ガンダムビルドファイターズ 闘いは数より質 作:タロウMK-Ⅱ
予定通り紅石の待つバトルルームに戻った水倉は肩を落とした。
部屋には紅石1人しかい、他のテストファイターが見当たらない。
「・・・またメンバー集まらなかったんですね」
ガンプラトレースシステムの協力者は少ない。さらに水倉以外のチームファイターは紅石の要求するレベルが高すぎて別の班に逃げていった。
「人員不足で自らテストすることにした、このモビルアーマー・ビグロで」
ビグロは人型ではなく三角形のような形から大型クローが2本生えているモビルアーマーだ。人体の動きを再現するシステムだと操作方法は変わってくる。
「ついでにお前はこれだ」
紅石はジオングを水倉に差し出す。ジオングは脚が無いがそれ以外は人型である。
水倉はジオングを受け取ると本来装備されていないはずのバックパックに気付いた。サザビーの物だ。
「中途半端な人型。それとオールレンジ攻撃のテストが今回の目的だ」
「3対3のバトルは先送りですか。そうだ、佐伯さんから聞きましたが大規模バトル班は予定よりも速くテスト運用が始まるみたいですよ」
「ふんっ、あんな容量だけ増やしたものに負けてなるものか技術革新は我らにある!」
バトルシステムが起動する。球体コンソールだけではなく両肘、両膝、腰、首に光の輪が現れる。
「ジオング出ます!」
「行けッ! ビグロ!」
2機ともカタパルトに押し出され、宇宙要塞ア・バオア・クー中域を模したバトルフィールドへ出現する。
水倉は膝の曲げ伸ばしをしてみるがジオングは僅かに揺れるだけだ。足踏するとスカート裏のスラスターが前後に可動する。
「スラスターを脚部と認識しているのか。次の試してみるか」
ジオングがファンネルを全機射出する。周辺に漂うスクラップを標的にする。
ファンネルは手元のコンソールで操るため従来の操作と何ら変わりない。ファンネルは次々とスクラップを打ち抜いていく。
「ん? 紅石さんは何処だ?」
《モビルアーマーのスピードは素晴らしいな!》
何かがジオングの頭上を一瞬にして通過していった。
「えっ!? レーダーには反応が無い・・・」
このバトルフィールドには2人しかいない。頭上を通過したのはビグロ以外ありえない。だがレーダーには映らない。
《ふはははぁぁぁ! これが開発者の特権だ!》
「何が特権だよ! ただのインチキだろ!」
紅石はシステムに細工している。水倉はそう判断した。
《ジャミング機能は細工だが、この速度は改造によるものだ!》
「どうせ市場じゃ出回らない、あるいは禁止パーツか塗料でも使用してるんだろ!!」
《システムに不可をかける実験とでも受け取りたまえ》
何が実験だ、ただバトルに負けるのが嫌なだけだろ。水倉は今にも口にしてしまいそうな台詞を我慢する。フェンネル全機をビグロに飛ばす。
《少しは手加減したまえ》
紅石の言葉に従うようにファンネルが停止する。
「あんたファンネルジャックまで用意していたのか!」
怒りを通り越して呆れそうだ。
《ついでに言うが全方位にIフィールドも装備している》
メガ粒子砲しか武装のないジオングではダメージを与えられない。いいや、武装が無いのならそれなりの闘い方をするしかない。
ビグロがまたしてもジオングの頭上を通過する。
《俺が認めたファイターならこの劣勢を挽回してみろ》
「言ってくれますね。だったらお望みどおり応えてやりますよ」
ビグロがUターンして戻ってくる。
水倉は全てのメガ粒子砲を一斉に発射する。が、全てのビームがビグロの手前で弾かれてしまう。
お返しとばかりにビグロはミサイルとメガ粒子砲を打ち返す。
水倉は迫る攻撃に最大推力で突進した。ミサイルは打ち落とすことが出来てもビーム攻撃はそういかない。右肩が焼き切らながらも前進を止めない。
《特攻か!?》
超高速のビグロと全速力のジオング。衝突するまで時間は掛からなかった。
互いの機体がグシャりと潰れ原型が留まらないほどにパーツを撒き散らす。
「俺の勝ちです」
