野薔薇や賤機との一件があってから数日後。
前回の特殊機動班内の打ち合わせであった、国防軍への出張の予定が決まったらしく赤見さんより連絡が入った。
赤見さんの話によると、国防軍の方は例のジェネシスの情報については好反応だったようで、赤見さんの声色が少し明るかった様子が伺えた。
日程の調整も済んでいるとのことで、出張当日。俺たちはSFSの社用車に乗り、国防軍へと向かった。
「出張なんて初めてだぜ! わくわくするなあ!」
国防軍へ向かう途中の車内。
俺の隣に座る颯がまるで子供のようにはしゃぎ声を上げている。
「まったく、子供じゃないのですから。少しは落ち着いて乗っててください」
そして、案の定後ろに座る結衣からは鋭い言葉が突き刺さる。
「結衣ちゃんも出張なんだから少しは気を抜こうぜ! な? 聖華ちゃん?」
「え!? あ、はい! 出張ってわくわくしますよね!」
そう、もちろん監視という名目ではあるが、賤機の奴も一緒に国防軍へ向かっていた。
しかも席は結衣の隣である。
真面目で明るい雰囲気の賤機だったが、結衣がピリピリしているせいか少し緊張しているようだった。
「あなたたち……。大体なんで出張までついてくるのですか賤機さん。外まで監視の必要はないでしょう?」
「外で何かされる可能性もありますから! これも決定事項なんです……。私はいないと思って行動してもらって大丈夫ですので!」
「隣でこんなに大きな声で喋られては無理がありますよ……。くれぐれも余計なことしないでくださいね」
「だ、大丈夫……です!」
なんだか端から見ていると少し賤機が気の毒に思えてくるな……。
彼女も好きで監視に付いているわけではないし、まぁ……後で少し声かけてみるか。
「まったくお前らは若えなあ! 出張でわくわくできるのもはじめの数年だけだから今のうちに楽しんどけや」
続いて車を運転する赤見さんの助手席に座る郷田さんが笑いながら言った。
「そうだな、今日は別に戦いに行くわけじゃない。難しい話は私に任せてお前たちはゆっくりと国防軍施設の観光でもしてくるといい」
「やったぜ! ほら、赤見班長と郷田からもOK出てるんだからさ! 結衣ちゃん!」
「わかりましたから少し黙っててください」
赤見さんと郷田さんの発言を聞き、さらに颯は騒ぎ出す。
まぁ……俺も国防軍の施設は少しだけ興味があるな。
あと、国防軍の隊員はどれほどのデュエルの腕前があるのかも興味がある。
機会がもしあるのならばお手合せ願いたいものだな。
「繋吾も考え事なんてしてねぇで楽しんでいこうぜ!」
「え? あぁ。どんな隊員がいるのか楽しみだな」
急に颯から話を振られて少し驚く。
今日は戦いに行くわけじゃないし、俺ものんびりとさせてもらうかな……。
「繋吾くんはデュエル馬鹿だから、やっぱりデュエル申し込むのか?」
「おい、馬鹿は余計だぞ颯」
「そう言いながらも隊員が気になるってそういうことじゃねぇか!」
颯に笑いながら言われるが、図星だ……。
仕方がないだろう。俺にとって唯一自信を持ってできることとすればデュエルくらいだからな。
「遊佐さんってデュエルに対してまっすぐなんですね! 少し尊敬です!」
しばらくして賤機が目を輝かせながら言ってきた。
「そりゃどうも。単純にデュエルが好きなだけだけどな」
「まさにSFS隊員の鏡って感じですね! 今度よかったら私ともお手合せをーー」
「ちょっと、賤機さん。必要以上な介入はやめていただけますか? あなたは監視に来ているだけなのですから」
「え? あ、はい! すみません……」
結衣に待ったをかけられて賤機は結衣に頭を下げる。
おいおい、監視に頭下げさせちゃったぞ……。
これ逆に特殊機動班の悪評が広がってしまうんじゃないか……。
