ーーここは決闘機動班の班長室。
すなわち、白瀬班長の部屋である。
先日行われた決闘機動班と特殊機動班のデュエル交流会の終わった後、この班長室には白瀬班長と桂希の姿があった。
当然、繋吾達は知るよしもない場である。
「白瀬班長。お聞きしたいことが」
「どうした楼。先ほどのデュエル交流会の話かね?」
「ええ。あの遊佐という人物。それなりのデュエルの腕はあるようでしたが、白瀬班長の言うような"特別な力"というものは感じませんでした。なぜわざわざ交流会を開いてまで私と奴をデュエルさせたんですか?」
桂希は疑問の眼差しを白瀬に向けながら言った。
「ふむ……」
「それになぜ私に奴の人間性を確認させるような指示を……。SFS入隊に必要な人格確認なら、特殊機動班に任せておけばいいでしょう」
「確かにお前が言うように、急な入隊者に対する人格確認なら配属先の特殊機動班に任せておけば問題ないだろう」
白瀬は腕を組みながら静かに答えた。
「だったらなぜその面倒を我々で……。彼のデュエルの腕は素人としては上々ですが、そこまで優秀な人物とも思えません。何か考えがあるのでしょうか白瀬班長」
「そうだな。そろそろお前にも話しておこうと思っていたところだ。楼」
白瀬は自ら座る椅子から立ち上がり、桂希に近づくと耳元に顔を近づける。
「ペンダントだよ」
「ペンダント……?」
桂希は白瀬から小さく囁かれた言葉に疑問そうな表情をしながら答える。
「遊佐 繋吾の身につけていたペンダント。あれにはな、特別な力が宿っている」
「特別な力……ですか。それはどういうものです?」
「そうだな。簡単に言えば"世界を滅ぼすほどの力"を秘めているもの……とでも言ったらいいだろうか」
「なんだと……! それは本当なのですか? にわかには信じられませんが……」
あまりの衝撃の一言に桂希は少し驚いたように白瀬に言った。
「まぁそう感じるのも無理はないだろう。現状は何も動きがないようだからな」
「なるほど……もし本当にあのペンダントにそのような力があるのだとしたら、そんな危険なもの放ってはおけませんね」
「あぁ、お前にはそのために所持者である彼の人間性を確認してもらったのだ。だが、問題はそのペンダントがテロリストの手に渡った場合だ」
「それこそデュエルテロ活動が拡大するばかりか、我々の手に負えなくなる可能性があるということですか」
「そのとおりだ。そこでお前にお願いがある」
白瀬は部屋の窓際に移動し、外を眺めながら言葉を続ける。
「彼を……遊佐 繋吾の護衛を頼まれてくれるかな?」
「護衛……。遊佐 繋吾をテロリストの手から守ってほしいということですか?」
「あのペンダントがテロリストの手に渡っては、SFSにとって非常にまずいこととなる。だが、このペンダントの話は極秘事項でな。だから表立って動くこともできない。そこで楼には秘密裏に護衛任務を受けてもらいたいのだ」
「白瀬班長。それならば奴からペンダントを奪い、我々で管理しておけばいいのでは?」
「確かにそれも一つの手段だろう。だが、色々と事情があるんだ。何よりも赤見の奴が黙っていないだろう」
桂希は少し考えたような動作をすると、不審そうに口を開いた。
「それは……赤見班長もペンダントのことを知っているということですか。そんな危険なものを知ってて何もしないとは、赤見班長は何を考えているのですか!」
「まぁ落ち着け楼。赤見の奴もきっと考えがあるのだろう。わざわざ特殊機動班に入隊させたのも何か理由があるはずだ」
「なるほど。もしかしたら我々と同じ考えなのかもしれませんね。それなら赤見班長にも協力を仰いでみるのはどうですか?」
「それはやめておけ!」
