デュエルが終わると、決闘機動班の観客席がざわつき始めた。
あの野薔薇副班長が負けただの、ちょっと調子が悪かっただけじゃないだの色々と聞こえてくる。
「少し油断しすぎちゃったかな……。あなたの勝ちだね、結衣ちゃん」
「当たり前です。周りに持ち上げられて自分に酔ってる人に負けるわけありませんから」
「……自分に酔ってる……かぁ。はぁー、やっぱり4期生1番のデュエルはさすがだねー」
「あなた……私のことを知ってたのですか」
「まぁねー。あなたがいたからこそ……私は1番が取れなかったわけだしさ」
今の話だと、この莉奈って子は結衣たちと同期で、しかもかなり好成績だったってことになるか。
副班長を務めているっていうのもなんとなくわかってきたような気がする。
だけどそれならますますをもって結衣が決闘機動班の副班長くらいやってていいとは思うが……。
あれか、人間性の問題ってやつなのか?
「あぁ、そういえば結果発表の時、私の後ろでやたらと悔しそうに嘆いていた人がいましたね。あれがあなただったのですか」
「う、うるさいよ! とにかく! 次やる時は本当に本気でやるから……今度は負けないよ!」
「ふふっ、何度やっても同じですよ。それでは」
結衣と莉奈の二人はデュエルリングよりそれぞれ観客席の方へ戻ってくる。
結衣はどこかすっきりしたような表情をしていた。
「さすがは結衣ちゃんだぜ! おつかれー結衣ちゃん!」
颯は力いっぱいに結衣に向かって叫んでいる。
「よくやったじゃねぇか、結衣!」
続けて郷田さんも手を振りながら結衣を迎える。
「当然の結果です。決闘機動班の人に負けてたまるものですか」
「それにしても最初何もしなかったあれは"手札事故"じゃなくてあえてだったのか?」
「はぁ、遊佐くん。あなたはそんなこともわからないのですか? 私は必要以上のことはしない。余計なことをすれば、かえって不利になることもありますからね」
無駄のない洗練されたデュエルということか。
「そうだぜ繋吾。お前そんなこともわからねぇんじゃいつまでも二流止まりだな!」
「おい、お前は俺に負けてるだろ」
「うるせぇ! たった一回勝っただけじゃねぇか!」
「まったく、どんぐりの背比べとはこのことですね」
「ゆ、結衣ちゃん……」
颯と結衣とそんな会話をしていると、突如訓練場内に大きな拍手が響き渡る。
一体なんだろう。
拍手の元を探すと、入口付近に拍手をしながら歩く一人の男がおり、ゆっくりとデュエルリングへ向かって歩き出していた。
その様子に気が付くと、決闘機動班の連中は一気に静かになった。
「あいつは……。白瀬班長か」
郷田さんがその人物を目を細めながら見て呟く。
「それは……一体誰なんですか?」
「決闘機動部 決闘機動班長 白瀬。SFS内最大規模の班である決闘機動班を統べる班長だ。なんでこんなところへ来たんだか知らねぇが」
決闘機動班長……特殊機動班とは違って決闘機動班は人数の規模が多い以上、なかなかのお偉いさんってところだろうか。
「いやはや、素晴らしいデュエルでしたよ。野薔薇くん。それに佐倉くんだったか」
白瀬班長は拍手をしながら俺たちと決闘機動班員たちを交互に見ながら言った。
「これは我々決闘機動班も特殊機動班の方々に負けぬよう鍛錬に励まなくてはいけませんな。はっはっは」
「あんた、こそこそ見てたんか。二人のデュエル」
郷田さんが観客席を立ち、白瀬班長へ近づいていく。
「おい、郷田副班長。白瀬班長にその口の利き方はよくないだろう!」
決闘機動班の奴らが郷田さんに文句を言いだした。
郷田さんの口が悪いのはどんな相手でも変わらないようだ。
