翌日、デュエルウェポンから響き渡る目覚ましの音で目を覚ます。
昨日は、結局夜遅くまで特殊機動班のメンバーとデュエルの特訓に明け暮れていた。
勝率はまずまず。5割ってところだったかな。
結局俺自身はデュエルを楽しんでるばかりで、あまり特訓って実感がなかった。
まぁデュエルの経験を積むことも一つの特訓と言えるだろう。
SFSでの任務はデュエルが全てといっても過言ではないからな。
眠い目を擦りながら洗面所へ行き、歯磨きやら着替えやらをしていると、部屋のインターホンが鳴った。
「赤見だ。今大丈夫か?」
お、赤見さんか。
ってことはもう明日のデュエル交流会の対戦表が決まったのかもしれないな。
「はい、今開けます」
俺は部屋のスイッチを操作し、入口の扉を開ける。
すると入口にいた赤見さんが俺の部屋に入ってきた。
「よう、ちゃんと起きてたか。繋吾」
「今日はなんとか午前中に起きましたよ……」
路上生活をしてた時は寝たい時に寝て、起きる時に起きる。
そんな生活をしてたもんだから、規則正しい生活ってのになかなか慣れない。
「調子がよさそうじゃないか。さーて、持ってきたぞ。お待ちかねのアレ」
対戦表のことだろうか。
と言っても対戦表を見たところで決闘機動班のメンバーは昨日結衣と戦っていた野薔薇副班長しか知らない。
だから対戦表見てもまったくピンと来ないだろうけども。
「明日の対戦表ですか?」
「あぁそうだ。繋吾、お前は最後の一戦だな! 頑張れよ」
「え……?」
ーーー
決闘機動部内デュエル交流会・対戦スケジュール
特殊機動班 決闘機動班
第一試合 郷田副班長 VS 野薔薇第4副班長
第二試合 上地 颯 VS 小早川第3副班長
第三試合 佐倉 結衣 VS 坂戸第2副班長
第四試合 遊佐 繋吾 VS 桂希第1副班長
ーーー
俺の対戦相手は第1副班長をやっているらしい桂希ってやつか。
第1に行くほど強いのか。それとも実力はあまり関係ないのか。
仕組みはよくわからない。
「赤見さん。なんで俺が一番最後なんでしょう? こういうのは郷田さんとかがやるべきなんじゃ?」
「それについては私にもわからないな。それほどお前に期待しているのかもしれない」
「いやいや……」
期待って言ったってまだ入隊したばかりで、任務に出たこともない俺に何を期待しているのだろう。
とりあえず戦うからには全力でやらないとだな……!
それにしてもこの桂希ってやつはどんなデッキを使うやつなのだろう。
「この桂希って人はどんなデッキを使うんですか?」
「私もあまり見たことはないが……シンクロ召喚と融合召喚の二つを組み合わせたデュエルをするって聞いたような気がしたな」
どんなデッキでも使えるリンク召喚は別として融合、シンクロ、エクシーズの中から二種類以上を使って来る人はそこまで多くない。
召喚できるものが多いってことはそれゆえに戦略の幅が広がるが、デッキとしてはまとまりが欠け、うまく動かなくなってしまうリスクもある。
それを使いこなすってことは、なかなかにハイレベルなのだろう。
「ってことは赤見さんは戦ったことはないのか」
「あぁ。噂ではSFS第3期生の中では一番の成績だったとは聞くがな」
出ました。成績一番。
トップの成績のやつが周りに多すぎませんかね。
結衣のことは置いといて、決闘機動班の副班長クラスだから、仕方がないのかもしれないが。
「勝てるかはわかりませんが、全力は尽くして見せますよ」
「あぁ、繋吾は自分なりのベストを尽くせばいい。勝ち負けとか特殊機動班の立ち位置とかそういう細かいのは気にしないで自分らしくデュエルしてくれよ」
デュエル交流会とはいえ、決闘機動班と特殊機動班の真っ向勝負。
この結果は当然上層部へ報告されるだろうし、全体の勝敗次第では、特殊機動班の評価が下がることも考えられるだろう。
そんな中でも赤見さんの今の一言は、色々と考えてしまいがちな俺にはありがたいものだ。
「ありがとうございます。俺のデュエルがどこまで通用するか頑張ってみます」
「おう、期待しているよ。そうだ繋吾、せっかくだし何か聞きたいこととかあるか?」
聞きたいことか……聞いていいものかわからないけど、昨日赤見さんはデュエル交流会のことをなぜか事前に知っていたみたいだ。
