デュエルが終了し、俺は桂希と向き合う。
「遊佐。いいデュエルだった」
いいデュエルか。
あいつが本当にそう思っているのかは定かではないが、俺としてはいい経験をさせてもらった。
「あぁ……。お前とのデュエルで俺もまだまだだなって痛感したよ」
「まぁそう落ち込むことはない。入隊したばかりでここまでのデュエル。そう簡単にできるものではない」
「だといいんだがな」
「ふっ、ではお先に失礼する。くれぐれも戦場では命を落とさないようにな。遊佐 繋吾」
桂希はそう言い残すと、デュエルリングを後にし観客席へと戻っていった。
本当の戦場では敗北すれば命を落とすこともある。
早急な救助を受けることができれば助かるかもしれないが、それでも安心はできないだろう。
今のままでは、仮に桂希のようなテロリストがいた場合、通用しないかもしれない。
もっとデュエルの腕を磨かないと。
これじゃ復讐どころか自らの命を失うことにもつながりかねない。
色んなことを頭に浮かべながら俺は特殊機動班の観客席へと戻った。
「惜しかったな繋吾! よくやったとは思うが、やはりまだ俺ほどの強さはなかったみたいだな!」
席に戻ると相変わらずの上機嫌で颯が声をかけてくる。
その様子を見るとちょっと落ち込んでいた自分の気持ちが少し馬鹿馬鹿しく思えてきた。
今だけはこいつに感謝するべきかな。
「ったく。お前は俺とそう変わらないじゃないか。それよりも負けてしまってすまない」
「気にすんなよ繋吾ちゃん。桂希のライフを残り700まで削ったんだ。もっと誇ったっていいんだぜ?」
「郷田さん……。だが、俺が負けたことで決闘機動班とは結局引き分けに……」
「大丈夫だ、負けちゃいないんだ。これなら白瀬の野郎も文句は言えねぇはずだぜ。むしろホッとしてるはずだ。俺たちが先に2勝してたんだからな! ハッハッハ」
郷田さんは愉快そうに笑った。
だけど、当人は俺と同じ負けた組だったが。
「まったく。郷田さんも負けたのによく言いますよ。遊佐くん、勝った私たちに感謝することですね」
「へへっ、俺と結衣ちゃんはなんといっても勝った組だからなぁー! 繋吾、今日から弟子にしてやってもいいぞ?」
「はぁ、あなたも調子のいい方ですね上地くん。難なら二人まとめて特訓でもしてあげましょうか」
「え……? 結衣ちゃんと特訓……!」
颯のやつまんざらでもない顔をしてやがる……。
まぁ彼にとっては幸せなのかもしれない。
特訓はありがたい話だが、俺自身自分を見つめ直したいところもある。
ちょっとここは遠慮しておこう……。
「ははは……。気持ちはありがたいが、遠慮させてもらうよ。少し自分のデュエルについて自分自身で見直してみたいんだ」
「ええぇー! おい繋吾! いいじゃねぇか! 結衣ちゃんと特訓できるチャンスなんだーー」
颯がなんか興奮気味に言ってるが、横にいる結衣に引っぱたかれてその言葉は途切れてしまった。
痛い痛い叫びながら、床を転げまわっている。
「うるさいですよ上地くん。それならこの話はやめておきましょう。先ほどのデュエル、負けはしましたがあなたにしては桂希さん相手によく戦っていたと思いますし」
「そうか……。そう言っていただけると助かるよ。特殊機動班のみんなに不甲斐ないデュエルしちゃ申し訳ないからな」
「どうやら少しは立ち場が分かるようになってきたみたいですね。ですが、負けたことは事実です。今後、桂希さん以外の決闘機動班の人に負けたら承知しませんから」
相変わらず結衣の言葉は厳しいが、いつものように睨みつけている表情ではなく、その表情は少し緩んだ表情だった。
今の桂希とのデュエルでの成果なのかはわからないが、少しは俺のことを認めてくれたってことなのかな。
あのデュエルは、個人的に自分の詰めの甘さが露呈してしまったようにも感じて恥じているところではあるが。
「まったくよぉ、結衣は厳しいやつだなぁ。相手はみんな副班長クラスだったんだ。むしろ、引き分けたってことは俺たちはみんなそれくらい強えってわけなんだぜ?」
「特殊機動班であれば当たり前のことです。それに郷田さんもあの尻軽女に負けるなんてがっかりです」
野薔薇 莉奈のことか。
あの子も十分に強かったし、無理はないとは思うが。
結衣はやたら彼女のことを毛嫌いしているみたいだ。
「わ、悪かったよ。あの手のこそこそ攻めてくるデッキ苦手なんだよ俺は。相性ってもんがあるだろ相性」
「ええ、それはあるとは思いますが……。あの女に負けるなんて……」
「結衣はあの野薔薇ってやつが嫌いなのか?」
結衣に問うと、鋭い目つきで俺の方を見てくる。
触れちゃいけなかったか……?
