞きたいところはちゃんと教えてくれた。
今後自分に対して少しくらいは優しくなってくれればいいんだが……。うまくやっていきたいところだな。
結衣が出てしばらくした後、急遽電子音が部屋に響き渡る。
この音は聞き覚えがあるぞ……。
確か、デュエルウェポンのメール受信音だったような……。
ベッドの上に置いてあるデュエルウェポンを手に取り画面を確認すると。そこにはやはり新着メール一件の文字が表示されていた。
また赤見さんかな? 今度は一体なんだろう。
デュエルウェポンを操作し、内容を確認すると宛名には"上地 颯"と書かれていた。
"すぐにデュエル訓練場へ来い。来なかったらどうなるかわかってるな?"
上地 颯ってあの銀髪のやつか。一体どうしたんだろう。
脅迫のつもりか何かなんだろうか。身に覚えがない。
デュエル訓練場ってことはデュエルか? デュエルしたいのなら素直に誘えばいいのに。めんどうなやつだ。
俺にとっては、行かなきゃいけない理由があるわけではないが、もしデュエルするというのなら望むところだ。
上地と喋ってみるいい機会にもなるだろうし、せっかくだから行ってみよう。
俺はデュエルウェポンを腕に装着し、デュエル訓練場へと向かったのだった。