広大な草原と蒼穹の大空。そして、幾らか離れたところに十五~十八匹ほどの蛙。蛙と言っても個体によっては四メートル級のものも居る。
「あのカエルが討伐対象のジャイアントトードというモンスターですよ。たしか今がちょうど繁殖期で、農家の家畜や場合によっては人間も捕食してしまう有害種です。まあ、肉は結構美味しいらしいですが」
ゴジラとサキエルは冒険者ギルドで無事に登録を終える事が出来た。その際、説明と説得に幾らか手間取って騒ぎになりはしたが詳しくは割愛する。
この急造凸凹コンビは肩慣らしも兼ねてひとまず討伐系のクエストを受ける事にしたのだ。それは『ジャイアントトードの大群と、それを統率していると思われる新種のモンスターをまとめて討伐せよ』といった内容だった。
アークウィザードと為ったサキエルの魔法『クールダウン』おかげで暴発のリスクは随分と軽減されたが、それにしても限度がある。相変わらず自力では制御不能の常時苦痛を伴う有様。半ば生けるコロナタイト状態であり、魔法による冷却を怠った場合、1000℃近い超高体温によって周囲には尋常じゃ無い被害が及ぶ事になる。だがそれ以上に過剰なエネルギーを発散する必要があった。流石に直ぐさまとは行かなくても、いずれは蓄積許容量の限界を超え大爆発しかねないのだ。その場合の威力は、人類史上最大と謳われる水爆『ツァーリ・ボンバ』(広島型原子爆弾「リトルボーイ」の約3300倍)にも匹敵、或いは凌駕するだろう。
と言うのがそのクエストを受けた主な理由である。ついでに言えば、ゴジラの闘争本能が特に強そうでは無いとはいえども一応は斃すべき怪獣の存在を感じ取ったのだ。更には報酬も中々に高額でもあった。
そう言う訳で、蛙退治である。
「そんな風に意気込んでたときが私にもありました」
そもそもこのジャイアントトードは物理攻撃こそ効きづらい(仮にも女神であるアクアの放つゴッドブローの直撃を受けても平然としていた)が、金属製の装備を着けていれば食べられない。駆け出しの冒険者でも装備を調え数人のパーティーを組めば安定して狩れる程度のモンスターである。
対するは怪獣王とまで謳われるゴジラ。二十分の一にサイズダウンしていようとも、その戦闘能力は規格外。更にボルテージの上昇に比例して体温が上がり続け、高熱を伴う濃密な魔力を放出するので周囲を否応なしに灼いていく。
サキエルが掛けた『クールダウン』の効果が切れて、ゴジラが戦闘モードに移行し咆哮を上げた瞬間、遁走の余地すら無く圧倒されていく。
「・・・まあ分ってはいましたが、やはり勝負や戦闘が成立する余地など微塵も在りませんね。」
文字通りにひっくり返ったジャイアントトードの群を眺めて思わずため息が出てしまう。取敢えず蛙にトドメを刺す為に呪文の詠唱を開始しようとしたところで
次の瞬間、咆吼が轟く。
「::..:.:.:!!∵…:.::∵::.…...∴¨:!!!」
その咆吼の主こそは、魔王が神器を以て召喚した怪獣の一体。ガバラと呼ばれる蛙の怪獣である。頭部には角が生え、鋭い爪や牙を有し、全身の疣からは強毒性の粘液を分泌している。その体躯は十五メートルにも及ぶだろう。
召喚された怪獣達の中では特筆するほど戦闘能力を有している訳では無いが、暇さえ在れば人間や弱小モンスターを遊び感覚で殺す残虐な性質を有している。今も両掌に人間を握りしめていた。
おそらくはジャイアントトードの討伐を請け負った駆け出し冒険者なのだろう。しかし、まるで落雷に打たれたかの如き見るも無惨な有様と成り果てていた。それでも尚、彼等は未だ生きている。否、嬲る為に敢て生かされているのだ。
だが、ガバラは鹵獲していた冒険者達をあっさりとうち捨てる。そして、怖じ気づいた己を鼓舞するかのように再度咆吼した。
