「と、いうわけで今噂になっている教員内でのパワーハラスメントを調査いたします」
週末の臨時職員会議。俺と弦巻さんの計らいで校長が戻ってきたのであるが、突然このような話を始めた。
まあその校長に臨時職員会議を開くよう提言し、それが実現している形だ。
副校長と教頭は気まずそうに、顔を伏せている。そして他の教員もついに来たか・・・という顔をしている。
香澄ちゃんもものすごく驚いた顔しているね。まさかこんなに大きな騒ぎになるとは予想外だったのだろう。
そして肝心の成瀬。みるからに脂汗ダラダラで緊張・動揺しているのが分かる。
「授業に差し支えのない範囲で、週明けから何日かにわけて先生方には聞き取り調査を行います。申し訳ありませんがご協力をお願いします」
これにて臨時職員会議は終了。終わったら即座に校長室に行く。
「校長、ありがとうございます」
「なあに、弦巻を通してキミが教えてくれたおかげだよ。やはり兼任なんてするもんじゃないね。見るべき問題点が見えなくなる。私の進退は気にしなくていいから好きにやってくれたまえ」
「かしこまりました」
さて次だ。俺は空き室に呼び出してある副校長と教頭のもとへ向かう。
「今日の校長の話・・・君がリークしたのか!?」
「愚問でしょう」
「こんな騒ぎなるなんて聞いてないぞ!」
「そうですわ!」
「・・・・あのさあ、まあだ保身のこと考えてんの?やるからには徹底的にやらなきゃ意味ないの。校長は自分の進退は気にするなっていってたぞ?それに比べて醜いなおめえら」
「くっ・・・・」
「多分教頭に成瀬が泣きついてくるでしょう。手筈通り、手を貸さず無関心を貫いてください」
「・・・わかりました」
さて、一気にたたみかけるとしようか。
※
「なんなのよもう!」
成瀬はとにかく焦っていた。
教頭の後ろ盾があり、事実上トップの副校長も教頭の傀儡になっていたので表面化しないと慢心していたからだ。
「まさか校長が一時的に帰ってくるなんて・・・・!とにかく教頭と裏を合わせて・・・あ、ちょうどいいところに!」
「な、成瀬先生」
ちょうど鉢合わせた教頭と成瀬。当然成瀬は教頭が協力してくれるものと思い早速対策を練ろうと話を始める。
「今朝の校長の話・・・!対策を考えないとこのままでは・・・・」
「成瀬先生。何を言っているのですか?今日の校長の話しは私としても寝耳に水でして・・・・なぜあなたがそんなに焦っているのか存じ上げませんし、私がやることは粛々と対応するだけです」
「教頭!?・・・・!?まさか教頭・・・・私を切り捨てるつもりですか?」
「切り捨てる?いったい何のことを言っているかわかりませんが、やましいことがないのなら堂々としているといいですよ。では仕事がありますので。失礼します」
「教頭!?教頭!!!!!!くっそおおおおおおおおおおおおおお」
成瀬はここで悟った。自分は捨て駒にされるのだと。
すべての罪を被されて終わるのだと。
「そうはいくか・・・・!ならば!!」
思い立った成瀬はすぐさま行動する。
そこで見たのは奏也と香澄が会話しているところだった。
「まさかこんなことになるなんて・・・・」
「なるべくしてなっただけだよ」
「とにかく今はいいことを考えよう。そうだ、明後日の日曜日、せっかくだから出かけない?気分転換にさ」
「・・・・!ぜひ!」
その光景をみて成瀬は爪が食い込むくらい拳を握る。
そして奏也が立ち去るタイミングを見計らい、ニコニコしている香澄に近づく。
※
職員会議の後いろいろ不安になったけどさすが奏也せんぱい。しっかり私をフォローしてくれる。
しかも遊びにまで誘われちゃった!
最近疲れがたまっていてお酒に逃げていたしいい気分転換になると思う。
久々に温かい感情を思い出している気分だ。
「戸山先生」
「・・・!?成瀬先生・・・」
表情がすこしにやけちゃっていたであろうところで突然成瀬先生に話しかけられた。
「明後日、宿直お願いしますね」
「えっ!?でも先週も・・・・!」
「は?(威圧)仕事は用意してあります。宿直をしながらでも終わる程度です」
「で、でも今週は予定が・・・・」
「未熟者のくせに何を言っているのですか?そういうことは一人前になってから言ってください。ではよろしくお願いしますね」
その申し出に逆らえない私。
奏也せんぱい・・・ごめんなさい・・・
※
「話は聞かせてもらったよ」
「えっ!?」
そういえばどこに行くかを話してなかったというクソマヌケなことをしたなあと思い引き返すと成瀬と香澄ちゃんが話しているのが見えたので物陰からうかがわせてもらった。
「まったく、パワハラの調査入るって言ってるそばからパワハラするって何考えてるんだろうね」
まあこれは予想だが、俺の命令で保身モードに入った教頭は成瀬にとっては使い物にならない。すると次に奴が打ってくる手はなにか?