前々からそういう話があったのかそれとも何か事情があったのか気になる。
「そういえば……昨日、デュエル交流会について、赤見さんは既に生天目社長に話して手を打ってあるって言ってましたけど、あの話は前々からあった話だったんですか?」
「あぁー……その話か。覚えていたのか」
赤見さんは少し目を細めながら答える。
「はい、ちょっと気になってたもので。それにあの日赤見さん来るの遅かったし」
「昨日は……私が国防軍に出張に行った時の話を生天目社長に報告しに行っていた。そこで帰り道訓練場に向かおうとしたら、入口で白瀬班長と班員がデュエル交流会について話しているのを盗み聞きしてな。少し嫌な予感もしたからすぐさま生天目社長へ連絡をいれておいたんだ」
なるほど。帰ってきた時に白瀬班長が話をしているのを聞いた……と。
赤見さんもよっぽど白瀬班長のことを警戒しているんだろうなぁ。
「そうそう、後でみんなにはメールで報告書を送ろうと思ってたが、国防軍への出張での内容。先に繋吾には話しておくか」
「国防軍へ行ったのは……左近さんの件でしたっけ?」
「そうだ。あの時繋吾と戦ったテロリストが会話できる程度には回復していたから、少し面会をしてきたんだが……一つだけ気になる発言があったんだよ」
あの【魔王龍ベエルゼ】を使っていたテロリストのことか。
俺があの時、奴に問いただしても5年前の話は何も知らなそうだったが……。
一体赤見さんはなんの話をしたのだろう。
「どんな発言だったのですか?」
「あいつは途中でこんなこと言ってた。"あんなろくでもないカードばっかりのデッキを使って勝とうだなんてふざけてるよお前らも"ってな」
あのテロリストは人のデッキをやたら馬鹿にしてきた感じだった。
俺の時のデュエルでも同じようなこと言ってきたし、あまり変わらなそうだが……。
「それなら俺とのデュエルの時でも同じようなこと言ってましたよ」
「そうなのか……。繋吾とのデュエルがどうだったかはわからないが、左近さんはSFSの1期生。要は2期生の私よりも先輩なんだ。デッキはもうかなり洗練されたデッキでな。私も左近さんには色々とお世話になっていた」
ということは、実質特殊機動班の中でもかなりの実力者だったってことか。
「それが、あんなテロリスト風情に"ろくでもないカードばっかりの"なんて言われるのはちょっと引っかかってな。実際、左近さんは1期生の中でもずっと生き残ってきていた歴戦の隊員だった。いくらテロリストでもあんなしたっぱにやられるようなヘマは考えにくい」
「つまり……左近さんはただデュエルで負けただけじゃなくて、その時に何かが起きてたってことですか」
「私はそう考えている。左近さんからの救援連絡がなかったのも引っかかるしな。左近さんが一体どんなカードを使っていたかまでは奴には聞けなかったが……もしかするとジェネシスはとんでもない力を持ってたりするのかもしれないな」
どんなに強いデュエリストでも、負かせるほどの力を持っているのだとするとそれは脅威の他ない。
その実態が掴めない限り、我々SFSに勝機は回ってこないってことか。
「それを解明しないと、左近さんの二の舞になってしまいますね」
「その通りだ。だから私の方でジェネシスの調査とは別にその件についても調べてみようと思っている。繋吾ももし何かわかったら私まで連絡をくれると助かる」
「わかりました。何かわかったら連絡します」
「ありがとう。じゃあ私はそろそろ行くとするよ。明日は頑張れよ、応援してるぞ繋吾!」
「はい、ありがとうございます」
赤見さんはそう言うと立ち上がり、俺に手を振りながら部屋を後にした。
赤見さんが話していた今の話。
ろくでもないカードばっかり使っていたってことは、左近さんのデッキの内容が入れ替わっていたということかもしれない。
左近さんのデッキ……それに何かがあったのは間違いない。
きっとそれが原因で仲間への救難信号も出せなかったのだろう。
インターネットで何かそういう事例がないか、調べてみるか……。
俺はデュエルウェポンでインターネット閲覧機能を使用し、その内容について調べることにした。
ーー気がつくと外は暗くなっており、夜となっていた。
何かに集中すると時間が経過するのは本当に早い。