「結衣、さすがにちょっと賤機に言い過ぎじゃないか?」
「遊佐くん。この人は特殊機動班を監視しに来ているんですよ? 馴れ合いなんて不要なはずです」
「とは言っても賤機だって喧嘩しに来たわけじゃないだろう? 少しは仲良くしてやったらどうだ?」
「仲良くって……。裏で何を企んでいるかもわからないのに仲良くなんて……」
結衣の声は徐々に小さくなっていく。
すると隣の賤機が結衣の頭を撫でながら口を開く。
「大丈夫ですよ、結衣さん! 私、嘘をつくのが下手なので、裏で何か企むなんてできませんから!」
そして、ハキハキとした声で元気よく結衣に向かって言った。
すると結衣は撫でていた手を振り払うと顔を真っ赤にしながら、賤機の方を向く。
「ちょっと! 撫でないでください! ま、まぁ……賤機さんは単純そうですし……そんな悪巧みなんてできそうにないですしね。仕方ありません」
「ありがとうございます! よろしくお願いしますね! 結衣さん!」
「え、ええ……」
なんとも真っ直ぐすぎるくらいなせいかの賤機に押され、渋々結衣は了承したようだ。
結衣の皮肉をものともせずまっすぐと喋るその姿は、なんというか眩しいな……。
「じゃあ改めて……遊佐さん! 今度デュエルをーー」
「ちょっと! 本当にわかっているのですかあなた! 何も変わってないじゃないですか!」
「あれ? じゃあ結衣さんからデュエルしますか?」
「そういう話じゃないです! あなた馬鹿なんですか!」
そんなよくわからないやり取りをしている結衣と賤機の二人を見守りながら車は国防軍へと向かっていったのだった。
ーーーしばらくすると、国防軍の建物が間近に迫ってくる。
軍事基地と呼ぶに相応しい大きな鉄格子のフェンスに囲まれた建物と大きな広場。
そして、そこには戦車や戦闘機等の軍備も整えられていた。
デュエルウェポンが広まったとはいえ、戦車や戦闘機の力が強力なことに変わりはない。
もしデュエルウェポンを用いたとしても、十分な腕がなければやられる場合もあるだろう。
長期な戦闘の場合は、こういった旧型兵器が役に立つこともあるかもしれない。
「よし、ついたぞ。国防軍真跡支部だ」
赤見さんの声に俺たちは車から降り、入口へと向かう。
入口付近にはたくさんの軍服を着た隊員が敬礼をしながらお出迎えしてくれた。
いかにも軍隊という感じだな。つられて俺も隊員に向かって敬礼をしてみる。
「遊佐 繋吾くん! 敬礼の仕方がなってない!」
「びっくりした……颯かよ」
いきなり後ろから大声出されたもんだから思わずビクってなってしまった。
「敬礼はこうやるのだよ繋吾くん!」
颯はそう言いながら何度も俺に敬礼を見せつけてきた。
まぁ……ピシッとはしているが、俺と大差ない気がするぞ。
多くの国防軍の隊員に敬礼されながらも、俺たちは入口を潜りぬけ建物の内部へと入る。
すると前方から3名ほどの隊員が歩いてきた。
中央の一名は他の隊員とは違い、肩章が豪華になっており胸元の勲章のようなものも派手なものがついていた。
上官……と呼ばれる人物だろうか。
官帽を被っているためよく見えないが、おそらく坊主頭だろう。眉毛は太くキリッとしており、力強い印象を受ける。
「あなたが……赤見特殊機動班長ですね?」
「ええ。SFS特殊機動班長を務めている赤見 仁と申します。あなたは?」
「私は国家決闘防衛軍 第1決闘師団一等陸佐の魁偉と申します。お見知りおきください」
魁偉と名乗るその人物は頭を下げると、赤見さんと握手を交わす。
あまり国防軍の階級とかはよくわからないが、偉い人なのだろうか。
SFSでいうとどのくらいなんだろうな。
「ご丁寧にありがとうございます、魁偉一等陸佐」
