――ここはどこだ。
寝ていたのだろうか。
あたりを見渡すと、僕は薄暗い部屋の中心に寝転んでいた。
窓の外からは幾度となく激しい光が視界に広がってくる。
そして、同時に激しい悲鳴と爆発音が絶えずに聞こえてきた。
怖い……。
あまりの大きな音に恐怖が込み上げてくる。
一体外では何が起きているのだろうか。
恐怖からか僕の頬には無意識のうちに涙がこぼれ落ちていた。
そんな僕にトドメを刺すかのように、大きな光とともに激しい爆発音が響き渡ると、僕の視界は真っ白な光が広がっていく。
「うわあ!」
今まで以上の衝撃に思わず悲鳴を上げてしまった。
「おい、繋吾! 無事か!」
男の人の声が聞こえると、僕のいた部屋の扉が開き、一人の男が部屋に入ってきた。
綺麗に整えられた青髪の短髪に紺色のスーツ。僕の父親だ。
一大事に父親に会えたことでまるで包まれるような気持ちになり安堵する。
よかった。きっと父さんなら何が起きていようと助けてくれるはずだ。
「父さん……!」
待ちわびた親の迎えに思わず抱きつく。
その体は大きく、そして暖かった。
「よしよし。さぁ繋吾、これから父さんが言うことをよーく聞くんだ」
父さんは優しそうな表情から一変し、真剣な表情で僕を見つめてくる。
なにかよくないことでもあったのだろうか。
「どうしたの父さん……?」
「デュエルモンスターズによる襲撃……デュエルテロはテレビなんかで見たことあるだろう。いまそれが……この街で起きている」
デュエルモンスターズの力を現実のものとするデュエルウェポン。
それを用いて犯罪行為を行うことをデュエルテロと呼んでいる。
目の前で起きている惨劇がそのデュエルテロということらしい。
先ほどから聞こえてくるのは大きな爆発音や悲鳴。デュエルテロが起きていると聞けば納得がいく。
「デュエルテロが? なんで……」
「それは……わからない。そんなことより、このままでは危険だ繋吾。今すぐに安全な場所へ避難するんだ」
「でも……どこに避難すれば……?」
「この部屋の隅に大きなロッカーがあるだろう? そこに隠れるんだ。あそこならテロリストに見つかる心配もないし、頑丈な作りだからデュエルモンスターズの襲撃を受けてもある程度は大丈夫だろう」
部屋の隅には人ひとりは入れそうな大きなロッカーがあった。
頑丈そうな金属製のロッカーであり、例え爆発が起きたとしても身を守ることはできそうだ。
「いいかい繋吾。そこに隠れたら音が鳴り止むまで絶対に外へ出てはいけないよ……?」
僕は隠れてやり過ごすにしても父さんは一体どうするんだろう。
できれば父さんと一緒にいたい。
こんな時に一人ぼっちでいるのは怖いし……嫌だ。
「わかった。でも父さんはどうするの? 一緒にロッカーに隠れないの?」
「父さんは悪いやつらと戦わなければいけないんだ」
僕の父さんはデュエルでテロリストと戦う仕事をやっている。
だから、今起きているデュエルテロでも当然仕事の依頼が来ているに違いない。
だけど、ここまで大きな規模のデュエルテロなんて今まで見たことない……。
いくら父さんがデュエルが強かったとしても……心配だ。
「父さんは……負けないよね?」
「あぁもちろんだ。これでも父さんはデュエルではほとんど無敗なんだぞ! あとそうだ、繋吾。これをお前にあげよう」
父さんはポケットからペンダントを取り出すと、差し出した。
それはエメラルドに輝く石が埋め込まれた金属製のペンダントであった。
「これは繋吾のためのお守りだ。このエメラルドのペンダントは持ち主を守ってくれる不思議な力がある」
「うわあ……きれい……!」
窓から差している月光がペンダントに反射し、綺麗なエメラルド色に輝いていた。
僕はそのペンダントを受け取ると、さっそく首からかけてみた。
「あと、このカードを渡そう。これはきっと繋吾の助けになってくれるはずだ」
続けて手渡されたカードは【セフィラ・メタトロン】という黄金に輝く鎧を纏った騎士のようなモンスターが描かれたカードだった。
見ているだけでもかっこいい。とても強そうだ。
「そのカードはモンスター同士の力を繋ぎ合わせる力を持っている。それを使って一人前のデュエリストになるんだよ繋吾」
「うん! このカードをうまく使いこなして今度また父さんとデュエルする!」
「あぁ……そうだな……」
父さんは目を細めながら歯切れの悪い返事をした。
「だけどこんな大切なものもらっていいの?」
「大丈夫だ。父さんは……持ってるわけにはいかないからね」
持ってるわけにはいかない……?
