炎上している住宅街を駆けていく桂希と俺。
道中横たわる人を目にしながらも決闘機動班が奮闘している地域を目指して突き進んでいた。
既に近くでは国防軍と思われる制服を着た人たちがテロリストとのデュエルを始めているのが見える。
国防軍の人たちの力量がどのくらいあるのかはわからないが、この周辺はあの人達を信じよう。
しばらく走っていると、SFSの制服を着た人たちが見えた。
おそらく決闘機動班の人達だろう。
一人は負傷しているのか地面に横たわっていて、もう一人はその人を介抱している様子だった。
「あっ、桂希副班長! 来てくれたのですか!」
介抱している方の人物が桂希を見て声を上げた。
「あぁ、状況を教えてくれ。どうなっている?」
「決闘機動第4班の持ち場周辺でデュエルテロが発生しまして、そこから徐々に被害が拡散している状況です。我々決闘機動第3班は、持ち場のテロリストと交戦しつつ、こうして第4班所属の者の手当を行っています!」
「なるほどな。第3班なら……小早川副班長はどうしている?」
「持ち場のテロリストとの交戦での指揮を取ってます。なので、第4班の援護まで手が回っていない状況です」
「そうか……」
それを聞くと、桂希は少し考えた素振りを見せ、そして俺に向かって声をかけてきた。
「遊佐。第4班の救助に向かおうと思うがどうする? かなり危険な内容となるが」
どうするもこうするも救援要請をしてきたのは紛れもない決闘機動第4班の野薔薇副班長だ。
ここまで来て助けに行かないなんて選択肢はない。
「今更なにを言ってる。行くに決まってるだろう」
「ふっ、ならばいくぞ! 君、第4班の持ち場はわかるか?」
「はい。今そちらのデュエルウェポンに座標データを送りますね」
決闘機動班の男はデュエルウェポンを操作すると、桂希の画面に地図データが表示された。
そこにはここから数百メートル離れた位置が表示されていた。
「すまないな君。ここの持ち場は任せた!」
「はい! 桂希副班長達もお気をつけて!」
「ああ。さぁ遊佐、こっちだ!」
俺は無言で頷き、走り出す桂希についていく。
決闘機動第4班の持ち場はデュエルテロの発生箇所。
すなわちかなりの被害状況が想定される。
心してかからなければな……。
ーーしばらく走っていると大きな爆発音と男性の悲鳴が聞こえてきた。
かなり近い……前方の交差点を曲がった先だろうか。
交差点へ差し掛かり音が聞こえた方向を見ると、倒壊しかけている建物の脇にSFSの制服を着た集団と黒服に身を包んだ怪しい集団が対峙していた。
「遊佐、あれだ。決闘機動第4班の奴らだろう」
「だろうな、どう乱入すればいい?」
「どうやらもうすぐデュエルが終わるみたいだ。その終わったタイミングに割り込むぞ」
決闘機動第4班の人物達を見ると負傷して倒れている数名の隊員とそれを庇うようにして戦っている一人の隊員がいた。
対するは同じく数名ほどの倒れている黒服の人たちに、デュエルウェポンを構えた2名のテロリスト。
それだけ見ればある程度は互角に戦っていたと想定される状況ではあるが、問題は今のデュエル内容であった。
テロリスト LP2500
ーー裏ーー
ーモモーー
ー ー
ーーーーー
ーーーーー
決闘機動班員 LP500
そう、今にも負けそうな状況だった。
「終わりだ、【メタル・デビルゾア】でダイレクトアタック!」
「ひっ……やめろお……やめてくれえ!」
【メタル・デビルゾア】
ATK/3000
悪魔のような見た目に似せた機械仕掛けのモンスターが、その大きな右腕を決闘機動班員に向けて振り下ろした。
「ぐああああ!」
決闘機動班員 LP500→LP0
決闘機動班員はその攻撃を受け、後方の横たわっている他のSFS隊員と同様に地面へと倒れこんだ。
「いまだ、遊佐!」
桂希の掛け声とともにその場へ割り込むようにして俺達は駆け込み、テロリスト達と対峙した。
「くっ、新手か。いいだろう。ここでひねり潰してやろう」
「誰がお前なんかに……!」
俺は奴らを力強く睨みつける。
SFSの仲間を傷つけられ、街をめちゃくちゃにしやがったこいつらには痛い目にあってもらわなければ気が済まない。