「まぁまぁ、郷田くんはこういう人だっていうのはよく知ってるから大丈夫だ君」
「え? あ、はい。失礼しました白瀬班長」
白瀬班長に言われ、その男は口を閉ざす。
「んで白瀬。なんのようだ?」
「なんのようだとは寂しいじゃないか郷田くん。たまたま通りかかったら随分熱の入ったデュエルをやっていたから気になって見ていただけだよ」
「だけど、それだけじゃねぇよな?」
郷田さんは何か白瀬班長に思うことでもあるのだろうか。
やたらと攻撃的な感じだ。
「まぁ確かにただの見物だけだったらわざわざデュエルリングまでは入ってこないだろうな。私はね、我々決闘機動班と特殊機動班で合同デュエルをやっているのを見て、これは非常に良いものだと感じたのだよ」
「良いものだと?」
「そうだ。お互いに普段の特訓とは違った刺激を受けることができ、切磋琢磨することで我々SFS全体のデュエルタクティクスの向上に繋がる! そうは思わんかね?」
白瀬班長が言っていることには一理ある。
それに、今までの様子を見る限り決闘機動班と特殊機動班はあまり仲良くないみたいだし、交流を深めるという意味ではいいのではないだろうか。
「つまり、何が言いたいんだ?」
「私はせっかくだから合同デュエル会でもやりたいなと思ったのだよ。どうかね? 日時は明後日の午後から。会場のセッティングが我々で執り行おう」
「おい、白瀬。俺たちは班長を除くとたったの4人しかいないんだぞ。決闘機動班の人数だと明らかに合わねぇじゃねぇか」
「そこは安心してくれたまえ。決闘機動班からは各副班長が参加するようにしよう。それならちょうど4人だ。人数の問題はないだろう」
相手が全員副班長級ということは……これまたどいつも強いやつなんだろう。
これはいい機会、是非とも参加させてほしいところだ。
「なるほどな。今回は何も企んでいねぇよな? 白瀬」
「何を人聞きの悪い。純粋にデュエルを行いたい。それだけの話じゃないか」
企んでいる……? いつもこの白瀬班長って人は何か仕掛けてくるってことなのか。
後で詳しく郷田さんに聞いてみるか。
「わかったよ、それならいい。ただ、うちも班長に確認は取っとかねぇと……」
郷田さんがそう言い、白瀬班長を方を見ると、その真後ろに赤見さんの姿があった。
いつの間に入ってきたんだ赤見さん。
「どうも、白瀬班長。それに郷田」
「赤見!? お前いつの間に来たんだよ」
「あぁついさっきだ。遅くなって悪いな」
赤見さん何か用事でもあったのか。随分と遅かったな。
「白瀬班長。その話、是非とも」
「おぉ、赤見班長。さすがは話の分かる。それでは明日までに準備は済ませておくから主催は任せていただきたい」
「ええ、了解しました。お互いにいい刺激になればいいですね」
「はっはっは、そうだな。そういえば、赤見班長。何やらここ最近飛び入りで新規入隊者がいたとか」
それはもしかして俺の話か。
この大人数の中で自分の話題をされると少し恥ずかしいな。
「そうです。そこの観客席にいる人物。遊佐 繋吾です。デュエルの腕は確かですよ」
赤見さんに言われ白瀬班長が俺のことをまじまじと眺めてくる。
俺は思わず立ち上がり、白瀬班長へ頭を下げた。
「なるほど。次の採用までまだ半年以上あるというのに、緊急で入隊とは。よほど良い人材だったってことかな? 赤見班長」
「もちろんいい人材っていうのはそうですが、お恥ずかしながらこちらも人手不足でしてね」
「ハハハ。そういえば、特殊機動班はいつもそうでしたな! では、今日はこのあたりで失礼させてもらうよ。邪魔してすまなかったな。特殊機動班の諸君」
「いえ、とんでもないですよ白瀬班長。対戦表、お待ちしております」
「あぁ、楽しみに待っていてくれたまえ。では」
