この素晴らしい世界に灼熱の怪獣王を!   作:千本虚刀 斬月

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おや?安楽少女の様子が

 ゴジラとサキエルがこの世界に来て2ヶ月が経過した。秋も過ぎ去り、冬の訪れも間もなく。

 

ゴジラの寝床である湖の畔には、あるモンスターが根を張っている。もっとも、そのモンスターの方が最初から住み着いていたところに、ゴジラか後からやって来て湖に住み着きだしたのだが。

 

畔の近くにある森の中にソレは居る。目の良い者なら畔からでもギリギリで見えるかどうかの位置。3mはあろうかという彼岸花に寄り添うように佇む美しい少女。まるでアルビノ体質の様にも見えるが儚さは微塵も感じさせず、漆黒のフード付きロングコートをはためかせる様は背後の巨大な彼岸花も相まって死神を想起させる禍々しさがある。

 

その少女は『安楽少女』と呼ばれる喰人性の植物型モンスターだった。だが僅か2ヶ月で大きく変ってしまった。原因は勿論ゴジラである。

 

ゴジラが湖に住み着いた所為で、湖の水にゴジラの出汁が染み渡ってしまっているのだ。

 

ゴジラ細胞のスペックとポテンシャルに関しては今更語るまでも無いだろう。細胞に比べれば其れ程のものでは無いが、ゴジラエキスも相応の効力を秘めている。

 

安楽少女はその湖水を2ヶ月間吸い続け、偶にバーニングゴジラが無意識に放つ放射能を浴び、時折ゴジラが狩ったモンスターの死骸や怪獣討伐で得たマナタイトの余りを餌として与えられていたのだ。

 

安楽少女が通常通りの進化を遂げ、上位種族に到った場合は『安楽王女』に成る。どちらにせよ本来は直接的な攻撃手段を持ち合わせては居らず、腹黒い本性を擬態と演技でひた隠し、アルカロイドを多量に含んだ果実で獲物を釘付けにして衰弱死に誘うのだ。

 

だがこの個体はゴジラの影響による突然変異の異常進化、故に殆ど別種と言っていいくらいに変質している。性格は、基本的には冷酷無慈悲、ゴジラとサキエルは主と認識している為に忠実。多彩な攻撃手段を獲得していて、戦闘能力はかなり高い。自分に敵対した者は、人間であったとしてもモンスターと同様に一切の容赦なく鏖殺し捕食する。

 

更に言えば、ゴジラ同様に際限なく進化し続け得る。もしかしたら、幾万年後には植物起源の破壊の神獣(GODZILLA・EARTH)になっているかもしれない。

 

冒険者ギルドは当然ながら看過不可として、準危険種と見なし新たな名称を付けた。

 

彼岸棲姫(ビオランテ・リコリス)』と

 

 

 

 

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 アクセルの街の近くにある山岳湖にて、10億もの賞金が賭けられた強大なモンスターが眠っている。

 

周囲の土地から凡そ10年間に渡って魔力を吸収し蓄積、その膨大な魔力任せの超速再生と8頭の口腔攻撃で災厄を撒き散らす亜竜『クーロンズヒュドラ』

 

今から9年前、王都から派遣されてきた騎士団の精鋭部隊でさえ討伐は叶わなかった。だが、そのクローンズヒュドラの脅威に終止符が打たれる時が遂にやって来たのだ。

 

 

 ギルドの酒場では、アクアが金欠に喘いでいる。あのアクシズ教の御本尊だけあって、計画性というモノと縁遠い。その刹那の衝動に身を任せる花火的な生き様はいっそ感心する。

 

ゴジラには関係の無い話だが、今や屋敷暮らしと為り、衣食住には困らない身の上で、冬越しの憂いは無いらしい。その安心感から気が緩んだのか、自分の金を早々に使い果たしてしまったアクア。

 

「こんな状況で、なんでお前の小遣い稼ぎに付き合わないといけないんだ。俺は屋敷に引きこもってるからな!」

 

筋金入りのニート根性をこれでもかと発揮するカズマ。立場的に断れないサキエルとクリス。強敵との戦闘なら受けるのも吝かでは無いめぐみんとダクネスとゴジラ。

 

しかし残念ながら、アクアが調子に乗って暴走した場合に強制停止をかけられるのはカズマだけである。サキエルとクリスは、ヘマした時は上手くフォローしようが、余り強い物言いが出来ない。ゴジラはその気が最初から無い。めぐみんとダクネスは、普段は割と常識的なのだが一度スイッチが入ると暴走必至。

 

この駄女神を迂闊に放置して、最終的に一番苦労する羽目になるのは誰か?言うまでも無くカズマである。

 

「っっ~~~!!ああ、もう!しょうがねえなあ!」

 

何だかんだと言っても結局は一緒にクエストに行くのだった。

 

 

 作戦は単純だ。先ずアクアの女神としての水質浄化体質を以て湖を浄化する。その間にクリスとカズマは鋼鉄製のワイヤーで『バインド』の準備をする。ヒュドラが誘き出されたところにダクネスが『デコイ』で注意を引きつけ、『バインド』で首を拘束する。そこにめぐみんが爆裂魔法をぶちかます。

 

ぶっちゃけゴジラだけで充分すぎるとか言ってはいけない。

 

