ーー翌日。美味しそうな匂いがして目を覚ますと、目の前には料理が並んでいた。
トマトソースが絡めてあるパスタにコーンスープ。そして、脇には小皿でサラダも用意されていた。
どうやら治療室には飯を用意してくれるサービスか何かがあるみたいだ。
昨日早く寝てしまったせいか空腹だった俺は思わず目の前の料理を流し込むように食べ始める。
うまい。
SFSに入ってからも料理をまったくしない俺は普段はパンとかそういう片手で持てるタイプのご飯しか食ってこなかった。
こういったちゃんと調理されたご飯っていうのが久しぶりなのだ。
空腹の時に一度食べ物に手をつけたらもう止まらない。
あっという間に俺はその料理を食べ尽くした。
ごちそうさまと挨拶をし、俺は食器を綺麗に整頓する。
ちょうど食べ終わる頃、部屋に誰かが入ってくる音が聞こえた。
俺のベッドの周りには仕切りのカーテンがあるせいで、外の状況は確認できないため、誰だかはわからない。
治療班の人だろうか。
そんなことを考えていると俺のベッドのカーテンが開く。
颯と結衣だった。
「よー、くたばってる繋吾くん! 大丈夫か?」
颯に言われて思い出す。そうだ俺は昨日デュエルウェポンの練習で怪我をしていたんだった。
昨日の治療カードの効果が効いていたのか、既に痛みは綺麗さっぱりなくなっていた。
おかげさまで、怪我をしていたことなど忘れて料理にがっついていたわけだが。
「まったく。デュエルウェポンの訓練ごときで治療室送りになるなんて、あなたは自分のコントロールすらできないのですか?」
続けて、結衣が呆れたように言ってきた。
いや、それを言うなら赤見さんに言ってくれ……。俺はずっとギブアップしたかったんだ。
「ハハハ……。デュエルウェポンってのはほんと恐ろしい代物だよ」
「実戦だったらあなた死んでるかもしれなかったんですよ。よくもまぁへらへらしてられますね」
「ま、まぁ……その実戦で死なないために訓練してたんだから大目に見てくれ」
でもおかげさまで、本番もなんとかなりそうな気がする。
長年現場で活動している赤見さんが直々に教えてくれたんだ。
期待にはこたえてみせたい。
「あ、そういや繋吾。その飯どうだったか? やっぱりおいしかっただろう?」
「あぁ、味付けもちょうどよくておいしく食べさせてもらったよ。治療班の人たちって料理もできるんだな。特殊機動班にもそういう人がいればな……」
俺が何気なくそんな返答を颯に返していると、なんだかすごい殺気を感じた。
「あ……繋吾。それ……」
「ん……どうかしたか……」
「あの……それ私が作ったんですけど」
少し低い声で結衣が俺を睨みつけながら言ってきた。
この料理作ったの結衣だったのか……。
「え、あ……。これ結衣が作ったのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか! なんですかさっきの"特殊機動班にもそういう人がいれば"は! まるで私が料理ができない人みたいな言い方!」
知らぬうちに逆鱗か何かに触れてしまったようだ。まずいぞ。
何かこの場を切り抜ける方法は……。
「ここで食べ物出てくれば治療班の人だと思うじゃないか。悪気はないんだ結衣」
「まぁ……普通は治療班の人がご飯の準備はしますけど……」
ということはわざわざ結衣は作ってくれたってことか。
「あ、勘違いしないでくださいね。私は次の任務であなたに足を引っ張られたりでもしたら困ると思って用意したまでです」
彼女なりに怪我をした俺に対して気を使ってくれたのだろう。
言い方はアレだが、素直に感謝するとしよう。
「それは苦労かけたな。ありがとう」
「い、いえ……。大したことではありません」
「結衣ちゃん班員が怪我した時は、よくご飯作ってくれるんだぜ? ほんと元気出るんだこれが!」
興奮気味に颯が言うと、結衣は少しドヤ顔のような得意げな表情をした。
なんやかんや言いながら結衣も仲間思いのところがあるんだな。
「当たり前でしょう。この私が作る料理なんですから。早く治るように栄養面も配慮してますからね」
本当に早く元気になるようにと考慮して作っているみたいだな。
