俺は顔に久しぶりになる馬のマスクを被り、ある廃倉庫に来ていた。
作戦・・・と呼べるものかどうか。
なんというかシンプルだ。秘匿回線を使い、おそらく足立がやったのと同じように直接荒神に脅しをかけたのだ。
「キサマ・・・」
「俺が何者かなんてどうでもいい。ただ足立が持っていたようなしょぼい情報と同じだと思うなよ?」
「・・・いくらだ?」
「5000万。とりあえずそれだけ用意しろ。場所は・・・・」
まあこんな感じだ。
もちろん持ってくるのは金ではなく俺を消すための凶器だろうがな。
そんなことを考えながらそして倉庫の扉が開いた。
「よう、ようやくお出ましか?」
「金を持ってきた。どうすればいいんだ?」
そういう男であるが明らかにそれらしいものは持っていない。
とりあえず挑発してみるか。
「おいおい小切手かよ?現金だろ、ここはよ?」
「・・・・・・」
なんてことを相手に行ってみるが反応を示さない。しゃーねえ。
「まあなんでもいい、さっさと出してもらおうか」
「ああ・・・ただし出るのは・・・貴様のハラワタだけどなあ!」
「・・・・!」
刹那。奴はもすごいスピードでナイフを繰り出してきた。
俺はなんとか回避する。しかしこれは予想外だな・・・
初めから飛ばしていかないとマズイかもしれない。
「今のを避けただと・・・・?貴様、何者だ?」
「通りすがりの一般人だよ。さて、そういうことをするということは・・・・覚悟はしているんだろうな?」
俺は近くに落ちていた鉄筋を拾い上げ、攻撃を仕掛けた。
「・・・・!」スッ
「・・・・くっ!」
しかし奴は明らかに俺の動きを見切っていた。
そして俺もその挙動を見て攻撃が当たらないように回避を繰り返す。
「いいぜいいぜ・・・!今までの奴らはアッサリ死に過ぎてツマンネーと思ってたからなあ・・・」
「いままでの奴ら・・・?」
「ん?俺が最近襲ったやつらだよ」
「・・・・まさかお前は」
「ん?あーそっか。そういうことか。脅しに来たってことはお前、俺の事知ってるんだったな」
「荒神琢磨・・・お前が」
そう・・・情報を得ていた荒神警視監お抱えの殺し屋。
それは紛れもなく荒神琢磨本人だったのだ。
「俺は昔からよぉ・・・生き物を傷つけるのが楽しくて楽しくて・・・ガキんころから虫だの野良の動物だのをいたぶって遊んでたり、同級生をボコって遊んでたりしたんだがな。さすがにやりすぎちまって問題になったことがあってよ」
「・・・・なるほどな。それで通り魔、そして殺し屋か」
「おおっ!話がはえーじゃねえか!その通り。それでも衝動は抑えられねえ、年を重ねるごとに衝動は強くなっていった。虫から動物へ・・・動物から人へ・・・気が付いたら通り魔だ」
オッサンの言ってた通り、人を傷つけることで快楽を覚える異常者だというのは本当のようだな。
「だがある日親父にバレちまってなあ・・・無理やり海外に飛ばされそうになったんだが、ここで俺は親父にこういったんだ。【俺をどうにかするなら俺は自首する。俺の趣味がばれたら親父もタダじゃすまねえだろ?そうだ、親父にとって都合が悪い奴はついでに殺してやるよ】ってね」
「・・・つまりお前は実の親を脅したわけか!」
「でも結局俺が親父にとって都合の悪い奴を殺したおかげで今の地位がある。結局win-winなんだよ。それを邪魔しに来やがって・・・許さねえぞキサマ」
当初はこいつを殺し屋から捕縛して情報を集め、徐々に本人をおびき出す算段だったが・・・殺し屋が荒神琢磨本人というのは思わぬ収穫だ。
こいつの言うことが本当ならば荒神警視監は親子で殺人(厳密には親父は教唆だが)を行っていたことになり、この事実はさすがに隠ぺいは難しいだろうし、世の中は大騒ぎになるだろうから確実にこいつらを終わらせることができるだろう。
「つまり、てめえを捕らえれば全部解決ってわけだ」
「できれば・・・の話だがな!」
「くっ・・・!」
やはりヤバイ。こいつは今までの奴らとは違う。
さすが単純に人を殺めるために技術を磨いてきた人間といったところだ。
「テメエみてえなあぶねえ奴は飛び道具を使ってくると相場で決まってそうなモンだがな」
「・・・・近接戦闘ではナイフの方が強い。それに俺は銃を好まん」
「そうかよ!」
ナイフ、鉄筋の他、拳や足技も駆使し戦闘を続ける。
何発かは当たるが逆にこっちも何発かもらう。
一進一退ではあるがこれは・・・若干ではあるが俺の方が不利だった。
「ぐぉっ!」
「・・・ハハッ」
重い一撃を受けてひるんでしまう。
「やってくれるじゃねえか・・・・」
「もう諦めろ、確かにキサマは骨があるが・・・俺には勝てん」
「んなことテメエが決めるこっちゃねえよ!」
「フンッ!」
「ぐあっ・・・!」
「まずはその暑苦しいマスクをとったらどうだ?」
追撃を受けてしまった俺は、そのまま・・・マスクをとられてしまった。
「くっ・・・!」
「ほう・・・なかなかいい顔してるじゃねえか。あとでケツ貸せや」
「お前ホモかよぉ!」
なんつータイミングで言ってくるんだこいつは・・・・
「ん・・・・?キサマどこかで・・・・お前はオジキのところに出入りしてたガキ!神剣奏也か!」
「俺のことを知ってるとは・・・光栄だよ」
「そりゃよぉ・・・オジキを殺したとき、キサマをダシに使わせてもらったからなあ」
「なんだと・・・・?」
こいつ・・・今何と言った?俺をダシに使っただと?
