遊戯王Connect   作:ハシン

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Ep56 - 波乱の本会議

結衣たちの見舞いに行ってから数日後。

赤見さんが話していたとおり、SFS本会議が開催されることとなった。

 

今回は各部の部長、そして、班長達が勢ぞろいの大規模な会議だ。

俺のような班員まで入るとさすがに会議室には収まりきらないため、一班員については本来は会議室の隣にある控え室にて会議内容を傍聴するのだが、特殊機動班員については全員会議室内に入るように言われていた。

 

そこから推測するには、特殊機動班に関する議題が何かしらあるということだろう。

 

例の国防軍襲撃についての話がどこまで開発司令部に知れ渡っているかはわからないが、特殊機動班の監視についていた賤機の奴が報告はしているはずだ。

それならば、むしろ俺たちは被害者であり、何かを失敗したというわけではないかと思うが……。

それと気になるのは国防軍に保管されていたペンダントだろうか。

あれがもし、俺のもっているペンダントと同様な力を秘めているのだとしたら……いや、ジェネシスが狙っていたということはそう考える方が自然だろう。

同等の力を持つ俺のペンダントの存在がSFSに知れ渡れば、SFS内では混乱が起きるだろう……。

 

だが、実質、既にジェネシスには目を付けられている現状。近いうちに大きな戦いになることは避けられない。

SFSが一丸とならなければならないが、ペンダントの事実を知った上でジェネシスと立ち向かうという意思がある人物は果たしてSFSにどれだけいるかが問題だ……。

 

これは俺ばかりが考えていても仕方がない話しだ。

念には念を考えて予めペンダントが周りから見えないよう服の中へとしまい込んでいた。

もしカンのいい人がいたら俺のペンダントを見て気が付く可能性もあるからな。

 

会議室の中に入り、辺りを見渡すと見覚えのある特殊機動班のメンバーや、決闘機動班の連中。そして、あまり見覚えのない人が多く入っていた。デュエルをする班以外の人とはあまり関わりがなかったから、こうして見ると知らない人ばっかりだな……。

 

「繋吾。こっちだ」

 

赤見さんが俺の様子に気がつき、手を振っている。

見ると赤見さんの隣の席ががひとつだけ空いていた。

隣には郷田さん。その脇に颯と結衣が座っていた。みんな無事退院できたみたいだな。

 

「相変わらず遅いですね。こんな大事な日だというのに」

 

結衣が少し睨みつけながら言ってくる。

別にまだ定刻前なんだけどな……。あまり早く来すぎても暇だろう。

 

「まぁまぁ。いいじゃねえか。繋吾ちゃんが遅いのはいつものことなんだからよ!」

 

「郷田さん……あなたも人のこと言えないですよ。さっき来たばかりじゃないですか」

 

「うっ……お前が早すぎんだよ結衣。ほら、繋吾ちゃん。ここ座れや」

 

郷田さんに手招きされながら俺は自らの椅子へと腰掛ける。

なんだか颯の奴が浮かれないような表情でずっと黙り込んでいるな。

何かあったんだろうか。もしかして何からやらかして今回の本会議で議題にあげられているとか……? ってんなわけないか。

 

「おい、颯。何かあったのか?」

 

「……あっ、いやなんでもねえよ。何かおかしかったか? 俺」

 

「いや、お前にしては随分と大人しいなあって思ってさ」

 

「確かに、いつもなら遅れてきた繋吾くんに真っ先に突っかかっていくものなのに、珍しいですね」

 

「い、いやあ……。ちょっと変なもん食べちまってな。元気がないんだハハハ……」

 

「そうか……。無理するなよ颯」

 

「あぁ。悪いな」

 

何か無理してそうな表情をしている。

本当に体調がよくないのかもしれないな。そういえばあいつは襲撃後に真っ先に退院したみたいだし、もしかしたら回復が不十分だったのかもしれない。

 

「……それでは。定刻となりましたので第32回、SFS本会議を開始します」

 

おっと、もうはじまる時間みたいだ。

中年の男性がマイクを使って喋りだす。あの人が議事進行の人だろうか。

 

「では、はじめに生天目社長よりご挨拶をお願いいたします」

 