「……桂希……副班長……!?」
「手当は後でしてやる。少しだけ我慢しててくれ」
「よか……た……」
決闘機動班員達は桂希の姿を見て安心したのか、そのまま目を閉じてしまった。
まだ息はある。ここで奴らを片付けさえすればこの人達は助けることができそうだ。
それにしても決闘機動班の奴らの反応を見ると、桂希という存在がいかに決闘機動班の中では信頼されているかというのがよくわかるな……。
「ちょうど相手は二人か。遊佐、一人は任せられるか?」
「あぁ、任せてくれ。ジェネシスの奴らを許してはおけない……!」
さっきのデントに比べればこいつは下っ端だろうし、大した腕もないはず。
油断さえしなければ問題なく勝てるはずだ。
「ふっ、勢い余って足元すくわれるなよ? 遊佐」
「桂希こそ、油断するなよ」
「とんだ余裕だな。いくぞ……」
「デュエル!」
そうして、俺と桂希はそれぞれテロリストを相手にデュエルを始めたのだった。
ーーー繋吾と桂希の空間移動を見届けた後。
私は結衣と颯、そしてデントを背負った郷田と共に来た道を引き返していた。
外の部隊……一樹達がどういう状況なのかはわからないが、相手は50人以上はいると言っていた以上、激戦は免れない状況だ。
ましてやデュエルに持ち込まれたんじゃ、いくら勝ち続けられたとしても体が持たない。
それにそれだけの規模のテロリストを動かしているんじゃ、さっきのデントみたいに誰かしら指揮を取っているものがいるはずだ。
そいつだけはなんとしてでも倒さなければ……。
そして、なんといっても住宅街の救援に回った繋吾が心配だ。
本人はやる気十分な様子だったが、人数の多い決闘機動班が苦戦している様子じゃ、かなりの被害が想定される。
桂希副班長がついているとはいえ、どうしても不安は拭えなかった。
私としては決闘機動班自体が不安要素ではあるのだが……しかし、あの桂希副班長は他のやつらとは腕前が大きく違うみたいだ。
それにこの状況下であれば、例え白瀬班長の差金だったとしても悪いことはしないだろう。
今は桂希副班長を信じて、私は目の前のテロリストをなんとかしなければな……。
そんなことを考えながら私たちは最後の倉庫へ抜けていく階段を登って行き、ようやく最初に捜索を始めた倉庫へと戻ってくる。
しかし、その倉庫へたどり着いた段階で私は言葉を失ってしまう。
「赤見班長……。これは……」
倉庫の中には多くの倒れたSFSの隊員。
そして、それを必死に手当する救助護衛班の人たちだった。
「これは……想定以上だな……」
その状況を見て思わず口にしてしまう。
決して楽観視はしていなかったが、これほどまでとは。
「赤見班長……! 戻ってきたんですね! 今すぐ救援を……! このままでは全滅してしまいます!」
救助護衛班の女性が私にすがりつくように声を上げる。
この倉庫の中だけでかなりの負傷者がいるようだ。
もはや外に何人いるのだかわからない。
「わかった。状況はどうなってる?」
「この倉庫をテロリストに包囲されてまして、デュエルの連戦状態です……。負けた隊員をこうして運び込んでますが、もう外で戦っている人も何人いることやら……」
なるほど。全滅するまで時間の問題ということか。
相手の狙いは私のはずだ。今すぐにでも打って出なければならないな。
「了解だ。結衣、颯。行けるか?」
「……はい。任せてくださいよ! ここで立ち往生してたら……繋吾に合わせる顔がないっす!」
「大丈夫……です。負けなければいいのですから……」
颯も結衣も口ではそう言ってるが、どこか震えている様子だった。
無理もない。生き残れるかもわからない戦場にこれから行くようなものだからな。
「赤見、やっぱり俺も行ったほうが……」
「いや、郷田。デントの拘束はお前にしか任せられない。だが、いざとなったら結衣と颯の救出だけは頼む……」
「そうか……。わかった! 結衣、颯。何かあったらすぐに俺様に連絡しろよ!」
その言葉に結衣と颯は力強く頷いていた。
そういう事態が起きなければ一番いいのだが。
「よし、じゃあいくぞ!」
私はそう掛け声を上げて、倉庫の扉を開く。
まず目に映ったのは、倒れたSFS隊員の数々。