「いくら俺でもあんな化け物みたいなオジキに勝てるわけないからよ。一言つぶやいたわけよ【俺が死んだらどうなるかな?オジキが可愛がってるガキ・・・神剣奏也といったか?あいつがどうなっても知らねえぞ】ってな」
「テメエ・・・・」
「まま、そう怖い顔すんなって!あ、そうそう。お前の両親を殺したときもよ、お前の両親に同じようなこと言ってやったんだよ。キサマの親、親父にとって都合の悪いポジションにいたらしいからよ~・・・でもな?約束通りキサマに手を出さずにいる俺、約束守って偉いだろ?」
「クソ野郎のくせになに言ってやがる・・・!」
「いやーあれは傑作だったねえ。あの後ナイフで心臓えぐってやったら餌を欲しがる鯉みてえに口をパクパクさせながら逝っちゃったからよぉ・・・うぉ!思い出しただけでブルってきたぜ」
「もう・・・口を開くな・・・・!」
「おっと戦闘再開ってか?言っとくけど今回はキサマからちょっかいをかけてきたんだ。死んでも文句言うんじゃねえゾ?」
「言ってろ・・・!」
体勢を整え、攻めに転じる。
「うぉ!?なんか急に強くなってねえか?」
「テメエのおかげだよ」
俺はいまだかつてないくらい力がみなぎっていた。
これは怒り。俺の宿敵とも呼べる相手が・・・オッサンと父さんと母さんの仇が目の前にいる。
そしてさっきの奴が語ったリアルな犯行模様は俺の怒りのツボを刺激するのには十分だった。
そして怒りに任せて動くとよくないと聞くが、実は俺は逆だ。
怒れば怒るほど冷静に状況判断ができるようになり、最善の一手を選択できるのだ。
「ぐはっ!」
「こんなもんじゃねえぞ!」
俺の一撃を受けてひるんだ琢磨に追撃を加える。容赦しない。
今までの俺の中でも最大レベルの速さとパワーだ。
「あめえよ!」
「・・・・くっ」
しかし奴も負けていない。持ち前の身体技能であっというまに体勢を立て直したのだ。
「ヒャハッ!」
「なんだとぉぉぉぉぉ!?ぐああああああああああああああああああ」
そして俺は・・・奴のフェイントにまんまとハマった俺は奴がナイフを投げるのを見抜けず。
腹でそのナイフを受けてしまったのだ。
「ヒャーッハッハ!刺さった!刺さったあああ!」
奴は勝ちを確信したのか、ジリジリと俺に歩み寄ってきた。
これは油断しているな・・・
正直死ぬほど腹が痛いし足に力が入んねえ。でもここしかない。ここで奴にカウンターを叩き込んで・・・・そのまま力任せに一気に叩き潰す!
