ノース区とウエスト区を結ぶ門へとたどり着いた俺たちは物陰から国防軍がどの程度配備されているか偵察を行っていた。
国防軍の正装を身に纏った俺と赤見さん。そして、相変わらずボロい服を着た結衣。
俺たちの身元を知らなければバレることはない……と信じたい。
結衣は市民のフリをする都合上、デュエルウェポンを身につけず赤見さんの持つバッグの中にしまわれているが、俺と赤見さんについては国防軍という名目上デュエルウェポンを堂々とつけていられる。
ましてや今指名手配がなされているのであれば、国防軍の大半は身につけているだろうしな。
「入口に2名、検問対応で4名ってところか」
「ですね……赤見さん。どういう感じで抜けるつもりですか?」
「そうだな。結衣は俺たちが保護した市民っていう建前で通過するとしよう。私が答えるから繋吾は喋らなくてもいい。何か言われたらうまくごまかしてくれ」
「わかりました」
国防軍がどこまで賢いかはわからないが、顔でばれる可能性は十分に考えられる。
油断はできないな……。
「いざとなったら武力行使して逃げる。できればしたくはないがな」
もう既に俺たちは国防軍の隊員を襲ってここに来ている。立派なテロリストだ。
今更善人ぶったところでなにも変わりはしないか。
早いところ行かないと裸にされた国防軍が検問されている奴に知れればそれこそ出づらくなる。
あの国防軍の人たちに攻撃してでも出るくらいの覚悟がいるってことか。
「では行くぞ。私の後からついてきてくれ」
俺と結衣は赤見さんの言葉に無言で頷くと並ぶようにして門へと向かった。
門の前へたどり着くと、さっそく国防軍の連中が俺たちのことを気にしているようだった。
そして、近くを通りかかる時に俺たちが歩いている方へ体の向きを変え、頭を下げ始める。
「お疲れ様です!」
やはり国防軍ともあれば礼儀というものを重んじているのだろう。
丁寧に頭を下げてきた。
「お疲れ様です」
続けて前を歩いていた赤見さんが何事もないように挨拶を返す。
おれもそれに合わせるようにして、国防軍の人へ頭を下げた。
ここまでは不審には思われてないみたいだ。
国防軍の人たちの態度からして、おそらく新兵……っていうような感じではあるが。
問題はここからだ。
この先には実際に検問を実施している国防軍二名がいる。
俺たちはすんなり通れたとしても、一般人に紛れている結衣は念入りなチェックを受ける可能性がある。
どう切り抜けるかは……赤見さんにかかっているな……。
そんなことを考えていると、検問をしている国防軍の前へとたどり着いた。
「ん、お前ら見ない顔だな? ノース区担当の新兵か?」
国防軍のうちの一人が俺たちの顔をじろじろと見ながら声をかけてきた。
この人たちは門番の人たちとは違う。態度からしてそれなりに偉い立場にあるのだろうな。
「はい、未熟者ですがよろしくお願いします」
それに対して演技を続ける赤見さん。
しかし、国防軍の人はそれでもなお、赤見さんのことを怪しそうに見ていた。
「今日は例の指名手配犯の関係でノース区担当は区内全域の捜索を行うはずだが……。お前たちウエスト区に何の用だ? 任務の放棄は処罰対象だぞ」
なるほどな。それであれば俺たちは任務を放棄していることとなる。
怪しまれるのも無理はないってことか。
「申し訳ありません。任務は重々承知しておりますが、不法滞在者を発見したもので」
「ん? 不法滞在者だと?」
「後ろにいるこの民間人の女性です。身元はウエスト区出身のようですが、ノース区には居住権がない住民のようでしたので、ウエスト区までお連れしようかと」
結衣をネタに正統的な行動であると示すみたいだ。ここまでの筋書きを咄嗟に作れる赤見さんはさすがだな……。俺なんか何を喋っていいのかまったく思いつかなかった。
「ほう、路上生活者ってやつか。ウエスト区に住居はあるのか? その見た目じゃなさそうだが。そうなれば保護施設行きだ。私どもの方で対応しておくから、彼女は我々に任せ君たちは早く緊急任務へ対応していてくれたまえ」
「い、いえ……そういうわけには参りません。彼女は住居持ちですが、ひどく虐待を受けノース区に逃げ延びてきました。そのためには直接同行し、親族への話も伺う必要があります」
「ふむ。しかし、今の最優先事項は指名手配犯の拘束だ。テロリストが忍び込んでいるんだぞ! いつ、街の住民が被害にあうかわからない状態だ。優先順位を考えろ新兵」
「くっ……」
どうにもこうにも手詰まりの様子だ……。
このままでは結衣を引き取られた上に俺と赤見さんはノース区へ戻らざるを得なくなる。
どうしたら……。
「さっきから喋らないお前も早く任務に戻れ! 今は……緊急事態なんだぞ!」
「はい……」
くそ、これではどうしようもないか……。
ここで抵抗したら一瞬で身元がばれる……。
「わかりました。国防軍の方、ありがとうございました。私の荷物を返していただけますか?」
結衣が俺たちに向かって頭を下げながら言った。
赤見さんはそれに頷き、自らのバックの中からデュエルウェポンとカードを取り出す。
「お前……それはデュエルウェポン……か? なぜ一般人がそれを所持している!」
案の定持ち物に違和感を感じた国防軍の人は不審そうに睨みつけてくる。
ここで所有物をばらすということは……つまり……。
俺の予想通り、結衣がデュエルウェポンをつけたのを確認すると、赤見さんは小声で「いくぞ」と呟いた。
まさか……これは強行突破するつもりか……?