「いえ、この度は危険な任務お疲れ様でした。かのジェネシスの情報を得たと聞きましたが……」
「はい、わずかな情報ではありますが、ジェネシス壊滅に向けて前進はできたかと」
「それは楽しみです。それでは長官室へ案内しましょう。こちらへ」
魁偉さんの案内の下、俺たちは長官室……つまり国防軍真蹟支部の最高責任者である人物に会うべく部屋へ向かった。
しばらく廊下を歩いていると、奥まった通路の先に大きな木製の扉が見えた。
どうやらあそこが長官室のようだ。
「つきました。こちらです」
魁偉さんはそう言うとドアをノックする。
「時田長官。SFSの皆様がいらっしゃいました」
「入れ」
中から少し年配のような人の声が聞こえると、魁偉さんは扉を開けた。
「失礼します」
俺たちは赤見さんに続き、ひとりずつ頭を下げて挨拶をしながら部屋に入る。
「ではSFSの皆さん、こちらの椅子へどうぞ」
魁偉さんに案内され俺たちは大きめのソファへと座った。
ふかふかしていていかにも高級そうなソファだった。
やはり国防軍はお金があるんだな。
やがて魁偉さんと時田長官と呼ばれた年配の人物が俺たちの対抗側のソファへと腰を下ろす。
時田長官の制服はまた魁偉さんとも違い肩章や胸元の勲章は金色の大きな花形のようなものがついていた。
きっと最高位の勲章なのだろう。
「時田長官、お初にお目にかかります。SFS決闘機動部 特殊機動班長の赤見と申します」
赤見さんの挨拶に続き俺たち特殊機動班員と賤機の5名は順番に時田長官へ挨拶をした。
時田長官は頷きながら俺たちを順に見ると満足そうに口を開く。
「若い者が多いようで、SFSも顔ぶれが随分とかわりましたな。おっと申し遅れました。私は国家決闘防衛軍の長官を務めている時田と申します。この真跡支部は本部の次に大きな防衛拠点とされていてね。真跡シティのど真ん中に位置する大きな軍事基地だ。ジェネシスの動向を伺うためにいまはこちらに常駐しているのだ。よろしく頼むよ」
長官といえば国防軍のトップに立つ人物だ。
本部ではなく支部である真跡シティにいるのも、ジェネシスに対抗するための戦力増強というところなのだろう。
その姿勢からしても国防軍のジェネシスに対する敵視具合が伺えるな。
「さて、赤見特殊機動班長。先日は、ジェネシスとの交戦ご苦労様だったな。SFSもかなり被害を受けていたみたいで増援が出せなかったことが悔やまれる」
「いえ、これはSFS単独で行った作戦ですから。お気になさらず」
「そうか。我々も遠方の出張作戦は無事に成功してね。部隊も真跡支部まで引き上げてきたからしばらくはジェネシスの件については協力させてもらおうと考えているよ」
「ありがとうございます。そこで今後の動きについてご相談が……」
「なるほどな。ここからは退屈に話になるだろう。魁偉、SFSの客人に施設内の案内でもしてくれたまえ」
時田長官は、魁偉さんにそう指示を出し、俺たちに目を向ける。
ここから先は赤見さん達とお話するということだろうか。
「結衣、颯、繋吾。せっかく国防軍に来たんだ。少しくらい見学しててもいいだろう。打ち合わせは私と郷田の二人で大丈夫だ。今後の動きについては、時田長官と相談した後で連絡するよ」
「わかりました、賤機はどうするんですか?」
「私は監視という名目がありますので、赤見班長の打ち合わせを逃すわけにはいきません!」
「そういうことらしい。まぁ気にするな、繋吾」
赤見さんにもそう言われ俺たちはソファから立ち上がる。
すると魁偉さんが長官室の扉を開け、俺たちに向かってこちらに来るよう手でジェスチャーをし始めた。
「SFSの皆さん。こちらへどうぞ」
魁偉さんの開けてくれた扉に足を運ぶ。
軍事基地ゆえにもしかしたら俺たちの知らないようなとんでもない兵器とか持っているかもしれないな。
