この狭い部屋に篭もりはじめてから何時間が経過しただろうか。
ここには窓がないからいま外が明るいのか暗いのかもよくわからない。
手元のデュエルウェポンの時刻を見る限りもう夕方ってところだろう。
司令直属班の人たちは俺が不自由しないよう色々と世話をしてくれた。
飯から飲み物。そして、話し相手になってくれたりと。
案外話してみればみんな悪い奴ではないっていうのがよくわかる。
まぁ、今は非常事態で俺を守ることが任務とされているから……なのかもしれないが。
普段からこのような調子であれば、SFS内での対立も減るんだろうな。
「調子はどうだ? 遊佐隊員」
そう声をかけてきたのは闇目さんだ。
司令直属班の中では面識があるからか気を使って闇目さんがこの部屋の見張りに回ってくれている。
「大丈夫ですよ。今、SFS内はどうなってるんですか?」
「少し前に決闘機動部内で今夜のジェネシス襲撃に向けての情報伝達があったそうだ。各班、作戦に向けて準備を進めている……ってところだな。部屋の外はけっこう騒がしいことになっている」
そりゃジェネシスが攻めてくるって聞きゃ大騒ぎもするだろう。
逃げ出してしまう隊員がいてもおかしくはない。
「そういえば……今日配属の新人……。本当に作戦に参加させるんですか?」
「あぁ……あれには驚いたな。だが、確かに今回の試験は実戦演習を取り入れたものだった。決闘機動班の普段行っている演習を参考にしたものをな。だがたったあれだけで到底戦えるとは思えん……」
よかった。闇目さんも同意見みたいだ。
今日の辞令の場は本当に異質だった。凶悪なデュエルテロ組織が攻めてくるというのに、なぜ多くの人間が好戦的になれるのか……。何か……引っかかる。
「まぁ、後方支援とか担当なのだろう。それでも……規模的に直接戦闘は避けられないとは思うがな。今までにない程の大規模な戦闘になると想定している」
今までSFSが襲われたケースというのは物品の略奪とかが大半だ。そこまで大規模な攻撃をしてくるようなものではない。
それに今まではジェネシスから直接襲われたということはないみたいだし、過去にないほどの大戦闘になるのかもしれない。
「まぁそう暗い顔をするな。仲間の無事を祈ろう」
「そうですね。司令直属班の想定では、ジェネシスからの攻撃はいつくらいに……」
闇目さんを話をしていると、闇目さんのデュエルウェポンから電子音が流れはじめた。
どうやら緊急連絡か何からしい。
「……どうやらジェネシスからの伝達が本部にいったらしい。黒沢部長が応じない旨の返答をしたから……だろうな」
「ってことは……そろそろ始まるってことですか」
俺たちを含め、周りにいる司令直属班の人たちの表情が自然と険しくなっていく。
いよいよジェネシスの攻撃が始まるってわけだ……。
「この部屋は司令室に近い場所にあってな。司令直属班はそこを防衛するように配置されている。もし敵が来たとしてもここの部屋には入れないようするから安心してくれ」
「ありがとうございます」
これからみんなが戦うというのにここでじっとしてなければいけないというのは少し辛いが、作戦を台無しにしないためにも俺はここにいなければいけない。
特殊機動班のみんな……無事でいてくれよ……!
