女神転生
怪獣王ゴジラ。その存在は科学という力を振りかざし何処までも増長する人類に対して、地球が抑止力として生み出した破壊神であるのかも知れない。
しかし、そのゴジラにさえ死は訪れる。躯が溶融し大量の放射能を東京に撒き散らしながら骨さえ残さず、遂にその命を鎖したのだった。
☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢
ふと意識を取り戻す。そこは白く広大な空間で、少し視線を下げると人間の雌型が二匹居た。否、ソレっぽい形をしているが恐らくどちらも人間では無いのだろう。片方は背中から三対の白い翼を生やしていて、頭上には光の輪が在る。もう片方も見た目こそ人間と変らないが、本能がモスラと似た様な匂いを察知した。どちらも人間の域を逸脱した、それこそ自分が戦ってきた怪獣達にも比肩しうる能力の持ち主なのだろう。
『なんだお前達は?人間では無いのは理解できるが。いや、それ以前にオレは死んだはずだ。』
「ええ、その認識に間違いはありません。貴方は現世において、大量の放射能を東京に撒き散らしながら骨さえ残さずに溶解しました。つまり此処は死後の世界です。初めまして、怪獣王ゴジラさん。私の名はアクア。日本において死した者の魂を導く女神です。そしてこっちにいるのが」
「水と繁栄を司る天使サキエルと申します。」
『神?天使?良く分からんが、要は人間共を束ねる上位種か?』
「はい、その通りです。さて、ゴジラさん。今回は貴方を特例でこの場にお越し頂いた訳ですが、ある異世界に行って頂きたいのです。」
その女神曰く、その世界には魔王と呼ばれる存在と配下の魔物達が居て人類を脅かしている。その世界で死んだ者が増えすぎて、しかも輪廻転生を断る者が後を絶たなくなっているのだとか。このままではその世界は遠くない未来において子供が生まれず、人は絶滅してしまう。更には死んだ魂が昇天までもを拒み、結果としてアンデットやリビングデッドとなり現世を彷徨う者も増えるという負のスパイラルに入っているらしい。そこで天界は苦肉の策に出た。若くして死んだ未練の多い人間達を、肉体や記憶はそのままで送り出すのだ。それも、送ってもすぐに死なれても意味が無いので、何か1つだけ転生先の世界に好きなものを持って征かせる。その転生特典が大問題を引き起こした。ある転生者に特典として持たせた「ランダムにモンスターを召喚する」神器が魔王軍の手に渡ってしまい、本来の所有者以外が使用する場合は相応の対価や代償が必要な代物である筈なのに、次々に怪獣を召喚している所為で滅びに拍車をかける事態となったのだ。
だがゴジラからすれば、そんな事情など知った事では無い。何より人間共のガーディアンとして良い様に使われるなど死んでも嫌だ。
「私達からの依頼はあくまで召喚された怪獣達と魔王軍の撃滅。ソレさえ果たしてくれるなら文句は言いません。あ、でも出来る限り周りへの被害は抑えてね。此方から依頼している以上、勿論タダとは言わないわ。死の危機に瀕している貴方の息子を生き返らせてあげましょう!」
『ッッ!!?・・・出来ると、言うのか?・・・本当に?』
「当然って、熱っ!!熱いからちょっと落ち着いて!女神のお肌がこんがり小麦色に焼けちゃうわ。」
『――――――――――――』
「調子に乗ってつい巫山戯てしまい、誠に申し訳ありません。反省していますので、怒りをお鎮め下さい。」
この女神様は、それはそれは綺麗な土下座をなさったのであった。
「・・・コホン、先程アクア様が言ったように貴方は大量の放射能を東京に撒き散らしながら死にました。そして貴方達は放射性物質を吸収する事で極めて強力な自己再生能力を発揮する種族でもある。」
「んで、私達の権能で進化を後押ししていっそのこと完全なゴジラにしちゃうわけ。どう?悪くない話でしょ?」
『ああ、本当にそうしてくれるならな。』
「ふふん。まあ視てなさいって。」
アクアはそう言うと指をパチンと鳴らす。すると巨大なモニターが出現し、ゴジラの放射能に塗れた筈の東京が映し出されていた。
そして、放射能を吸収する事で完全なゴジラと成り、新たなる怪獣王として高らかに咆吼するジュニアの姿が。
『そうか。嗚呼―――――安心した。』
その一言に一体どれだけの想いがこもっていたのか、余人にはもはや推し量る事も出来ない。
ゴジラがこうして死んだ今、彼はこの世で唯一無二の存在である。この先、数多の艱難辛苦が待ち受けているに違いない。だが、きっとその全てを乗り越えて王道を歩み続けるだろう。忌むべき覇道しか歩めなかった己とは違って。
『もう思い残す事は無い。感謝する。』
「そう、なら良かったわ。こっちとしても甲斐があるってものだしね。それで、依頼の方は引き受けてくれると言う事で良いのよね?」
『ああ、良いだろう。怪獣共と魔王軍の討伐、引き受けよう。』
「よかった~。ここまでやって万一にも交渉失敗なんて事になってたら左遷、ヘタすればクビになってたところだったわ~。」
だがこの女神はこの時は夢にも思っていなかった。数日後、とある転生者によって「異世界に持っていくモノ」に指定され強制連行される羽目になるなどとは。
そしてゴジラの足元に転送用の魔方陣が展開される。天使の足元にも同様の魔方陣が。
「あ、そういえば言い忘れてたわ。サキエルも一緒にあっちの世界にいって貰うから。貴方だけだと最悪の場合、核爆発なんて事になりかねないし。そうなったら目も当てられないからね。」
「そう言う訳で、僭越ながら私が貴方のメディカルケアやマネージメントを務めさせて頂きます。よろしくお願いいたします。」
「さぁ怪獣王ゴジラよ!願わくば貴方こそが魔王をも打ち倒すことを祈っています!さすれば神々からの報奨としてどんな願いでも1つ叶えて差し上げましょう!」
アクアは厳かに神託を下す。その様は超越者と讃えるに相応しい神威を纏っていた。
「さぁ、旅立ちなさい!!」
ジュニアについてですが、実の子では無いにしても引き取って育てていたのだから、息子と言っても差し支えないのでは無いかと思って『息子』と表現いたしました。