少し楽しみだ。
「お前ら、迷子になるんじゃねえぞ?」
「郷田じゃねえからなるわけねえだろ! 行ってくるぜ」
出て行く間際に郷田さんと颯がちょっとしたいじり合いをする。
作戦中突っ走ってしまう郷田さんに言われたくない気持ちはわからんでもないな。
扉が閉まると、魁偉さんはさっそく国防軍の施設案内を始めてくれた。
最初に見た屋外の戦車やヘリコプター。そして、兵舎で休息をする隊員。訓練をする隊員と各々の活動している様子を順に見ていく。
SFSと違って人数規模が桁違いな分、何をするにもかなりの人数だった。
特にデュエル訓練場なんかは、デュエルリングがいくつもあり、あちこちでデュエルを行っていた。
デュエルしてみたかったが、魁偉さんがどんどん次の場所へと行ってしまうので、それはできそうになかった。少し残念。
続いて、研究室。SFSで言う機器開発班ってところか。
ガラス越しにしか見えず、詳細で何を行っているかまではさすがに見せてくれなかった。
やはり極秘の開発なんかもあるのだろう。
そして、最後に来たのは厳重な鉄格子の扉に守られた部屋だった。
他の部屋と違ってかなりのセキュリティにより守られているこの部屋はかなり異質な感じがした。
「これは……一体なんの部屋なんですか?」
「ここには大事な代物が保管してあります。中まではお見せすることはできませんね……」
魁偉さんはそう言うと、その部屋を通り過ぎていく。よほど大事なもので、何があるのかも伝えられないほどということなんだろうか。
扉には電子ロックのような端末が設置されているし、部屋全体が金属製の箱のようなものとなっている。
これならデュエルウェポンを用いた攻撃でもそう簡単には壊れないだろう。
すごく気になるところだが、機密事項のようだし諦めよう。
一通り見終わった俺たちは魁偉さんに休憩室のようなところへ案内された。
中には大きなソファーと高そうな机。
国防軍施設のミニチュアの模型等色々なものが飾られていた。
「さて、施設内を回ってお疲れでしょう? しばらくこちらで休んでいてください」
「ありがとうございます」
俺は魁偉さんに頭を下げる。
「長官との打ち合わせはしばらく時間がかかるでしょう。また、終わりましたらお声かけしますので。それでは」
魁偉さんはそう言うと部屋を後にした。
「いやあすごかったなぁ。戦車とかあんな間近で見たの初めてだぜ!」
「ずいぶんとはしゃいでましたね……上地くん」
「男はな、こういうのはやっぱり憧れるもんなんだよ結衣ちゃん! そう思うよな繋吾?」
「あぁ。見るだけでもやはり感動するものがあるな」
戦車とかデュエルリングの規模とかたしかにすごいものが多かったが、俺は最後のあの鉄格子の部屋が気になって仕方が無かった。
国防軍がわざわざ隠すようなものって一体なんなんだろう。
何か新種のとんでもない兵器でもあるのだろうか。
「遊佐くん、さっきから考え事してどうしたんですか?」
「え? あぁ……ちょっと最後の部屋が気になってな」
「最後? あぁ、かなり厳重なセキュリティが施された部屋のことですか。一体何があるんでしょうね」
「結衣も気になるのか?」
「気にならない……と言ったら嘘にはなりますけど。気にしてもしょうがないじゃないですか。見れないのですし。考えていても時間の無駄ですよ」
まぁ……確かにそのとおりだが……。
魁偉さんに頼み込めば見せたりしてくれないかなぁ……。
「ま、きっと大事なお宝とかでもあるんだろう? そんなことより繋吾、これすげーぞ! 本物の金でできたトロフィーだってさ!」
二人に言われ諦めがついた俺は、颯の発言に呆れながらも休憩室に置かれたものを眺めながら一息つくのだった……。