ーー俺はデュエル訓練場へ向けて長い廊下を歩いていた。
そう、先日颯が言っていたデュエルの特訓に参加するために、訓練場へと向かっている。
それにしてもSFSの施設は広い。
よくある大型病院並の建物。それに俺たちが寝泊りしている社員寮、そして機器開発工場まで備わっている。
これほどの施設を管理していくのはかなりの経費がかかるであろう。SFSはよほど利益を上げているのか。
小さなデュエルテロを含めると毎日のように発生しているご時世だ。
警察や国防軍といった公務組織が対応しきれない今、SFSのような民間軍事組織は必要不可欠となっているのだろう。
そんな中デュエルの特訓なんてしてていいのか後ろめたい気持ちはあるが、ジェネシスの動きがない以上それはしょうがない。
いざという時のために、デッキの調整やデュエルのプレイングを磨いておくことは重要なことだろ
そう言い聞かせてながら歩いていると、デュエル訓練場へ繋がる扉の前に辿りついた。
「俺様のターン、ドローッ!」
扉の向こうから声が聞こえる。
さっそくもうデュエルをやっているようだ。
扉を開けると、郷田さんと颯がデュエルをしており、それを外野から結衣が眺めていた。
あれ、赤見さんはいないのか。
「いけぇ【地天の騎士ガイアドレイク】! 【ジェムナイト・パーズ】を貫けえ! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」
【ガイアドレイク】は白き翼を羽ばたかせた白馬を操りながら、【パーズ】に向けて漆黒の槍を突き立てる。
「ちくしょう! ぐおわああ!」
颯 LP1500→0
その攻撃を受けて、颯がその場に倒れ込んだ。
郷田さんが勝ったようだ。さすがは副班長。
「お、繋吾ちゃん。遅かったじゃねぇか!」
「すまない郷田さん。昨日遅くまでデッキ調整してたらなかなか起きれなくって」
「なんだぁ? よっぽど今日の訓練に気合入れてるようだなぁ?」
「はい、今日が初めての班内訓練なので、あまり不甲斐ないデュエルをしないようにと思って」
昨晩は、今後のためにもと思って自分のデッキ内容を調整していた。
ここ最近を振り返ってみると、何かとライフポイントぎりぎりの危なっかしいデュエルが多かった。
実戦でテロリストとデュエルする時も同じようにぎりぎりのライフになったらそれは生きるか死ぬかの瀬戸際になる。
そんな状況になれば、訓練の時みたいに楽しんでなんかいられないだろう。
実戦ではそういう状況だけは避けたい。
じゃないと命がいくらあっても持たないってやつだ。
もう少し余裕を持ってデュエル挑むためにも、まだまだ俺のデッキを強くしていく必要がある。
そう思って昨晩、遅くまでデッキの調整をしていたのだ。
と言っても色々とカードを入れ替えても結局しっくりこなくて、結果的にあまり内容は変わってなかったりするのだが……。
デッキ調整をしている人にはよくある話だ。
「それにしても随分と遅かったですね。もうお昼すぎですよ」
起きて……飯食べて……ってもうそんな時間だったのか。
「まったく、相変わらずどうしようもないですねあなたは。デュエルウェポンの着信履歴、気がつかなかったんですか?」
結衣に言われて自分のデュエルウェポンを眺めると郷田さんや結衣からの着信履歴が10件程入っていた。全然気がつかなかった……。
「これは……」
「"これは"じゃないですよ! 呼び出しを受けてまったく出ないなんて信じられません。少しはしっかりしてください」
そもそも今日は起きるのが遅すぎてまったく郷田さんの呼び出しに気がつかなかったってやつだ……。
今度からは少しは早く起きれるようにしないとな。
「悪かったよ……。んで、颯のやつは大丈夫か」
さっきからずっと床に寝そべっている。
いつまで寝てるつもりだ。
「あぁ、颯のやつ今日は俺にも結衣のやつにも負けてっからちょっと凹んでてな! まぁそのうちひょっこり起き出すだろう」
郷田さんはそう言いながら笑っていた。
「繋吾ぉ……。あとはお前だぁ……」
寝そべってる颯が何か言っている。
まずは起き上がってくれ、頼む。
「お前さえ……倒せれば……全敗にはならない……!」
「昨日お前負けたじゃないか」
ふと昨日のことを言ってみると、颯は急に立ち上がり俺に向かって叫んでくる。
「昨日は昨日。これは今日の話だっつーの! んじゃ繋吾! 昨日のリベンジと行かせてもらうぜ!」
「なんだ? 颯、繋吾ちゃんに負けたのか?」