白髪の人物……生天目社長が自らの席から立ち上がり、手に持つマイクを口元へ近づける。

 

「お忙しいところ集まりいただき申し訳ない。各班長には既に伝えているが、今回はジェネシスに対する我が社の方針を固めるために会議を開催させていただいた。その経緯についてはこれから開発司令部長より話があると思うが、皆自らの思うことは遠慮なく発言していただき、有意義な時間としていただきたい。以上」

 

生天目社長はそう述べた後、再び椅子へと座った。

 

「それでは、本日の議事に入りたいと存じます。議題について、開発司令部長より説明願います」

 

「はい」

 

進行の人に呼ばれて席を立つのは前回も特殊機動班の撤廃について議論していた開発司令部長の黒沢さんだ。

今回もきっとあの人の仕業だろうか。くそ、どれだけ特殊機動班を廃止したいんだよ……!

 

「本日はジェネシスに対する当社の活動方針を決定していきたいと考えております。まずは、先日の本会議であった国防軍への協力要請についてですが、特殊機動班が国防軍へ向かい協議をしてきております。それにつきましては、決闘精鋭班の賤機副班長よりお話願いたい」

 

え、それって赤見班長が報告すべき内容じゃないのか?

実際にメインとなって行ったのは俺たち特殊機動班だぞ。なんで賤機が……。まぁ確かにあいつも監視として一緒に行ったわけだが。

自分に有利に話を進められるようにするための人選ってとこだろうか。汚いやり方だ。

 

「はい! それでは僭越ながら私よりご報告申し上げます!」

 

いつも通りハキハキした口調で賤機は喋りだす。

副班長の中では野薔薇と同じ最年少にも関わらずこの大きな会議の場で発言権を持つのはさすがだな本当に。

俺だったら緊張でダメになりそうだ。

 

「先日、イースト区でのジェネシスとの交戦記録と、そこで得た情報共有を目的として、特殊機動班同行の下国防軍真跡支部へ協議に行きました。ジェネシスでの危険人物……幹部と思われる人物の詳細情報とデュエルウェポンに記録されたデュエルモンスターズ使用カード情報。人物の顔や服装等、知り得た情報を伝えたところ、国防軍の時田長官より、感謝の言葉と共に、得た情報を元に更なるジェネシス壊滅へ向けた活動を本格的に開始したい旨の発言をいただきました。報告といたしましては、今後は共同で作戦の立案や共同での戦闘行動を行っていくとの協議結果となりました」

 

賤機は一切噛むことなく、スラスラと読み終える。

そして、大きく深呼吸し「以上です!」と発言すると、自らの席へと座った。

 

「今、賤機の申し上げたとおり、国防軍からは積極的なご協力をいただける方向で話はついている。これについて何か問題があるのか? 黒沢部長」

 

賤機の隣にいる決闘精鋭班長である神久部長が黒沢部長へ投げ返した。

今回は味方になってくれるのだろうか。決闘機動部に所属している身として、神久部長が味方になってくれれば心強い。

 

「いや、問題はないと思いますよ。ですが、ここからが本題ですよ神久部長。その協議の後、国防軍真跡支部へデュエルテロの襲撃がありました。奇襲を受けたということで国防軍には大きな損害出ているようですな。特に、国防軍で秘密裏に保管されていた災いを起こすペンダント……"レッド・ペンダント"がジェネシスに奪われてしまったと聞いております」

 

あのリリィが手にしていた赤いペンダントのことだ。

その情報は既に開発司令部も握っているんだな。

 

「ではこの"レッド・ペンダント"については、うちの者から一度ご説明させていただきます。須藤班長」

 

黒沢に須藤と呼ばれた黒縁のメガネを光らせたスーツ姿の男性が、手元の書類を見ながらマイクを口元に近づける。

机の上には"総務管理班長"と書かれている。SFSの人事権や情報を管理している部署だ。まさかペンダントの情報を握っていたとはな。どのあたりまでが公開情報なのだろう。

 

「はい。"レッド・ペンダント"は国防軍の研究によると、今から10年ほど前にできたものとされています。そして、そのうちにはデュエルウェポンとデュエルモンスターズのカードの組み合わせで発生される実体化するエネルギーと同系統のエネルギーが秘められており、その力はデュエルモンスターズのカード1億枚を超えるほどのものだと言われております」

 

1億枚……だと……!? とんでもないエネルギーじゃないか……!