味を損なうことなく、うまく作るその技量は確かなものだ。
「料理はよくやっていたのか?」
「実家にいる時は、よく作っていましたから。なのでこういう機会にたまにはと思って作ったりしてるんですよ」
意外と家庭的なところもあるみたいだ。
結衣の知らなかった一面が見れた気がする。
「結衣ちゃんせっかくなら、今度から昼飯とかも作ってくれてもいいんだぜ?」
「お昼ご飯くらいは自分で作ったらどうですか? 上地くん。それに私が作ってあげているのは、あくまで任務で支障がないようにしてもらうためですから」
「そこをなんとか! たまにでいいからさ!」
颯は相変わらず押しが強い。
結衣の表情は少し呆れた様子であった。
「それにしても繋吾。もう体は大丈夫か?」
「あぁ、すっかりよくなったよ。明日は思い切り任務に望めそうだ」
「それならよかったぜ。あ、そうそう。赤見班長からの伝言があったんだ。今夜、20時から特殊機動班内の作戦会議をやるってさ。それまで繋吾はゆっくり休んでてくれよ」
もう体は大丈夫で今すぐにでも動ける状態ではあるのだが。
万が一があってもいけないし、ここはお言葉に甘えて夜までゆっくりさせてもらうとするか。
「あぁ、わかった。悪いな」
「私がご飯まで作ってあげたんですからちゃんと来てくださいよ。では」
「またなー、繋吾。じゃあ結衣ちゃん! 今日はデュエルを……」
颯は結衣ちゃんにお願い事するかのように両手を合わせながら言った。
「わかってますよ。明日に向けて容赦なく相手してあげます。デュエル訓練場へ行きましょうか」
颯と結衣はデュエルの特訓でもするようだ。
少し見てみたい気持ちがあるが、今日くらいはここでゆっくりしよう。
俺は医療室から出て行く二人を見届けると、再び瞼を閉じて眠りに入るのだった。
ーーしばらく時間が経ち、気が付くとあたりは暗くなってきていた。
今何時だろう。
そう思い、ベッドの脇に置いてある俺のデュエルウェポンを眺めると時計には19時30分と表示されていた。
そろそろ起きるとするか。
俺はベッドから体を起こし、腕を伸ばしちょっとしたストレッチをする。
だいぶ長いこと寝転がっていたから、体がどうもだるい。
まだ作戦会議まではまだ時間があるが、たまには早く行くのも悪くないだろう。
俺はベッドから出て、デュエルウェポンを腕に装着すると医療室の出入り口に向かって歩き出す。
「あ、遊佐さん。もう大丈夫なんですか?」
医療班の人が俺に声をかけてくる。
「はい、大丈夫です。色々とお世話になりました」
深く頭を下げ、再び出口へ方向転換しようとすると、医療班の人に止められた。
「あぁちょっと! 一応こちらにサインだけお願いします。手続き上必要なので」
俺はただここに寝に来たわけじゃなかった。
一応治療も受けたんだし、ちゃんと手続きはしないとな。
俺は医療班の人の前に行き、一枚の紙に自分の名前を書いた。
「治療した記録っていうのもずっと残りますから、あまり怪我しすぎないようにしてくださいね。評価にも響きますから」
そういうことか。あまりにも怪我が多ければ悪い評価となってしまうと。
治療っていうのもタダじゃないし、医療班としては少しでも減らしたいのが本音だろう。
「わかりました。今後気をつけます。では」
今後こそ俺は部屋の扉へ向かい、医療室を後にした。
さてと、集合は特殊機動班室でいいのかな。
今思えば颯のやつ肝心な場所を言ってなかったような気がする。
とりあえず特殊機動班室に行けば誰かしらいるだろう。
その前に……。さすがに着替えてから行くか。
昨日の訓練の時から着替えずに寝てたもんだから、また汚いだのなんだの言われかねない。
俺は一度自分の部屋に戻り、別の制服へと着替える。
ついでにシャワーくらい浴びたいところだったが、そこまでは時間に余裕がないな。
軽く洗面台で顔を洗うと、すぐさま特殊機動班室へと向かった。
なんやかんやで時間は既に集合時間の15分前。
早めに出ておいてよかった……。
あのまま医療室でのんびりしてたら、遅刻していたかもしれない。
部屋に到着すると中には結衣の姿があった。
よかった。今回は一番最後というわけじゃなかったみたいだ。