仲間のことを考えながらふと自分のデュエルウェポンに目をやると新着メッセージの表示がされていた。
結衣や颯、郷田さんからのメッセージだった。赤見班長から聞いて送ってくれたんだろう。
結衣からは丁寧に書かれた俺を鼓舞してくれる長文。そして、颯からは俺のことをからかいながらも心配してくれる文章。郷田さんからはグッジョブしている仕草を表した顔文字がひとつ。
特殊機動班のメンバーらしいメッセージがそれぞれ送られていた。
見ていると思わず笑みがこぼれる。
死ぬなよ……みんな。
返事をしようかとしているところに今度は大きな爆発音のような音が聞こえてきた。
それと同時にSFS内でサイレンの音が鳴り始める。
どうやら始まったみたいだ。返事は到底できそうにないな。
それと同時に部屋にいた司令直属班の人たちも臨戦態勢を取り始めた。
「いいか、遊佐隊員。何があっても絶対この部屋からは出るんじゃないぞ。例え味方の救難信号があったとしてもだ」
「わかってますよ。……だけどもし救難信号があったら助けにいってやってください」
「あぁ……。その時我々に余裕があればな。ベストは尽くす」
といってもここからじゃ前線の部隊に合流するのには時間がかかる。
闇目さんが微妙な表情をするのも無理はないか。
俺はデュエルウェポンの戦況報告情報を注視しながら戦いの行方を見守るのだった。
ーーここはSFS正面入口前。
眼前には大きな駐車場と屋外デュエルリングが広がっている。
「莉奈ちゃん。うちの班員はみんな準備OKだぜ!」
そう声をかけてくるのは私の部隊の一員である片岡だ。
年齢やSFSの入隊経歴からすると先輩にはなるけど、立場上私の方が上になる。
そのせいか……やたら馴れ馴れしく話しかけてくる。普段ならいいけど、今はそういう状況じゃない。
「片岡くん。作戦中は言葉遣いを気をつけて」
「あ、すまん……つい」
私も普段はくだけた喋り方をするけど、作戦中だけはできるだけ控えるようにしている。
生きるか死ぬかの戦いでは気の緩みが死に直結することもあるしね。
「野薔薇副班長。先ほど本部がジェネシスへ要求には応じない旨の返答したそうです。白瀬班長より配置につけとの伝令が」
「わかりました。では決闘機動第4班。配置につきましょうか」
私の班の伝令係の人から連絡を聞き私は皆へ指示を出す。
いよいよ始まるんだ……。あのジェネシスって組織との戦いが。
私は……デュエルテロ組織には大した力はないとずっと思っていた。
決闘機動班の私たちはいつもそのへんで悪さをしている小規模デュエルテロ組織を倒しているだけだったし、負けることなんてなかったから。
だけど、この間のイースト区の作戦ではじめてジェネシスって組織と対峙した時、私ははじめて恐怖を感じた。
遊佐くんと出会わなければ私は死んでいたし、なによりデュエルではまったく歯が立たなかったんだ。
そんなとんでもないやつとこれから対峙しなければいけない。もちろん怖くもあるけど、私はひとりじゃない。
絶対に私たちのSFSは守りきってみせる。
正直なところあのジェネシスの現実を見せられてからは特殊機動班に対する意識が変わった。
私たち決闘機動班の大半は特殊機動班のことを給料泥棒呼ばわりしてたけど、今思えばあんなに強いやつとずっと対峙してくれていたのだなって。
口だけだと思ってたけど、実際に遊佐くんは入隊したばっかりなのに強かったし、あの結衣ちゃんだって悔しいけど強かった。
だけど……私だって負けていない。だからこそ……今回の戦い絶対に逃げないよ……!
決闘機動班の配置はSFS正面玄関からVの字型に広がる陣形……いわば鶴翼の陣というところか。
その中で第4班の配置は右翼側の最前列。真っ先に敵と交戦する位置になる。
下手すれば全滅にもなるその位置……。だけど今回の作戦はVの字の中央部に配置された特殊機動班を囮にし、方位して撃破することにある。
私たちの部隊が集中砲火されることはないと信じたい。
それにしても気になるのは今日から配属された新人だ。
即戦力のための中途採用が多いのか大半は私より歳上だ。
こんな事態だというのにひどく落ち着いて迎撃準備を整えている。私だって少し緊張しているくらいなのに。
まだ本当の怖さってやつを知らないのかもしれないな。無駄死にだけはさせないようにしないと。副班長として。
まぁでも新人の役割は囮となった特殊機動班への援護攻撃。直接的なデュエルでの戦闘は桂希先輩の第1班と白瀬班長の本隊が行うことになってる。
そして敵の迎撃は私とか既存の隊員が行うことになってるからそんなに危険な目には合わないはずだ。
「全部隊に配置につきました! 各部隊、周囲の警戒をしてください!」
デュエルウェポンより本隊の人からの伝令が聞こえた。
いよいよってところか……。私の背後には救助護衛班の人と小早川副班長の率いる決闘機動第2班の人たち。そして、左側には特殊機動班。
ってあれ……。あそこには4人しかいないような……。ここからだとよく見えないけど誰か一人いない……?