このペンダントにそんな力が……? 確かにそれだけあれば、俺のデッキに新しくカードを1枚作ったり、結衣のやつをリリィの攻撃から守るために出たバリアのようなものを作ったりするのは容易いってことか。

だけど、使い方がまったくわからないけどな……。

 

今の発言を聞き、少し会議室内もざわめきはじめる。

そんな中特殊機動班のメンバーは誰ひとりとして口を開かなかった。おそらく……俺のペンダントのことを悟られないようにだと思う……。うっかり失言してしまう可能性もあるからな。

 

「……続けますよ? このエネルギーについては、国防軍で研究を重ねていましたが、未だ放出方法はわかりませんでした。ですが、今回の襲撃でジェネシスはこのペンダントをピンポイントで狙っていたそうです。つまり……ジェネシスはこのエネルギーの活用方法を知っている可能性があります。そこから導き出されることとしては、何か大きなエネルギーを使用した破壊活動である。と開発司令部内では考えているところです」

 

確かに……それだけのエネルギーがあるのだとしたら、一瞬で真跡シティを滅ぼすほどの力があっても不思議じゃない。

それが既にジェネシスの手に渡っている……。もしかしたら俺のペンダントなんてなくてもジェネシスは目的が達成されているのかもしれない。

 

「今、須藤班長から話があったとおり、非常に危険なものがジェネシスへ渡ってしまった。これに対して国防軍としては総力をあげて奪還作戦を考えているらしい。当然、我々SFSとしては、それの協力する形で参戦し、この真跡シティを脅かすジェネシスという存在を抹消するべきだ。だが……それは国防軍に協力する形が望ましいと考えている」

 

「それは……どういうお考えでしょう?」

 

「神久部長。今後は我々も現実的な戦い方をせざるを得ないということですよ。SFSが主体的になってジェネシスと戦うのは非効率的。国防軍に協力する形の方が、成功確率が高いうえにSFSの出費は少なく、真跡シティの住民のためにもなる」

 

「つまり、特殊機動班を廃止しろと?」

 

「さすがは神久部長。話が早くて助かりますよ。特殊機動班を廃止し、決闘機動部内の再編成を行う。白瀬班長を筆頭に住民防衛をメインとした決闘機動班。そして、神久部長を筆頭に国防軍の助力をメインとした"国防機動班"。この2つをメインとした部内構成はいかがかな?」

 

なんだよそれ……。

決闘機動部を再編成だと……赤見班長の存在を完全に抹消しようとしに来ているじゃないか。

 

「黒沢。それはジェネシスに対しての活動をやめるということか?」

 

ここで生天目社長が黒沢部長へ問う。

生天目社長としては、ジェネシスの殲滅はこだわっていた要素のひとつでもある。気になるところだろう。

 

「いえ、そうではございません。あくまでジェネシスに対しては"現実的な戦い方"をするまでです。今後は国防軍はジェネシス殲滅がメインとなる活動へ切り替わっていくことでしょう。あくまで我々は本来の趣旨から外れずに、国防軍と共同でジェネシス殲滅任務にあたる。そのための作戦行動のやり方を変えるだけです」

 

「しかし、国防軍とは違いSFSの特殊機動班には自由に動けるという利点がある。国防軍では規律等があり動きづらい任務等でも対応できるように国より依頼され創設されたのがこの特殊機動班だ。民間企業であるSFSだからこそできることもある中でその利点を潰すことには同意しがたいな」

 

神久部長は熱く黒沢部長に対して主張している。

第三者の視点からするとどちらも間違ったことは言っていない。この判断を生天目社長がどうつけるかが鍵ってところか。

 

「利点? そうですね……。しかし、先日の国防軍襲撃の際はこんな記録も残っておりましてね。当日の特殊機動班は、赤見班長を含め壊滅状態。ジェネシスに対する専門部隊でありながら、肝心なジェネシスにやられている現状。これのどこに利点があるとお考えですかな? 治療費が増えるだけではないかね」

 

