「こんにちは軽音部です!」
舞台に上がり、ボーカルの子からギターを預かった香澄は高らかにそう宣言する。
そして普段教壇に立っている教師が突然ギターを抱えて上がったことにざわつきがあがった。
“あれ?香澄ちゃん?”
“なんでギターを持って・・・?”
“なにが始まるんだ?”
いやマジでなにが始まるの?
まあ雰囲気で何となく察してはいるけどさ。これは・・・俺的にはいい流れかもしれませんね。
「お~!みんななんで戸山が?って顔してますねえ~!実は軽音部のギター&ボーカルの子が急病で私が代役で歌って演奏します!」
“マジで!?”
“いいぞー!”
“香澄の歌声めっちゃレアじゃない!?”
“おお、ギター弾けたんだ!”
香澄のMCはとにかくうまい。
さすがPoppin’ Partyのボーカルだ。MCが進むにつれて観客の生徒たちもなかなか見られないレアな光景にドキドキしているようだ。
「1曲だけだけど聞いて下さい!夢見るSunflower!!」
そして演奏が始まる。さすが持ち歌だけあって演奏は全く問題ない。
そして歌声もまったく衰えを感じないのだ。
そんな彼女の姿は―
とってもキラキラしていた。
※
「ありがとうございました!!」
湧き上がる拍手・歓声。ほかのメンバーも、物陰に控えているボーカルの子もとてもうれしそうだ。
「いや~実は私、昔バンドやってまして。こんな大勢の人の前でやるの久々だったから緊張したよ~しかもぶっつけ本番!!でもできてよかったです!!ありがとうございました!!」
もう歓声が鳴りやまない。それほど香澄は輝いていたんだ。
「なんだ、俺がやるまでもなくキラキラしてるじゃないか・・・・」
そんなことを呟く俺。香澄は確実にいい方向へと向かっている。
よし、せっかくだ。最後の一押しで俺の計画も実行させてもらおうじゃないか。
「さて!本来は今のバンドでラストのはずでしたが、ここでサプライズゲストの登場です!せっかくですので、戸山先生はそのまま舞台にお残りください!」
俺が事前に司会者に話していた計画が実行される。
香澄はが舞台に上るのは想定外だったが、どうやらアドリブをきかせてくれたようだ。
「え?え?」
香澄はわけがわからないようで舞台上で困惑している。
そして実行委員が次々に機材を運んでくる。
キーボド、ドラム、アンプ。
すでに設置してあるにも関わらずそれが撤去され、新しいものが設置される。
「あれ・・・?このキーボード、ドラム・・・どこかで・・・・・ってあああああああああああ!!!」
ふっ、どうやら気づいたようだな。
「それではご入場いただきましょう!本日のスペシャルゲスト!Poppin'Partyの皆さんです!!!」
その刹那ものすごいどよめきが起きる。
本物なの?マジ?など色々と聞こえてくる。
「いや~どうも~」
「わぁ、凄い人!」
「うーん、テンション上がってくるねえ~!」
「これだけ人がいるところでライブやんのは久々だな~」
そこに現れたのはおたえ、りみちゃん、沙綾ちゃん、有咲ちゃんであった。
「香澄、久しぶり・・・ってわけでもないか、私は」
「私は久しぶりだよ~!ね、香澄ちゃん!」
「私もけっこー久々だなー」
「最近香澄、パン買いに来ないしね~」
どれくらいぶりの勢ぞろいなんだろう。
香澄はまだ驚いた顔をしている。
「おたえ、りみりん、有咲、さーや・・・なんで!?」
「お、驚いてるね~香澄。おたえにね、呼ばれたんだ」
「奏也がね、香澄が最近元気ないっていうから。私達も全然あえてなかったしちょうどいい機会だと思って」
「うん!一緒に演奏するのめっちゃ楽しみにしてた~!」
いや~ほほえましい。やっぱポピパは5人揃うといいねえ~癒される。
「はい。香澄」
「え!?ランダムスター!?なんで!?」
「なんでって香澄、うちのスタジオに楽器預けてたでしょ?持ってきた」
「あ、そっか」
「香澄、やるよな?」
「有咲・・・」
「香澄が色々大変だったって奏也さんに聞いてさ。なんつーか・・・力になれなくてゴメンな」
「え!?有咲は悪くないよ!?」
「それでもさ。だから今日は思いっきり演奏してさ。楽しい思い出、つくろうぜ?」
「う~・・・あーりーさー!」
「だー!みんなが見てる前で抱き着くなあああああ!!」
「みんなが見てないところならいいの?」
「そ、そういうことを言ってんじゃねー!お前大人になってもホント変わんねーなー!」
「「「「「あはははははは!!!」」」」」
ポピパのみんな。観客のみんな。笑い声が響く。
ああ、これだ。この感じだ。
「ねえ、香澄。やるのはこの曲いい?」