嫌な予感がして叫ぼうとしたが、父さんに口を塞がれ、先手を打たれる。
「大事にするんだよ繋吾。さぁ早く隠れるんだ!」
そう言うと、父さんは半ば強引に僕をロッカーの中に押し込もうとする。
「父さん!」
抵抗をしたが僕の力じゃ父さんの力にはとてもかなわなかった。
僕はなすすべもなくロッカーの中に押し込まれそのままロッカーの扉を閉められる。
「繋吾、救助が来るまで静かにしてるんだ! 絶対に出てはいけないからな!」
その言葉を最後に父さんの声は聞こえなくなってしまった。
追いかけようとロッカーの扉に手をかけるが、再び大きな爆発音が鳴り、僕は開けようとした手を止める。
今ここで出て行くのは危険すぎる。
近くにテロリストがいるかもしれない状況の中、僕は恐怖心でロッカーから動くことができなかった。
父さんが心配だけど……外に出たら爆発に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。
だから、今は大人しくこのロッカーの中で過ごすしかない……。
出たい気持ちをぐっと堪え、ロッカーの中で息を潜める。
そのうち音が鳴り止むと、安堵した反動で僕の意識はいつの間にか遠のいていった。
――父さんが部屋を出て行ってから数時間経った頃だろうか。
再び大きな音がして目を覚ます。
相変わらずの真っ暗なロッカーの中だ。
今の音は一体なんなのだろう。
何の音なのか気になるところだが、父さんが静かになるまではここから出てはいけないと言っていた。
今、ここから出て万が一があったら終わりだ。
こんなところで死にたくはない。
そう自分に言い聞かせながら、僕はロッカーの中で息を潜め続けた。
しばらくすると、外からかすかに人の声が聞こえた。
もしかしたら近くに誰かがいるのかな。
「レベル4の【召喚僧サモンプリースト】にレベル4の【白翼の魔術師】をチューニング! "剛毅なる光を放つ、真実の剣よ! 最善たる時を掴み、時空の狭間より来迎せよ! シンクロ召喚! レベル8! 【覚醒の魔導剣士】!"」
その声は若い青年の声だった。
発言していたシンクロ召喚というワード。
それはデュエルモンスターズでデュエルをする際に用いる言葉だ。ということはその人物はデュエルをしている……ということだろう。
「くっ、私のフィールドはガラ空き……!」
そして、続けるようにして大人の男性の声が聞こえた。
先ほどの青年と対峙している人物だろうか。
どこか聞き覚えのある声のような……気がする。
「幹部と聞いていたからそれなりに骨のあるデュエリストかと思ったけど、飛んだ間違いだったね。がっかりだよ」
青年は残念そうに不満をこぼしていた。
そろそろデュエルに終止符が打たれる頃なのかもしれない。
「しかし、まだ私が負けたわけじゃないぞ!」
だが、対戦相手もまだ諦めていないようだ。
デュエルは最後の最後まで何があるかわからない。
もう少し様子を見てみよう……。
「往生際が悪いよ。トドメだ、【覚醒の魔導剣士】でダイレクトアタック! "リインバース・スライサー"!」
青年がそう叫ぶと、金属が擦り合うような音が聞こえた。
きっとモンスターが持っている武器の音かな。
「詰めが甘いな! リバースカードオープン! 罠カード【リビングデッドの呼び声】! このカードは墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚させる!」
「へえ……?」
「再び蘇れ!【真竜機兵ダースメタトロン】!」
男性の声と共に、そのモンスターの装飾物であろうか金属音が響き渡る。
今、あの男は【ダースメタトロン】って言ってたか……?
【真竜機兵ダースメタトロン】……あれは僕の父さんが大事にしていたエースモンスター……。
聞き覚えのあった男性の声は……父さんだったのか……ッ!?
僕は気持ちを抑えられずロッカーの扉を開け中から飛び出す。
部屋の中には誰もいない。
どうやら声は建物の外から聞こえるようだ。
窓際へと移動し外を眺めると、そこには父さんの姿と対峙する黒髪の青年の姿が見えた。
「ふふふ……。僕は【覚醒の魔導剣士】で【真竜機兵ダースメタトロン】をそのまま攻撃! "リインバース・スライサー"!」
【覚醒の魔導剣士】
ATK/2500
【真竜機兵ダースメタトロン】
ATK/3000
青年の前に立つ【覚醒の魔導剣士】と呼ばれた双剣を持つ騎士のようなモンスターは両手に持つ剣を構え、【真竜機兵ダースメタトロン】へ突進を始める。
「血迷ったか、私のモンスターの方が攻撃力は上だ。返り討ちにしてやれ!【ダースメタトロン】!」
父さんは拳を前に突き出しながら力強く叫ぶ。
このまま返り討ちにするんだ! 【ダースメタトロン】!
