決闘機動班とのデュエル交流会当日。
俺は特殊機動班のいつものメンバーと一緒に、デュエル訓練場の観客席に座っていた。
周りには決闘機動班の班員大勢に加え、昨日見た白瀬班長や莉奈の姿、颯や郷田と言い合いをしていた片岡ってやつの姿も見えた。
総勢すると50名は軽く超えているだろうか。
本当に我々特殊機動班とは規模が違う。
「あー……緊張してきた……」
俺の隣にいる颯が手をこすり合わせながら呟く。
「お前、緊張とかするやつだったのか」
「当たり前だろ! こんだけ人がいっぱいいるんだからよ……」
「こういうの場慣れしてるタイプだと思ってたよ」
俺の中での颯のイメージは、こういう時こそ自信満々に目だとうとするタイプなのかなと思っていた。
「逆だよ逆! 俺本番に弱いんだよ……。色んな人に見られながらっていうのは緊張するぜ……へへっ」
実質SFSのデュエル部隊の約半数に見られながらデュエルをするということだ。
無様なデュエルをすればそれこそ弱いという印象を付けられてしまうかもしれないし、気は抜けないデュエルとなるだろう。
まさか白瀬班長はそれを狙って俺たちの評価を下げるためにわざわざ交流会を……?
いや、赤見さんも言っていたじゃないか。今日は余計なことを考えずにデュエルに挑もう。
「おう颯。そんなに緊張してたら勝てるもんも勝てなくなっちまうぜ?」
郷田さんが颯の肩を思いっきり叩きながら言う。
「おい郷田! いてえよ!」
「お前がシャキっとしねぇからだよったく! それに比べて繋吾ちゃんは随分と落ち着いてるじゃねぇか」
「え? あぁ、俺の対戦相手がすごい強いみたいだから、どちらかというと楽しみって感じなんです」
「桂希か。決闘機動班の切り札。だけどまぁ恐れることはねぇよ」
郷田さんは俺の胸を小さく叩きながら言葉を続ける。
「繋吾ちゃんも俺たち特殊機動班の切り札になるかもしれねぇしな?」
「いやいや、郷田さん。俺がそんな切り札なんてことはないですよ」
苦笑いしながら俺は答える。
「まったく……。少しはデュエルの腕が立つからって、あまりいい気にならないでください」
はい、結衣様のお出ましです。
そんなにいい気になっているつもりはなかったが……。
「まぁ結衣。繋吾ちゃんはこれからの伸び代があるってこったよ!」
郷田さんがすかさずフォローを入れてくれた。
やはり郷田さんがいると結衣が相手でも会話がしやすいな。
「……そうですか。それならば少しだけ期待しておくこととします」
「あぁ。ありがとう結衣」
俺はとりあえず結衣に礼を言い、デュエルリングの方を眺めた。
デュエルリングには白瀬班長と見慣れない人物が1名立っている。そろそろ始まるのだろうか。
「おっと、そろそろ時間だな。私はちょっとデュエルリング行かなきゃいけないから、また後で。みんな頑張れよ!」
赤見さんは席を立つと、デュエルリングの方へと走っていった。
やがて赤見さんが白瀬班長たちと合流すると、ざわついていたデュエル訓練場が静かになる。
「それでは、そろそろ始めるとするかね。赤見班長」
「はい、神久部長もよろしいですか?」
「あぁ、構わない」
黒色のスポーツ刈りな髪型をした、真紅の如く真っ赤な瞳を光らせる人物。
今、その人物に対して赤見さんは神久部長と呼んでいた。
おそらくあの人が決闘機動部のトップっということかもしれない。
「えー、ただいまより決闘機動部内における決闘機動班と特殊機動班のデュエル交流会を開始いたします。主催は私、白瀬。そして特殊機動班からは赤見班長のご協力をいただき、開催実施となりましたことをこの場を借りて御礼申し上げます」
白瀬班長は堅っ苦しく進行を始めた。
できれば手短に……済むといいが。
「本日は、決闘機動部長の神久部長にもお越しいただいております。せっかくですので、神久部長。ご挨拶を」
白瀬班長はマイクを神久部長へと手渡す。
その後、神久部長は一歩前へ出るとマイクを口に近づけた。