もちろん、パワハラ被害者への干渉だろう。
被害者である香澄ちゃんに対し、何らかの手段を用いて”パワハラ被害を受けていない、あれはれっきとした指導だ”と言わせる。
これしかない。ならばこの宿直命令には絶対裏があるはずだと俺は踏んだのだ。
「日曜日の宿直、仕事を押し付けられたんでしょ?俺も手伝うよ」
「え!?でもせっかくのお休みなのに・・・」
「この日は香澄ちゃんのために時間を使うって決めてたからさ。それに終わった後でも少しくらい遊べるでしょ?」
「奏也せんぱい・・・・」
「だから俺にもやらせてよ。早く終わればきっちり定時で上がってその分遊ぶ時間が増えるでしょ?」
こんな感じで手伝う確約を得た。
さて、あとは成瀬がどうでてくるかだな。俺は色々とパターンを予想しながら帰宅し、そしてついに当日を迎えたのであった。
※
「こんなもんかな」
「奏也せんぱい・・・・すっごく手際がいい・・・・」
成瀬に与えられた(押し付けられた)仕事を二人でやると定時より2時間も早く終わった。
でもこれ明らかに香澄ちゃん一人だと残業コースの量だったな。
今必要とは思えない生徒名簿の作成とか明らかに今年使うとは思えない書類の作成なんて嫌がらせの極致だ。
「時間余ったし定時までおしゃべりでもするか」
「はい!ありがとうございます!」
こうやって二人でいると香澄ちゃんはすごく明るい。
まるで昔に戻ったような感覚で会話を続ける俺たち。
「あまり話聞けてなかったんですけど・・・奏也先輩、帰ってきたってことは・・・やるべきこと、成し遂げたんですよね?」
「おっと急だね」
「す、すみません・・・」
「うや、いいよ。そうだね、向こうでやるべきことを終えた。だから戻ってきたんだ」
「じゃあこれからはずっと日本ですか?」
「仕事で海外に飛ばされることはあるかもしれないけど基本はそうだな。まさか一発目に母校にぶっこまれてそこで香澄ちゃんと同僚になるだなんてさすがに予想してなかったけどね」
「ほんと、偶然ですよね!!」
「香澄ちゃんはなんで先生に?」
俺はかねてから思っていた疑問をぶつけてみることにした。
すると香澄ちゃんの顔に少し影が入ったような気がしたが、話しを始めてくれた。
「私、バンドやってたじゃないですか。それを通していろんな経験をして、キラキラドキドキした高校生生活を送って。そんな体験をいろんな人に知ってほしくて!・・・でもそれもわからなくなっちゃってます・・・・」
「成瀬先生だね?」
「・・・そうです」
まあ飲みに行って酔った香澄ちゃんから愚痴を聞きまくってるからね。
でも今日はいつもと違いシラフだ。
「私、頑張ってるつもりです。やるべきこともちゃんとやっているはずなんです。最初はこれが社会人!って思って頑張ってたんですけどどんどんどんどんエスカレートしていって。今は我慢の毎日です。生徒達にはできるだけいつも通り振る舞っているつもりですけどね。でも、キラキラだとかドキドキだとかを伝える以前にいかに成瀬先生を対策するかで頭がいっぱいになっちゃって。ほんと何やってんだろうなー私」
自虐するようにいう香澄ちゃん。
やっぱり違うなあこれは。
「俺はね、やっぱ香澄ちゃんはは笑って、キラキラしてるべきだと思う。でも今の香澄ちゃんは黒ずんで、灰色だ」
「・・・・ッ・・・そう、ですよね。自覚はあります」
「でも俺はそんな香澄ちゃんをこれ以上見たくない。だから・・・助けるよ、キミのことを。全力でね」
「助けるってどうやって・・・・まさか急に校長先生が出てきてああなったのは奏也せんぱいが!?」
「俺の得意分野と昔やってたことを思い出してみてよ」
ようやく香澄ちゃんは察したようだ。
「今の俺は香澄ちゃん、キミのためにだけに動いている。また香澄ちゃんの心の底から笑った顔が見たいんだよ。キラキラドキドキを振りまくあの笑顔が見たいんだ」
やっべええええええ言ってて死ぬほど恥ずかしい!!!!