「それは……。ジェネシスの実力は未知数なところが多い。赤見も全力をあげて戦った結果だ。むしろ戦闘を通して新たなるデュエルデータも取得できている。失敗というわけではない!」

 

「情報情報と……。不確かなものばかりの主張が多いですな決闘機動部は。実際に形に残る結果がないと意味がないでしょう? 赤見班長が勝てなかった。では誰かが勝てるのですか? ジェネシスを殲滅できるとどこに保証がある。そんな不確かなものへの投資は、SFSの倒産に直結してしまう」

 

「黒沢部長……。あなたは住民の命とお金。どちらが大事なんだ。会社のことばかり考えて本来の目的を見失っているのではないか?」

 

「そう熱くならないでくださいよ神久部長。どちらも大事に決まっているではありませんか。ですが、我々も企業のひとつ。お金がなくては住民の命を守ることはできません。だからこそ、持続可能な……そして、確実性のある方法での提案をしているまでですよ」

 

「うーむ……。確実性のある方法か……」

 

黒沢部長の主張に押され、少しずつ神久部長の勢いが弱くなっていく。

言っていることは間違ってはいないが……。だけど俺は……納得いかない……。

 

「……黒沢部長。僭越ながら発言をさせてください。その話であると、国防軍では確実にジェネシスを殲滅できるということですか」

 

突如、赤見さんが声をあげる。

ここからが本番ってところか。

 

「おや、赤見班長。体調は大丈夫かね? 私はそうは言っていないよ。現実的に考えて、国防軍とSFSが独自で行動するよりも国防軍が主体的になって協力する形の方が成功確率が高いと言っているのだ」

 

「それだけであれば、我々特殊機動班が国防軍の任務に協力すれば良いのでは? 協力しつつ、独自での作戦も実行できれば、国防軍の言いなりになるよりも柔軟な作戦行動が取れます」

 

「なるほどな。しかし、その分危険な任務が増え、国防軍のバックアップも受けきれない。その上、ただでさえジェネシスにやられている今の特殊機動班では、独自行動できるほどの実力はないと思うがね」

 

「逆です。むしろ我々は一度ジェネシスの幹部陣と交戦し、なんとか生還いたしました。この経験を生かし次の勝利へ繋げる方法はいくらでもあります」

 

「だからといってこれ以上特殊機動班の身勝手な行動で経費が増えるのは問題なのだよ赤見くん! 国防軍の作戦の範囲内での戦闘活動で十分ではないか。ジェネシスが壊滅できればそれでいいのだろう赤見班長?」

 

「ええ……。特殊機動班の目的はそれですからね。ならば、今国防軍でジェネシスに対する有効的な作戦は立案されているのでしょうか? それを踏まえた上で黒沢部長は現実的で確実な方法と仰っておられると……」

 

「いや……。国防軍からはどのような作戦かは聞いていない。だが人数も人材も国防軍の方が圧倒的に上だ! どう考えても確実だろう」

 

赤見さんの一言で少し黒沢部長が動揺した様子を見せる。

確かに……国防軍ではどのような作戦を考えているのか。そこが一番重要だ。

ましてや、ジェネシスについての情報はSFSの方が詳しいだろう。

 

「それについては、SFSの新規国防機動班と国防軍の間で決めればよい話だ。私は今後のやり方や方針についての話をしているのだよ」

 

「いえ、それでは遅いのですよ黒沢部長。私にはもっと確実に早くジェネシスを殲滅する作戦があります」

 

「……なに?」

 

そんな作戦があったのか……?!

赤見班長は一体何を……。そういえばお見舞いの時に言っていたな。大きな情報を得ていると。

 

「私は今回ジェネシスの幹部にひとり。ネロという人物と交戦しました。彼と接近する際に彼の体に発信機を取り付けることに成功しましてね。今は破壊されてしまいましたが、そこからジェネシスがどこに滞在しているのかがある程度把握することができたのです」

 

いつの間にそんなことを……。そういえば、赤見さんがネロと対峙する時、デュエルを仕掛けるためにネロに随分と接近していた。

あの時か……。気がつかなかった。

 

「それは本当か赤見!」

 

「ええ。奴はずっと真跡シティ内の座標を行ったり来たりしていました。私の推測によると……ジェネシスの本拠地は真跡シティの地下です」

 

