全身に強烈な痛みが走る。
これはデュエルウェポンによる体外攻撃に対する抑止力が失われた何よりの証拠だ。
体を起こそうとしてもうまく動かせない。
もう既に俺は逃げることはできねえってことだ。
せめて……意識ってやつがなくなってくれればよかったんだが……。
中途半端に生きていると、これからトドメを刺される際に更なる恐怖を味わうハメになる。
薄らと見える視界の中にデントの姿が見え、徐々にこちらへと近づいて来るのがわかる。
今の状態なら例え魔法カード【ファイヤー・ボール】を使われただけでも俺の命を奪うには十分だろう。
ましてや相手はジェネシスだ。
"吸収"ってやつをしてくるかもしれねえ。
されたことなんてあるわけねえから、どんな感じなのかは想像もつかないけどな。
はぁ。さっさと殺してくれよ。
これ以上、後悔したくねえ……。結局俺は……SFSに入ってからもなんにも成すことはできなかったんだ。
うるせえ奴に言われるだけ言われて。なにも見返すこともできずによ。惨めなもんだぜ。
「上地 颯……って言ってたな。お前」
デントの奴はデュエルウェポンを構えることもなく、静かに俺のことを見下ろしていた。
「特殊機動班……。こんなよくわからねえ班になんで所属してんだ?」
「……なにを……」
こいつ、いきなりどうしたんだ。
俺を殺すんじゃねえのかよ。
「まぁいい。質問を変えるか。お前はなんのために戦ってる? こんな命張って戦ってよ」
「それは……」
俺がSFSに入った理由。
それはもちろん俺自身の力を世界に示し、正真正銘のエリートになるため。
いや、違うな。元はといえばプロデュエリスト志望だった。
時代が時代だったからプロデュエリストへのハードルは非常に高かった。
デュエルなんて、今は破壊兵器だってイメージの方が強くなりつつあるしな。
俺はそのプロデュエリストの試験の際に、ライバルのやつにハメられた。
単純な話だ。カンニングをしたという偽情報を作り上げられ告発された。
それで俺のプロデュエリストへの道は閉ざされた。
だけど、俺はデュエルには自信があったし、この道を諦めたくなかった。
どんな形であれ、デュエルからは離れたくなかった。
だからこそSFSに入って、力を示して……。ヒーローになって。
俺をハメたやつを見返してやろうと……。そう思った。
もちろんSFS入った直後は順調で着実に実績を伸ばすことができた。
時期決闘機動班の副班長だと言われたほどだ。
だけどな。やっぱりこの世界は汚ねえよ。
俺の才能が気に食わないんだかなんだか知らねえが、とある任務中に偽情報を伝えられハメられた。
偽の退却命令が下され、退却したんだが、それを敵前逃亡として扱われ実戦では役に立たない臆病者って言われる始末だった。
結局みんな地位や権力が欲しいがために、自らの保身のために、目立つ他人は消し去ろうとしてくる。
今では少し反省しているが、俺はどっちかって言うと調子に乗るタイプだから、人の目にはつきやすかったのかもしれないしな。
もう誰も信じられなくなって、SFSもクビになりかけた時に、拾ってもらえたのがこの特殊機動班だった。
当時はもう廃止になるって噂ばかりだったが、あの時の俺にはぴったりだったかもしれない。
特殊機動班の任務は個々の力が求められるし、他の人たちと違って危険な任務ゆえに、目立った功績をあげることができる。
つまり、俺をハメてきた連中を見返すには最高にいい場所だってな。
俺が今もなお特殊機動班で戦い続ける理由はただ一つ。
どんな危険だとしても、そこで絶対に成功して……決闘機動班の奴らや、プロデュエリストの奴らを見返すため。
別にジェネシスがどうかとか、正直どうでもよかった。
大きな功績があげられるんならそれでな。
「俺は……世の中の連中に……俺の力を示すために……戦う……」
「ほう……? 悪くねえ……」
俺の回答を聞き、にやりとするデント。
なにを考えているんだか。
だけど、俺のその目的もここで潰えるわけだ。
「お前、ジェネシスの活動理由を知ってるか? ま、知ってるわけねえよな。お前の目的と似たようなもんだよ」
「っな……」
ジェネシスの目的が同じようなものだと……。
いくら世間を見返すためとはいえ破壊行動ってのはいくらなんでも頭がおかしいとは思うぜ。
「簡単に言えば、おかしい世の中を変えようってこったよ。お前はどう思う? 今俺たちがいるこの国ってのはよ」
正直、国規模で考えたことなんてねえけど……俺をハメてきた連中のことを思うと腐ってるとは思う。
だけど、それでも繋吾や結衣ちゃん。郷田の奴や赤見班長なんて信じれる奴らもいる。
どうなんだろうな。俺にとってこの国は。よくわかんねえや。
「一つ、取引をしねえか? 乗ってくれればお前の命は助けてやる。断れば殺すまでだが。お前も人間だ。よっぽどの正義感気取ってねえ限りは乗る方を選ぶと思ってるぜ?」
おいおい、それじゃ俺にとっての選択肢は一つじゃねえか……。
正直、今のままじゃ死んでも死にきれないくらいに未練が残ってる。
俺はまだ……生きたい。例えどんな内容だったとしてもだ。