「急なイベント開催だったようだが、これほどの人数を集めそしてデュエル交流会が行われることは素晴らしいことだ。普段はあまり戦い合うことのないSFS内の別の班とのデュエル。これはお互いにいい刺激を受けられる良い機会となるだろう。是非とも切磋琢磨し、良いデュエルを見せてほしい。以上」
神久部長の挨拶の後、会場には拍手が響き渡る。
俺も思わず便乗し、拍手を行った。
「それでは、あまり長話も退屈だと思いますので、さっそく第一試合からスタートさせていただきます。では、赤見班長。準備はよろしいですかな?」
「ええ。それでは各班の初戦の方は準備をしていただき、デュエルリングまでお越し下さい」
そのアナウンスを聞くと、郷田さんが席から立ち上がる。
「おっしゃ、さっそく行ってくるぜ!」
「負けんなよ! 郷田!」
「頑張ってください」
「郷田さん、ファイトです」
俺たち3人はデュエルリングへ向かう郷田さんへとエールを送ると、郷田さんはガッツポーズを俺たちへ見せながらデュエルリングへと向かっていった。
初戦の対戦相手は確か先日結衣と戦っていた莉奈だったか。
相手もかなりの実力者だ。どちらが勝つか読めないな。
しばらくすると郷田さんと莉奈の二人がデュエルリングで対峙し、デュエルウェポンを構える。
「郷田副班長さん、一昨日ぶりですね!」
「そうだなぁ野薔薇ちゃん。昨日できなかった分、今日はめいいっぱいデュエルさせてもらうぜえ」
「ふふっ、力だけが全てじゃない。それを教えてあげますよ! 郷田さん」
「こまけえこたぁ関係ねぇ! いくぜえ!」
「デュエル!」
ーー郷田さんと莉奈のデュエル。
郷田さんはいつもどおり大型モンスターを展開し、一気に莉奈を攻め立てるが、莉奈はそれを罠カードの効果で防いだり、ライフを回復する効果で耐え切っていた。
そして、郷田さんの攻めの手が緩んだ隙に、莉奈の【ブラック・ローズ・ドラゴン】の効果で郷田さんのモンスターが無力化されていく。
「これでトドメだー! 【憎悪の棘】を装備した【ブラック・ローズ・ドラゴン】で攻撃力が0になった【ナチュル・ガオドレイク】を攻撃! "ブレイジングローズ・ストリーム!"」
【ブラック・ローズ・ドラゴン】
ATK/2400→3000
【ナチュル・ガオドレイク】
ATK/0
「こいつはやられた! ぐおおおおおお!」
郷田 LP2500→0
郷田さんの負けだ。
初戦は決闘機動班に白星がついてしまったようだ。
「やったあ、勝った! 初戦はいただいたよ、郷田副班長?」
莉奈は郷田さんに向けてウィンクしながら言う。
「ちくしょう、若いながらやるじゃねぇか。俺のパワーが通用しねぇとは……」
「ふふっ、だからーデュエルは力だけじゃないですって! デュエルありがとうございましたー!」
両者向き合って礼をすると、それぞれ観客席へ戻り始めた。
「では初戦が終わりましたね、続きまして二回戦目の方、デュエルリングまでお願いします」
赤見班長のアナウンスの声が聞こえ、今度は俺の隣にいた颯が席を立った。
「ったく、郷田のやつ情けねぇ! それに莉奈ちゃんにウィンクまでされて羨ましいじゃねぇか!」
おいおい、それを大声で言うなよ……。
それに隣の結衣がなんかお前のこと睨みつけてるぞ……。
「さてと、俺が挽回してくるから見とけよ!」
「あぁ、頑張ってこい颯」
俺は颯に手を振りながら、デュエルリングへ向かっていくのを見送った。
対して席に戻ってきた郷田さんは少し落ち込んでいた。
「おう繋吾ちゃん、結衣。すまんかったな」
「いや、相手も強かったし、気にしないでください郷田さん。いいデュエルでした」
俺は少し落ち込み気味の郷田さんに励ましの声をかける。
「ありがとうな繋吾ちゃん。だけど、パワーだけってのも限界を感じてきてな」
下を向きながら郷田さんは答える。
先ほど莉奈にも言われていたが、もしかしたら自分のデュエルスタイルで悩んでいるのかもしれない。
「中途半端な力なんて脆いだけです。変に悩むくらいなら、もっとその力を極めた方がいいと思いますよ私は」
「結衣……。そうだな、俺はテクニカルなデュエルなんてできる気がしねぇ。お前の言うとおりかもしれねぇな」
