デュエルが終わり栗下と名乗った男のうめき声があたりに響き渡る。
苦しくてもがいているその姿を見ると、自分は助かったのだなと改めて安心するな。
しかし、この男はジェネシスの構成員のようだった。
それはつまり既に施設内への侵入を許しているということ……?
正面の部隊はもうやられてしまったのだろうか。そうなるとまさか赤見班長は……。
裏口の駐屯決闘班はいまだに交戦していない。つまり……敵は正面から来た可能性が高いと思う……。
あたりから微かに足音が聞こえてきた。
更なるジェネシス構成員だろうか。この栗下って人以外にも侵入しているの人がいると考える方が自然だ。
さすがに私一人じゃ危険だな。せめて駐屯決闘班の方へ逃げないと……。
裏口に向けて走り出そうとすると私の前に数人の男性が立ちはだかる。既に遅かったみたい。
「待てよ。お前は特殊機動班だな?」
「くっ……」
戦うしかないっていうのなら……望むところです……!
この程度の困難……私が今まで生きている中で味わってきた屈辱や苦しみに比べれば遥かに楽なのだから……!
「まぁまぁ。少し落ち着けよ。お前らもだ。そいつは殺さなくていい」
すると続けて私の背後から渋い声が聞こえてくる。
その声の主へ視線を向けると、そこには片眼に眼帯をし髭を生やした見覚えのある顔がいた。
あれはイースト区の作戦の時に赤見班長と戦ったデントって人だ。ジェネシスの幹部構成員……。
「よお、佐倉 結衣。俺の顔くらいは覚えてるよな?」
私の名前も既にバレているなんて。どんな情報網なのだろうジェネシスは。
だけどこのデントって人は幹部の中でも比較的弱いという印象がある。
きっと繋吾くんなら好機と思って戦うだろう。幹部構成員を打ち破れば敵の戦意を大きく削ることだってできる。
だったら……私がやることはあただ一つ……!
私はデントを睨みつけながらデュエルウェポンを構える手を動かさずに臨戦態勢を取り続ける。
「まっ、無理もねえか。お前がそこまで死にてえならお望みどおり相手になってやろうか。結衣ちゃんよ?」
「あなたたちの狙いはわかっています。絶対にペンダントは渡しません……!」
「へっ、俺が赤見に負けたからってさぞ強気になってるみたいだが……あんなの手抜いてやってたに決まってる。このまま俺の言うこと聞かずに戦ったら後悔することになるぜ……?」
「そんな負け惜しみ信じると思いますか? いいからさっさと構えてください」
あんなこと言ってるけど赤見班長とのデュエルであの人は本気で悔しそうにしていた。
きっとでまかせに過ぎないだろう。
「ま、信じる信じないは任せるさ。結果的にあそこで痛い目に合うのをを我慢したおかげで作戦は順調に進んでるんだからなあ?」
確かにイースト区の作戦がきっかけでペンダントの情報はジェネシスへ渡ることとなってしまった。
元からそれが狙いでジェネシスが動いていたのだとしたら……。いや、だけどデントとしては助からない可能性もある中で自らを犠牲にしての作戦は非効率すぎる。それにデントとしてはあそこで勝った方が楽だったはずだ。
偶然……だと思いたいが……。まさか負けることまでジェネシスの筋書きどおりだとしたら……。
額に冷や汗がこぼれ落ちる。あの人のハッタリなのか……それとも真実なのか……。わからない。
「よーし、いい準備運動にはなるか! いくぜ……!」
「待て! くそ! こちらは侵入を許しているのか!」
すると今度はデントの背後から数十名の集団が現れた。
「お前は……佐倉か。よく耐えたな。全班員、デュエル攻撃を開始せよ!」
私の名を呼んだ人物は桂希副班長だった。決闘機動第1班が勢ぞろいでいるみたいだ。
なぜ裏口に来たのかはわからないけど……。あれだけの人数なら数もジェネシス構成員よりも多い。デントを倒すのも一気に現実的になった。
「ちっ、こりゃ聞いてねぇ話だ。仕方ねえ、作戦を変えるっきゃねえか。行くぞお前ら!」
桂希の号令を聞き、デントは仲間を引き連れて逃走を始めた。
デントの部隊を壊滅させる良い機会だ。ここは追撃するチャンス。
「くっ、追撃だ。佐倉、お前も戦えるか?」
「ええ。せいぜい足を引っ張らないでくださいね」
決闘機動班だと思うとつい口が悪くなってしまう。
それに突っぱねてきた人を相手にすると感謝しようにもプライドが許さなくて言葉にできないんですよね……。
「顔がぐちゃぐちゃの割には随分と余裕そうだな。その心構えだけは立派だ……とでも言っておこうか」
「っな……?!」
そういえばさっきデュエルした時、泣いていたんだっけ……。
鏡がないからどんな表情しているのかはわからないけど、ぱっと見でわかるくらいにひどい顔になってしまっているのかな……。恥ずかしい。
「まぁそれよりもだ。ジェネシスがいるということは裏口は突破されてしまったのか?」
「え……? 裏口は無傷ですよ。正面が突破されたのではないのですか?」
「何を言ってる。正面は五分五分といったところで戦っている。裏口に増援が来ると想定したからこそ我々がこちらに来たんだ」
ということは……あのデントの部隊は正面口でも裏口でもないってこと……?
