ガンダムビルドファイターズ 闘いは数より質   作:タロウMK-Ⅱ

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 後編になります。


闘いは数より質 後編

「それではこれより大規模バトルシステムとガンプラトレースシステムによるデモンストレーションを行います!」

 参加者がぞろぞろと入場してくる。

 

「今回のバトルですが大規模バトルチームは超大型空母ドロスの防衛です。ガンプラトレースチームはミネルバによる単機特攻を仕掛けてきたというシチュエーションです。ガンダムファンならもうお解かりですね、宇宙世紀とコズミック・イラの世界感を合わせたバトルなのです!」

 戦場の構図はドロスの側面から攻撃を仕掛けるミネルバ。ガンプラは戦艦から出撃する使用になってある。

 

「なんと! 驚く無かれ、ガンプラトレースチームはたった2人でこの無謀なバトルに挑むのです! もちろん使用するガンプラは支給品であり独自のカスタマイズはありません。彼等は自分達の作り出したシステムなら戦えると思っているようですが果たしてどうなる!?」

 観客があまりの内容にざわめきだす。

 対戦人数50人を2人で相手したバトル等今まであったであろうか。あるとすればイジメ以外の何ものでもない。

 

 水倉は目の当たりにしたことのない強大なバトルシステムと対戦チームの顔をさらっと見ていく。

 勝ちを確信し笑っている奴、緊張しているのかストレッチをして体を解す者。

 

「水倉、手始めにミネルバをドロスに特攻させる。俺は後方で待機するからお前はミネルバに釣られた敵を叩け」

「ミネルバを始めから捨て駒にするんですか?」

「戦艦など当てにせず投げつけてやる。このバトルお前が主役なんだからな」

「では、主役らしい活躍してきます」

 筐体にデスティニーガンダムをセットした。

 

 バトルシステムから噴出されるプラフスキー粒子の量は周囲のファイターをバトルフィールド内連れ去ってしまう程の散布だ。

《バトルスタートです!!》

 

 

 水倉にとってガンプラバトルで戦艦のカタパルトから出撃するのは新鮮だった。

 

 格納庫から広大なバトルフィールドに飛び立つのではなく、すでにフィールド内に居る。

「デスティニーガンダム出ます!」

 原作のごとくデスティニーがミネルバから出撃する。

 

《よし、ミネルバの全出力をエンジンに回す。ビーム兵器の分もだ》

 紅石がジ・Oから指示を送る。

 

 アニメではゆっくに見える戦艦だが目の当たりにするとかなりの速度で前進していく。並みのモビルスーツでは追いつけない事に納得がいく。

 

《俺は後方でエネルギーを温存しておく。ただし供給してやれるのも1回限りだ》

「1回あれば十分です。あっ、場合によっては武器ももらっていきます」

《欲張りな奴だな。俺が自衛できなくなるだろ・・・って、そんな腕もないか》

 紅石はシステム干渉という反則を使う事で水倉を特訓できたのであってファイターとしての技量はそれほどでもない。

 

《むっ、すでに敵はミネルバを包囲して撃沈する構えだな。水倉出番だ》

「了解!」

 

 デスティニーはミネルバの後を追うようにスラスターを吹かす。敵機集団を捕捉すると長距離ビーム砲を構える。

 

 敵ガンプラの種類は統一されているわけではなく個性豊かだ。あらゆるシリーズのモビルスーツが立ち並んでいる。

 

「まずはお前だ!」

 水倉は手始めにヘビーアームズ改を手動で狙い撃つ。ヘビーアームズ改が高熱源反応に気付いた時にはビームが腹部を貫いた。

 

 敵機の集団は慌てふためくように隊列を崩す。

《おおぉ! デスティニーが射程圏外の位置から敵機に命中させた!》

 紅石が外部スピーカーを使いバトルフィールドのみならず観客席にも聞こえるように実況を始めた。

 

 はぁぁぁ!? 紅石さんどうした!? 水倉は唐突の出来事に動揺しながらも隊列を崩した敵陣に切り込んでいく。

《この反応速度! デスティニーのファイターは機械的なロックオンに頼らず自らの感覚で攻撃しています!》

 紅石による実況は止まらない。自分が解説に呼ばれなかった鬱憤を晴らしているのかもしれない。

 

《ファイターが勝手に実況しないでください! それは我々司会の仕事です!》

《開発者が説明した方が的確だろ!》

 ガンプラバトル以外のバトルまで開始されてしまった。

 

 本来、暴走した紅石をなだめるのは水倉がやらねばいけないのだがガンプラバトルを放棄するわけにもいかない。

「紅石さん! あんまり逆らうと試合が中断される恐れがあります!」

 水倉は紅石に通信を繋ぎながら、全方向を包囲された状況を打開しようとアロンダイトを抜刀した。

 

 大規模バトルシステムは操縦が簡略化されているため一見操作上手くなった様に見えるが、どこか単純で『機械ぽさ』が残る。

「ここだ!」

 水倉はまた1機、1機と切り伏せていく。射撃戦よりも格闘戦に持ち込むと『機械ぽさ』の正体が掴めてきた。姿勢制御をオートで行っている為、わざと体勢を崩した回避が出来なくなっている。

 

 敵にも同じくデスティニーの使用者がいた。都合よくアロンダイトを構えて突っ込んできてくれる。

「試してみるか」

 使い込んだガンプラ同士なら特性を把握しやすいと考え、あえてチャンバラ戦に持ち込む。

 

「対艦刀をただのビームサーベルじゃない!」

 通常のビームサーベルは棒で叩く感覚で扱っても問題ないが、アロンダイトはビームが放出している箇所で決まっている。叩くのではなく切る様にしなければならない。

 簡略化された動きでは機体ごとの特性を活かし辛くなっている。

 

