SFS司令室に入った俺は信じられない光景を目の当たりにすることになった。
機械関係が木っ端微塵に破壊し尽くされ、周囲には倒れた司令直属班と思われる遺体の数々。
思わず目を塞ぎたくなるような光景だった。
あのエリート揃いの司令直属班が防衛するこの司令室がここまでやられるなんて。
デントらが率いていたテロリストの大半はここを襲撃していたのだろうか。
それにしてもこれじゃ全滅……と言わざるを得ない状況だ。
一体ここではどれだけの激しい戦闘が……。
「裏口にいた戦力がここに集中したんだろうな。狭い室内じゃデュエルに持ち込めなければ逃げ場がなくなり防衛側は不利になる。遠距離攻撃を多発されればもう司令直属班からすれば身動きがとれないだろうからな」
桂希はこの状況を見てなお冷静に状況分析をしている。
なんとも場慣れしているものだな。
既に治療班らしき人たちが部屋に出入りしており、負傷者を運び出していた。
生存者が何人いるかはわからないが……。俺の持つペンダントのせいでこの人達が亡くなるかと思うと苦しいな。
それに……先ほどまでジェネシスに対して同情しそうになっていた自分に腹が立つ。
あいつらは……これほどまでに人の命を奪ってきているんだ。やはり……許せるものではない。
「桂希副班長。生存状況確認が完了しました。データを送ります」
「あぁ、ご苦労。このデータは白瀬班長にも報告してくれ」
決闘機動班の人と思われる人物が桂希と何やらやり取りしているようだ。
俺たちよりも前にこの部屋の状況確認をしていたみたいだな。
「なるほどな……これは思ったよりひどい」
「どのくらいだったんだ? 桂希」
「あぁ……。負傷者6名、死者32名だそうだ。黒沢部長、生天目社長共に……亡くなったらしい……」
黒沢部長に……生天目社長が……死んだ……?!
嘘だろ……SFSのトップとも言える二人が一気に……。
「嘘だろ桂希……。あの精鋭揃いの司令直属班が……」
「これが現実だ……。敵が相当強かったのか、それとも司令直属班がやらかしたのかはわからん。だが、結果はこのとおり変わることはない」
「私が……甘かったのよ。桂希……楼……」
その声の主に視線を向けると担架に乗せられている斉場副班長の姿があった。
デュエルウェポンのおかげか目立った外傷はないが、ぐったりと横たわっている。
「斉場?! お前は無事だったのか!」
「当たり前……でしょ……。だけどジェネシスの撤退がもう少し遅ければ私も死んでいたかもしれないわね……」
そう話す斉場副班長の頬には涙が流れていた。
その様子から司令室での戦闘は相当なものであったことが伺える。
「一体ここで何があった? お前ほどのデュエリストがここまでなるとは……」
「それは……後で話すわ……。今は休ませて……」
そう呟いた後斉場副班長は決闘機動班員の手によって部屋の外へと運ばれていった。
なんだか知った顔が生きているとわかると安堵するな。
だが……俺がペンダントを所有し続けてしまったせいで社長も部長も死んでしまった。
俺のせいで……SFSは……崩壊したも同然だ。
それに今回は勝利といえどもジェネシスからの襲撃を乗り切っただけで、根本的な解決には至っていない。
今後SFSはどうしたらいい……。誰が指示を出す? 何を信じて戦えばいい。
それに……このペンダントはどうしたらいいんだ……。国防軍に渡していればみんな無事だったのか……?