「当たり前ですよ。遊佐くんはなんとも思わないんですか? あの人の態度……」
「どういうことだ……?」
「少しはスタイルがいいからって、周りの人間に愛想よく振舞って……ちやほやされて……。それで成り上がったようなものじゃないですか。本性は薄汚い性格をしているやつのどこがいいのですかまったく!」
どこか裏はありそうな感じはあったが、悪い性格かどうかは決まったわけじゃない。
結衣は何をそこまでムキになっているのか。
「何か前にあったりしたのか?」
「いえ、別に何かあったわけじゃないですけど……。この間会っただけでもどんな人かよくわかりました。あの人は本性を隠している……」
「本性を隠しているかもしれないが、悪い人って決まったわけじゃないだろう?」
「はぁ、甘いですね遊佐くん。人を見る目がないですよ。あ、それはさておきそろそろ閉会式みたいです」
結衣に言われてデュエルリングを見ると、赤見さんと白瀬班長の二人が立っていた。
「デュエルされた両班の諸君! 素晴らしいデュエルであった! ここにいる隊員のみんな、良い刺激は受けられたかな? 結果は2-2で引き分けといったところだ。お互いに拮抗した実力というものは、一番成長に直結するチャンスでもある。本日デュエルを行った隊員は今後も更なるデュエルタクティクスの向上に務めていっていただきたい!」
白瀬班長の演説に決闘機動班からは大きな歓声が上がった。
俺も周りに合わせるように拍手をする。
「それでは、赤見班長からも一言お願いできますかな?」
「ええ、わかりました」
赤見さんは白瀬班長からマイクを受け取ると、一度咳払いしてからマイクを口に近づけた。
「デュエルされた隊員の方、お疲れさまでした。両班にとって今後のSFSとしての活動のためによい経験となったなら幸いです。我々SFS隊員にとっては、テロリストからこの世界を守ること。そして、デュエルモンスターズの適正化が求められています。我々はその先駆けとならなくてはいけない。デュエルウェポンを正しく使い、世の中を正しい姿へと戻す。そのためにも、最前線で戦うこととなる決闘機動部一丸となって頑張っていきましょう。私からは以上です」
赤見さんの演説も終わり、拍手が響き渡った。
世の中を正しい姿へと戻す……か。
デュエルテロが起きるようになったのが今から大体10年前か。その頃だと俺はまだ……9歳の頃かな。
元々この世界がどうだったのかは今となればあまり覚えていない。
小学生の頃は父さんとデュエルモンスターズでずっと遊び続けていた。
テレビで放映していたプロデュエリスト達のデュエルを見ながら、将来はプロになってみたいなと夢を抱いていたものだ。
だけど、いつの間にかデュエルモンスターズは兵器というイメージもついてしまって、なかなか遊ぶ機会というのも限られるようになってしまった。
人によってはデュエルモンスターズのカードを見るだけで怯えてしまう人もいるくらいである。
もしそのイメージを覆すのだとしたら、テロリストを排除するだけでは済まない。
何か大きなものが必要となってくるだろう。
それほど人間に植えつけられたトラウマというものは簡単には治るものではない。
「赤見班長、ありがとうございました。それではこれをもって、デュエル交流会を終了とします。各隊員、解散!」
白瀬班長の挨拶が終わり、デュエル交流会が終了した。
決闘機動班の人たちはそれぞれ思い思いの感想を述べていたり、すぐさま訓練場を後にしたり、様々だ。
「いやあ、たまにはこういうのもいいもんだな! デュエル試験とは違ってちょっとお祭り気分で楽しめたぜぇ」
郷田さんは両腕を伸ばしてリラックスしながら言った。
「だけど、しばらくは勘弁だな……。あまり決闘機動班とは絡みたくねぇ……」