「…:.::∵::∴¨.:.!!!」
「▇▇▅▇▅▅▂▂!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」
ゴジラは見え透いた虚仮威しなど意にも介さず咆吼をあげ、その身体を赤熱させていく。
ガバラは一瞬後退るが、今更逃げ出したところで無駄というのは理解している為、半ば自棄に為って突貫してくる。
バーニングゴジラはそのタックルを真っ向から受け止めるが、流石に三倍もの体格差は如何とも為難く、弾き飛ばされて倒れるような無様は晒さなかったものの後退させられてしまう。
「:∵::∴¨.:.∴¨:!」
ガバラは即座に掴み掛って、バーニングゴジラの高体温に炙られながらも掌から強力な電撃を放つ。その威力は魏怒羅の『サンダースパーク』に匹敵する程だ。
「▇▇▅▇▅▅▂▂▇!」
ガバラは此処が勝機と見たのか、一気に押し倒してマウントを取ろうと覆い被さってくる。だが、次の瞬間にはガバラは吹っ飛ばされて倒れ伏していた。
「::∴¨?∵::∴…:.??!」
ガバラは少しの間呻き声を上げた後に、何故自分が斃されたのか理解が及ばないままに絶命した。
ガバラの躯はボロボロと音をたてて崩れていき、同質量の
「━━━━━━」
バーニングゴジラは不満げに呻る。相手がもっと骨のある強敵だったのなら盛大に勝鬨を上げたのだろうが、はっきり言ってガバラは弱すぎた。
「いやいや、今の貴方を基準にしてしまえば大抵の相手は雑魚になっちゃいますよ。まさか体内放射一発で此処までだなんて想像以上です。」
今のゴジラは自分自身でも制御不能なレベルでG細胞が活性化しており、その為に殆どの能力が通常時とは比べ物にならない程に上昇している状態である。
バーニングゴジラを中心に地面が融解し、直径にして15メートル程度のマグマ溜りが出来ていた。100万度の放射熱線を衝撃波として全身から放出したのだから、至近距離で直撃を受けたガバラが一撃で斃れるのも致し方の無い事であろう。
とにかく、この世界での最初のクエストは無事に達成できた。後はギルドにその事を報告して、魔法で冷凍した蛙肉を引き取って貰うだけである。
蛙肉一匹につき手取りで5000×18にクエスト達成報酬の100万。合計で109万エリスの収入となった。サキエルの手持ち分も併せれば暫くは生活費の心配をせずに済むだろう。
マナタイトはゴジラのものとなった。この世界ではゴジラの主食である放射性物質など、仮に有ったとしてもまずお目に掛る事など無い。その代わりと為り得るものがこの魔力の結晶体なのである。元はガバラだったため、品質はそう悪いものでは無く、何より大量。値段を付けるとするなら数千万はするだろう。そう考えるととんでもない高級食材と言えるのかも知れない。もっとも、睡眠だけでもある程度のエネルギーは生成できるので必要不可欠という訳では無いのだが。
ゴジラ誕生の切っ掛けとなった1954年3月1日にビキニ環礁で行われた水爆実験「キャッスル作戦(ブラボー実験)」では、海底に直径約2キロメートル、深さ100メートル近いクレーターが形成された。水爆は熱核兵器と呼ばれるだけあって、大型のものは中心部の温度は四億度を超える。
ちなみに、長門、酒匂、プリンツ・オイゲンが沈んだ事で有名な、同じくビキニ環礁で行われた核兵器実験で、1945年の「クロスロード作戦」において使用されたのは原爆であって水爆では無い。
クロスロード作戦では2度の核爆発に耐えた艦を米軍は分析しようと企んだが、オイゲンは曳航中に座礁沈没、長門は誰も見ていない深夜にひっそりと海没し、その意図を挫いたことから「枢軸海軍最後の勝利」と呼ばれる。 ただ、酒匂はほぼ真上が爆心地となったために大破炎上、翌日に沈没した。