「くそ……俺のペンダントを守るために……SFSは……」
「繋吾くんは悪くない……。責任を感じないでください……。悪いのはジェネシス……」
「……わかってる。だけど……この結果を招いたのは俺が……無力だったからだ。俺がこのペンダントを国防軍や開発司令部に渡していれば今頃こんなことには……」
ペンダントには1億枚にもおよぶカードの力が宿る。
ならば、ジェネシスの部隊を一掃するくらいの力は扱えるはずなんだ。
だけど俺はこのペンダントを操るどころかなんなのかすらもよくわかっていない。
もしかしたら開発司令部でこのペンダントの力を引き出すことだってできたかもしれないのに、俺は自らの思想と自分たちの力の過信からそれを実行するに至らなかった。
社長達が死んでしまったのは俺のせい……って言われても俺は何も反論できないだろう……。
「違います! 繋吾くん言っていたじゃないですか……ペンダントの力を無理やり行使しての反撃はジェネシスのやっていることと同じだって……。SFSはジェネシスと同じ道を歩まない。そして、父親からの大事な形見を守っていくんじゃなかったんですか?」
「結衣……お前」
「みんな……ジェネシスという強大な敵に対しても逃げずに戦っていたのは……繋吾くん。あなたの選択が正しいと信じていたから。あなたが正しいと思ったから戦っているんです。なのに……あなたが諦めたらその人達に顔向けできないじゃないですか」
最初は反対していた斉場副班長だって、あんなになるまで戦っていた。
それに黒沢部長だってきっと最後まで逃げずに戦ったんだろう。開発司令部ならきっと【空間移動】のカード1枚くらいは持っているはずだ。なのに逃げることはなかった。
あの人達は……最後の最後までテロリストから街のみんなを守るSFSの隊員として最後まで戦い抜いてくれたんだ。
それは……ひと思いにこの緑色のペンダントが……それが世界を救う最後の鍵だと信じて……俺や赤見班長達の考えを信じてくれた結果なのかな……。
死んでしまった以上どのような考えがあったのかはわからない。
だけど……結衣の言うとおり俺が一度決めた道を諦めてしまえば、ここまでしてきたこと。そして失った命が全て無駄になる。
「……そうだな。俺はもう引き返すことはできない。多くの思いだけじゃなく命も背負って俺はこのペンダントを守っていく義務があるんだ。目が覚めたよ結衣。俺はもう迷わない」
「なにもあなたひとりで背負うことはないんですよ。私が……ついてますから」
「ありがとう結衣。俺のやるべきことは変わらない。ジェネシスを殲滅すること。それだけだ」
ペンダントを俺が所持している限り、俺たちはジェネシスに負けたことにはならない。
あいつらを殲滅するまで俺は諦めない……。俺を信じてくれたSFSの人たちのためにも……!
「しかしこれからが大変だぞ遊佐。おそらくジェネシスは諦めてないだろう。戦略的撤退……ってところだろうな」
「戦略的撤退……?」
「国防軍の援軍がきたから撤退……それももちろん考えられるが……この状況を見るに司令室の殲滅という任務が完了したから撤退したようにも思える」
言われてみれば確かに……。俺たちはペンダントの防衛ばかりを考えていたが、実際には司令室へ激しい攻撃がなされている。
もしかしたら今回は頭を潰すことが目的で……弱ったところを追撃という可能性もあるってことか……。
「つまりだ。近いうちに本命であるペンダントを奪うための追撃が来る可能性があることも視野に入れておくべきだということだ。それまでにSFSの防衛線を再度敷かなければ我々は各個撃破されて我々は全滅することとなる」
「その通りだ楼。次の一手をうたねばならんのだ」
司令室入口より低い声が響き渡る。
そこには白瀬班長と多くの決闘機動班員。そして国防軍の魁偉さんの姿と国防軍の集団の姿があった。
「白瀬班長。ご無事で何よりです」
「はっはっは。君たちも何よりだな。遊佐くんもよく生きていてくれた」
「はい」
俺は白瀬班長に向けて大きく頭を下げる。
いま現状……一番このSFSをまとめられるのは……白瀬班長なんじゃないか。そんな気がしてだ。
「司令室は残念なことになりましたね。白瀬さん」
「えぇ、まったくこれでは天下のSFSがジェネシスに笑われてしまう」
こんな状況でありながら白瀬班長と魁偉さんの二人は笑いながら話し合っていた。
社長が死んだというのに……何も思わないのだろうか……?
「さて……。司令室の電子端末のデータのサルベージはできたか? 三枝?」
白瀬班長は司令室の整理を行っていた決闘機動班員らしき人物へ声をかけると、30代前半くらいの坊主頭の男性がその声に返事をし、白瀬班長の下へ駆け寄ってきた。
「ええ。ジェネシスからの受信データは全て残っておりました。これです」
三枝と呼ばれた男からデータの送受信を受けた白瀬班長は自らのデュエルウェポンの画面を眺め、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
いったいどのようなデータが……。
「魁偉一等陸佐。ジェネシスから更なるメッセージが届いていたみたいだよ。これを見てくれたまえ」
「ふむ……なになに。"我々に勝利したとでも思っているのかな? SFSの諸君。今回の攻撃は僕たちにとっては挨拶程度さ。威嚇射撃とでも言えばいいのかなあ? 明日の夕方、再び僕たちは一斉攻撃を仕掛けるつもりだ。今日の規模の倍以上でね"」
明日……?! そんなすぐにボロボロのSFSを立て直すなんて……どうしたらいいんだ……。
それに倍以上の規模だなんて……本当かどうかはわからないけど耐えられるわけがない。
やっぱり……デントが言っていたことは嘘なんだろう。元々今回の攻撃はペンダントなんてどうでもよかった。あいつらジェネシスは……俺たちを徹底的にいたぶって、国際的に自らの力は強大であることを世界に示したいのかもしれない。
じゃなければ……あのタイミングでペンダントをわざわざ見逃すなんておかしいだろう。
「SFSがこんな状況ではかなり厳しいな……。しかし、ジェネシスがこれまでにSFSを狙うのには何か理由が……? 白瀬班長」
ジェネシスからの文章を読み上げた魁偉さんが疑問そうな声をあげる。
そうか……。ペンダントを所有しているという情報は外部には機密事項になっていたんだっけ……。
「実はですな……。国防軍であったレッド・ペンダント……」
「ーーちょっと待ってください!」
国防軍にその情報が知れ渡ったら、おそらくこれは国防軍へ渡すという話になってしまうだろう。
それはSFSではしないとの方針だったじゃないか!