「ホームレス一人もまともに救えないんじゃ、到底テロリストってのには勝てないな! お前さん」
「んな!」
赤見さんは大きく叫びながら1枚のカードを発動させる。
それに合わせるようにして俺たちは自らの目を塞いだ。
強行突破する際に赤見さんが用意してたのはいつもお世話になっている【閃光弾】のカード。
これで目くらまししている間に逃げようって算段だ。
「今だ! 突っ走るぞ!」
「はい!」
赤見さんはさらにカードを3枚ほど伏せながら走り出し、俺たちもそれを追うようにしてウエスト区へ侵入し、逃げるように走り出した。
「くそ! 追え! 検問の無断突破だ! テロリストの可能性もある。周辺の国防軍は追跡せよ!」
後ろを振り返ると、先ほどの国防軍隊員の他にも周囲にいたであろう数十名の国防軍が俺たちを追うべく走っていた。
だが、そこには仕掛けられたトラップがあった。赤見さんが伏せたカードだ。
突如、大きな物音と共に地面に大きな穴が出現する。
そう、【落とし穴】のカードだ。赤見さんは3枚の落とし穴を仕掛け、追手を振り切ろうとしていた。
「よし、今のうちにあいつらの目の届かないところまで逃げるぞ! 走れ!」
落とし穴にハマる国防軍に目を向けながらも俺たちは赤見さんについていくようにして真跡シティウエスト区の駆け出していった。
しかし、既に国防軍には見つかった状態。下手に走り回っていても包囲されてしまうのは時間の問題だろう。どこか身を隠せる場所を探さないといけないか……。
前を走る赤見さんはあたりをキョロキョロと見渡しながら走っている。
国防軍がいるかどうかの確認だけでなく、隠れられる場所を探しているのだろうか。
「……赤見班長。どこか隠れられるアテはありますか? このまま逃げ続けても……」
結衣がぼそっと呟くようにして、赤見さんに問う。
「あぁ……そうだな。追手をひとまずは振り切れたとはいえ、奴らに警戒されている最中に目的地にたどり着くわけにもいかない。どこか隠れられる場所を探さなくちゃな。繋吾はこのあたりは知ってたりするか?」
「いえ、さっきみたいに居住権のない人間は簡単には区間ゲートを通過することはできないからわからないですね……」
「そうか……。ならできるだけ人目につかなそうな場所を探すしかないか……?」
少し残念そうな声色で赤見さんは答える。
そう簡単にはまったく国防軍の目に付かない場所は見つけることはできない。俺が紹介したノース区のあの場所だって、探すのは本当に大変だったしな……。
人口が少なく、一見人が出入りできるような場所じゃないかつ、いざという時に脱出が容易に出来る場所……。
見渡す限り建物が立ち並んでいるウエスト区にはそのようば場所はなかなかなさそうだった。
「あの……」
突然結衣が立ち止まり、近くの建物を指さした。
「どうした? 結衣」
「赤見班長。私と出会った場所を覚えていますか?」
「あぁ……確かウエスト区の廃工場だったな……って……」
「はい。ここです。私としては二度と思い出したくもない場所ですが……」
結衣が指さした先にはシャッターの締まりきった工場があった。
今の話だとここが以前結衣が言ってた知らない犯罪者集団に監禁された場所ってことか。
「私が監禁されていた場所はこの工場の秘密経路を通った先にある場所です。工場の構造を熟知している人物でなければわからない場所です」
「確かに……依頼を受けた時、私も事前にあの工場の構造図は受け取っていた。そうでなければ結衣を発見できなかったからな」
ある意味秘密基地のような場所だったのだろう。
犯罪者集団が隠れ蓑にしていたような場所だ。当然だろう。
「迷っている暇はありません。行きましょう」
廃工場の中へ走り出す結衣を追って俺と赤見さんも廃工場へと入っていった。
中を見渡してみると埃まみれであらゆる機器や建物の骨格が錆び付いていた。
かなり長い間放ったらかしにされているのだろう。
「こっちです」
結衣に案内されるがままに進んでいくと廃工場の事務室らしき場所へと入っていく。
変わらずそこも埃まみれのテーブルや椅子。随分と旧型タイプのPC等が並べられていた。
「よく覚えているな。結衣」
「えぇ、まぁ……。この事務室で私は騙されましたから」