白瀬は桂希を少し睨みつけながら大きな声で言った。
桂希は少し驚いたように白瀬班長を見つめる。
「白瀬班長……?」
「それはナンセンスだ。……特殊機動班は我々決闘機動班のことをよく思っていないだろう? それは決闘機動班の一部の班員も同様だ。だからこそ特殊機動班とは適度な距離を置くのが一番なのだよ」
「なるほど……。確かに決闘機動班内では特殊機動班の廃止を求める声も上がってますから、赤見班長と白瀬班長が組むとなると混乱が起きる可能性がある……ということですか」
「さすがは楼。物分りがよくて助かるな。さて、話を戻すがどうだ? 遊佐 繋吾の護衛、頼まれてくれるか?」
桂希は少し悩んだ様子だったが、決意を固めたのか白瀬の方に顔を向ける。
「状況はわかりました。私でよければ引き受けさせていただきますよ、白瀬班長」
「いつも悪いな楼。さっそくなんだが……先ほど偵察警備班長の宗像から出撃依頼があってな。どうやら特殊機動班主体でジェネシスのアジトに潜入するらしい。そこで、遊佐 繋吾に万が一がないように護衛としてお前にも出撃をお願いしたいのだ」
「わかりました。内容が内容ですから、私の部下は連れて行かない方がよさそうですかね」
「そうだな、単独で向かってくれ。個人で出撃するということはかなり危険な任務となろう。これを渡しておこうか」
白瀬は、桂希に2枚のカードを手渡した。
「白瀬班長。これは……?」
「SFS最新技術を駆使した空間移動カードだ。これをデュエルウェポンにセットすれば、一定の範囲内という制限はあるが、その場から瞬時にテレポートすることができる」
「つい先日、機器開発班が発表していたモノですか。1枚あたりのコストがとんでもないと聞いてましたが、こんなに大事なものいただいていいのですか?」
「心配するな。機器開発班の奴らには色々と理由を付けて譲ってもらった。もし任務中に非常事態があれば、そのカードを使って、お前と遊佐の二人だけでも逃げたまえ。お前のデュエルの腕は信用しているが、テロリストが何を仕掛けてくるかわからないからな」
「ありがとうございます。できる限り使うことないように努めます」
「頼もしい限りだな、はっはっは。一応当日は、周辺住宅街の警備として決闘機動班の出撃はさせるつもりだ。なにかあればそちらと連携を取ってくれたまえ」
「承知いたしました。それでは失礼します」
桂希は深々と白瀬に頭を下げると、部屋を後にした。
「今回の出撃。今まで見えなかったものが色々と見えてくるだろう。今から楽しみだな……」
白瀬は小さい声でそう呟くと、満足そうに笑みを浮かべていた。
ーー特殊機動班内の作戦会議を終え、自室へと戻ってきた俺は、明日の任務に向けて自らのデッキを机の上へ広げていた。
デッキの最終調整ってやつである。
この調整によって、明日のデュエルでの勝敗が変わってくるかもしれない。
勝敗が変わるということは、当然自分の命の危険にも関わってくることとなる。
一つ間違えば生死に関わるデュエル……。正直恐ろしいとは思っているが、俺は逃げるつもりはない。
なんといっても今までの俺の人生をめちゃくちゃにしてきた奴らに対する恨みをぶつける絶好の機会なんだ。
奴らから全てを失ってから5年間。俺は無力で力がなく、デュエルテロからもただ逃げることしかできなかった。
どんなに心の中では抗いたいと思っていても、武器もなければ動ける体力もなく、頼れる仲間もいなかったからだ。
だけど、今は違う。デュエルウェポンという奴らに唯一対抗できる武器があるし、志を同じくする仲間もいる。
そして、頼れる班長もいる。
俺の閉ざされていた5年間の日々。明日こそ切り開いて見せる!