「なんだよ……その内容ってのは……」
「ジェネシスの協力者になってもらう。なーに、やることはそう難しくはない。不定期にお前のデュエルウェポンに指示を出す。お前はそれに従ってもらうだけでいい」
「指示って……その内容が一番気になるんだが……」
「まぁ情報収集とかして報告してもらう感じだ。悪くないだろう?」
SFSの情報とかを売るってことか。
そんなことできるわけ……。いや、ここは乗ってそれを国防軍や特殊機動班に話せば逆にチャンスかもしれないな。
「やってくれるってことならお前のデュエルウェポンにはちょっと小細工させてもらう。お前が裏切ることができないようにな?」
さすがにそういうのはやってくるか。
ジェネシスの技術力はピカイチだ。なんて言ってもデュエルウェポンを生み出した張本人だからな。
国防軍やSFSの技術力じゃ到底及ばないだろう。
「少しでもお前が裏切るような真似をすれば、即座のそのデュエルウェポンが爆発する。まぁ、お前がデュエルウェポンを手放した後に情報を漏らせばどうってことはないかもしれないが、そうすれば俺からの連絡は受けられなくなるし、なんにも得にはならねえけどな」
「なるほどな……。だけどSFSの情報収集して何になるんだ……?」
「それは秘密だ。だが、お前は世界に力を示したいんだろ? 場合によっては俺がジェネシスの部隊を動かして、お前がすごい実績を出したように仕向けることもできるぜ? お前は命も助かり、目的も達成される。悪い話じゃねえだろ?」
例えば……俺がジェネシスの部隊を一人で壊滅させた……みたいなストーリーを用意してくれるってことか。
確かにデントの奴はジェネシスの幹部らしいし、嘘はないだろう。
「さぁどうする? 死ぬか、俺たちと輝かしい未来に向かって歩むか。選びな?」
ダメなことだとはわかっている。
本来、目的というのは人の力を借りるんじゃなくて、自らの力で成すべきもの。
だけどな……やっぱり命が惜しい。
ジェネシスが……世界の破壊を目論んでいたとしてもだ。
どうせ死ぬのなら……俺はもう少し長生きがしたい。
「もちろん……やるに決まってんだろ……。デントさん」
「お前ならそう言うと思ってたぜ? んじゃこれだ。受け取りな」
デントは一枚のカードを俺のデュエルウェポンへとセットする。
すると瞬く間に俺の体から痛みが消え去った。【インスタント・ヒーリング】のようなカードだろうか。
「今のはただの回復カードじゃない。それがさっき言った取引の証だ。これでお前のデュエルウェポンと俺のデュエルウェポンは繋がったってこった。んじゃよろしく頼むぜ、上地?」
デントはそう言うと、部屋を後にしていった。
これで……もう後戻りはできねえ。
他の仲間たちを裏切ることになるかもしれねえけど、やっぱり自分が大事だ。
それに……情報を伝えたからといって、すぐにSFSが滅びるわけでもない。
あんまり気にしなくていいはずだ。
ただ、誰にも言えない秘密が一つ……増えただけ。とんでもなく重い……秘密がな。
ーーデントが去ってから数分後、大きな叫び声とともに一人の女性が部屋に入り込んできた。
「大丈夫ですか!? って上地さん……!? 大丈夫ですか!」
その声に顔を上げるとそこには聖華ちゃんがいた。
よく無事だったな。さすが決闘精鋭班ってところだぜ。
「すぐに手当しますね! よいしょっと……」
ポケットから取り出した【インスタント・ヒーリング】のカードを俺のデュエルウェポンにセットしてくる。
もう既に痛みは引いているが、俺は悟られないように痛みがあるようなフリをしてごまかした。
とても言えたもんじゃないからな。敵に仲間を売ったような話は……。
最高にカッコ悪い話だぜ……。
だけど、もう少し話を伸ばしてれば聖華ちゃんに助けてもらえたのかもしれない。
もう今からじゃどうしようもないけどな。俺はデントに縛られたようなものだ。
でも……少しながら考えてしまう。
今まで俺をハメてきたやつを見返せるのであれば……例えジェネシスに協力する形でもいいんじゃねえかなってな。
もちろん、今目の前にいる聖華ちゃんをはじめとした多くの美人さんを敵に回すのは不本意だけど。
でも、ジェネシスにもいい人がいるかもしれねえし、アリなんじゃねえか……?
くそ! こんなこと考えたくもないのに!
ダメなことだけど、少しでも肯定したくなる自分が嫌になる!
そうでもしねえと……今後は生きていけねえかもしれねえな……。
「どうしたんですか? 上地さん。調子がよくないですか?」
「い、いや……なんでもないぜ聖華ちゃん。気にしないでくれ」
「そう……ですか? 無理しないで何かあったら遠慮しないで言ってくださいね!」
本当に天使のようにまっすぐな心を持ってるな……聖華ちゃん。
今はその優しさが痛いぜ……。
「それよりも早くここから出ましょう! 近くで国防軍の皆さんが救助に来てくれています!」
「そりゃ助かるぜ……」
嫌な顔を一切せず、俺の肩を支えてくれる聖華ちゃんに助けられながら、俺は国防軍の救助部隊の下へと向かったのだった。