そして、倉庫を守るようにしてデュエルをしている隊員の姿。
それに対するはデュエルウェポンを構えた数十名にも及ぶテロリストの姿だった。
「こいつは……どこから向かえばいいんですか。赤見班長」
「そうだな……」
颯の問いに対して言葉を失ってしまう状況だった。
さて……これはどうするべきか……。
周囲をよく見渡してみると前方で戦っているのは宗像班長だった。
「【メタルフォーゼ・オリハルク】でダイレクトアタック! "バーニング・ダイブ!"」
「ぐほあっ!」
テロリスト LP1200→LP0
さすがだ。なんとか勝ち続けている様子だ。
だが、その勝利後に宗像班長はその場で膝立ちとなり、下を向いてしまった。
肩を使って呼吸をしている様子から、体力的にかなりの限界が来ているようだ。
「仁くん! 戻ってきたんだね!」
この声はレンか。
声がする方を向くと紅谷班長が私の方へと走ってきた。
「お前は……大丈夫なのか?」
「私は今のところなんとか……。だけど、まだ相手は30人くらいはいるよ……。一体どうしたら……」
残存している戦えそうな味方は我々含めてもざっと10人いないくらいだ。
どう考えても不利な状況であることに間違いない。この戦いにどう勝算は見い出したらいいのだろうか。
もはや私の頭ではこの状況からの打開策は浮かばなかった。
ならば……私が取る行動は……少しでも多くの生還者を出し、かつデントを本部まで持ち帰ること。
それ以上の最善策は思いつかなかった。
「皆、よく聞いてくれ。私が前方の敵を引き付ける。その間に裏口に戦力を集中させ、そこから脱出するんだ」
「何を言っているの……? 仁くん」
「このまま全員ここで全滅するよりかは遥かにマシだろう。幸いうちの結衣と颯、郷田の3人は戦える状況だ。一箇所に戦力を集中させれば、裏口の戦力くらいなら突破も可能だろう」
元々この襲撃作戦を立案したのは私だ。
この作戦は最後まで自分が責任を負わなければならない。
「そんな……赤見班長! あなたを見捨ててここで逃げろって言うのですか! そんなことできません」
「俺も同意見です。赤見班長が残るのなら俺も残ります」
まったく、結衣も颯もこの状況で……いい奴だよお前たちは本当に。
だが、それじゃダメなんだ。戦場では非情にならなきゃいけない時がある。
昔からそうだ。特殊機動班っていうのは、任務の度に別れの連続だ。
私も入隊してから多くの人との"別れ"を経験し、何度も後悔した。
あの時、自分が迷っていなければ、あの人は死ななかったんじゃないかとか。色々だ。
結果は誰にもわからない。
だからこそ私は、もう後悔しないように自らの選択は大丈夫だと信じ込むことにした。
そうしなければ助かるはずのものも失うかもしれないし、何より自分自身が恐ろしくて仕方がないからだ。
だから……私の選択を信じてくれよ。
私はただ、自分の作戦でこれ以上他の人を失いたくないだけなんだ。このままじゃこの場にいる全員が死ぬ。
お前らだってわかってるんだろう……。結衣、颯。
「……特殊機動班なら自らの任務を遂行しろ! 特殊機動班の目的は私の命じゃなくて、拘束したデントを運び込むことだろう!」
思わず私は強い口調で怒鳴るように言いつけてしまう。
本当は戦うと言ってくれた仲間達にこんなことは言いたくはない。
だけど、こいつらの命を助けるためだ。仕方がないだろう。
「……仲間の命よりも優先すべき任務なんて、そんなのおかしい……と思います」
「結衣……」
こんな状況下でも、命が惜しくはないというのか。大した度胸だよ本当に。
いや、結衣は一度は全てを投げ捨てて生きてきたのだったな。
懐かしいなぁ。もう2年ぐらい前の話になるのか。
「もし、赤見班長がそう命ずるのであれば、私は特殊機動班員ではなく……SFSの一隊員として、ここにいるテロリストを殲滅する任務を選びます!」
まいったなぁ。何が正しいんだかわからなくなってきてしまったよ。
勇敢な若き特殊機動班の星が奮起しているというのに、私が逃げ腰でどうするんだ。
仕方がない。それが最善の策だと言うのなら私はそれを導くのみ。
それに……こんなにも貴重な仲間を……私は無下にはできない!
