遊戯王Connect   作:ハシン

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Ep76 - 路上生活の知恵

 

真跡シティの入口へとたどり着くとそこには大きめの門が立っていた。

さすがにまだ国防軍の見張り等はいない。難なく中には入ることができそうだ。

入口の門には"真跡シティ ノース区"と書かれていた。SFSはノース区を抜けた先の山道にあるため、一番近い入口がこことなる。

 

そして、ノース区といえば俺が一番寝泊まりしていたある意味馴染みが深い場所でもあった。

というのも構造自体が細い道が多く、身を隠すには一番最適だったからだ。ホームレスは国防軍に見つかればやはり色々と面倒なことになるからな。

俺以外にもホームレスが多くいて、そういう人たちを見かけると少し安心した気持ちになっていたっけな。

今もホームレスに戻ってしまったような状況だが、当時を思い出し少し懐かしい気分になった。

 

「よかった。検問とかされてたらやばいと思っていたがまだ大丈夫なようだ。目標は真跡シティのウエスト区。そこまで移動しなければならない」

 

「……はい……」

 

赤見さんの言葉に対して結衣は辛そうな表示をしながら答えた。

ウエスト区に行くにはノース区を通り抜けなければならない分、それなりの距離がある。

結衣の状態からするととても歩ききれるようには見えなかった。

 

「結衣……大丈夫か?」

 

「え……えぇ……。この程度……」

 

赤見さんも結衣の様子を見て悩んだように顔をしかめている。

 

「おそらく……素早く行動しなければ真跡シティに包囲網を張られ我々の行動範囲はぐっと狭まる。できるだけ早く行動したいところだが……。厳しそうだな」

 

「そんな……赤見班長。私は……」

 

「無茶言うな結衣。赤見さん! どうしたら……」

 

さすがにこれだけ疲弊している結衣を放っておくわけにはいかない。

だけど……どうしたらいいんだろう。

 

「わかった。今日はノース区のどこか身を潜められるところで体を休めよう。包囲網についてはなんとか考える。だが……いいところはあるだろうか」

 

「それなら……いいところがあります。ホームレスの時によく寝床にしてたところがあるんです。そこなら国防軍の目につきにくくて身を隠すには向いてる……」

 

ノース区なら知っている場所が多い。

ホームレス時代は国防軍の目を盗みながらの生活だったからな。

 

「そうか! 繋吾の路上生活の知識……今それほど役に立つものはない! 結衣は私が運ぶ。案内してくれ」

 

「わかりました。そこならいざ見つかっても逃げ道もあるし、歩いて数分だ。いきましょう」

 

俺は赤見さん達を連れてノース区の路地裏へと足を運ぶ。

細い通路が入り組んでいるこの形状は素人ではまず迷うだろう。だが、こういうところを寝床にしていた俺にとってはどう進めばどのあたりに出るのかは感覚でわかっていた。

どこにゴミ箱や自動販売機があるか等、それらは景色と方角とともに頭の中に全て叩き込まれている。

そして、なによりも必要なのは逃走経路。これはいざ国防軍に目をつけられた時に逃げる手段として最も重要だった。

ただ人目がつかないだけではダメだ。最悪の自体を想定して追われた時にでも安全に逃げられる場所が必要となる。

 

今回、赤見さん達に案内するのはそんな中でもノース区の北側に近い区画……。ここは真跡シティ外である山道にも近いことから標高の高めの位置にある区画だった。

標高が高めであると商業施設へ買い物へ行った際の帰り道が上り坂になり利便性はかなり悪い。そういう状況から人口が少なかった。そして路地裏ともあれば当然国防軍からの監視の優先度はかなり低い。

 

それから向かう場所は路地と言っても坂道を横切るように作られた通路だ。階段状に街の中央に向かって段差ができるように家が建ち並び、その家を区切るようにして連続した通路が横切っているような形状。

 

つまり、通路から低い方へ家の屋根や構造物を駆使して通路を通ることなく下っていくことができるのだ。

 

これでは国防軍から包囲される危険性は限りなく低い。包囲しようものには周辺の家を全て占拠する必要があるからな。そんなことしている間に俺たちは国防軍に気づくことができるし、逃げる余裕は十分にあるってことだ。

 

俺は向かう道中で赤見さんにその説明をしながら、懐かしいノース区の通路を歩いていく。

ついこの間までいたんだから、まだその景色はあまり変わってはいなかった。強いて言うのなら少しだけ肌寒い季節になったくらいだろうか。

 

そして、俺の寝床の一つであった古びた駐輪場へとたどり着いた。周辺は木に囲まれており屋根もついている格別の場所だ。この駐輪場の持ち主であろう付近の民家はだいぶ前から空家になっているのか錆び付いており人の気配がない。だからこそ俺はここを自由に使えていたのだ。

荒れ放題の木たちが視界を遮ってくれるのも大きい。こっそりと身を隠すのは絶好の場所だった。

 

「こんな隠れてくださいと言わんばかりの場所があったとはな……」

 

「俺も随分と探した場所なんですよこれ。お、まだ残ってるか」

 