そう決意を固めていると、デュエルウェポンから着信音が聞こえてくる。
渋々とデュエルウェポンを眺めるとどうやら電話の主は赤見さんのようであった。
「もしもし、遊佐です」
「夜分にすまんな、繋吾。初任務前で少し不安かなと思ってな」
俺のことを気にかけて電話してきてくれたみたいだ。
こういう気遣いは非常にありがたい。
「ありがとうございます、俺は大丈夫ですよ」
「それならよかった。もし何かがあっても私が守ってみせるから安心してくれよ繋吾」
「それは助かります。でも、自分の命は自分で守ります。テロリストの好き勝手にはさせない」
「頼もしい一言だ。……本当にあの人にそっくりだな……」
「あの人……?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
赤見さんの発言は少し気になるところだが、今はそれよりも明日の任務のことを考えないと。
「そういえば赤見さん、アジトの襲撃が久しぶりって言ってましたけど、前やった時はどういう感じだったんですか?」
「そうだな……。その時は結局戦うだけ戦って撤退って感じだった。相手には逃げられてしまって、こちらも負傷状態だったから追うに追えずに撤退って感じだ。そうならないためにも今回はうまく奇襲を仕掛けられればいいところだな」
総力戦になってしまったといったところだろうか。
それじゃ成果もそんなに得られないし、両者被害が出ただけという感じだろう。
「やはり、奇襲がうまくできるかが今回の鍵ってことですね」
「あぁ、そのとおりだ。だが一つ、引っかかっていることがある」
「引っかかっていること?」
「もしかしたらジェネシスの奴らは俺たちを引きずり出すために、わざとアジトの場所をバラしたんじゃないかなと思ってな。今まで調査をしてもジェネシスの情報はなかなか掴めなかった。それが例の小規模デュエルテロでここまで簡単に見つかった。何よりも国防軍が手薄な時期をあえて狙ってきているような気がするんだ」
「罠の可能性か……。赤見さんを狙う奴らなら考えそうですね」
「だが、逆に俺たちからすればチャンスでもある。罠にあえて乗ることで向こうの情報を掴めるのだからな。罠だとしても要は負けなければいいってわけだ」
仮に罠なのだとしたら、それこそ非常に危険な話だ。
確実に俺たちが不利な状況での戦闘となる可能性が高い。それでも赤見さんは勝算を見出しているというのか。
「罠なのだとしたら、こちらが不利なのは間違いないですよね……。それって大丈夫なんですか?」
「相手に手を打たれる前に奇襲に成功してしまえばこっちのものだ。スピード勝負ってやつだよ。そのためにも偵察警備班には今も現地に張り込んでもらって敵の動向は確認してもらっている」
なるほど。罠にハマる前になんとかしようということか。
テロリストからしてみても、いつ俺たちが襲撃に来るかはわからない。
奴らが潜入が気がついてからいかに迅速に戦いを進めていくかが勝負ということだろう。
「なるほど……失敗は許されないといった感じですね。奴らは……今のところ怪しい動きとかは見られない感じですか?」
「そうだな。例の倉庫から怪しい人間が出入りするのを何度か確認した程度で、何か迎撃の準備をしているような様子はなかったそうだ」
特に変わった動きはないみたいだ。
といってもアジト内で何が起きているかまでは確認できない以上、油断はできない。
「今のところは気づかれてないみたいですね。出たとこ勝負ってところですか」
「あぁ、アジト発見からそんなに日も経ってないからな。腕の見せどころだぞ? 繋吾」
「足は引っ張らないよう頑張ってみせますよ」
「ハハハ。無理だけはしてくれるなよ? じゃあ明日の日没後、よろしく頼むな」
「はい、赤見さんこそ無理はしないでください」
そうして赤見さんとの通話が終わった。
おかげさまで少し自分の中の気持ちが落ち着いたような気がする。
いよいよ明日。俺にとっての戦いが幕を開ける。
任務を無事遂行するためにも、気を引き締めていかないとな。
俺は机に並んだカードを眺めながら、引き続きデッキ調整を続けるのであった。