「あなたのせっかくの取り柄なんですから、大事にした方がいいですよ」
まるで郷田さんにそれ以外の取り柄がないような言い方だが、本人は気を使って言っているつもりなのだろう。
郷田さんも特に気にしてないみたいだし、触れないでおこう。
「まったく俺もいい加減成長しなきゃならねぇってことだな! さてと、そろそろ次のデュエルが始まるみてぇだ」
郷田さんに言われデュエルリングを見ると、颯と対戦相手の人物が向かい合って立っていた。
「小早川副班長、前回のリベンジ。させてもらいますよ……!」
「相変わらず君は威勢だけはいいようだ。特殊機動班に行ってからは随分と頑張っているようだな」
「はい! 小早川副班長にも負けないようにと頑張ってきました!」
「ほう、それは面白い。では、見せてもらおうか上地くんの実力を」
「デュエル!」
ーー小早川副班長と颯のデュエル。
序盤颯は様子見も兼ねて比較的攻撃力高めの融合モンスターで攻め込むも、小早川副班長の操る"マシンナーズ"モンスターである何度も蘇る効果を持った不死身のモンスター、【マシンナーズ・フォートレス】に幾度となく阻まれる。
お互いにカードを行使していき、消耗しつくした時に、颯は温存していた一枚の切り札を発動した。
「俺は……【ジェムナイト・パーズ】で……【マシンナーズ・フォートレス】を攻撃! "ボルテック・ダガー!"」
「攻撃力の低い【ジェムナイト・パーズ】でわざわざ攻撃とは。手札は既に0枚……ということは、望みはその伏せカードにあるということか」
「あぁそのとおり……俺はこの時を待っていたぜ! リバースカードから速攻魔法【決闘融合-バトル・フュージョン】を発動! 融合モンスターが戦闘を行う時、戦闘行う相手モンスターの攻撃力分その融合モンスターの攻撃力をアップする!」
「なんと!」
【ジェムナイト・パーズ】
ATK/1800→4300
【マシンナーズ・フォートレス】
ATK/2500
「切り裂け! "ボルテック・ダガー!"」
「ぐおわ!」
小早川 LP3500→1700
「さらに【ジェムナイト・パーズ】の効果で、【マシンナーズ・フォートレス】の攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ! 小早川副班長!」
「くっ、見事だ。上地くん」
小早川 LP1700→0
颯が勝ったようだ。これで1対1。互角な状況だ。
彼としてもリベンジが達成できたんだ。喜ばしいことだろう。
「やったぜ、俺の勝ちだ! 少しは見直してくれましたか、小早川副班長!」
「あぁそうだな。君の意志の変化はわかったが、これだけで満足しないことだ」
「は、はい! もちろんです!」
「それではな、上地くん」
あの小早川って人、颯のことをよく知ってそうな口ぶりだったな。
決闘機動班時代に同じ班の人だったとか? 何かしらの繋がりがあったのだろうか。
「それでは続きまして、3戦目の準備をお願いします」
「次は私の番ですね。行ってきます」
赤見さんのアナウンスを聞いて、結衣が席を立つ。
「頑張ってこいよ、結衣」
「え、ええ。頑張ります……」
少し緊張しているのか、いつものような鋭さがない返事だった。
てっきり、"あなたのような方に応援される筋合いはありません"とか言われるもんだと思ってたが。
しばらくすると、スキップしながら颯が帰ってきた。
「見たか? 見てたか? 俺のデュエル!」
「あぁ、ちゃんと見てたから落ち着けってお前……」
「上地 颯のリベンジ計画! 見事無事達成ってやつだ! ハッハッハ」
随分と上機嫌だな。よほど勝てたのが嬉しかったのだろう。
「そういえば、あの小早川ってやつはどういう関係なんだ?」
「あぁー……。俺が決闘機動班にいた時の上司って言うんかな。同じ部隊の副班長だったんだ。つまり俺は元決闘機動班第3部隊所属ってことだな」
「そうだったのか。だが、なんで颯は特殊機動班に所属することとなったんだ?」
「それは……まぁ色々とあったんだ。ちょっとしたトラブルがな。それで俺は特殊機動班へ異動することとなった」