「なんだ? 颯。まだ根に持ってるんか?」
「馬鹿言え、もう気にしてねぇよ。気に入らねぇやつが多いってだけだ」
颯は少し表情を曇らせた。
「上地くんの言うとおり、私も決闘機動班の人とはあまり交流はしたくないですね」
「お? やっぱり結衣ちゃんもそう思う? そうだよねー!」
「……あなたと同意見なのは少し不本意ですが」
結衣の冷たい一言で颯は撃沈していた。
それにしてももう少し決闘機動班と歩み寄ってもいいのかなと俺の立ち場からでは思うところだ。
「よー、お前らお疲れだったな! いいデュエルだったぞ!」
気が付くと赤見さんが手を振りながら観客席まで来ていた。
「おうおう赤見。固っ苦しい挨拶ご苦労だったなぁ」
「まったくだ。柄にもない挨拶させられて困ったもんだよ白瀬班長には。さてと……郷田は野薔薇副班長だったか。若いながら強かったろう? 決闘機動班では期待の星らしいぞ」
「なるほどなぁ、最近の若いもんはなかなかいい腕をしてるもんだ……。俺様も負けてられんわな」
郷田さんはしみじみと頷きながら答える。
「あぁ、これからも頼むぞ郷田。そして、颯は小早川副班長か。ぎゃふんと言わせられたみたいでよかったじゃないか」
「そうなんですよ赤見班長! ずっと目標だった小早川副班長に勝てるとはもうこれほど嬉しいことはないっす!」
「それを自分の自信に繋げて、目指せ副班長だな! 颯」
「それもいいですけど……俺はこのまま特殊機動班にいた方がいいっすわ」
颯は真面目な表情へ一変して答えた。
よほどここの居心地がいいのか、それとも結衣がいるからなのか。真意はよくわからないが。
「それなら私としても心強いよ颯。結衣は坂戸副班長だったな。相変わらず隙のないデュエルだったよ」
「ありがとうございます赤見班長。私のデュエル、何か足りなかったところとかはありますか?」
「いやいや、非の打ち所がなかったよ。この調子で頼むな結衣」
「はい! 精進してまいります」
結衣が喜んだようないい笑顔をしている。
あいつのあんな表情初めて見た気がするな。
「そして、最後は繋吾。いきなりの副班長クラスとのデュエルで大変だっただろうが、いいデュエルだったぞ。桂希相手に善戦したじゃないか」
善戦したと言ってくれるだけでもありがたい。
自分にとっては、デュエルに精一杯でどんな経過だったかあまり覚えていないところだ。
「いや、その割には最後は派手に負けちゃってますから……。噂どおりとんでもなく強かったですよ桂希ってやつは」
「だろうな……。私も今日見て決闘機動班にもまだあんなやつがいたんだなと驚かされたよ」
決闘機動班でもトップクラスということに間違いはないだろうしな。
赤見さん達から見てもとんでもない腕なようだ。
「今日の経験を生かして、今後のデュエルに繋がるように頑張ります」
「あぁ、期待しているよ。繋吾」
「ありがとうございます」
赤見さんはいい班長だなと改めて思った。
一人一人にしっかり声をかけてくれるあたり、特殊機動班での仲間意識の強さがひしひしと伝わってくる。
「さて、では仕事の連絡だ。先ほど偵察警備班の宗像班長より、ジェネシスの関連の情報を掴んだとの連絡が入った。明日、特殊機動班室で偵察警備班と任務を一緒に行う救助護衛班との打ち合わせをすることになってる。午前10時からだ。各自やることもあるだろうがこれは重要事項だ。遅れずに来てくれ」
今赤見さんが言っていた偵察警備班というのは、現地でのテロリスト調査や警備。事前の戦場の偵察から決闘機動班の後方支援を担当している班だ。
調査している中でジェネシスの情報を掴んだってところだろう。
そして、救助護衛班は、SFS隊員や民間人の応急処置。避難者の護衛を担当する班だ。
特殊機動班の支援ということで、いつも任務には同行しているということなのだろうか。