その発言を聞き、再び会議室内はざわめきはじめる。

地下……そういえばイースト区のアジトも地下だったな。同じような形で地下に大きな迷宮のようなものでもあるのだろうか。

 

「そこで私は突入作戦の計画を行っております。この作戦が成功すれば、ジェネシスの壊滅は間違いありません」

 

「待ちたまえ、赤見くん。それこそSFSで行ったところで全滅するだけだ。国防軍が主体となって突入作戦を行えばいい」

 

「突入作戦については、特殊機動班は幾度となく行ってきており、国防軍より経験は豊富だと考えております。いずれにしても作戦の指揮を私に委ねてくれるのであれば、国防軍との協力は良いと思います」

 

「国防軍は戦闘のプロだぞ? 赤見班長、少し自意識過剰ではないかね? つべこべ言わずに国防軍の指揮下に入ればいい。元々SFSだって国防軍から任務依頼を受けてお金をもらう。それが本来の趣旨だ」

 

「逆にですよ。国防軍が真跡シティの地下に対して大規模な攻撃行為ができるでしょうか? 地下で爆発でもあれば街の住人に被害で出る可能性もあります」

 

「……失礼。それについては、街の住人を避難させればいい。赤見班長。これ以上身勝手な発言は控えていただきたい」

 

そう横槍を入れてきたのは駐屯機動部の斎藤部長だ。

 

「斎藤部長。街の住民の避難させるといった大掛かりなことをすればジェネシスに突入を予告するようなものです。その間に逃げられてしまい振り出しに戻るだけです」

 

「赤見班長。あなたは、アジトの場所を知り得たかもしれませんが、それだけでは到底ジェネシスの殲滅などできません。黒沢部長の言うとおり資金も足りなければ人材も足りない。敵の存在が未知数なら尚更だ」

 

「私は死ぬ覚悟はできています! それでもなお、突入作戦を実行すると考えているまでです」

 

「無駄死にほど無駄なことはない! 赤見班長。この程度小学生でもわかる話だ。君はプロデュエリストのチャンピオンでもなければ、英雄でもない。実際にネロという人物に負けているのだろう。こんなふざけた作戦など却下だ。私は黒沢部長を指示しますよ」

 

「……しかし……!」

 

「あとは……神久部長。今までのお話を聞き、どうお考えですかな?」

 

再び話は黒沢部長から神久部長へと切り出される。

赤見班長の必死な叫びも斎藤部長には届かなかったようだ。

 

「そうだな……」

 

神久部長は悩んだ表情で口ごもっていた。

くそ! なんでだよ……。せっかくジェネシスの情報を手に入れたというのにその手柄を横取りされたあげく言いなりになれと?

こんな時こそ、協力し合うんじゃないのかよ……!

 

「危険を冒してまで情報を入手し、ジェネシス壊滅に向けた活動は賞賛に値するが、如何せんジェネシスという強大な組織に立ち向かうにはやはりSFSでは実力不足ですな。もう特殊機動班としての活動目的は達成されたとし、解体するとともに新たな決闘機動部内再編成を行う方向のがよろしいかと」

 

「黒沢部長の言うとおりです。我々駐屯警備部もここで一度再編成すべきだと考えます。今回の件でよくわかったではありませんか。ジェネシスにはかなわないと。ジェネシスのような危険な存在は国防軍に任せるべきです」

 

「はっはっは。神久部長もご決断いただきたい」

 

「いたしかた……あるまいか。再編成については……」

 

神久部長がそう呟きながら、赤見班長をちらと見る。

それでもなお、赤見班長はまっすぐと目の前を真剣な表情で見つめていた。

 

このまま特殊機動班が解体されるのかよ……。

危険な目にあいたくないから? お金がかかるから?

おかしいだろう……SFSってなんのために存在してるんだよ。利益だけ求めるならもっと小規模な民間軍事組織でも行けばいい。

SFSは……デュエルテロ組織の壊滅を目的としているんだろ。

 

「生天目社長。よろしいでしょうか?」

 

そう会議室内に響き渡る黒沢部長の声。

こんな上層部の保身のためだけに……俺たちの努力は水の泡となるのか。

俺の父さんと赤見班長が命をかけてきた特殊機動班の努力は……死んでいった隊員達の力は……。

 

そんなもの、納得いくわけがないだろう!