結衣ちゃん退院したって聞いてたけどもしかしてまだ復帰できてないのかな? この戦い無事に乗り切ったらいじりにいってやろうっと。
特殊機動班の様子を眺めていると突然目の前が真っ白に光りだす。
それと同時に大きな爆発音が鳴り響いた。
ジェネシスの攻撃がはじまった……? 場所はどっちだろう。
あたりを見渡していても敵らしき存在は見受けられない。
「空だ!」
誰かの叫びに思わず空を見上げると大きな飛行機……いやUFOって言った方がいいのかな。
おそらく【巨大戦艦 ビック・コア】だろう。それが空中に何機か浮かんでこちらに向かって砲撃を開始していた。
すぐさま私は手元のカウンター罠【攻撃の無力化】をセットし、砲撃から身を守る。
早くあれをなんとかしないと……。
「決闘機動第4班、迎撃開始! 撃って!」
私の合図と共に私の仲間が自らの遠距離攻撃可能なモンスターを召喚し、攻撃を始める。
よし、攻撃は当たってる。でもモンスターがいるってことはそれを召喚している人物がどこかにいるはず……。
だけど辺りを見渡してもそれらしき人物は見当たらない。一体どこに……。
すると私の少し前方の地面に亀裂が出来始める。
「避けて!」
私が叫んだ瞬間、地面が大きく開き中から白いジェット機のようなドラゴン族モンスターが出現した。
そして、その穴の中から数十名のテロリストと思われる人物が現れ、それぞれモンスターを召喚し始める。
あのモンスターは……【シューティング・スター・ドラゴン】だ。忘れるわけもない。あのジェネシス幹部構成員が使っていた主力モンスター……。
まずい……。あいつはかなり強力だ。なんとしてでも止めないと……。
【シューティング・スター・ドラゴン】は目に見えぬほどのスピードで空を飛び、そして私の班員たちをひくように衝突していく。
これ以上やらせるものか……! 私は【ブラック・ローズ・ドラゴン】と【月華竜ブラック・ローズ】の2枚を取り出し召喚した。
「頼んだよ……攻撃!」
私の指示に従い、2体のドラゴンはテロリストたちに攻撃を始める。
しかし、【シューティング・スター・ドラゴン】には早すぎて追いつけない。
「おやおや、あの時のお嬢さんではありませんか。まだ生きていたとは」
「くっ……」
【シューティング・スター・ドラゴン】の主、オリバーって言ってたっけ。あいつが私の存在に気がつき近づいてくる。
「近づかせない……!」
私はさらにモンスターを追加で召喚し、オリバーへ攻撃を始める。
「一手遅いですねえ。罠カード【神風のバリアーエアフォース】!」
大きな突風が発生すると私の攻撃は宙へと受け流されてしまう。
既に罠を張られていたなんて……。このままじゃデュエルになってしまう。
戦うのもいいけど……そうすれば班員に指示を出せなくなってしまう。
今デュエルするのは避けた方がいい。
「莉奈……副班長には近づかせないぜ! いけ、【ブリキの大公】!」
オリバーの背後を突いて、片岡くんのモンスターがオリバーへ攻撃をしかける。
不意打ちが成功したのか、その剣はオリバーの体を切り刻んだ。
「うっ……。やりますねえ。ですがあなたも同じです」
オリバーがそう発言した後に今度は片岡の背後のテロリストが操るモンスターの攻撃によって片岡の体にたくさんの銃弾のようなものが打ち込まれていた。
「うはぁっ……。くっそお……」
「片岡くん!」
膝をついて苦しそうにしている片岡にテロリストの一人が近づき……そして、二人を囲うように障壁のようなものが現れ始める。
あれはデュエルがはじまった時に生じる不可侵領域を生み出すためのものだ。ということは片岡くんはテロリストにデュエルを仕掛けられたことになる。
「心配するなよ……いや、しないでください莉奈副班長! このくらい俺が倒してみせますから」
片岡くんを応援したいところだけど、もしここでデュエルになれば……あれだけテロリストがいっぱいいるんじゃ連戦になるのは明白だ。
負担をかけないようにデュエル以外の迎撃でなんとか戦力を減らしたいところだけど……相手の数は私の班の4倍近くはいる。
このままじゃ押し負けてしまう……。
「デュエルしている隊員が数名。敵との距離は徐々に接近してます。野薔薇副班長。どうしますか?」
「上空への攻撃を放棄します! 標的を眼前の部隊へ! 撃ってください!」
上の敵は他に任せよう。私たちの目の前には幹部構成員がいるんだ……! 優先すべきはそっち!