ジオングヘッドとして脱出していたため。軍配は水倉に上がった。
「バトルでは勝てないな。まっ良いデータが得られてなにより」
紅石は悔しがる表情1つ見せずガンプラとその破片を回収する。
「モビルアーマーの操縦はいかがでしたか?」
「ファイターの重心移動にあわせてくれることぐらいだな。バイクの運転に近いのかもしれん。バイク乗ったこと無いからわからんが」
「わからんのに何で例えた!」
思わず水倉がツッコミを入れる。
「人型じゃないガンプラはトレースシステムの恩恵をあまり受けないということだ。人の動きを再現するシステムだから当然の結果とも言える。不利に働かないだけましといったところか。今回の実験は成功だ」
もし、モビルアーマーが一方的に不利になるようなら改修が求められるが、紅石にとっては問題ないようだ。
着実にガンプラトレースシステムは完成に近づいている。
「水倉、バトルの前に大規模バトルの運用が始めるとか言っていたな」
「はい。佐伯さん情報です」
紅石は天井を見上げ、ふと思い出したように口を開いた。
「よし! 乱入するぞ! 直接バトルで雌雄を決める」
「はっ・・・、乱入!?」
水倉には意味がわからなかった。
「我々もガンプラトレースシステムを持っていく。それでガンプラバトルを挑む」
「無茶苦茶です! どうやって許可取るんですか!? それにファイターの腕を競ったところでどうなるんですか!?」
これはバトルして勝利すればいいというものではない。いかに自分達が開発した商品が優れているのか示さなければならないのだ。
「お前がやるんだ。ガンプラトレースシステムを使いこなせば旧式より優れた操縦が出来ることを、魅せる闘いってやつをだ」
『魅せる闘い』それは水倉の胸に突き刺さる言葉だった。観客を盛り上げ感動させるバトル、全力がぶつかりあう極限の闘い。
とはいえ水倉もガンプラトレースシステムも対人戦は今回が初めてだった。
「まずはお前を鍛え上げる。準備するから少し待ってろ」
紅石はバトルシステムを弄りだす。開発者の特権とやらを使うのであろう。
使用するガンプラもサイコガンダムMK-Ⅱやクイン・マンサのような圧倒的なものと予想できる。
「準備完了。デスティニーを出せ」
「了解です。・・・って、え?」
筐体に置かれているガンプラを見て拍子抜けしてしまった。
ジ・O。強力なモビルスーツだが反則染みたものではない。
「もっと大層なガンプラだと思ってただろ」
「えぇ、まぁ火力重視の大型機だと」
「そこまで鬼ではない。第一段階から最終兵器を出す訳ないだろ」
水倉は背筋が凍りついた。紅石が親指を指した先にあるもの、ネオ・ジオングに。
「ダメージレベルはCにしてある。これで何度もバトルが出来るな」
悪魔の宣告にして地獄の特訓が始まった。
ジ・Oのビームライフルはかすめるだけで通常のガンプラが全壊する破壊力を有し、散弾モードと連射モードを自由に切り替えられる。ビームサーベルは鞭の様に伸びる。極めつけは移動するだけで残像を出現させロックオンが出来ない。
全てガンプラの改造ではなく紅石による不正行為である。
「こんなの練習になる訳無いだろぉぉぉぉぉ!」
水倉は発狂した。
「防御面にはまだ手を入れていない。攻撃を当てれば勝てる設定だ」
『まだ』ということは今後強化する事を意味する。水倉は憂さ晴らしのサンドバックにされている気がしてきた。
ジ・Oが左腕に持ったビームサーベルを振り下ろした。デスティニーはビームシールドを展開し受けとめる、はずだったがそのまま真っ二つにされる。
「敵機のビームを叩き切る技術はよくあるだろ」
確かにその様な改造テクニックはある。ただ今回の場合は不正によるもの。
「さあ、ガンプラを立て直せ。ダメージレベルCなら損傷はないだろ」
水倉は唇を噛み締めた。こんな練習に意味があるのかわからない。それでも逃げ出したら本当の負けだと思える。
「勝ちますよ・・・あんたが納得するやり方で!」
水倉はデスティニーを再び筐体にセットした。