「お、ジェネシスの情報を掴んだか! 繋吾ちゃん。近いうちに初任務が来そうだぜ?」
「いよいよですか」
我々特殊機動班の任務。それはすなわちテロリストとの交戦を意味する。
ようやく俺の奴らへの復讐が始まるということだ。
今まではただやられるだけで逃げ惑うしかなかったが、今度はこのデュエルウェポンがある。
必ず倒してやる。あの時、俺の父さんを殺した【覚醒の魔導剣士】を使用していたあの青年を。
「そういえば赤見。繋吾ちゃんはデュエルは十分できるが、それ以外のデュエルウェポンの使い方知ってるんか?」
「あ……」
赤見さんは思い出したかのように苦笑いをする。
それ以外の使い方とはいったいなんだろうか。
「遊佐くん。なにぼけっとしたまぬけな顔してるんですか? あなたも見たでしょう。デュエル以外でもテロリストがカードの力を駆使して色んなものを具現化している姿を。あなたが戦っている時に私が出した防御壁も同じですよ」
結衣がデュエルに乱入してきた時に使っていたバリア。あれは何かのカードの力だったということか。
それにあの【魔王龍ベエルゼ】を使っていたやつは【ファイヤー・ボール】とか具現化させていたな。
「そういえばそうだったな。だけどデュエルウェポンには自己防衛機能があるとか言ってなかったか?」
「そんな無敵な代物じゃないのですよこれは。もちろん体への外傷は防げますが、直撃を受ければ当然痛みとなって私たちの体へ負担をかけます。デュエルでダメージを受けるのと同じような感じですね」
デュエル以外でも仕組みはデュエルと同じ……といったところだろうか。
つまり、直撃は防がないといくら外傷はないとは言え、自分の体に大きな負担をかけてしまうということだろう。
「ですので、テロリストと交戦する時は、自発的にカードをデュエルウェポンにセットして、攻撃や反撃をする必要があります。といっても相手も同じことをしてきますから、やはり無力化するには一騎打ち……。すなわちデュエルをするのが第三者からも妨害もされませんので一番早いんですけどね」
デュエルだけが全てではなく、時と場合に応じてカードをデュエルウェポンで具現化しなければならないようだ。
いつテロリストからの奇襲を受けるかもわからない戦場だからこそ、身を守る技術だけは押さえておかなければならないな。
「ま、逆にだ。デュエルウェポンを持ってないやつからすると、それはもう恐ろしいもんだぜ繋吾。カードをセットするだけで化物から爆弾。天災までいろんなものが具現化しちゃうんだからな」
確かに颯が言うように俺も初めてのテロリストと戦う時は、デュエルウェポンがなくて絶望したくらいだ。
デュエルウェポンがなければ、デュエルを行うこともできなければ、身を守る手段もない。
一方的に具現化されたデュエルモンスターズの力に蹂躙される。これが銃や戦車のような従来兵器を過去のものとする兵器の力ってことだろう。
「だからこそ繋吾。そういった民間人を守るためにも私たちSFS隊員はデュエルウェポンの機能を駆使して防衛しなければならない。そういうことだよ」
「わかりました赤見さん。使い方も教えてくれると助かります」
「わかった。じゃあ明日の打ち合わせが終わってから午後にでもやるか。空いてるか?」
「はい、大丈夫です。お昼を取ったら訓練場集合ですかね」
「あぁそうするか。訓練場の予約は私が取っておこう」
赤見さんが教えてくれるのであれば間違いない。
なんていっても2期生という存在でありながら、ここまで生き残っている人だ。
「さてと、ちょっと話が脱線したが以上連絡だ。今日はみんなお疲れだったぞ。帰ってゆっくり休んでくれ」
俺たち特殊機動班のメンバーは赤見さんに軽く頭を下げると、その場から解散した。