私の号令とあわせて再びブラックローズ達に攻撃を指示する。
上空への攻撃を行っていた仲間の攻撃も合わさり、オリバー率いるテロリスト達にはかなりの規模の攻撃となった。
「ふふふ……意外とやりますねえ。そろそろ……第二部隊、攻撃開始してください!」
オリバーがそう発言すると今度は私の足元に亀裂が入りはじめているのが見えた。
まずい……! そう思った時には既に遅く私の体は宙を舞っていた。
しばらくして地面に叩きつけられ体に大きな痛みが走る。
敵の規模は……? 早く迎撃しないと……。
痛みに耐えながらも起き上がり周りを確認すると今の攻撃に怯んだ味方に対し、敵の第二部隊が近づきデュエルをはじめているようだった。
そして、肝心のオリバー達はその後方からモンスターを召喚しつつゆっくりと近づいてくる。
覚悟を決めてデュエルを仕掛けるしかないかな……もしここで食い止めることができれば、SFSへの被害は最小限にできるし。
「私はここだ! ジェネシス! ペンダントの行方は私を倒さないとわからないぞ!」
突然、中央部の特殊機動班が大声を上げた。あれは赤見班長だろう。
その声に真っ先に反応したのは言うまでもなくオリバーだった。彼はにやりと不敵な笑みを浮かべると、侵攻方向を中央部へと変える。
思ったより動きが早かったな。作戦通りといえば作戦どおりだけどこんなに早く特殊機動班が動き出すとは思わなかった。
私の部隊の反対側に位置する坂戸副班長率いる決闘機動第3班がどういう状況かわからないけど、既にジェネシスの部隊を挟撃する準備はできているのかもしれない。
それはともかくとして今がチャンスだ。
オリバー達の本隊が標的を変えた今なら目の前の第二部隊を殲滅するチャンスだ。
「決闘機動第4班! デュエル攻撃へ移って!」
迷わず私は突撃号令を出す。
その声を聞いた班員達はジェネシスの部隊へと突撃していった。
さてと……あとはこのまま凌ぎ続けられればいいんだけど……。
この後の動きは特殊機動班が前線から撤退して、追撃しにきたジェネシスの部隊を叩く。シンプルな作戦だ。
だけど……仮にジェネシスが追撃してこなかった場合は失敗に終わってしまう。だからこそ特殊機動班がどのようなやり方で撤退するかが一番の問題となっているんだ。
様子が気になり特殊機動班の方を見てみると、そこには不思議な光景が広がっていた。
郷田副班長と赤見班長によるデュエルウェポンの攻撃。そして、その後方にはフードを被った人物が2名。
あれは一体……。遊佐くんと……確か上地って人だったかな。なるほど、影武者ってやつかもしれない。
さらにしばらく様子を見ているとそのフードを被った二人はデュエルウェポンに1枚のカードをセットする。
すると、その二人はその場から姿を消した。まさか……あれは【空間移動】のカード?
ってちょっとまって。ここからいなくなっちゃうんじゃ特殊機動班を囮にして挟撃する作戦はどうなるの?
せっかくの作戦が台無し……。私、聞いてないんだけど……。
「さぁジェネシス! お前らの狙っている遊佐 繋吾はSFS裏門へ移動した! こんなところで油売ってていいのか?」
続けて赤見班長が挑発するように言った。
攪乱作戦かな……? 白瀬班長からそんな話はなかった。ってことは特殊機動班の独断行動?
「なかなかに面白いことをしてくれる……。いいでしょう。第3部隊は裏門へ。私たちはこのまま正面突破しますよ!」
変わらずオリバーの率いる本部隊は特殊機動班へ攻撃を仕掛けるようだ。
赤見班長が攪乱作戦を仕掛けた理由は……わかりきってないけどおそらく敵部隊の分散が目的なのかな? 現状の兵力では勝ち目がないって判断したのかも。
実際のところ私の部隊もこれ以上の増援がきたらかなり厳しいし、私個人としては助かるかな。
「覚悟ぉ!」
気が付くと私のデュエルウェポンにはデュエルの文字が表示されていた。
特殊機動班に気を取られて近くにジェネシス構成員がいたのに気付かなかったみたい。
「残念だけど、覚悟してもらうのはあなたの方よ! デュエル!」
多くの人々の叫び声が聞こえる中、私の戦いもまもなく始まるのだった。