一体どころから入ってきたのかしら……。
「なるほどな……。まぁジェネシスのことだ。地下から出てきたとしても不思議ではない。これはやられたな……裏口の部隊はフェイクかもしれん。俺たちSFSの注意を向けるためのな」
「そんな……」
なるほど……裏口の部隊は攻めてこないのではない。攻める必要がなかったんだ。
だから上地くんが戦っている程度だけで動きがない。
かといって駐屯決闘班としては、敵部隊がいるのにその場を離れるわけにはいかないし、攻めることに関してはまるで慣れていないのが駐屯決闘班だ。
私たちSFSの弱点をうまいように使っているといっても過言ではない。
「さて、驚いている暇はないぞ佐倉。すぐさまデントの部隊を追撃する! 行くぞ!」
桂希の問いかけに頷くと私はデントが走っていった方向へ走り出した。
ーー戦闘開始から1時間くらいは経過しただろうか。
司令直属班の護衛の下、狭い部屋に閉じ込められた俺は暇を持て余していた。
戦況はどうなっているのだろう。
ジェネシスに探知をされないように、SFS内の伝令は高度に暗号化された状態で送られる。
だが、もちろん情報を送れば電波が飛ぶため、送受信した隊員がどこにいるのか電波をたどればわかってしまうことになる。
つまり……俺にはまったく情報が入ってこなかった。
そもそも今回の戦闘においては、決闘機動部内での作戦と司令直属班の作戦はまったくちがう。
決闘機動部の情報はSFS全てに共有されているが、司令直属班の情報伝達は開発司令部にしか届かない。
そんな複雑な状況で果たして本当に連携できるのか少し不安ではあるが、俺にはこの部屋でみんなを信じることしかできない。
とりあえず時間があったからみんなのメッセージに返信してみたけど、こんな戦闘中にメッセージ送られても迷惑だろうな……。
まぁ祈るよりかは直接伝えた方が気持ちも伝わるだろうし、悪く思わないでくれみんな。
「くっ……いつの間に侵入しているんだ……!」
突然、部屋の中にいる闇目さんが深刻そうな声をあげた。
「どうしたんですか?」
「SFS施設内に敵部隊が侵入したらしい。決闘機動部の話だと正面口は突破されていないし、裏口は交戦すらしていないというのに……!」
ということは別経路から侵入したということになる。
奴らの侵攻方向はどちらなのかわからないが、いずれにしても侵入を許すことはまずい。
仮に正面口に行かれたら決闘機動部は挟撃され退路を失うことになる。そうなれば全滅は時間の問題だ。
「奴らの進路は……どちらに来ているんですか!」
「報告だと……司令室。情報網は……桂希副班長……? なぜあいつがいるんだ……」
桂希……。正面口担当だったあいつが……。
あいつのことだ。きっとカンの良さを発揮して敵部隊を発見し、追いかけてくれていたのかもしれない。
「遊佐隊員。できるだけ音を立てないようにしてじっとしているのだ。敵が近くにきている」
「わかりました。バレないように……ですね」
闇目さんに言われおとなしくしていると部屋の外から銃撃音やモンスターの叫ぶ音が聞こえ始めた。
近くにジェネシスの構成員がいるのか……!
今すぐにでも飛び出して行きたいところだが、赤見さんや斉場副班長に迷惑をかけることになる。
くそ……目の前に倒すべき敵がいるというのに……!
「まずいな……。思ったよりも敵の人数がいるみたいだ。頼みましたよ斉場副班長……」
闇目さんも相当焦っているようだ。
司令室は言わばSFSの本陣。ここまで大人数の部隊に攻め込まれたのが想定外だったのか、その表情ますます険しくなっていた。
そして、俺たちのいる部屋の扉が静かに開き始める。
ここは司令室じゃない。だけどこんなところにわざわざ入ってくるなんて……。それほどまでに制圧されてしまったのか……?
「よお、遊佐 繋吾。こんな狭いところに隠してるとは……SFSにはなかなかの策士がいるみてえだな?」
「お前は……!」
俺の目の前に現れたのはデントだった。
その姿に思わず身構えてしまう。
「だけどよ、お前の位置なんてもんはバレバレなんだよ。お前らSFS内にいる裏切りものによってな?」
裏切りもの……なるほどな。赤見さんが言ってた白瀬班長の話はやはり本当だったのか。繋がっているのはジェネシス……!
だが、白瀬班長は俺がどこにいるのかは知らないはずだ。どこからから情報が漏れたか……?
まぁそれよりも白瀬班長が繋がっているという事実が確認できればそれでいい。そしたらすぐにでも全部隊に伝令しないと大変なことになる。
「白瀬班長のことか……!」
「白瀬? そんな奴は知らねえなあ。まぁ、いずれにしてもおかげで"ジェネシス"はお前からペンダントを奪うことができるってワケだ」
「しらばっくれてんじゃねえぞ……! お前をぶっ潰せば済む話だ……!」
「まぁ待てって遊佐 繋吾くんよ。俺はなにもお前と戦いに来たわけじゃねえ。一つ交渉をーー」
「黙れ! 遊佐には指一本触れさせない! 私が相手だ!」
何かを話そうとしているデントとの間に割って入るようにして闇目さんがデュエルウェポンを構えはじめた。
「今回の作戦においては、司令室よりも大事なのは遊佐、お前だ。お前は戦ってはいけない。生き延びなければSFSが……世界が滅びることになる」
「闇目さん……」
「だからこそ、そこで見ていたまえ。司令直属班の実力、見せてくれる!」
「ほう……なかなか味のある野郎がいるじゃねえか。仕方ねえ、話し合うって雰囲気じゃねえな」
「覚悟してもらおう! いくぞ、デュエル!」
闇目 LP4000
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デント LP4000
頼むだぞ闇目さん……。幸いデント以外にこの部屋に入り込んできた人はいない。
つまり……ジェネシス幹部構成員を拘束する絶好のチャンスってわけだ。