 

「……失礼します!」

 

「繋吾……?」

 

俺は気が付くと自ら挙手をし、叫んでいた。

もう見ているだけなんて我慢できなかった。

 

「あなたたちはなんのためにSFSにいるんですか! 今日ここで話している内容なんて自分の保身のことばっかりじゃないですか! 口では住民の命がとは言ってますけど、結局は自分が安全に暮らしていくため。違いますか?」

 

「君……遊佐くんか。君は特殊機動班という狭いところしか見ていないからそう思うかもしれんが、会社全体を考えるということはこういうことなんだよ。いいから黙っていたまえ」

 

「なにが会社全体だ! 結局はみんな自らの保身のために"経費"がだの"人材"がだの言ってるだけ。ジェネシスとの直接戦闘なんか誰だってわからないんです。それは国防軍も同じ。国防軍に任せていたからって本当にジェネシスが壊滅できると思ってるんですか?」

 

「国防軍は我々とは規模も違うし、デュエルのために訓練もしているプロだ。彼たちなら我々よりも確実に殲滅できるだろう」

 

「黒沢部長。あなたはジェネシスとろくに戦ったことないからそういうこと言えるんですよ。あいつらのデュエルの強さ……そして、人を容赦なくデュエルで殺す姿を! こんな机の上で会社のことばっかり考えてるあんたたちにジェネシスの壊滅についてどうこう言われる筋合いはない!」

 

「繋吾……落ち着けって……」

 

「赤見班長。止めないでください。我々を含め歴代の特殊機動班はジェネシス壊滅のために命を張ってきた。その努力を、あなたたちは踏みにじろうとしているんですよ! 身勝手な保身のためだけに仲間の命を無駄にしている。命の無駄かお金の無駄か! どっちが大事かは明白でしょう!」

 

「命の無駄だと? 彼らの犠牲によって得た情報は国防軍に伝わり、解決へと向かう。なんの無駄もないだろう。おい、須藤。遊佐を会議室から追放したまえ」

 

「ふざけるな! 功績をあげたはずの特殊機動班の行動を縛り付け、ジェネシスの問題を国防軍に丸投げしてるだけだ。なんの解決にもなってねえ!」

 

俺は思わず思っていたことを全て吐き出してしまった。

もう後戻りはできない。今後はSFSにいられなくなるかもしれないな。まぁそれでもジェネシスの位置さえ掴めれば一人でだって突入してやるさ。

須藤班長が俺の近くまで来て腕を引っ張ってくる。デュエルでの前線にも立ったことないやつに……!

特殊機動班が踏みにじられるなんて……!

 

「待て、須藤班長。繋吾はまだ新人なんだ。大目に見てやって欲しい」

 

「赤見班長。相変わらず教育が甘いですよ。社会人として礼儀というものは真っ先に身につけなければならない」

 

こいつ……知的で理屈っぽいいかにもって感じの人だ。総務管理班長って名前がよく似合う。

 

「あなたはデュエルで戦ったこともないんでしょう? それじゃわからないでしょうね……デュエルの怖さを……! 戦う覚悟を! そんなんじゃいつまで経ってもーー」

 

「静かにしろ。いい加減黙れ!」

 

突如、別の机から大きな叫び声か聞こえた。

 

「遊佐。ここをなんの場だと思ってる。喧嘩しに来たのなら帰れ」

 

叫んだのは桂希だった。席から立ち上がり、俺のことを静かに見つめている。

 

「須藤班長。申し訳ございませんが、このまま会議を継続させてはいただけませんでしょうか」

 

「遊佐を追放せずにということか?」

 

「ええ。遊佐にも聞いて欲しいことがありますので」

 

そう言われると須藤班長は俺の腕から手を離し、舌打ちをすると自らの席へと戻っていった。

 

「皆さんに一つ、提案がございます。今からお話する内容は紛れもない事実です。それを知った上で、特殊機動班の撤廃については考えていただきたいと存じます」

 

桂希のやつ……特殊機動班の撤廃を止めようとしてくれて……いるのか?

しかし、一体なんの話をするのだろうか……。

 


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