颯は真面目な表情をしながら言った。
どういう経緯なのかはわからないが、結果として特殊機動班に異動させられたってところか。
「ま、それも過ぎた話だ。気にすんな! それより結衣ちゃんのデュエルを見物と行こうぜ!」
「あ、あぁ。そうだな」
あまり人には言いたくないような何か問題を起こしてしまったってことなのだろうか。
触れられたくないみたいだし、これ以上聞くのはやめておこう。
それよりも次のデュエルがそろそろ始まる頃だ。
デュエルリングを眺めると、結衣と一人の男がデュエルの準備をしていた。
「それでは、始めるとしましょうか。佐倉さん」
「ええ。手加減なしでいきますよ」
「望むところですよ。いきますか!」
「デュエル!」
ーーデュエルの状況としては、結衣が相変わらず隙のないプレイングで対戦相手の坂戸副班長の攻撃を凌ぎ、鉄壁の布陣を作っていた。
守りながらも少しずつ坂戸副班長のライフポイントを削っていたが、坂戸副班長のカードが消耗したタイミングで結衣は決めにかかった。
「バトルです。永続罠【ゴーストリック・ロールシフト】の効果で、私の場の【ゴーストリック・ランタン】を攻撃表示から裏側守備表示に、追加効果によって、あなたの場の裏側表示モンスターを攻撃表示へ変えます」
「くそっ、私の【クリッター】が……。これでは守り切れませんね……!」
「終わりです。【竜血鬼ドラギュラス】で【クリッター】を攻撃! "ブラッディ・サンクション!"」
【竜血鬼ドラギュラス】
ATK/2400
【クリッター】
ATK/1000
「ぐおわあああ」
坂戸 LP1200→0
結衣の勝利でデュエルが終わる。鉄壁の守りで見事相手を翻弄したようだ。
「いい腕をしてますね。素晴らしいデュエルでしたよ佐倉さん」
「いえ、ありがとうございました」
素っ気ない会話を済ますと両者はデュエルリングから観客席へと戻り始める。
次は俺の番か……。いよいよだ、少し緊張する……。
「それではいよいよ最終戦! ここまで決闘機動班1勝、特殊機動班2勝と特殊機動班が有利な状況ですが、最終戦でどうなるのか。準備をお願いします!」
赤見さんのアナウンスも最終戦は気合が入る。
今現在、俺たちが優勢な状態だ。このまま勢いに乗ってぜひ勝ちたいところだ。
俺は覚悟を決めると席を立ち、デュエルリングへ向かうべく足を進める。
「頑張れよ繋吾。しっかりな?」
「繋吾ちゃん! 期待してるぞ!」
「あぁ、任せてくれ!」
郷田さんと颯の二人の応援に手を振りながら答え、俺は歩き出す。
するとデュエルリングへ向かう道中でちょうど戻ってくる結衣と会った。
結衣の表情は終わって安心したかのような安堵した感じだった。やっぱり緊張していたのかもしれない。
「お疲れさま。見事なデュエルだったよ」
「当たり前じゃないですか。あの程度どうってことないです」
口ではそうは言っているが、結衣は少しドヤ顔のような表情をしていた。
「だけど、こんな大勢いる前で、副班長相手に勝てるってだけですごいと思うぞ」
「ありがとう……ございます。それより、あなたこそ不甲斐ないデュエルしないでくださいね。せっかくここまできたのが台無しですから」
「大丈夫だ、あの桂希っていうのは相当強いらしいけど頑張るよ」
勝てるかどうかは正直俺も奴の噂を聞く限り自信がない。
だけど、例え負けるにしたとしても善戦はしたいところだ。
「まぁ……あまり期待はしてませんけど、せいぜい頑張ってくださいね」
相変わらず言い方はよくないが、彼女なりに応援してくれてるってことなのかな。
その気持ちは受け取ることとしよう。
「ありがとう、結衣。特殊機動班員として恥のないようなデュエルができるよう心がけるよ」
「え? あぁ……」
結衣は俺の顔をまじまじと見ながら微妙そうな反応をしている。
何か変なこと言ったかな。
「どうした? 何かあったか?」
「……あ、いえ。気にしないでください。それでは」
結衣はそう言うと観客席に走っていってしまった。
まぁいいや。早くデュエルリングへいかないと。
俺は少し足早にデュエルリングへと向かった。