「ダメだなぁ……。僕がそんな馬鹿なことすると思う? 手札から【幻想の見習い魔導師】の効果を発動。
僕の闇属性・魔法使い族モンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、このカードを手札から墓地へ送ってその僕のモンスターの攻撃力を2000ポイントアップさせる!」
【覚醒の魔導剣士】
ATK/2500+2000=4500
【真竜機兵ダースメタトロン】
ATK/3000
【覚醒の魔導剣士】の構える両腕の剣に、黒いオーラのようなものが纏いはじめる。
まずい……これでは父さんが負けてしまう……!
「ば、馬鹿な! 私のライフポイントは残り1000ポイント……!」
「バイバイ、SFSのお兄さん?」
男 LP1000 → LP0
鈍い切断音と共に【真竜機兵ダースメタトロン】が破壊され、同時に父さんの体は大きく吹き飛ばされた。
そんな……。父さんが負けるなんて……。
助けにいかなきゃ。今すぐに。
「父さん! 父さん……!」
思わず僕は窓から顔を出し叫んでいた。
自分でもやってはいけないことであることはわかっている。
外には危険なテロリストがいる。
だから、今ここで叫ぶことは、テロリストに対して僕の位置を知らせるようなものだ。
もしかしたら僕の命も狙いに来るかもしれない。
だけど……それでも僕は父さんを見殺しにはできなかった。
「けい……ご……。逃げろ。奴らに見つかったら終わりだ……」
父さんはまだ生きている!
今から救急車を呼べばまだ助かるかもしれない。
僕が囮になって、父さんを助けるんだ!
「そんな……父さん! 僕も戦うよ!」
僕の叫びを聞いたテロリストが、僕の存在に気づいたのか視線をこちらへと向ける。
その眼差しに思わず恐怖を感じたけど、これでいいんだ。
奴の標的が父さんから僕に変われば、その間に父さんは逃げることができる。
それに僕は足の速さには自信があるんだ!
「あれ? まだあそこにも生き残りが……? どうやらここの情報はデマだったようだし、あの少年を始末して帰るかな」
始末……。その言葉を聞いて思わず震えてしまう。
デュエルウェポンにはデュエルモンスターズの力を現実にする力がある。
大きなドラゴンから爆弾。なんでも具現化できてしまうんだ。
想像するだけでぞっとする。
だけど、あの青年とはそれなりに距離がある。
全力で走ればなんとか逃げ切れるはずだ……!
そんなことを考えていると、青年は左手に装着しているデュエルウェポンを操作し、何やら喋り始めた。
「聞こえるかな。避難勧告が出ているにも関わらず建物の中に居残る怪しい少年がいる。始末をお願いできるかな? 頼んだよ」
デュエルウェポンには通話機能があるようなことを聞いたことがある。
あいつの仲間が僕を……? これではあの青年の注意を引くことができない。
僕の嫌な予感は的中し、青年は再び父さんへ視線を戻すと、デュエルウェポンを構え始めた。
「んじゃ、君にはここで消えてもらうよ。じゃあね」
「ちくしょう……繋吾!」
「安らかに眠ってね? ばいばい!」
「ま、まて! 僕が相手に――」
僕が叫んだのもむなしく青年のデュエルウェポンが大きく光りだす。
そして、その光は父さんを包み込みはじめた。一体何が起きているんだ……。
やがてその光がおさまると父さんは地面にぐったりと横たわっていた。
「父さんに何をした! 父さんを返せ! 返してくれ!」
僕は力いっぱいに叫んだ。
何が起きたのかはわからないけど、父さんはそれ以降一切返事をくれなかった。
父さんは死んだのか? あのテロリストに……殺されてしまったのか?
絶望に震え、涙が止まらない。
強かった父さんが……自分にとって憧れていた父さんが……あんな青年に……ッ!
なんで……なんで何も悪いことしていない父さんが死ななきゃならなかったんだよ……!
怒りと悲しみに僕の心は震えていた。
あの青年だけは……絶対に許さない……僕から大事なものを……奪ったあいつだけは!
「今はまだ、耐え忍ぶんだ。若き少年」
突如として知らない男性の声が聞こえると同時に、後頭部に大きな衝撃が走る。
あの青年の仲間か……?
ダメだ……。意識が朦朧と……。
視界が霞んでいき、やがて僕の視界は闇へと沈んでいった。