「わかった。お前らの覚悟はよく伝わってきた。それなら行くぞお前ら! 目標は前方! 正面突破する!」
「はい!」
「もちろんっす!」
ここまで来たらもうやるだけのことはやってやる。
もしかしたら勝てる可能性だってあるかもしれない。
「私も戦うよ。仁くん!」
「レン……お前……無茶するなよ?」
「ふふっ、私を誰だと思ってるの? 久しぶりに弾けさせてもらおうかな!」
こいつもこいつで……SFSの連中は良くも悪くも勇敢で真面目なやつばかりだな。
頼んだぞ……SFSの精鋭部隊達よ。
「進めええ!」
そして、私たちは大きな突撃号令と共に玉砕覚悟の勢いで宗像班長たちと交戦していた目の前のテロリストの元へと向かって走り出した。
「赤見……? お前……」
宗像班長の横を通り過ぎようとした時に、驚いた様子の彼に声をかけられる。
「一樹、お前は少し休んでいてくれ。ここから先は私に任せろ」
「任せろってお前……この数相手に……?」
「悪いな一樹。もう私にも何が正しい作戦なのかわからなくなってきてな」
「お、おい……お前!」
宗像班長の台詞を聞き終わらないうちに私は再びテロリストへ向かって走る。
やがて、10名ほどのテロリストがデュエルウェポンを構えながら私たちと対峙した。
「行くぞ、デュエルだ!」
私たちもテロリストに合わせるようにしてデュエルウェポンを構える。
そして、デュエルモードのボタンを押そうとした時、聞きなれない声が戦場に響き渡った。
「ちょっと待ってよ。ストップ」
その声はテロリスト達の後方から聞こえた。
そこにはウェーブのかかった黒髪に紫色の目を光らせた青年がおり、こちらに向かって歩いてきていた。
「君、赤見 仁だよね?」
その青年は突然私の名前を確認するように言って来た。
こいつも私を狙う奴だろうか。
無闇に正体を明かすのは得策とは言えないがどうするか。少し濁してみるか?
「どうだろうな」
「いや、わかってるんだよ赤見くん? 僕の顔、見覚えないかな」
やがてその青年が私の真正面へと来ると、その顔があらわになる。
「お前は……!?」
「やっと会えたね。探したよー赤見くん」
そいつは私の知っている人物だった。
かつて、私を追い何度も襲いかかってきたジェネシスの部隊の指揮官みたいな人物だ。
あの子供のような容姿からは想像つかないが、デュエルの腕は相当なものであることは知っている。
「お前か……私を探していたというのは。何が目的だ」
「まぁね。それも今から話そうと思ってたとこだから……まぁ、とりあえずまずはその腕の物騒なもの下ろしてよ。あ、君たちもね」
その青年に言われてテロリスト達はデュエルウェポンを下げる。
私もそれを確認してからデュエルウェポンを下ろすと、周りにいた結衣達も合わせるようにデュエルウェポンを下ろした。
「さーてと、まずは自己紹介だけしとこうか。僕はネロって言うんだ。よろしくね、赤見くん?」
「……要件はなんだ?」
「ちょっと無視? ひどいなぁ。まぁそれは置いといて……一つ交渉をしようと思ってね。もし君が乗ってくれれば、今このマンション周辺にいる僕の部隊は全て撤退してあげる。悪くはない話だと思うけど?」
「なんだと?」
マンション周辺全ての部隊を撤退させるだと?
