遊戯王Connect   作:ハシン

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Ep36 - 終息

勝ったという安心感と、デュエルでの負傷のせいか俺は立っていられなくなり、その場に座り込んでしまう。

一体先ほどのデュエルで俺のデッキに何があったのか、そしてなぜペンダントが光りだしたのかは謎に包まれているが、とりあえず今は勝ったことが大事だ。

おかげさまで俺はこうして生きることができているし、野薔薇も助けることができている。

 

だが、このままじっとしているわけにはいかない。

目の前にはテロリストの中でも強敵と思われる人物の存在。

この好機を逃すわけにはいかない。捕縛する絶好のチャンスなんだ。

 

「遊佐くん」

 

立ち上がろうと踏ん張ろうとした時に再び野薔薇が話しかけてきた。

 

「あなたってけっこう強かったんだね……。ごめん、わたし特殊機動班の人ってあまりいい印象なかったからさ。てっきり口だけで大したことないって思ってた」

 

「まぁ……実際俺はSFSに入隊してからそんなに経ってないし、今勝てたのもこのよくわからないペンダントの力だろう。お前の見込みは間違ってないよ」

 

「んもう! 人がせっかく褒めてるんだから素直に受け止めてよ! もしかして結衣ちゃんと一緒にいるせいで影響受けてる?」

 

野薔薇は少し頬を膨らませながら言った。

言われてみれば、調子に乗ったらすぐ結衣の奴に怒られたし、影響を受けてるとこはあるのかもしれないな。

 

「あー……。まぁそうだな。あいつにはあーだこーだ文句ばかり言われてるせいか褒められるのに慣れてなくってな」

 

「苦労してそうだね……。まっ! 私は結衣ちゃんと違って自分に正直に生きてるから! とりあえず今日は助けてくれてありがとうね、遊佐くん!」

 

んーなんというか普段こういうこと言われないせいか逆に調子が狂うな……。

結衣のやつだったら絶対に"私は助けてなんて言った覚えはありません"とか言ってきそうだ。

 

「あ、あぁ。にしても無事に勝ててよかったよ」

 

「よく勝てたよねほんと。あの男……今までのテロリストに比べてとんでもなく強かった。きっと幹部か何かなんじゃないかな……?」

 

「おそらくな……。だとしたらこのままじゃいられない」

 

「そうだね……」

 

そして、俺たちはメガネの男へと視線を向ける。

その先には横たわるメガネの男の姿があった。

なんとか立ち上がろうと腕を動かしてはいるが、あまりの負傷具合に立ち上がることは難しそうだ。

 

「とりあえずあいつを拘束しないと……」

 

俺はポケットに残っている【インスタント・ヒーリング】のカードを自分のデュエルウェポンへとセットする。

すると、体中の痛みが少しやわらいだ。鎮痛剤のようなものなのかな?

同時に治療もしてくれるのなら助かるが……。

 

「野薔薇、立てるか?」

 

「……んー……。ちょっとキツいかも」

 

【インスタント・ヒーリング】を使っているとはいえ、野薔薇はデュエルで負けた側だ。

かなりの傷を負っているに違いないし、体がうまく動かないようだった。

 

「そうか。ちょっとだけ待っててくれるか? あいつを拘束したら俺が肩を貸すから一緒に撤退しよう」

 

「わかった。一応念のため救難信号出しておくね。誰か近くにいるかもしれないし」

 

「あぁ。頼んだ」

 

桂希あたりでも来てくれれば一番助かるんだが……。

そもそもこの近辺で戦えそうな奴って桂希しかいないような気もするが。

野薔薇の班員もみんなやられてそうな感じだったしな。

 

俺はメガネの男へとゆっくり近づいていく。

拘束自体はデュエルウェポンで適当にモンスターを召喚してそいつに捕縛してもらえばいいだろう。

テロリストと遭遇しない限りはそれで撤退できるはずだ。

 

残り5mくらいに差し掛かろうとした頃だろうか。

足音のようなものがメガネの男の後方から聞こえてきた。

誰かが来ている……? 急がなければ。

 

俺は急ぎ、手元にあった【ジャンク・シンクロン】をデュエルウェポンにセットした。

 

「【ジャンク・シンクロン】! この男を拘束してくーー」

 

「"ルナレイト・インフィニティー・バースト!"」

 

