この素晴らしい世界に灼熱の怪獣王を!   作:千本虚刀 斬月

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VSアーネス

 この世界に来て3日目。ゴジラとサキエルはギルドの酒場に居た。クエストを受けようにも掲示板には碌なクエストが無い。と言うか、ギルドの職員からは

 

「このアクセルは駆け出し冒険者の街です。この近辺のモンスターを軒並み狩り尽くされて生態系を壊されてしまいますと、この街の冒険者達の仕事が激減し、更には初心者育成の機能も失われてしまいます。なので低級モンスターの討伐は可能な限り控えて頂きたいのです。」

 

等と釘を刺されてしまった。しかしゴジラとしては、こうして人間達に囲まれ視線に晒され続ける事は尋常では無いストレスと為る。ぶっちゃけ、この際贅沢は言わないからそこらの雑魚相手に憂さ晴らしでもしようかと考え始めていた。

 

「ダメですよ?・・・はぁ、仕方有りませんね。少し遠出する事になりますが、大物を狩りに行きましょう。」

 

サキエルはそう言いながら掲示板のクエストから手頃なものを見繕う。他の冒険者達が受ける事すら躊躇う高難易度のクエスト、俗に塩漬け物件と呼ばれる依頼からいくつかをピックアップする。

 

 

アクセルの街近くの山の湖に棲む大物賞金首クローンズヒュドラの討伐。懸賞金額十億エリス。

 

縄張り争いをしているマンティコアとグリフォンをまとめて討伐。報酬は五十万エリス。

 

濃緑色の人食い巨人型モンスター討伐。※魔王軍が召喚した怪獣の一体である可能性高し。報酬は五千万エリス。

 

魔王軍の手先と思われる、20メートル以上の巨大怪獣3体の討伐。イカ型、カニ型、カメ型。報酬は一億二千万エリス。

 

 

ほかにも高難易度の討伐系クエストは幾つかあるが、ルーシーや安楽王女など特に急を要する訳では無く、何よりゴジラの琴線に触れるようなクエストでは無いので一先ずは候補から除外した。

 

この中でも最も急を要するクエストは、人食い巨人(恐らくガイラであると思われる)の討伐であろう。怪獣共の中では弱い方で、旧式のメーサー殺獣光線車で死にかける程度の実力だが、それでも中級魔法では大したダメージにはならないし、何より25メートルのサイズはシンプルに脅威だろう。

 

そもそも、怪獣達は魔王が神器を使って異世界から召喚した存在。故にこの世界の理の内側の存在である者では斃す事が出来ない。其れが出来るのは世界の外側から送り込まれてきた日本人転生者達と天使族、そして最強の鬼札であるゴジラくらいであろう。或いは、勇者の血と聖剣を受け継いだ幼き姫君ならば可能かも知れないが。

 

 

 

 

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 アクセル近辺の山岳湖、黄昏時にて。

 

この場所、この時刻こそガイラの本領を最も発揮できる。

 

今宵も野生の本能に従い、人間を探し、喰らい、満たす為に。―――――さあ、ヒト狩り征こうか

 

 

 

ガイラは獲物を求めて街道沿いの湖の底で通りがかる人間を待ち伏せようとし、既に商隊が野営をしていた。未だそれなりの距離がある上に、いよいよ深夜という時刻。未だ此方の存在には感づかれていない。

 

人間共の中からは大きな力を2つ感じる。本来なら自分を斃し得る筈なのだが、本能が全く警鐘を鳴らさないあたり、この世界の人間ばかりと判断する。

 

しかし気になるのは別方向からも強大な力を感じ取れる事だ。そちらは恐らく高位魔族だろうか。地獄の住人である悪魔は怪獣とも戦える。注意が必要と判断する。まあ、邪魔をするなら諸共に喰らうまでだが。

 

ガイラは其程深くは考えずに、しかし一応の警戒はしながら商隊に襲いかかる。何しろ久方ぶりにありつけた山盛りの御馳走である。お預けなど我慢できるはずも無かった。

 

「〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓!!」

 

選取り見取り、さあどれから喰おうか。そんな状況の中、肩に妙な黒猫を乗せた朱いチビが嬉々として杖を向けてきた。

 

「おお!?なんという巨大なサイズ! 我が爆裂魔法を撃ち込むに相応しい相手が、こんなに早く私の前に現れるなんて!ふふっふははは、ハーハハハハ!!」

 