「あら、あなたにしては随分と早いですね。てっきり寝坊でもするかと思いました」
開口一番いつもの調子で結衣は喋りかけてきた。
「さすがにあんなに長時間寝てたら寝すぎて寝れないくらいだよ」
俺は苦笑いしながらそれに答える。
「服も……ちゃんと着替えたみたいですね」
「え? あぁ。こうでもしないとまた怒るだろ?」
「人として当たり前のことですからできて当然です。怒る手間が省けて助かりました」
人として当たり前の生活ができない人だっているんだから……。
しかし、そんな状況を生み出しているのもデュエルテロのせいだ。
今回の任務で、その恨みきっちりぶつけてやる。
「そういえば、颯とのデュエルはどうだったんだ?」
「何を聞くかと思えば……。私が負けたとでも思ってるんですか?」
「いや、違う。どんなデュエルだったかなって思ってさ。楽しかったか?」
俺の言葉を聞くと、結衣は少し驚いたような表情をした。
「え、楽しかった? そうですね……。楽しかった……のかもしれません。うん、そうですね」
結衣は言い聞かせるように答えた。
何かちょっと様子がおかしいが、颯のやつが何かしでかしたりしたのだろうか。
「どうかしたか……?」
「いえ、そういえば元々デュエルって"娯楽"だったんだなと思っただけです」
デュエルテロが蔓延しているこのご時世じゃ、その本来のあり方を忘れてしまうのも無理はない。
デュエルを用いて戦い、身を守っていくんじゃそれは娯楽とはかけ離れているものに違いないからな。
結衣とそんな会話をしていると、部屋の扉が開き、赤見さん、郷田さん、颯の3人が入ってきた。
「お、繋吾と結衣。既に来てたか」
「お疲れさまです」
赤見さんに声をかけられ、俺は軽く頭を下げ挨拶をする。
各々が適当に椅子に座るのを確認すると、赤見さんはデュエルウェポンを操作しながら喋り始めた。
「さて、全員揃っているな。それでは明日のジェネシスアジト襲撃作戦について説明する。まず、皆に現地の地図情報データと作戦内容について書かれたデータをメールにて送信するから確認してくれ」
しばらくすると、デュエルウェポンの通知音が鳴り出した。
俺も自らのデュエルウェポンを開きその内容を確認する。
そこには地図と作戦内容について書かれているデータがあった。
「まず今回の任務は、真跡シティイースト区にあるマンションの駐車場地下にあると思われるアジトの襲撃とそこにいるテロリストの拘束が目的だ。このマンションは入口が二つあり、一つはマンション正面にあるメインの入口。ここからはマンションのフロントへ向かうことができる。そして、もう一つは直接駐車場への出入りができる裏口だ」
地図を見ながら確認すると、主に車の出入り口となっているであろう大きめの入口が一つ。その入口の脇にはマンションのフロントにあたるところが隣接しており、おそらく警備員のような人物が常駐している場所だろう。
そして、二つ目の裏口は、今回怪しいと見ている倉庫の裏側に位置するところに抜けられる通路であり、人ひとりが歩ける程度の大きさである。
それなりに大きな駐車場であることから、おそらく利便性を考えて設置されたものだろうと想定はできるが、ここを通行する分にはあまり人目がつかなそうであった。
「今回の任務は4つの部隊に分かれて任務を行う予定だ。まず先行部隊。これは我々特殊機動班が受け持つ。合図とともに倉庫内へ潜入し、一番最初に乗り込み襲撃を行う。続いて第二部隊。ここは救助護衛班と偵察警備班で編成された第二の潜入部隊となり、先行部隊の後方支援や退路の確保。そして無力化したテロリストの処理を行ってもらう。次に外部待機部隊。この部隊も救助護衛班と偵察警備班で編成された部隊で、潜入は行わず外の駐車場付近での偵察活動や外部からのテロリスト増援が来た際の迎撃を行い、潜入している部隊が退路がなくならないようにするための部隊だ。そして最後はマンション近隣住宅街の警備部隊。これは決闘機動班が担当してくれることになっている」
我々は一番最初にアジトへ潜入して、テロリストを倒していくことが任務みたいだ。単純でわかりやすいが、かなり危険であることに間違いはない。