そうしてもらえるのならば、私たちSFS隊員みんなの命は助かるし、ありがたい話だ。
だが、その代わりに求められる条件はやはり……私の身柄等だろうか。
それで皆の命が助かるのであれば仕方がないか。
「条件はなんだ?」
「条件は二つ。まず一つ目は君たちが拘束したあのお調子者。デントくんを返してほしい」
デントを引き渡すか……。
せっかく拘束した手柄ではあるが、仲間の命には変えられない。
持ち帰れなくても、奴らの名前と情報を得られただけでも十分な成果とは言えるだろう。
今はそう自分に言い聞かせるしかない。
「わかった。それともう一つはなんだ?」
「もう一つは……これは君を拘束して聞き出そうとしてたんだけど、今の方が君も言わざるを得ない状況だしちょうどいいと思ってね。緑のペンダント……どこへやった?」
「それは……」
やはり……ペンダント絡みか。わかってはいたが、どうするか……。
結衣と颯、それにレンはペンダントのことは知らない。そういう意味では教えてしまっても反対されることはないだろう。
だが、ペンダントをジェネシスが狙っているのは今の発言から明白。
そうなれば、今の所持者である繋吾の命が危ない。
適当に嘘でも言ってごまかすか?
いや、だが……いい嘘が思いつかない。こんなことなら何か場所をごまかせる嘘でも考えておけばよかったな。
「君が場所を知っているのはわかってるんだよ赤見くん。それを答えてくれなければ、僕はこのまま突撃号令を出して、君たち共々殺すだけだけど?」
ネロは鋭い目つきで私を睨みながら言った。脅しているつもりか。
なぜそこまでして奴らがあのペンダントを狙っているのかはわからない。
だが、あのペンダントをジェネシスの手から守ること。それが"前特殊機動班長"が私に託した最後の任務だ。
あのペンダントがジェネシスの手に渡った時、それは世界の破滅を意味するとか言っていたっけか。
それと引き換えにSFSの多くの仲間の命が今天秤にかけられている。
どうしたらいい。私はどちらを選べばいいんだ……!
「仁くん。その情報がどんなに大事なものかはわからないけど、情報を伝えたところであの人たちが本当に部隊を撤退してくれるのかはわからない。仁くんが戦うというなら私は戦う覚悟はできてる」
「レン……」
確かに奴らが本当に撤退するという保証はないが……。
くっそお……どうしたらいいんだ……。
仲間の命か世界の平和か……。
私は……私は……!
「さぁ、早くしてよ赤見くん?」
「私は……」
この時の決断が誤っていたとしても、誰も私を恨まないでくれ。
例えどんな使命が私にあったとしても……やっぱり私は自分に正直になりたい。
「……乗った。その情報を教える」
「仁くん! 大事な情報なんじゃないの!?」
「いくら大事だろうと、お前たちの命より大事な情報なんてない」
やはり私には仲間を見殺しになんてできない。
それにこのネロって奴は嘘をつくような感じには見えなかった。
なんて言っても一声で全てのテロリストの攻撃を止めるような男だ。かなりの力は持っているはずに違いない。
「賢い君ならそう言うと思ったよー赤見くん! 状況が読める人で助かった!」
「ただ、こちらからもお願いがある。順番はこちらのデントの解放、そしてそちらの部隊の撤退後に情報伝達。それでもいいか?」
仮に約束を果たしても部隊が撤退されないことも考えられる以上、私としては保険を張っておきたかった。
あいつらの一番の目的はペンダントであることに間違いはない。
それを最後の保険としておけば、安心できるはずだ。
「んーそうだなぁ。ま、それくらいはのんであげるよ。じゃあさっそくデントくんを引き渡してくれるかな?」
「了解した」
私はデュエルウェポンで郷田に連絡を取り、デントを運ぶように伝える。
郷田は私の声色で判断したのか、何も言っては来なかった。
この状況じゃ既に我々は敗北したようなものだ。郷田もそれを察したのだろう。
しばらくすると郷田がデントを背負いながら現れ、その身柄をネロに向かって渡した。
「これはー随分と無様だなデントくん。もうちょっと頑張ってくれないとー」
ネロは少し笑いながらその様子を見ていた。
こいつは、あのデントよりも上位に位置する人物なのか……?