俺が指示を出す間もなく、眩い赤白い光線が【ジャンク・シンクロン】に被弾し、消滅してしまった。

 

「誰だ!?」

 

「まったく"オリバー"? こんなとこで負けるなんてだらしがないんだから」

 

突如メガネの男を庇うように茶髪のロングヘアーに真っ白のワンピースを着た女性が現れる。

 

「……"リリィ"ですか……。私としたことが。だが、良い収穫はありましたよ」

 

「それは後でたっぷり聞くから。ネロとデントのやつはもう撤退したって言ってたし、早く私たちも撤退するよ!」

 

デント……。それは赤見さんと戦っていたテロリストの名前だ。

ということはやはり目の前にいるこの二人はジェネシスの中でも重要な人物に違いない。

オリバーとリリィか。生かしておけるか!

 

「逃がさない! 俺とデュエルしろ!」

 

俺はデュエルウェポンを構えながらリリィと呼ばれた女性へ接近する。

 

「ダメダメ。近づくと怪我するよ?」

 

しかし、目の前には龍を模した機械竜が立ちはだかっていた。

それは桂希の使う【サイバー・ドラゴン】に似たようなモンスターだった。

 

あいつを何かしらのカードで倒さなきゃ近づけない。

強力なモンスターを召喚しなければ……。

 

そんなことを考えているうちにリリィはオリバーのデュエルウェポンに1枚のカードをセットする。

すると、オリバーは徐々に透明になっていくと、その場から消えてしまった。

あれは……俺と桂希が使った【空間移動】のカードに近いものかもしれない。

ということは……逃げられたか……。

 

「くそっ……!」

 

「さてと、本当に君戦うつもり? 後ろの仲間さんとか大丈夫?」

 

リリィに言われ後方を見ると、何名かのテロリストの姿が見えた。

今、野薔薇は無防備の状態だ。これでは殺されてしまう……!

 

「ふざけやがって……!」

 

リリィとデュエルで決着をつけたいのは山々だったが、俺は急いで野薔薇の下へと戻る。

 

「遊佐くん! ごめん!」

 

「気にするな! こいつはまずいことになったな……」

 

「うん、私がせめてデュエルできればまだよかったんだけど……」

 

野薔薇は歩くことすらできないほどの負傷だ。

ここはデュエルを避けながら野薔薇を背負って逃げるのが一番の得策か……?

 

決断したら行動あるのみ! 俺はデュエルウェポンへ複数のカードをセットした。

 

「来い! 【源竜星ーボウテンコウ】! 【邪竜星ーガイザー】! 【輝竜星ーショウフク】!」

 

掛け声と共に3体の竜が出現し、俺と野薔薇を庇うようにテロリストに向かって咆哮を上げた。

 

「今だ! 野薔薇。逃げるぞ」

 

「え……うん。わかった!」

 

俺は野薔薇に背を向け、おんぶする形で野薔薇を背負う。

俺の体は深夜続けての戦闘で万全な状態でなかったからか、少し足元がふらつく。

だけどこの程度で弱音を吐くわけにはいかない。俺と……野薔薇の命がかかっているんだからな。

 

「しっかりつかまってろよ……!」

 

「うん……!」

 

俺はできるだけの力を振り絞り走った。

野薔薇自体は俺より身長も低いし、そんなに重くはなかったが、やはり人ひとりを背負って走るなかなかに辛い。

奴らから逃げ切れるだろうか……。

 

走っているうちに徐々に辛くなってきて、速度が落ちてきているのがわかった。

後方からはなにかが破壊されるような音。おそらく俺の召喚した竜星モンスターたちは破壊されてしまったのだろう。

 

くそう。野薔薇を背負っている今じゃデュエルウェポンにカードをセットすることもできない。

 

後ろから足音が聞こえてくる。だけど振り向く余裕はない。

追いつかれてたまるか……!

 

「遊佐くん、大丈夫……?」

 

「はぁ……はぁ……」

 

もはや走ることも困難になり、俺の足取りはふらついてくる。

だけど、それでも後方から足音は聞こえ続ける。

 

そこで再度走ろうと力を入れようとしたが、俺の体は既に限界だった。

力を入れた足が踏ん張りきれずにそのままその場へ倒れ込んでしまった。

 

「……悪い、野薔薇。もう……走れない」

 

「謝らないで。これだけ頑張ってくれたんだから……」

 

あぁ。このままここでやられてしまうのか。

せっかくデュエルでテロリストを倒して、ジェネシスの情報を掴めてきたというのに……。

 

野薔薇を置いて俺ひとりで逃げてれば助かったのか?