後方支援や難しいことは他の班が担当してくれるみたいだし、思う存分テロリストと戦うことができそうだ。
「我々の潜入任務は、敵のアジト内の構成がどうなっているかはわからない以上あまり作戦が立てられないのが厳しいところだ。基本的には敵にばれないように行動し、発見次第デュエルウェポンによる奇襲をかけていく方向で考えている」
「デュエルを挑まずにデュエルウェポンの力で無力化していくってことですか?」
「あぁそうだ繋吾。一度デュエルが始まってしまえば身動きがとりづらくなる上に敵に増援を呼ばれたらデュエルでの連戦はまぬがれないだろう。我々は少数である以上それはできる限り避けなければならない」
確かにデュエルはすぐに終わるものでもない。
その間に俺たちの存在がばれて包囲でもされたら、一体何連戦デュエルすればいいのか……ということになってしまう。
「今回はこのカードを用意させてもらった。あらかじめ皆に配っておこう」
赤見さんはそう言うと近くのカバンからとあるカードの束を取り出し、それぞれ班員のみんなに配り始めた。
「赤見、なんだこりゃ?」
郷田さんが首をかしげながら赤見さんに問う。
「これは装備魔法カードの【しびれ薬】だ。これをデュエルウェポンにセットして、具現化されたものをテロリストへ投げる。そうすれば下手に交戦しなくても相手を拘束することができるんだ」
下手に戦い合わなくても無力化できるってことか。
それなら相手が多勢でも奇襲攻撃で有利に立ち回ることができそうだ。
「なるほどなぁー……。だけどよ赤見。めんどくさかったらいつもどおり突っ込んでもいいんだろ?」
「あ、あぁ。まぁそこは郷田に任せるよ」
赤見さんは少し苦笑いしながら答えた。
なんというか郷田さんらしいといえば郷田さんらしいのかな。
「基本的には奇襲して無力化だ。あと、時と場合に応じて二手に分かれることも考えている。編成は私と郷田と繋吾。そして結衣と颯の二手だ。問題ないか?」
赤見さんの問いに対して、班員のみんなは頷いていた。
待てよ、普通なら班長と副班長である赤見さんと郷田さんが分かれてそれぞれ指揮を取るというのが自然だと思うが……。
みんな疑問に思わないのだろうか。
「赤見さん。郷田さんとは別々の班の方が指揮が取りやすいんじゃないでしょうか?」
「あ、いや……。これでいいんだよ繋吾。安心してくれ」
ちょっと赤見さんは微妙な顔をしながら答える。
何か事情があるのかもしれないな。まぁ気にしないでおこう。
「簡単だが作戦は以上だ。細かい指示は当日任務中に適宜指示を出すから聞き漏らさないでくれよ?」
「わかりました」
相手の力は未知数だ。
あまり出しゃばって班員のみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。赤見さんの指示に従って確実に任務をこなさなければ。
「何か質問はあるか?」
赤見さんが班員のみんなへ問うとしばらくの沈黙が流れる。
するとしばらくして結衣が口を開いた。
「今回の任務で……何かジェネシスの手がかりは掴めるんでしょうか」
「それは……。わからないが、敵のアジトへの潜入は久しぶりだ。今度こそ何か奴らの実態を掴んでやる……!」
赤見さんは右手を握り締めながら力強く答えた。
「まぁ結衣ちゃん。もし敵の偉い奴でも拘束できれば大手柄だ。そうすればきっと何かしらはわかるはずだと思うぜ?」
「そうですね……。赤見班長を狙う人の存在も分かればいいのですけど……」
今回の任務の発端は赤見さんを狙うテロリストの存在からだ。
その情報を掴める可能性は高いとは思う。
「それはやってみなければわからないな。だが、いずれにしても私たちがやることはいつもと変わらないさ。特に今回は初任務の繋吾もいるからみんな援護はよろしく頼むぞ」
「任せといてくださいよ赤見班長! 繋吾、俺たちの足引っ張るなよ?」
「あぁ、ベストは尽くすよ」
俺はそう言いながら颯に向かってグッジョブを送った。
「……この任務、誰も死なせやしない」
ふと小さく呟いたその赤見さんの目には力強い意志が宿っているようだった。