そこには俺が以前使っていたボロボロのブルーシートやダンボールの山がまだ残っていた。

冬場なんかは寒いからダンボールで囲って風から凌げるようにしていたっけか。

 

「路上生活……話には聞くがいざ見てみるとこれは過酷だな……」

 

「はい。こういう場所が見つけられるまではもっと厳しかったですよ」

 

「だろうな……だが、おかげで助かったな。よし……」

 

赤見さんはブルーシートにダンボールを使って簡易的な布団……と呼ぶにはお粗末すぎるがダンボールを敷き、そこへ結衣を寝かせた。

 

「休めば大丈夫だろう。幸い結衣はデュエルに負けたわけではないからな。繋吾も今のうちに寝ておいた方がいい。明日はきっと大変になる」

 

「明日にはきっと……国防軍の追跡が厳しくなると思いますけど……どうするつもりですか? 赤見さん」

 

包囲網が敷かれてしまえば、街中を歩いているだけで遭遇する可能性もある。

それに……真跡シティの区間移動には国防軍の管理する門を通過しなければならない。

俺たちが指名手配されているとなると……検問されていてもおかしくはない。そうなればウエスト区に行く手段がなくなるってことだ。

 

「そうだな……手段は二つ。一つはデュエルウェポンでの痺れ薬や閃光弾を使用して力技で検問や追跡を突破する方法。だが、これだと目的に追跡を受けながら到達する危険性がある。そうなれば目的地を国防軍に特定されて終わりだ」

 

「その時は今回みたいな身を隠せる場所でなんとかごまかさなければいけないってことですか」

 

「あぁ……。それともう一つは……。結衣次第だな」

 

「結衣次第? どういうことだ?」

 

「それは明日結衣に聞いてみてからだな。いずれにしても明日の日が暮れるころ……までここで時間を潰すことになる。昼間の行動は危険だ」

 

結衣次第で可能になる作戦か……。一体どんな作戦なのだろうか……。

だが、もうすぐ日が昇る時刻にもなることから俺と赤見さんもその日は体を休めることにした。

 

ーー翌日の日が暮れる頃。俺たち3人は出動すべく準備を整えていた。

 

「しかし、本当にゴミ箱の中にも食い物があるもんなんだなあ。驚いたよ繋吾」

 

「今日はあたりの方ですよ。捨てる人もどうかと思うけどな」

 

昨晩から当然なにも食っていない俺たちだったが、ゴミ箱あさりで多少の食い物を入手することができたことにより、十分とは言えないが少しだけ物を口にすることができていた。

 

「わたしも一歩間違えればこんな生活を……。底辺ってのは大変ですね。繋吾くん」

 

「おすすめはしないよ。それにしてもいいのか? 結衣」

 

昨晩の赤見さんが提案した作戦だが、結衣は迷いはしたものの引き受けることとなった。

そうでもしないと今の現状を打開できないと判断しての決断だろうな。

 

「……はい。できればしたくないですが……仕方がないことなので」

 

「悪いな結衣……。こんな手段しか思いつかないとは……」

 

「いえ、元はといえば私が疲弊していたのが原因ですし……。でも置いていかずに私をそばに置いてくれた。その恩は返すつもりです」

 

「ありがとう。繋吾、状況はどうだった?」

 

「変わりなく国防軍駐在所には3名の国防軍隊員がいました。何名出てくるかはわからないけど、うまく行くと思います」

 

「では行くぞ。結衣、準備してくれ。私たちは少し離れているから」

 

「わかりました。み……見ないでくださいね……?」

 

結衣は少し照れながらそう言うと着替えを始めた。

見れば本気で怒られそうなので俺と赤見さんは少し離れた木の下で待つことにした。

 

「にしてもあの結衣がゴミ箱に捨てられてあったボロボロの服をよく着ようとおもったな……」

 

「たぶん最初で最後だな。貴重だぞ繋吾」

 

そう話す赤見さんは少しだけ楽しそうだった。こんな状況下だけど赤見さんのやんちゃなところが見れた気がして少しだけ嬉しいな。

 

「しかし、繋吾もよくあの結衣と仲良くなれたもんだな」

 

「え……。まぁ色々ありましたけど……あいつ、根は悪くないやつですから」

 

そこまで長い期間結衣といたわけじゃないけど、悪い奴じゃないってことはよく知っている。

人付き合いが少しだけ……うまくないだけなんだ。

 

「そうだな……あの子の境遇が心を歪ませてしまった。繋吾に会うまでは本当に私以外冷たく当たってばっかりだったんだぞ」

 

「やっぱりそうだったんですか……」

 

俺も会った頃はそんな感じだったしな。実際けっこう凹んだし。

 

「いったいどんな手使ったんだ?」

 

「え……」

 

赤見さんがマジな視線で聞いてくる。深堀りしてくるとは。

 

「いや……結衣のことを守っただけですよ。後は昔の話聞いたりとか……」

 

「繋吾も結衣の昔のことを聞いたんだな。なるほど……つまりだ。結衣は繋吾に惚れてるってことか」

 

「えぇ! 何を言ってるんですか! 俺も結衣もそんなつもりじゃないですから! 境遇の似た理解者同士ってだけで……」

 