 大振りになった敵デスティニーの懐に左の掌を押し当てる。パルマフォキーナの一撃は相手のボディを粉々に撃ち砕く。

《ミネルバがそろそろ沈むぞ! 一度後退しろ!》

「一時撤退します」

 水倉は周囲の敵を振り払い退路を開く。光の翼を展開し紅石の待つところまで後退して行く。

 

 

 敵の手段はドロス防衛を優先する為に水倉のデスティニーを見逃してくれた。

 

「接近戦に持ち込めば各個撃破も可能です。でも、次からは簡単にはいかないでしょう」

《7機も撃墜されれば接近戦が不利だとわかるだろうな》

 紅石のジ・Oが動力パイプからデスティニーへプラフスキー粒子を補充する。

 

《これで大規模バトル班の連中も操作の簡略化が失敗だった事を思い知っただろう》

「それもそうですが、俺達の目的であるガンプラトレースシステムの底力を『魅せ付けます』!」

《第2ラウンドの開始だ!》

 

 プラフスキー粒子の供給を終えたデスティニーとジ・Oは40機近くが護衛するドロスに直進する。

 

 ミネルバはすでに全壊してフィールドの塵と化した。

 

 普通に40機と闘えばエネルギーの消費力から考え水倉と紅石に勝機は無い。ドロスの内部に侵入する一発逆転の策もあるが、狭い内部で周囲を囲まれてしまうと逃げ場がない。

《ドロスの真下を陣取る。あのデカ物は正面と真下への攻撃手段を持たない》

「そこなら艦砲射撃を気にせず闘える訳ですね」

 

 しかし、ドロスに接近すればするほど弾幕が濃くなる。下手に接近してくる敵は1人もいない。

 紅石のジ・Oが脚部に被弾する。

《威嚇射撃の範ちゅうだ! お前だけで・・・》

 立て続けにジ・Oの頭部、右碗部と撃ち抜かれる。その反動でクルクルと無抵抗に回転するジ・Oへ更なる攻撃が浴びせられる。

 

 デスティニーの背後で爆発が起き味方の機の反応がロストした。

 振り返る事はしない。足を止めれば自分も同じ運命に遭う。

 

 ドロスから追加の敵機が出撃する。戦力を温存していたのだ。

「これで大よそ40機か」

 

 ドロスが艦砲射撃を止める。代わりに40機が一斉に押しかけてくる。人海戦術で一気に押し切るつもりのようだ。

 水倉は背部ビーム砲とビームライフル、左腕のアンチビームシールドを投げ捨て身軽さを優先する。

 

 デスティニーはアロンダイトを構え先頭を突っ走るガンダムエクシアと交差する。エクシアが胴から上と下に分かれる。

 

 ベルガ・ギロス、ジェスタ、リック・ドムⅡと黒い機体が立ち並ぶ。

 

 明らかに誘い込んでいる。水倉はあえて誘いに乗った。ちまちまと削りあうより、派手に闘い派手に散る道を選んだ。

 

『大波乱だぁぁぁ! ガンプラトレースチームのデスティニーが圧倒的な数にも怯みもしない! ファイターの魂すら表現しているかのようだ!!』

 司会も驚いて声を上げる。

 

 デスティニーは両手のビームシールドで防御しながらザクⅢを両断する。

 四方八方からビーム、実弾が飛び交う。アロンダイトを失えば両肩のビームブーメランをサーベル代わりに、ビームブーメランを失えばパルマフォキーナを主軸に立ち回る。

 

『信じられません大規模バトルチームが20機撃墜されました!! しかし、デスティニーも翼は折れ左腕に両足ともありません!』

 頭上からヴィクトリーガンダムがビームサーベルを突きたてようと迫る。

 水倉は左に重心を動かすがデスティニーは上手くいうことを利かず頭部右半分が焼き切られる。

 アッパーカットするようにパルマフォキーナをヴィクトリーに食らわせる。ヴィクトリーの爆発の衝撃でデスティニーの右腕も撒きぞいを受ける。

 

「21機かぁ・・・半分いかなかったな」

 周囲からの一斉攻撃は半壊したデスティニーを葬るには十分すぎた。

 

 

 発表式はその後も滞りなく進行していき無事に閉会した。

 

 水倉と紅石はその日の内にガンプラトレースシステムの筐体はいつものバトルルームへ戻した。

 社内はいつもより景気良く浮かれ気味の社員ばかりだ。

 

「申し訳ございません。目標数に届かなくて」

 水倉は紅石に対しスッと頭を下げた。撃墜数が半分に満たなかった為だ。

 

「気にするな、俺は面白いバトルが見れて満足だ」

「ありがとうございます。紅石さんはこれからどうするんですか?」

「今日のバトルデータを纏めるなり解析するなりする。いつどんな反響が起きてもいいようにしておく」

 紅石は何処までもぶれる事を知らない。周りの目等一切気にも留めない。

 

「俺もやりますよ。俺達のガンプラトレースシステムは最高ですから」

 理解者が少なくても信念を曲げず進み続ける。現代では見向きもされなくても未来で認められればそれでいい。

 

 

 世間は大規模バトルシステムの操作系の簡略化に不満を漏らしながらも受け入れていく。

 ガンプラバトルはより大勢で派手な戦いへ変化する。そこにガンプラトレースシステムの姿は見当たらない。

 

 

 

 それでも彼等は・・・・・・

 

 

《水倉、新しいテストを始めるぞ!》

 




 とても短い間でしたが、一度でも読んでいただいた皆様に感謝いたします。


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