どんな魔法だろうとどうせダメージにはならないが、自分に向かって放たれるのは鬱陶しい。ましてや今は食餌を為に来たのだから尚更に。

 

呪文を詠唱し終える前に叩き潰すに限る、と言わんばかりに拳を振り上げ、しかしその拳が件の少女に振り下ろされる事は無かった。何故なら、その前に事態が急変したから。

 

「『カースド・ライトニング』!!・・・まったく、生憎だけどその紅魔族はともかくウォルバク様を殺される訳にはいかないんでね。これ以上やるってんなら、不本意だけどあたしが相手をしてやるよ、ガイラ。」

 

「━━━━━━━!」

 

「ちょっと!私がこれから格好良くキメる場面でしょう、ここは!空気を読んで下さい!」

 

「すっこんでろなんちゃって紅魔族。邪魔だ。」

 

不意打ちを食らい、少々シビれていたガイラだが漸く感覚が戻ってきた。

 

「▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅!!」

 

ガイラは今し方雷撃を放ってきた魔族を見つけ、激怒する。怒りのままに飛翔する魔族をはたき落とそうと掌を振るうが、避けられる。

 

「はっ!そんな雑な大振り当たるもんか!『クリムゾン・レーザー』!!」

 

ガイラは魔族の紅い熱線をまともに食らってしまい、思わず悲鳴を上げる。しかし、即座に反撃を試みようと視線を走らせるガイラはソレを見つける。

 

見つけて、しまう。

 

赫灼(あか)く、紅焔(あか)く、緋炎(あか)く耀く破壊の権化を。

 

 

 

 

 

 

「▇▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」

 

「間に合ったと思いきや、どうやら妙な状況になってますね。何故ガイラと上位悪魔が戦っているんでしょう?」

 

「はっ!まさかこんなところで神のパシリなんかと出くわすとはねぇ!」

 

サキエルの眉がキリキリとつり上がっていく。

 

 

「浅ましい悪魔風情が言ってくれますね。良いでしょう、アナタは私が葬ってあげます。ゴジラ様はガイラを、っと言うまでもありませんね。」

 

「はっ。あんた一人でこのあたしとヤりあおうっての?保護者(・・・)に助けて貰わなくてもいいのかい?」

 

「ええ、必要ありませんから。」

 

サキエルは微笑を浮かべながら、その眼には一切の熱は無く。対する悪魔アーネスも憤懣やるかたない有様。

 

「・・・上等。偉大なる邪神ウォルバク様に仕える上位悪魔として、天使如きに虚仮にされたまま引き下がる訳には行かないねぇ。そっちの方こそ、天界に強制送還してやるよ!」

 

そう言いながらも、アーネスは中級魔法による早撃ちと、高速飛翔での攪乱を仕掛けてくる。一撃の威力よりも、タメが少なく迅速に繰り出せる中級魔法で、とにかく魔法を撃たせないようにしつつも、大技と叩き込む隙を狙っている。

 

天使は神の眷属であるが故に、ナチュラルに神聖魔法を行使できる。サキエルもその例の漏れず、ある程度なら神聖魔法を使う事が出来る。だが本職でないぶん、どうしてもタメや詠唱を必要とし、この弾幕の中ではその暇は無い。ならば

 

鉄 拳 聖 裁(HALLELUJAH)

 

「がはっ!?天使でアークウィザードがよりにもよって、拳が奥の手だと・・・?!」

 

鼻血をまき散らし仰け反るアーネスに、サキエルは容赦なく追撃を加える。

 

「我らは神の代理人 神罰の地上代行者 我らが使命は 我が神に逆らう愚者を その肉の最後の一片までも絶滅すること――― Amen」

 

祈りを込めて十字を切ることで『グランドクロス』を発動し、アーネスは地に墜ちる。

 

「ぐうぅ!こ、こうなったら、せめてウォルバク様を」

 

黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混淆に望み給もう。覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理、無業の歪みと成りて現出せよ!踊れ、踊れ、踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり!万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!

 

そこに、まるっきり空気という物を読まず、美味しいところを掻っ攫っていこうとする紅魔族の詠唱が響き渡る。

 

「これが人類最大の威力の攻撃手段!!これこそが!究極の攻撃魔法!『エクスプロージョン』!!」

  

 

 

 

 

 

 

ちなみに、バーニングゴジラはサキエルが反撃しだした頃には既にガイラを斃していた。

 

 

 

 


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