だが長年の訓練で鍛えたポーカーフェイスは崩れていない。
端からみたら真剣な顔で淡々と言っているように見えるはずだ。
「そのためだったらなんだってする。今俺はそのためだけにここに存在しているといっても過言ではないんだ」
それを聞く香澄ちゃんは心底驚いている。
そして口を開くと、一つの疑問をぶつけてきた。
「なんでそこまで私のことを助けてくれるんですか?確かに私たちは仲のいい先輩後輩で・・・でもそれだけじゃここまでしてもらう理由がありません」
「そんなことは・・・いや、そうだな」
「・・・・ねえ奏也せんぱい。これって・・・期待、しちゃってもいいんですか・・・・?」
潤んだ目。真剣な眼差し。そして切なさで彩られるグラデーションのような表情。
そのしぐさに貫かれた俺は覚悟を決めた。
「期待・・・そうだな。それが香澄ちゃんの考える期待にかなっているかはわからないけどさ」
いうぞ・・・言えよ俺。
ほらさっさと言っちまえよ。
「もし、かなっているなら。言わせてもらっていいかな」
「は、はい・・・・」
「俺は―」
大きく息を吸い、そしてゆっくりと、彼女を目をまっすぐ見つめていった。
「香澄ちゃんのことが好きだから。だから助ける。好きな人を助けるのに理由なんていらない」
その刹那、香澄ちゃんの表情が崩壊した。
崩壊という書き方をすると語弊があるかもしれないな。比喩表現で表すなら咲みだれる涙の花。しかし確かに感じる春の気配。
そして隠せぬ幸福感。
「私もずっと・・・あの日奏也せんぱいが旅立ったあの日から・・・・」
香澄ちゃんは震える声で言う。
「ずっとずっとこの日を待っていました!私も奏也せんぱいが大好きです!」
それはイエスの合図だ。
それを聞いた瞬間俺はついポーカーフェイスを崩してしまい、笑みが漏れてしまった。
それにつられて香澄ちゃんも笑う。
—うん、やっぱり
「香澄ちゃんは笑顔の方が可愛い」
この日、俺と香澄ちゃんは―
晴れて恋人同士となったのだ。
※
さて、甘ったるい雰囲気はここまでだ。いったん置いておく。
まあこの作品の作者ラブコメ描くの超苦手らしいからね、ボロが出る前に次に進むぞ。
告白の後、ちょっとイチャついてたら空気を読まない成瀬からの連絡があった。
「戸山先生、調子はどうですか?」
あんな量一人でやれるわけがない。
そうタカをくくったバカにするような声で電話がかかってきたのだ。
しかしそれに対する香澄ちゃんの返事はおそらく予想していなかったものだったであろう。それを聞いた成瀬はクッソ間抜けな声でレスポンスする。
「はえ!?終わった!?」
「はい、なので定時になったら失礼します」
この会話は俺が指示したものだ。さあ、どう出てくるかな・・・?
「何かミスをしているかもしれません、今から様子を見に行きます」
やったぜ。絶対こっちに来ると言い出すと思った。
これで何らかの手段を使って香澄ちゃんを脅すつもりだろう。
「香澄ちゃん。俺は隠れているから成瀬からできるだけ会話を引っ張てくれるかな?」
「わかりました!久々に奏也せんぱいの本気が見られるなー!でも・・・そうなると成瀬先生・・・辞めさせられて・・・大変な目に遭いますよね?」
「やってきたことの報いは受けてもらわないとね」
返答すると香澄ちゃんは少し微妙そうな顔をする。
「なんとか・・・できるだけ穏便にすませられませんか?」
「・・・あそこまでやられたのにかばうのかい?」
「いくら道を間違えたとしても・・・やっぱり彼女にも志があって教師になったはずだからって思って!だから・・・・お願いします!」
「・・・・香澄ちゃんは優しいね」
本当にこの子は・・・・
でもこれがいいところ何だよね香澄ちゃんって。
悪意を向けられてもじっと耐え、向けた相手すら許してしまう優しさ。
「わかったよ。じゃあこうしよう。できるだけ穏便に済ますように話を持っていく。そこからは相手の出方で処置を決めよう」
「それでお願いします!」
さあ、最終戦だ。
どんな出方をするかはわからないが俺はやるべきことをやろう。
すべては香澄ちゃんのキラキラドキドキを取り戻すために。
あららー結ばれちゃいましたねーついに。
さて、次回は香澄ちゃん編最終話です!
おたえいがいのポピパメンバーも出せたら嬉しいなあなんて考えているけど全く話がまとまっていないので期待しないでね!
引き続きよろしくお願いいたします。