見た感じは私よりも年下の少年であることには間違いなさそうだが……。
「あ、そこの君。このデントくん運んでくれるかな?」
そう言われた手下であろうテロリスト達は数人がかりでデントを運び出した。
ここまですれば十分だろう。私は先ほどの言葉を繰り返すようにネロへと言う。
「さぁデントは解放した。部隊を撤退してくれるんだろう?」
「おっとごめんごめん。デントくんの姿が面白くてつい忘れてたよ。それじゃ君たち。ここから撤退だ」
それを聞いたテロリスト達は無言で頷くとデュエルウェポンに1枚のカードをセットし、すぐに姿を消してしまった。
あれは……先ほど桂希副班長と繋吾が使っていた【空間移動】カードかなにかか……?
全ての手下に用意するなど、奴らの開発能力はいったいどうなっているんだ……。
気が付くと、アジト周辺のテロリストはネロ周辺のテロリストを除き、ほとんどいなくなっていた。
「じゃあ……最後に赤見くん。約束だよ、教えてくれよ」
このまま情報を教えずにネロと戦うという選択肢もある。
だが、あいつは……とんでもないデュエルの腕を持っている。
例えここで私がデュエルを仕掛けたとしても返り討ちに遭うのが目に見えていた。
ダメだ。戦えない。
この人物に対するトラウマとでも呼ぼうか。
過去にこいつからやられた仕打ちは私の戦意を喪失させるほどのものだったのだ。
片っ端から私の仲間を追い詰め、徹底的にデュエルで潰した上で、デュエルウェポンを使用した拷問を行う。
その残虐かつ非道なやり方は、当時まだ戦闘経験が浅かった私としては恐怖でしかなかった。
「緑のペンダントは……SFSの特殊機動班の……一人が持っている」
「誰だい。ここにいるのかな? 名前は?」
もう逃げようがないなこれは。仕方がない。
「ここにはいないが……遊佐 繋吾という人物だ」
「遊佐……! 繋吾! なるほどなるほど! そういうことだったのか……! ありがとうね赤見くん? あとそうだ、ちなみに周辺住宅街を襲撃してるのは僕の部隊じゃないからこのままだと大変なことになるよ? じゃあねー」
喜んだようにネロはそう言うと、彼もまたデュエルウェポンに1枚のカードをセットし、その場から消えてしまった。
「……はぁ……」
彼の姿が消え去ったことで私は安堵したのかため息をついてしまう。
これでよかったんだ……。大丈夫、情報を伝えただけだ。
まだジェネシスの手にペンダントが渡ったわけではない。
皆の命が助かったんだ。一度部隊を再編成し、ジェネシスに対抗するという新たな活路が見い出せただけでも、これは正しい選択なはずだ。
「赤見班長! 今の話……繋吾になにかがあるってことなんすか……?」
まぁ……今の話を聞いていれば気になるよな。
これは知らない方がいい。知っていても重荷が増えるだけだ。
「まぁな……。あいつの身に何事もなければいいんだが……」
このままじゃ確実に繋吾は狙われる。
守らなくてはならない。今すぐにでも救援に行かなければ。
「それならば上地くん。住宅街の方が大変です。今はそちらに救援に行かないと」
「そうだったな……結衣ちゃん。赤見班長!」
「あぁわかってる。繋吾のデュエルウェポン位置を目的地に設定してすぐに行くぞ。レン。お前は本部へ連絡して、負傷者の搬送を頼めるか?」
「わかった! かずくんも相当やばそうだったし、すぐに取り掛かるよ」
そう言うと紅谷班長は倉庫へと戻っていった。
「戦える偵察警備班の皆は私と共に来てくれ! 決闘機動班の救出に向かうぞ!」
周囲を見渡すと、何名かの偵察警備班員はまだ戦えそうな様子だった。
郷田も含めて8名か。
増援で行くならば十分な人数だろう。
待っていてくれよ繋吾。
ネロ達に狙われる前に絶対に本部へ帰還してやる。