「死ねえええええ!」
「オラアアアアアアアアアアア!」
そして俺は自身の腹に刺さるナイフを抜き、そのまま無防備に突っ込んでくる奴の脇腹に突き立てた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ハァ・・・ハァ・・・刺される側の気持ちはどうだ?」
「いてえ・・・いてえよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「おまけだ」
そして俺は持っていた鉄筋をそのまま奴の方に刺すように、目いっぱいの力を込めて放った。
「うぎゃああああああああ鉄筋が腕にぃぃぃぃ!」
そして腕には鉄筋・腹にはナイフが刺さったオブジェのような姿になった琢磨は・・・痛さで悶え苦しんでいた。
「ざまぁ・・・・みやがれ・・・・っ!」
「いてえ・・・いてえ・・・ちくしょう・・・いいぜ、ここは引いてやる・・・だがこのままで終わると思うんじゃねえぞ!」
「ま、待ちやがれ!」
なんて野郎だ、この状況で動けて逃走を図れるなんてなんてタフな野郎なんだ。伊達に警視監直属の殺し屋はやってないってか・・・
しかもあの様子、どうやらあらかじめ逃走手段を用意していたようだ。
「おまえは・・・ほっといても死ぬな。調べたところによるとここは遺棄された廃工場で誰も来ないようだし・・・今は自分のケガで手いっぱいでな。そのまま死ねや。覚えてたら警官派遣してやるよ・・・もっとも、その頃には腐った肉塊になってるだろうがな・・・・!じゃあな・・・・ぐぉぉぉぉ」
「ち、く・・・・しょう・・・・・」
そして荒神琢磨はそのまま姿を消した。
止まらない。血が止まらない。琢磨は俺が刺したナイフと鉄筋がいわば傷口のフタになっていて出血は少ない。
しかし俺はどうだ?ナイフは抜かれ血があふれ出るばかりである。
「ハァ・・・ハァ・・・弦巻・・・さん。すみません、逃がしました」
俺は手に持っていた携帯で近くに黒服を待機させているはずの弦巻さんに連絡を取ったのであった。
※
「お父様!」
私はこころ、紗夜さん、日菜さん、花園さんとともに、こころのお父さんに会いに来ていた。目的はもちろん、奏也くんについて聞くためだ。
そしてそこにはこころのお父さんと・・・美竹さんがいた。
「こころ・・・・」
「あら?蘭までいるのね。好都合だわ!お父様!奏也に何をやらせているのかしら?」
「大したことじゃなあない」
「・・・それは通じないんじゃないですか?私たち、もう大体見当はついてるんです」
「そうですね。奏也は例の通り魔事件に一人で挑んでいる。違いますか?」
紗夜さんが冷静な口調で詰め寄る。日菜ちゃんや花園さんも同じ感じだ。
「違う・・・と言ったら?」
「お父様!」
ピーピー
すると突然、こころのお父さんの近くに置いてある機械が鳴った。
「くっ・・・タイミングが悪いな・・・仕方ない。こころ、ちゃんと説明するから今はコチラをやらせてくれ。頼む」
「・・・・わかったわ」
「こちら弦巻。奏也くん、終わったのか?」
『ハァ・・・ハァ・・・弦巻・・・さん。すみません、逃がしました』
「逃がした・・・!?して、敵は?」
『一矢は報いましたよ・・・腹にはナイフ、腕には鉄筋をぶっ刺したまま逃げていきました。当分・・・下手したら一生通り魔みたいなことは無理かもしれませんね・・・』
「そうか、それはよかった。が、逃がしたということは奏也くんの存在は奴らに露見したということ・・・・して奏也くん、君は無事か?迎えを寄越そう」
『あー・・・それなんですけどね。迎え、間に合いますかねえ?』
「・・・?どういうことだ?
『いやあ、止まんないんですわ、血が』
「何だと!?」
「奏也!どういうこと!?」
「日菜、気持ちはわかりますが落ち着きなさい!」
それを聞いた日菜さんと紗夜さんも声を上げる。
『その声は・・・日菜と・・・紗夜・・・?なんでお前らがここに・・・』
「そんなことはどーでもいいの!奏也!どういうこと!?」
『声でけーよ・・・傷に響くだろうが・・・・刺され、ちまってよ・・・抜いちまったもんだから・・・無限ディープレッドって感じだ。当分ケチャップには困りそうもないぜ・・・』
「刺され・・・!?奏也・・・ねえ奏也!?」
『・・・・・』
すると奏也くんからのレスポンスがなくなった。
「お父様!!」
「ああ、近くに倒した敵を回収するために用意ししておいたSPを待機させてある!」
「おじさん!場所は!?奏也がいる場所はどこ!?!?!?」
「うん、すぐ行く」
「ええ、無論ね」
「しかしまだ敵の仲間がいるかもしれん・・・」
「敵は逃げたって言ってました。かなり満身創痍みたいですし大丈夫では?」
「・・・・場所は」
それを聞いた私たちはすぐに指定された廃倉庫へ向かったのであった。
※
5人が倉庫に到着すると、黒服が応急手当てをしていた。
「うそ・・・だよね奏也・・・?」
「そんな・・・・・」
「くっ・・・」
「そ、奏也・・・冗談は・・・よくないわ・・・!」
「奏也くん・・・・!」
そして5人が見たのは・・・
おびただしい量の、深紅の海に横たわる奏也の姿であった。
そして・・・その深紅の海を作り出しているのは紛れもなく奏也本人であった。
「いや・・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
倉庫に日菜の悲鳴が響き渡る。
そしてそれに呼応するかのように他の4人も声を上げ、泣き、叫び、動揺したのであった。
そしてそのうちに車が到着し、奏也は弦巻の息のかかった病院にひそかに運ばれたのであった。
ここのところめっちゃくちゃ仕事が忙しくてですね・・・
しかもかなり難産で果たしてクオリティを保てているでしょうか?
終わりが近づいてきているのを実感しています。
次はどんな展開にしたものか考えておきます!
引き続きよろしくお願いいたします!