国防軍ではこのペンダントは守りきれない。それを主張していたのは白瀬班長たち決闘機動班だったはずだぞ……。
「どうしたのかね? 遊佐くん。今のSFSじゃこれを守りきる戦力はない。そうだろう?」
「それはやってみなければわからないじゃないですか! SFS本会議でこれは自らで守っていくとの方針を決めたじゃないですか!」
「……ほう」
白瀬班長は俺の言葉を聞くとそれを嘲笑うかのように口元をにやつかせる。
「その方針を決定したのは生天目社長。だが、もう彼はこの世にはいない。つまり"その方針はもう生きていない"のだよ。大事なのは"残された人物が今を生きるためにどうするか"を考えることだ。私はペンダントを守りきることは無理だと断定しよう」
「そんな……。そんなふざけたこと……!」
「遊佐……落ち着けって……」
白瀬に殴りかかるばかりの勢いだった俺を近くにいた桂希が止めに入る。
白瀬班長の言っていることもわかる。俺たちSFSの前体制は崩壊したといっても過言ではないからだ。会社の中枢である開発司令部……そして社長がいなくなってしまったのだからな。
「なんだか……取り乱しているようですが……。どういうことです? 白瀬班長」
「お見苦しいところをお見せしましたな。実は……SFSにもレッド・ペンダントと同様の力を持つグリーン・ペンダントがございましてな。ジェネシスはそれに目をつけて攻撃してきた……という状況だよ」
「なるほど……。まさかペンダントが他にも存在したとは……」
俺が再び叫ぼうとした時にはもう遅かった。
魁偉さんにペンダントの存在が知れ渡ってしまった……。
「我々SFSは既にジェネシスに対抗できる体力は残されていない。もはやジェネシスに降伏するしかあるまいな。ただ、ジェネシスにペンダントを渡すということはとてもできない。そこで……」
「なるほどな。そこで白瀬班長はそのペンダントを国防軍に委ねる……その方向でジェネシスに降伏すると」
「さすがは魁偉一等陸佐! 話が早くて助かるな。そのとおりだ。残存するSFS隊員にもはやジェネシスと戦えるほどの気力は残っておらんのでな。お願いできないだろうか……」
「いえ、俺たちはまだ諦めてません! 特殊機動班は……まだ……ジェネシス殲滅の作戦を……」
「気持ちだけで解決できる問題ではないのだよ遊佐くん。そうそう、そのペンダントを所有しているのはこの男。遊佐 繋吾だ」
白瀬は俺が突っかかったのを利用し、魁偉さんにペンダントの在り処まで伝えてしまった。
これでは取り上げられるのは間違いない……。何か……いい方法は……。
「遊佐くんか。君も随分と頑張ってくれたみたいだがもう大丈夫だ。あとは国防軍に任せたまえ。必ずジェネシスを殲滅してみせよう」
「それじゃ……意味がないんですよ……。それじゃ……父さんの思いも……死んでいった仲間たちの思いも……全てが無駄になるんだ……」
「はぁ。君の気持ちもわかるが、それは大変危険なものなんだよ。むしろSFSが所有していることでその力を行使されてしまう危険性もある。見方を変えればそれを所有しているSFSがテロリストとして認定される可能性もあるんだ」
「それでもSFSは国との契約でジェネシスをはじめとしたテロリスト殲滅のために活動してきた企業です! テロリストに対する抑止力としてペンダントを行使することは何ら問題はないはずでしょう! それにあなたたち国防軍だって、レッドペンダントを守りきれなかったじゃないですか!」
「ふむ……。どうしますかね、白瀬班長?」
俺の態度を見て呆れた表情をした魁偉さんは白瀬に助けを求めるかのように話を振った。
「ふっ……物分りの悪いガキが……。もう君たちの理想論には飽き飽きだ。それにもう特殊機動班も君も用済みだしな。魁偉さん。応じなければ認定してもらってよいかと。こいつを国に逆らう"テロリスト"として」
白瀬は少しイラついた様子で魁偉さんに言う。俺をテロリストにだと……ふざけたことを言うのもいい加減にしろ……。
白瀬がなにを考えているのかはわからないが……生天目社長がいなくなった途端にかつて言っていた方針を捻じ曲げた。ここから考えられることは……SFSを国防軍のいいなりにさせることが目的か……? わざわざ国防軍と繋がって……一体なんのために……。
それとも単純に戦意喪失でジェネシスと戦う意思を失ったか……。そんな小さな男だとは思わなかったけどな。
「白瀬班長! いくらなんでもそれは……! 遊佐は自らの意志で……」
「楼。今は静かにしていたまえ。それに次期社長にふさわしき人物はこの私だ。逆らおうと言うのかね」
「白瀬班長……」
いまこいつ……自らが社長になると言ったか……。
だから社長や黒沢部長が死んでも悲しそうな素振りを見せなかったんだ。
むしろ……死んでくれて出世できると……考えて……。
「お前が社長だなんてわからないだろう! 神久部長や斉藤部長だっている!」
「どうだろうな。トップに立つべきものは人望がなくてはなれんのだよ。私には多くの信頼できる部下がいる。つまり私がなった方が今後円滑な運営が可能ということだ」
確かに決闘機動班の人物は人数が多いけど……! だけど……!