「うるせぇそれは置いとけ郷田! 今日こそ白黒はっきりつけようじゃねぇか繋吾ぉ……」
どうしても昨日のことはなかったことにしたいらしい。
だが、一人でのデッキ調整に限界を感じていたところだったから、俺からすればちょうどいい機会だ。
「いいだろう、さっそくデュエルをーー」
俺と颯がデュエルウェポンを構えようとしたところ、突如デュエル訓練場の扉が開き、10名程のSFS隊員が入り込んできた。
あの人たちも訓練をしに来たのだろうか。
「おいおい、なにここのデュエル訓練場を占領してんだよ特殊機動班!」
乱入者の中の一人が大声を上げると、後ろにいた数名も加勢するように文句を言い始めた。
「おい、あいつらは誰だ?」
疑問に思い、俺は誰に聞くわけでもないが呟いてみる。
「……決闘機動班の連中です。大した腕もない、どうでもいい人たちですよ」
「そうなのか……」
結衣が呆れたような表情でぼそっと呟く。
特殊機動班と決闘機動班あまりは仲がよくないのだろうか。
「おい、なんだよお前ら! 今日はこの俺"上地 颯"の名前でここの一日予約取ってたんだぜ? 決闘機動班は帰りな!」
颯が決闘機動班の連中の前に立ち叫ぶ。
予約とかあるんだな……。それを俺たち特殊機動班の名前で取っていたのならば、文句は言われる筋合いは無いだろう。
「なんだぁ上地? 特殊機動班行ってから随分といいご身分じゃねぇか! 口だけでろくにデュエルもできねぇやつはどこのどいつだよおい!」
「う、うるせぇよ! 今の俺はちげぇんだよ!」
「調子に乗るなよ上地。特殊機動班はどうせろくに仕事もねぇんだから練習の場くらい譲れよなぁ?」
「勝手なこと言ってんじゃねぇ! 俺たちは今日ここで特訓しなきゃならねぇんだよ!」
颯と決闘機動班の一人が言い合いを始めている。
かつては決闘機動班に所属していた身だ。過去に何かトラブルでもあったのかもしれない。
「特訓? ハハハハハ……笑わせんじゃねぇよ。聞いた話だとお前ら今週は全部"デュエル強化週間"とか言うサボり期間だって話じゃねぇか。そんな奴らが一日中訓練場を占領するなんて迷惑なんだよ!」
決闘機動班の連中は俺たち特殊機動班のことを見ながらケラケラ笑い始めた。
好き勝手言う気に入らない奴らだが、入隊したての俺がここで出張ってはせっかく入隊させてくれた赤見さんに迷惑がかかってしまう。
仕方ないがここは我慢しておくか……。
「笑うんじゃねぇ! 俺たち特殊機動班は重要な任務を任される。だからこそいざという時のためにデュエルの特訓は必要なんだよ!」
「そんなこと俺たち決闘機動班だって同じだろうがよ。日々色んな任務が回ってくるから、それこそしっかりとした訓練が必要とされる。あーだこーだ言ってる暇あったら、俺たちにこの訓練場譲って部屋でおねんねでもしてろや!」
「くっ……ちくしょう……」
決闘機動班の人物に圧倒され、颯が押され気味な中、郷田さんが一歩前へ出ると突如大きな声を上げた。
「あんたら少し黙っとれ! 話にならんわ!」
「……な、なんだよ……?」
郷田さんの一喝を聞き、決闘機動班の奴らが少し怯んだ様子で静かになる。
「うちの颯はなぁ。ちゃんと予約取ってここ使ってんだよ。てめぇら決まりも守らねぇでSFS隊員名乗れんか? おい!」
「ま、まぁ……決まりは決まりだけどよ。今日はもうここの訓練場以外、他の奴らが使ってて空いてなかったんだよ……」
「空いてないなら諦めりゃいいじゃねぇか。なんでわざわざここを奪おうとしてんだ?」
「何度も言わせるなよ。特殊機動班なんかそんなにいつも出動するわけじゃないし、別に今日ここで訓練できなくても問題ないじゃねぇか。俺たちはやることがあるんだよ!」
「お前らが勝手に問題あるなし判断してんじゃねぇよ!」
「なんだと? 普段へらへら遊んでる特殊機動班ごときが調子に乗んなよ!」
郷田さんは完全に怒っているという様子であり、今にも殴りかかる勢いであった。
しかし、相手側の男も一歩も譲らずに郷田さんを睨みつけている。
このままでは殴り合いの喧嘩にでもなり兼ねない。さすがに止めに入るべきだろうか。
俺が止めに入るか迷っていたところ、決闘機動班の集団の中より一人の人物が前に出てくる。
「もういいじゃない。そんなに無理してここ使う必要ないでしょ? ねぇ片岡くん?」
その人物は、綺麗な桜色のショートカットの髪型をした活発そうな女性であった。
そして、歳は結衣とかと変わらなそうだが、何よりもその胸元の膨らみに、男としてはつい目が行ってしまう。
少なくとも結衣よりは大きいか……?