衰弱していた結衣にとっては手を差し伸べてくれる人はどんな人であっても輝いて見えていたんだろう。
それゆえにここの景色も忘れられないものだったのかもしれない。
「ここです。この壁は回転扉になっていて、思いっきり力を入れると中へ入れるようになってます。普段は冷蔵庫等で隠されているんですが、むき出しになってますね」
一見白い壁だが、よく見るとわずかな継ぎ目が見えた。
壁紙によくある継ぎ目程度しかないので、これは言われなければわからないかもしれないな。
「辛くないか? 結衣」
赤見さんが心配するように声をかける。
結衣にとっては思い出したくもない過去。それがフラッシュバックしてもおかしくはないはずだ。
「大丈夫……です。だけど……あの部屋には……入りたくないです」
「それって結衣が襲われた場所のことか?」
「はい……」
回転扉さえくぐってしまえば安全は保障されるだろうし、無理に入る必要はないだろう。
「そういや繋吾、結衣の昔の話は聞いたことあるのか? 知っていそうなそぶりだったが……」
「はい、結衣から聞きました。赤見さんと会った経緯も全部」
「そうだったか……それなら話が早くて助かるな。回転扉をくぐった先でしばらく身を置こう。警備が手薄な深夜になるまでな。夜中なら国防軍の連中も体力的に弱っている頃だろう」
少なくとも今よりかは状況はマシになるってところか。
目的地までだいぶ近づいてきているんだろうし、あと少しの辛抱だ。
赤見さんがゆっくりと壁に寄りかかるようにして前へと押す。
すると壁がゆっくりと動き出し、回転し始めた。その流れに乗るようにして俺たち3人は壁の中へと入り込む。
中には広い空間が一つとその先に扉が何個かあり、いくつかの部屋が繋がっているようだった。
「回転扉から距離を置いてここで待機しよう。あの奥が結衣が言ってた場所だ。無理に入る必要はない」
「ありがとうございます……私のせいで色々とご迷惑をかけて……ごめんなさい」
「結衣は悪くないさ。ここがなければ今頃もっと追い詰められてただろう。ゆっくり休んでくれ」
決して居場所のいいところとは言えないが、地べたじゃないだけマシだろう。
それに雨風も凌げる。安全にいられる場所が確保できただけでも十分だ。
「深夜には本当に警備が手薄になるんですかね……」
「実はな繋吾。外部の状況を把握する手段がある」
外部の状況を把握する手段……? 一体何があるのだろう。
俺たちのデュエルウェポンはSFSからの情報探知やGPSによる居場所特定を避けるためネット接続を完全にオフにしている。
そうでもしなければすぐに俺たちの居場所がばれてしまうからだ。
つまり、外部の情報を入手する手段が一切なかったのだ。
「デュエルウェポンはすっかり木偶のぼうとなってしまっているが、これを持っている」
そうして赤見さんが取り出したのは小型の電話。
デュエルディスクが普及する前に流行っていた携帯電話という代物だ。
今となっては全ての機能がデュエルディスクやデュエルウェポンにも搭載されているから、使う人もすっかりいなくなってしまったみたいだが。
「携帯電話! 赤見さんまだ持ってたんですね」
「使う機会なんかもうないと思ってたんだがな。SFS大防衛戦が行われる前、レンに社長のことを話したら持っといた方がいいってレンから渡されたんだ。デュエルウェポンでは解析のできない情報伝達手段として、携帯電話は活躍できるんじゃないかってな。今となっては助かってる」
確かにあの時は開発司令部の情報と決闘機動班の情報が入り混じっていた。
それにジェネシスもどこかしらから情報と探知していたのだろう。デントの侵入はそれを意味しているはずだ。
まぁ……白瀬班長の差金かもしれないが。
「携帯電話の回線はデュエルディスク等の回線とは別だ。旧式の回線を使用しているから、携帯電話での通信は携帯電話でしか受信できない。つまり、ここで取られる情報伝達は安全ってことだ。まさか国防軍も今の時代に携帯電話を使用して連絡を取り合うことなんて想定していないだろうからな」
「確かに……ってことは紅谷班長と繋がってるってことですか?」