白瀬班長は俺たちに丁寧に礼をすると、デュエル訓練場を後にした。
「あ、私たちも今日はそろそろ失礼するね! 班長さん来たみたいだし、じゃあねー!」
莉奈と決闘機動班員の皆もそれに続くかのように、デュエル訓練場を後にし、俺たち特殊機動班のみがデュエル訓練場に残った。
「なぁ、赤見。本当によかったのか?」
「心配するな郷田。今回は本当にただデュエルをするだけだ。下手な負け方しなきゃ問題はないだろう」
「また何か上層部へうちらの悪いとこ見つけて報告するつもりなんじゃねぇのか……」
郷田さんが引っかかることを言っている。聞いてみよう。
「その……あの白瀬班長って言うのはいつも何か特殊機動班に悪いことしてるんですか?」
「そうそう! そうなんだよ繋吾ちゃん! 何かと俺らをハメて、SFS内の評価を下げようとする奴だ」
「ハメて……? 例えばどういうことですか?」
「そうだなぁ……。任務の報告書類で俺たちがやった功績を自分たちのものにしようとしたり、特訓予定日に全ての訓練場を決闘機動班で抑えて、俺たちがまるでサボっているかのように見せかけたり……。まぁ卑怯なやつなんだよ」
なぜそこまでして特殊機動班に嫌がらせをしているのかはよくわからないが、普段そういうことをしているのであれば、郷田さんが疑うのも納得できる。
「でもそこまでわかっているのなら、こちらも素直に上に報告すればいいんじゃないですか?」
「決闘機動班はSFS全体のデュエル部隊の半分はある大規模な班だ。その決闘機動班のやつらがここ最近特殊機動班の必要性について問題視してやがる。そのような状況下だと俺たちの立場からはあまり強く言えないのが現状なんだ繋吾」
赤見さんは深刻そうな表情をしながら言った。
確かにたった5人の班の意見なんて全体から見たらごく少数だ。
「だけど、赤見班長。なんで今回は安全だと言い切れるのですか? また何か考えているかもしれません」
「あぁ。結衣、安心してくれ。何かあった時用に既に手は打ってある。立派なデュエルさえできれば、俺たちの評価が下がることはないだろう」
「何を……されたんですか?」
「まぁちょっとな。虚偽の報告とかをさせないように、生天目社長とかに話をつけてきたところだ」
え、赤見さんさっきこの話を知ったんじゃなかったのか。
もしかして、既にこの話が出てくることを知っていたのか……?
「ってことでお前らは安心してデュエルに望んで来い! 決闘機動班の奴らにお前らの腕前を見せてやれ!」
赤見さんはグッジョブを送りながら俺たちに笑顔で答える。
細かいことを考えるのはやめておこう。赤見さんのバックアップがあるのなら安心して望めそうだ。
「任せてくださいよ赤見班長! おっしゃー、今日負けまくった分、決闘機動班にぶつけてやるぜ!」
「おう颯、決闘機動班のやつらに負けたら後で地獄の特訓だから覚悟しとけな?」
「ハッ、この上地 颯が負けるとでも思ってるのか、郷田!」
「上地くん、今日一回も勝ってないじゃないですか……」
集中砲火を受けている颯は置いといて、俺もせっかくやるのなら勝ちたいところだ。
対戦相手が誰になるのか楽しみだな
「おっし、じゃあ今日はこれからもうちょっと特訓だ! いいよな?」
随分と颯は張り切っているようだ。せっかくだし今日はとことん付き合うか。
「よしじゃあやるか、颯。昨日のリベンジとかさっき言ってたしな」
「ふっふっふ……。繋吾、お前が相手なら負ける気がしねぇぜ……」
変な笑みを浮かべながら颯はデュエルウェポンを構えだす。
「デュエル!」
こうして、俺たち特殊機動班のメンバーは、夜になるまでデュエルの特訓に励んだのだった。