「さぁ。魁偉一等陸佐。"SFS社長"として許可しますよ。遊佐 繋吾をテロリスト認定することを!」
「ほう……では最後にもう一度聞こう。遊佐くん。ペンダントを国防軍に渡してはくれないだろうか?」
ペンダントを渡さないと……俺はテロリストとして認定される。
それが意味することは……国防軍は俺を殺しにかかってくるということだ。
いずれにしてもそれが意味することはペンダントを国防軍が所有するということ。
くそ……ここまできて俺は自らの信念を折らないといけないのかよ……。
周囲を見渡すと悲しそうな表情をしている結衣と険しい表情の桂希が見えた。
あの二人は……どう思っているのだろう。俺にとって……何が正解なのだろうか。
ここで渡してしまうのは簡単だ。
それに……俺はあらゆる責任から逃れることとなる。SFSにいられる限り今後の生活も保証される。
何も不自由なことはないだろう。国防軍から殺されることもない。
だけど、渡してしまうことで俺が拒み続けることで痛みを受けた多くの開発司令部の人……そして、俺を信じ続けてくれた特殊機動班を裏切ることとなる。
「さぁ、返事をしてくれないか? 遊佐くん」
魁偉さんが俺に向かって右手を差し出してくる。
待ってくれ……。そんな大きな決断……すぐにできるわけがないだろう。
仮にだ……みんなの思いに答えるために……もしここで俺が逆らって……死んでしまったら……。
結衣を……ひとりにしてしまうかもしれない……。
あいつはひねくれもので変わったやつだけど……。俺にとってはいつの間にか大事な仲間という存在になっていた。
彼女に悲しい思いはさせたくはない。
それに……多くの問題を赤見さんに押し付けてしまうことにもなる。
俺の父さんが赤見さん課せた任務……俺を守り抜くという任務も失敗に終わり、赤見さんはそれを一生後悔して生きていくことになるだろう……。
くそ……俺はどうしたらいいんだ……!
選べっていうのかよ……!
「走れ!!」
突然大きな叫び声とともに光線のようなものが魁偉さんたち国防軍の兵士たちに襲いかかる。
あまりの攻撃に司令室内では攻撃による煙が充満し、徐々に視界が悪くなっていく。
「繋吾くん!」
国防軍の人たちの混乱する声が響き渡る中、結衣の声が聞こえると同時に俺の腕が誰かに引っ張られる。
それに引きずられながら俺は走ることにした。
扉を抜けてその姿が明らかになると俺の前には二人の人物がいた。
俺の前を走る赤見さんと俺の腕を引っ張る結衣だった。
「赤見さん! 俺は……」
「安心しろ。俺は……いつでもお前の味方だ。繋吾。結衣」
「赤見班長……! よかった……繋吾くん。諦めないでくださいね」
結衣が咄嗟の判断で俺を導いてくれたみたいだ。さすがはエリート。俺はどうすればいいのかわからず混乱していて、動けずにいたからな。
それに赤見さんも……どこまで状況を理解してくれていたのかはわからないが……。国防軍に対して攻撃してしまった……。
これじゃ赤見さんは合法的にテロリスト認定されたっておかしくない。
「まったく、人生何が起こるかわかったもんじゃないな。話は後だ。今は逃げるぞ! 捕まりたくないだろ?」
「……はい! ついていきます……赤見さん!」
赤見さんが導く未来に今は掛けてみよう……。
何が正しくて今俺が何をするべきなのかはわからない。
だけど、俺にとっては今これが一番正しい選択肢だと思えた。