「あぁ。レンとだけなら連絡を取り合うことができる。あいつの話だと今国防軍の厳重警戒体制はノース区からウエスト区へ移ったらしい。それにレン自身も怪しまれないようにウエスト区へ出撃しているそうだ」
「なるほど……紅谷班長は疑われなかったんですかね……? 赤見さんとは仲がいいでしょうし……真っ先に尋問も受けてそうだけど……」
「レンは宗像と一緒の考えだということで乗り切ってるらしいな。私たちと関わりがあった連中はみんな白瀬に尋問をさせられているそうだ。そして……郷田は国防軍に引き渡されてしまい、颯は行方不明になったって話だ……くそっ!」
「そんな……」
郷田さんは宗像班長に負けてしまったということだろう。
テロリストに加担した人への罪は重い。無事であるかもわからないだろう。
俺たちのために……郷田さんは……。
それに颯も俺たちと同じように追われている可能性がある。あいつだって協力する気はないとはいえ特殊機動班の一員だ。郷田さんと同じように目をつけられていたっておかしくはないだろう。
あいつは何も悪いことしていないのに……。
そんな仲間たちの苦しみを無駄にしないためにも俺たちは目的を遂行しなければならない。
例えどんな険しい道のりだとしてもな。
「レンからの状況報告はそんなところだ。ここから出るタイミングはレンからの情報を待ってからにするつもりだ」
「わかりました。なんだか外にも仲間がいるとわかると少しホッとしますね」
「レンなら信頼のおける仲間だからな。こんな状態になっても私たちのことを見捨てないで信じてくれる。ありがたい話だよ」
赤見さんと紅谷班長も固い絆で結ばれているのだろうな。
宗像班長という存在がありながらも、赤見さんを信じる。紅谷さんの立場としては非常に苦しいものだろう。かつての大事な仲間同士が争っているのだからな。
願わくば……宗像班長の誤解が解ければ……いいんだろうなあ……。
「赤見さんと紅谷班長、かなり信頼し合っているんですね」
「まあ……昔から色々と世話になっているからな。あいつの身に危険が及んでいなければいいが……」
心配するのも無理もない。実際に行っているのはスパイみたいなものだ。
バレたらそれこそ殺されてもおかしくはないだろう。国家への反逆行為のようなものだ。
だが、同時に紅谷班長はいつでも俺たちの情報を国防軍に売れる立場でもある。
信用していないというわけではないが、そういう意味では紅谷班長になにかがあったらおしまいだ。
正直なところ俺たちは不確かな脅威に対して法を犯している。
ペンダントの集結を阻止することが本当に正しいことなのかもわからないところだ。
俺たちには後がないからそう信じるしかないが、第三者からしてみれば状況は違う。
いつ裏切ったっておかしくはないんだ。
「赤見さん、紅谷班長が裏切ったりってことは……」
「あぁ。0とは言えないが私はあいつを信じてる。俺にとって大事な人だからな…」
「赤見さん……それってーー」
俺と赤見さんの会話をかき消すように扉が開くような音がした。
まさか、既に先約がいたのか……? まだ前みたいに犯罪者集団が根城にしていてもおかしくはない。
「繋吾、結衣。デュエルウェポンを構えろ……」
俺たちはすぐさまデュエルウェポンを構え、音のした扉の方へ視線を向ける。
その扉が開き、中から懐中電灯を持ったひとりの人物が現れた。
「こんなところに何者だ。この土地と建物は国防軍が差し押さえている。一般人の立ち入りは禁じられているはずだが」
そこには国防軍の制服を着た中年の男性がいた。
まずい……まさか中に国防軍がいるなんて想定していなかった……!
しかし、なぜこんなところにいるんだ。普通の人じゃこの隠し扉の奥なんてわかるはずもないのに。
「くっ、やるしかないか、繋吾ーー」
「待て! 君は……」
赤見さんと俺がデュエルウェポンを構えようとした瞬間、その国防軍の人物が声をあげた。
それに疑問に思い、彼に視線を向けると、結衣の方を見ながら驚いたような表情をしていた。
「お前……まさか……結衣か……?」
「あっ! え……嘘でしょ……」
「知っているのか結衣?」
「はい……あれは……私の父親です」
結衣が震えながら答えたその国防軍の人物は……驚くべきことに結衣の父親であった。