だが湖が広大なだけあって、思いの外時間が掛り手持ち無沙汰になる一行。アクアなどは浄化に飽きたのか、水面に漂いながら居眠りしだした。その様子に、すっかり空気が弛緩する。

 

「━━━━━━ ▇▇▅▇▅▅▂▂!!▇▇▇▅▅▂▂▅▂!」

 

湖底から濃密な魔力が発揮され、巨大な影が浮かび上がってくる。ギルドが提示したものよりも明らかに大きい。

 

カズマは今更ながらに思い出す。ギリシャ神話に謳われるヒュドラは、不死とも言える再生能力と、神すら死に至らしめる猛毒を有している。彼の大英雄ヘラクレスでさえも一人では殺しきれなかったモンスターだ。もしもこのクローンズヒュドラがギリシャ神話のヒュドラと同質であるならばヤバイなんてもんじゃ無い。

 

(いっ、いや大丈夫だ、おちつけ俺。そうだ、今此処には無敵の怪獣王がいる!そうだ、この程度の相手などゴジラを以てすれば恐れるに足りぬわ!!ふ、フフフハハハハ!)

 

実際にゴジラとクローンズヒュドラの間には決して超えられない差がある。スキル『ネガ・ジェネシス』がある限り一方的に斃しに行くだけの存在でしか無い。もっとも、純粋な実力勝負でも結果に大差は無いだろうが。

 

「いいか、皆!?落ち着いて聴け!―――作戦変更、ゴジラ様お願いします!!」

 

「「「ちょ、ちょっと━━━!?」」」

 

「う~ん、これはしょうが無いね。」

 

「▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」

 

「~~~~~~!!!~~~~~~!!!」

 

クローンズヒュドラの咆吼による八重唱は共鳴現象を引き起こし、物理的な衝撃波となって迫り来る。サキエルが咄嗟に結界を張っていなければ耐久値に乏しい面々は倒れていたかも知れない。其れでも尚、爆音によって平衡感覚が麻痺し、少々の間は戦闘不能に陥った。

 

「▇▇▇▅▅▂▂▅▂!▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!」

 

ゴジラは熱線を放ち、頭の1つを爆散させる。だが、ものの数秒であっさりと再生。今度は此方のターンとばかりに幾多の首でゴジラを締め上げに掛るクローンズヒュドラだが、体内放射の一撃で千切れ飛ぶ。その首もまた再生するが、ゴジラも黙ってみているだけでは無い。熱線を連発し、千切れた首が再生する頃には凡そ同数の頭を爆滅させていた。

 

クローンズヒュドラには既に戦意は無くなっていた。このまま戦ったとしても、勝算など皆無であると文字通りに痛感したからだ。さりとて湖底に逃げ込む事にも意味は無く、逃げたところでゴジラは確実に追撃に移行する。だがそれでも、クローンズヒュドラの本能は逃走を選択する。

 

「っ!逃がさん!」

 

退路を防ぐように回り込んだダクネスがその身を以て全力で押し留める。如何にクローンズヒュドラが相手とと言えど、ダクネスは容易く突破される程に柔では無い。寧ろダメージを受ける程にボルテージが上昇していく。おまけにアクアが随時回復させる為、突破は困難であり

 

「▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」

 

ゴジラはクローンズヒュドラの尻尾を掴み抱え、湖とは逆方向に全力でぶん投げた。トドメを刺そうと背鰭を明滅させて

 

そこに、まるっきり空気という物を読まず、美味しいところを掻っ攫っていこうとする紅魔族の詠唱が響き渡る。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混淆に望み給もう。覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理、無業の歪みと成りて現出せよ!踊れ、踊れ、踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり!万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!━━━━『エクスプロージョン』!!」

 

めぐみん渾身の爆裂魔法はクローンズヒュドラに直撃し、木っ端微塵にした。

 

「フッ。・・・最高、です。」

 

 

 

 ちなみに、散らばった残骸は回収された。亜種とは言えドラゴンの肉片故、売ればソレなりの値打ちが着く事間違いなしだったが、最終的には彼岸棲姫のご飯になった。

 

 

 

 

 




ビオランテ・リコリス

とある安楽少女がゴジラの影響を受け続けて変異した存在。通称『彼岸棲姫』

彼岸花は曼珠沙華とも呼ばれ、仏教では白色柔軟で、これを見る者はおのずから悪業を離れるという天界の花だとされている。

花言葉は「情熱」「独立」「再会」「諦め」 「悲しい思い出」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」「転生」

冒険者では無い為、ステータスの詳細は不明




自陣地に張り巡らせた根や、幹から伸ばした蔓で相手を串刺しにする。鮮血を撒き散らし絶命する様は、さながら曼珠沙華の如し。


自在に操ったり伸ばしたり増やしたり出来る。先端はハエ取り草みたいな形状で、そこから種を撃ち出したり、樹液を吐きかけたりできる。

樹液
生身の人間が浴び続ければ数十秒で骨になる程の強酸性。

果実・花粉
高純度のアルカロイドを多種多量に含んでいる。成分や濃度は自分の意志で自由に調整できる。


ライフル並の威力で撃ち出せる。

光合成
陽光を浴びる事でエネルギーをチャージし、収束回転させ撃ちはなつ事が出来る。



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