仲間のために自らの命を犠牲にしてしまったのか俺は。

この選択は間違っていたんじゃないか……。

 

いや、違う。

前に決めたじゃないか。仲間の犠牲の元に成し遂げる復讐に意味なんてないって。

それが俺の決めた道。

非情になってまで、俺は復讐を成し遂げたいなんて思ってはいなかったはずだ。

ならば、この最期は俺らしいといえば俺らしいんじゃないかな。

 

「最後まで俺を信じてくれてありがとうな」

 

「そんなこと言わないで。既に死ぬ間際だった私に生きれるかもしれないって希望を見せてくれらんだから。それに死ぬのが一人ぼっちじゃないのなら寂しくない」

 

「野薔薇……」

 

戦場じゃ一人ぼっちで誰にも気づかれずに死ぬってこともあるだろう。

そうすれば俺たちはまだマシなのかな……。

 

「はぁ、世の中って残酷だね。なんで今日死ぬのが私だったんだろう……」

 

「まったく。死ぬだの死なないだの言ってる暇あるのなら少しは生きることでも考えたらどうですか?」

 

「それができたらって……え……?」

 

今の呆れたような冷たい声。

聞き覚えがあるぞ……。

 

「遊佐くんもそんなところで寝てないでとっとと起きてください。こんなところで死んでもらっては困ります」

 

「お前……結衣か……! なんでこんなところに」

 

「話は後です。テロリスト達は私たちに任せて逃げてください」

 

結衣は俺たちを見下ろしながら言った。

だが、その目はいつもの文句を言う目ではなく、少しだけ優しさのようなものがあった。

 

「ごめん、結衣ちゃん。逃げたくても体が動かなくて……」

 

「はぁ。決闘機動班 第4副班長ってのも大したことないですね。少しは特殊機動班を見習ったらどうですか?」

 

「うぐっ……今ばっかりは言い返せない……。お願いだから結衣ちゃん。助けて?」

 

「ふふっ。今日はいい日ですね。これで一つ貸しですよ? 野薔薇 莉奈さん?」

 

「わかった! わかったから……!」

 

結衣は少しだけ得意げに笑うと、野薔薇に肩を貸した。

あの野薔薇に対して優位に立てているからかはわからないが、すごく上機嫌そうだった。

 

「遊佐くんは……大丈夫ですか?」

 

「悪い。俺もちょっともう歩けそうにない」

 

かという俺も地面に座り込んだまま、立てずにいた。

 

「そしたらあそこの上地くんに……」

 

結衣が指を指す方を向くと、テロリスト達と戦っている赤見さんや郷田さん。そして颯の姿があった。

その他にもSFSの仲間が戦ってくれている。

 

よかった。このまま俺はここで死なずに済むのか。

 

結衣の声と視線に気がついたのか颯が俺の方へと走ってきた。

 

「おおおお、繋吾ぉ! 生きていたか!」

 

「あぁ。なんとかな」

 

「って繋吾なんだ。立てないのか?」

 

「お恥ずかしながら立てないほどに疲れててな。逃げるのを手伝ってほしい」

 

「ははあ。やっぱり繋吾くんはまだこの上地 颯に並ぶほどの実力はなかったということだな!」

 

こいつもなんでこんなにテンションが高いんだ……。

残念だが、今はツッこむほどの余裕もない。

 

「ははは……。もっと精進するよ……」

 

「おいおい、本当にやばそうだな繋吾。わかった。急いで運搬班の元へいくぞ! 指定したポイントにSFSへ帰還する車両が到着することになってる。そこへ向かうぞ!」

 

「あぁ、頼むよ颯」

 

俺は颯に、野薔薇は結衣に肩を貸してもらい、なんとか指定した場所まで歩き撤退した。

赤見さんの他にも決闘精鋭班や駐屯決闘班の増援部隊が来ていたことから、撤退については特に問題もなくスムーズにできた。

心残りとしてはせっかく倒したオリバーと呼ばれる男の拘束ができなかったことだが、こうして生きて帰って来れたことに今は喜ぶべきだろう。

こうして、俺の初任務であるイースト区アジト襲撃作戦は終息を迎えた。

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