「り、莉奈ちゃん……」
片岡と呼ばれた郷田と言い争っていた男は、その女に言われ少し苦笑いをすると郷田と颯のことを睨みつけた。
「……しょうがねぇ。お前らがそこまで訓練したいなら今日は諦めるよ。クソが」
片岡はそんな捨て台詞を言いながら、訓練場から出て行った。
「ごめんね? 特殊機動班さん?」
決闘機動班の女は郷田さんと颯に向かって、上目遣いをしながら謝罪をした。
颯の表情が赤くなっていくのが、目に見えてわかる。
ほんとお前はわかりやすい奴だな。
「へへっいいんだよ。わかってくれれば」
「俺様も少し熱くなっちまった。悪かったな君」
颯は顔を赤くしながら、郷田さんは頭をかきながらその女に頭を下げる。
「そこでちょっと提案なんだけどー……。せっかくここの予約取っているのなら私たちと一緒に訓練なんてどうかな? たまには他の班の人とデュエルするのも悪くないと思う!」
なるほどな。個人的には決闘機動班の奴らがどの程度の腕前なのか興味がある。
是非とも一緒に訓練をしたいところだな。
「なるほどな。そいつはいいかもしれねぇ。お前らはいいか?」
郷田さんは俺たちの方へ振り返りながら訪ねてきた。
「俺はいいと思いますよ。せっかくの機会ですから」
俺がそう返答すると、颯と結衣もそれに同意し頷く。
「うちはおっけいだ。んで、誰と誰がデュエルするんだ?」
「そうですねー。お互いの班で一番強い人とかはどうかな?」
それは見物だ! レベルの高いデュエルこそ見ごたえがある。
それにしても一番強い人って特殊機動班だと誰になるのだろう。
やはりここは副班長の郷田さんが出るべきか。
「お! そいつはいいな! 決闘機動班は誰が出るんだ?」
「はいはーい! 私がいっきまーす!」
郷田さんが問うと、その女が声を上げる。
「君が? 一番強いのか?」
「うん! これでもデュエルの腕には自信があるんだ! さて、特殊機動班はあなたでいいのかな? 郷田副班長さん?」
「おっし、じゃあ俺がーー」
「私がいきます」
郷田さんが答えようとした時に、冷たい声が響き渡る。
そう、結衣の声だ。
そういえば、自分自身ではエリートだのなんの言っていたが、こいつがデュエルしているところはまだ見たことなかったな。
「なっ! 結衣!」
「郷田さん、私がいきます。いいですか?」
結衣は郷田さんを睨みつけながら言った。
一体どうしたのか。少し怒っているような様子だった。
「あ、あぁ……。そこまで……結衣が出てえってんならいいけどよ」
郷田さんはその視線に押され、黙ってしまった。
「あれー? 私てっきり一番強いのって郷田副班長さんだと思ってたんだけど、あなた本当に強いの?」
女は、結衣に対して挑発気味に言った。
「あなたみたいな尻軽女よりかは強いですよ。特殊機動班は格が違うということを見せてあげます」
「尻軽女だなんてひどい! ってかなになに、あなた怒ってるの? せっかくのデュエルなんだから楽しもうよー」
「怒ってなんかいません。いいからとっととデュエルの準備をしてください」
決闘機動班の女も表情は笑っていながらも、目は結衣のことを睨みつけていた。
「なぁなぁ繋吾……。なんか怖くねぇ?」
颯がこっそり俺の隣に来ると、小さな声で耳打ちしてきた。
「あぁ……そうだな」
「あれが女の喧嘩ってやつだな、怖い怖い」
「でも、どんなデュエルになるのかちょっと興味はあるな」
「ったく。お前は相変わらずデュエル馬鹿だなおい」
俺は颯とそんな会話をしながら、観客席に座る。
結衣と決闘機動班の女はデュエルリングにて向かい合い、それぞれのデュエルウェポンを構えた。
俺たちは結衣の後方側の席で、決闘機動班の班員たちは反対側の席でそのデュエルを見守るような構図だ。
「あ、そういえばまだあなたの名前聞いてなかったね?」
「そういうのは自分から名乗るものではないですか」
「あ、ごめんごめん! 私、決闘機動部 決闘機動班 第4副班長の野薔薇 莉奈でーす!」
「うおおお、莉奈ちゃん頑張れええ!」
決闘機動班の外野から応援の声が上がる。
驚いた、あの子副班長だったのか。
若くして副班長を務めるということは、あの余裕さも含めて只者ではないのかもしれない。
「私は決闘機動部 特殊機動班所属。佐倉 結衣」
「ちょっとー、挨拶ぐらいもっと元気にできないのかな?」
「いちいちうるさいですね。第一、その慣れなれしい口調はなんとかならないのですか?」
「あなたのその感じ悪い喋り方よりかは遥かに良いと思うけど?」
「うるさい! いいからとっとと始めますよ!」
「言われなくても準備は済んでるってば! まったくもう……いくよ?」
「デュエル!」
結衣 LP4000 手札5
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莉奈 LP4000 手札5