インターネットのあらゆる場所を探したり、他の民間軍事組織の調査記事やSFSの内部ネットワークの情報を読み漁っていたが、結局例の事件に繋がりそうなものは見つからなかった。
そもそもジェネシスという組織自体があまり解明が進んでおらず、国防軍も手を焼いている状況だ。
インターネットで簡単に調べられるレベルであれば、今頃壊滅にまで追い込めているだろう。
ただ、わかったこととしては、10年前に発生した国防軍とテロリストの総力戦。それを機に活動が明確に判明した組織であり、その時に世界で初めてデュエルウェポンを使用し、兵器革命を起こしたのもジェネシスであるということ。
そして、5年前の大襲撃の首謀者であり、先日の大襲撃においても同様に首謀者であること。
わかったのはこれくらいだ。
大した情報ではないのかもしれないが、ここまで探すのにも随分と時間がかかった……。
この程度の情報なら赤見さんは既に知ってるようなものだろうし、わざわざ報告するものでもないかな。
それにしても、ずっとデュエルウェポンの画面を凝視していたものだから目が疲れた。
明日は大事な一戦だし、そろそろ寝る準備でもしておこうか。
椅子から立ち上がり背伸びをし、お風呂に入るべく風呂場へと向かおうとすると、デュエルウェポンより着信音が鳴り出した。
こんな時間に誰だろう。
画面には上地 颯と表示されていた。仕方がない、出てやるか。
「もしもし」
「お、繋吾。夜に悪いな。対戦表見たかお前?」
「あぁ、赤見さんからもらったメールに書いてあったやつだろう」
まぁ、俺はその前に赤見さんから直接聞いてたりするんだが。
颯の相手は確か……小早川第3副班長とかいう相手だったか……?
「お前が最後だなんて驚いたぜ……。何か白瀬班長に吹き込まれたりしてねぇよな?」
「冗談はよしてくれ。俺も一番最後で驚いてたとこだ。この桂希 楼ってやつは強いのか?」
「あぁそうだな……。SFS 3期生のエース。デュエル試験では勝率9割のとんでもないヤツだよ」
デュエル試験って前結衣が定期的に行うデュエル大会みたいなものって言ってたな……。
それでほとんど負けなしってことか。
だけど、1割でも負けているのならまだ勝機はあるだろう。
「ってことはかなり強そうなやつじゃないか。張り切っていかないとな」
「おいおい、勝とうとする心意気は大事だが、あいつは別格だぜ? 戦う際は気をつけた方がいい」
「どういうことだ?」
「あいつのデュエルは1ターンでライフを全部削りにくるってこともよくある。油断していると一瞬で負けて恥かくハメになるから気をつけろよ!」
1ターンキルってやつか。
いつも以上に防御面で気合入れていかないと本当にやばそうだ。
「なるほどな、警戒しておくよ。ありがとう」
「あぁ。白瀬班長が何を思って桂希とお前を当てたのかはわからないけど、もし勝てればお前の評価はうなぎのぼりだぜ。ピンチはチャンスってな!」
それだけ桂希ってやつを倒すことはすごいことなのだろう。
それを聞くとなんだかやる気が湧いてくる。
「そうだな、勝つつもりで挑むよ。それはさておき、颯の相手は小早川ってやつみたいだが……」
「まだ俺、小早川副班長には一回も勝ったことなくてな。今回こそは勝ってみせるぜ!」
過去にも戦ったことがある人みたいだ。
これはリベンジってわけではないが、是非とも勝ってほしいところだな。
「リベンジ戦か。頑張れよ」
「あぁ! 結衣ちゃんにいいバトンタッチができるように頑張るぜ……」
そういえば颯の次は結衣だったな。
颯としては無様なデュエルは見せられないはずだ。
「結衣の前で負けるなよ、颯」
「あったりまえだ! お前こそ結衣ちゃんの後で恥かくようなデュエルしたら承知しねぇからな!」
「まぁベストは尽くすよ」
「おっしゃ! んじゃまた明日な繋吾! 遅刻するなよ!」
そこで颯との通話は途切れた。
赤見さんの話とも合わせると、俺の対戦相手である桂希という人物は本当にとんでもないやつらしい。
だが、正直なところ不安に思う反面、奴がどんなデュエルをしてくるのか楽しみな気持ちもあった。
さてと、そういえば……ちょうど風呂に入ろうとしたところだったけ……。
早いとこはいって、明日に備えないとな。
俺は今度こそ風呂場へと向かい、次の日に備えたのだった。