「そう言いながら顔真っ赤じゃないか繋吾。いいじゃないか。理解し合えるってことはいいパートナーってことだぞ?」

 

「だけど、結衣はそんなつもりないですって……。結衣には釣り合わないというか……」

 

俺は生まれてから恋愛なんてものとは無縁の世界を生きてきた。

人を愛するとか好きだとかそんな感情はよくわからない。

だから……そんな俺が結衣と特別な関係になるのはふさわしくないだろう。

 

「あれだけ仲がいいんだから自信持てよ! その気なら……全てが終わったら気持ち伝えても悪くないと思うぞ繋吾」

 

全てが終わったら……か。無事生きていられるかわからないし、そもそもこれから俺はどうしていけば真っ当に生きていられるのかもわからない。

まぁ……もし全てが解決したら……その時考えてみるか……。

 

「まぁ……わかりました。てか、それよりもそろそろ結衣の準備出来たんじゃないですか?」

 

「ん……あぁそうだな。行くか」

 

俺は半ば強引に赤見さんの話を中断して、結衣のところへと向かった。

 

ーー時をしばらくして俺と赤見さんの二人はデュエルウェポンを構えながら家の屋根の上で準備を整えていた。

 

「結衣のやつ……うまくいったかな……」

 

「心配するな繋吾。結衣は女の中じゃ見た目はいい方だと思うぞ。顔は整っているし、スタイルもいいしな」

 

「赤見さん……そうじゃなくて……あいつの性格ですよ。国防軍相手にうまく喋れるか……」

 

「任務だと思えばきっとうまくやってくれるはずさ。きっとな。信じてやろう」

 

赤見さんがそう言った直後、交差点から曲がり、俺たちの真下を通る通路に結衣と国防軍の隊員2名が歩いてきた。

 

「3名は無理だったか。まぁ2名いれば上々だな。準備はいいな?」

 

「はい」

 

俺はデュエルウェポンに【閃光弾】のカードをセットし、結衣たちが俺たちのいる真下に来るまで待つ……。

結衣は引きつったような顔をしながら二人と話しているようだった。悪いな……結衣。すぐに助けてやるからな。

見て分かるとおり今回の作戦は結衣に一般市民に成りすましてもらい、国防軍隊員を誘惑。家へ案内するという名目でこの通路へおびき寄せ捕らえるという作戦だ。

結衣はちょうど疲れて顔がぐしゃぐしゃにもなっていたから国防軍には親に虐待されただの、酔っぱらいが襲いかかってきただの理由はなんでもいいように伝えてある。

それもうまくいったみたいだった。

 

「しっかしこんな可愛い娘に手を出すとは許せねえなあ! 話し合いしてダメだったらうちに来な? ね?」

 

「え、えぇ……」

 

「辛いんでしょ? なら俺たちが大事に育ててやるからよ。安心しなね? そういう方向でお話して家でれるようにしてあげるからよ! ここらでみるホームレスみたいな生活したくないでしょ?」

 

国防軍の連中は結衣に腕をかけながら耳元でそんな言葉をかけていた。

まったく……こんなことして許されると思っているのかよ。国防軍も田舎の担当だとここまで腐ってやがるのか……。

結衣は本当に辛そうにしながらも笑顔を作っていた。今、行くからな……結衣!

 

真下に差し掛かったと同時に赤見さんが合図を出す。それと同時に俺たちは【閃光弾】を下に投げつけ飛び降りる。

 

「いけ! 【セフィラ・メタトロン】! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

続けて俺は【セフィラ・メタトロン】を召喚し、国防軍隊員の急所を外すようにして攻撃を仕掛ける。

腕と足にその刃を直撃し、国防軍隊員の体から血が流れ出ていた。

同時に国防軍隊員達の叫び声が聞こえてくる。

 

「黙れ! このくそ野郎が!」

 

俺は続けて【しびれ薬】のカードを使用し、奴らの口の中へと流し込む。

その効果は強力ゆえにすぐに彼らは声を出すことができなくなった。

気の毒だが……俺たちはこうするしかない。きっと救助があればこの人たちは助かるはずだ。

 

「繋吾、すぐに服を奪い取れ。叫び声を聞いて増援が来る可能性もあるからな」

 

「はい!」

 

今回の作戦の最終目標。それは国防軍の装備を奪い、検問を突破することだった。

そのために結衣には囮をしてもらい、完全なる奇襲にて装備を奪い必要があったのだ。

幸い、指名手配されているのは俺と赤見さんの二人だったからな。

結衣の顔は国防軍の連中には知られていない。

 

「死ね! もう二度と触るな! あなた達みたいな……最悪な人に触られるくらいなら……虐待される方がマシです!」

 

結衣は国防軍隊員を全力で蹴飛ばしながら叫んでいる。随分と我慢してたみたいだな……。無理もない。

 

「よく頑張ってくれた結衣。すぐに向かうぞ」

 

「はぁはぁ……わかりました。行きましょう」

 

俺たちはその場から逃げるように走り出し、ウエスト区への入口となる門を目掛けて駆けていった。

 

 

 

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