「えっと・・・あ、これ!」
「うん」
そして舞台上で5人は示し合わせ、それぞれの持ち場につく。
「えっと改めまして!Poppin' Partyです!みんなからしたら青天の霹靂って感じだと思うけど・・・私もです!」
ドッっと会場が笑いに包まれる。
「ま、細かいことはいいよね!今はこの場を目いっぱい楽しもう!聴いてください・・・前へススメ!」
その香澄の姿はすごかった。
また香澄は輝ける。キラキラドキドキをできるはず。
・・・・今歌っている姿をみて、なんとなくだけど俺はそう思った。
そう、香澄の見る景色。そこには見渡す限りに揺れる輝きがあり、そして香澄自身も輝いているから。
こうしてサプライズポピパライブは大盛況で終わった。
※
「ふぅ~!さすがに疲れたよ」
「お疲れ様」
ライブが終わって生徒たちに囲まれて、質問攻めにあった香澄はようやくそこから抜け出したようだ。
今俺たちは人目のつかない文化祭のはずれでお茶を飲みながら休憩している。
「まあ伝説って言われてるポピパがきて、しかもそのメンバーが身近にいた先生ってなればみんな興奮するだろうなあ」
「これってみんな奏くんが私のためにやってくれたことなんだよね・・・・?」
香澄が少し落ち着いた感じで聞いてくる。
「ああ。香澄のために何かできないかなって思って。やっぱ香澄といえばライブだと思ったからね。それでおたえに相談してさ」
以前おたえから聞いたことがある話。
ポピパを結成してちょっとしたとき、香澄が歌えなくなった時期があったらしい。
そんなとき、ポピパみんなで励ましあい、みんなで歌い、そして輝きを取り戻した曲。
それがあの前へススメ!だ。
これはある意味再現のようなもの。どうやら上手くいったようである。
「うん。楽しかったよ。すっごく。奏くんにも、おたえにも、りみりんにも、有咲にも、さーやにも・・・感謝してもしきれないなあ」
「すごくよかった。香澄はやっぱそうやって元気で歌って、笑っている方が可愛い」
「可愛い!?もう奏くんったらそんなこと急にいうの反則ー!」
「本当のことを言って何が悪い」
「うぐっ・・・・!鈍感なくせにこういうときだけこの人は・・・・」
ああ、やっぱりこれだ。香澄はこうでなくっちゃ。
一喜一憂して色々な表情を見せる香澄がとにかく可愛くて、そして愛おしくて。
気が付けば俺は香澄の目をじっと見つめ、肩を優しくつかんでいた。
「そ、奏くん・・・・?」
「ねえ香澄。目、閉じてくれないか・・・・?」
「は・・・・・・・はい」
香澄は目を閉じるそして俺は徐々に接近して、ついに―
俺と香澄の唇が重なった。
その時間は永遠に感じるほど長くて、でも短い。
形容しがたい幸福感に包まれた俺たちは、ただただそれに酔いしれていた。
「ぷはっ!・・・・しちゃったね」
「ああ・・・にしてもずっと息止めてたのか?」
「だって初めてなんだもん!はっ!?まさか奏くんはすでに経験済み!?私は何番目の女なの!?2番目!?3番目!?」
「お、落ち着かんかい!・・・・香澄が初めてだよ」
「・・・・///奏くん・・・・」
「香澄・・・・」
そして俺たちの顔は再び近づ―
ガサガサ!
―くことはなかった。
俺は後ろの茂みで気配を感じたのだ。
「あっもう。ほらぁ、有咲が押すから」
「私のせいか!?そもそもこんな小さい茂みに4人入るのが無理だったんだよ!」
「あはは・・・・狭いもんね」
「あー・・・みんな。前前」
「「「あ・・・・」」」
「なにしてんのキミたち」
そこにはポピパのみんながいた。
「いやー・・・香澄を探してたらこっちにいくところを見つけて。ついていったらまさか奏也さんと・・・・ねえ・・・?」
「まさか奏也さんと香澄が付き合ってたなんてなあ・・・」
「奏也、香澄。水臭い。私、なんの相談も報告も受けてないよ?」
「ウチ、めっちゃびっくりしたあ~それにさっきの思い出すと///」
うーーーーーーむ。
これはアレだな。全部見られてたというわけか。
後ろを見ると石化したように動かない香澄。
そのさまはまるでメデューサにやられたようだ。
「ということだ香澄。見られてた」
「いやあああああああああああああああああああああああ恥ずかしくて死ぬうううううううううううううう」
そうやって現実を突きつけると、香澄は我に返った途端顔を真っ赤にして地面をゴロゴロ転がり悶えていたのであった。でもそんな香澄も可愛い。
そしてこの日。
香澄はかつての輝きを取り戻し。俺たちの関係も間違いなく進んだ。
これからはずっと俺が守っていく。
戸山香澄という女の子すべてを、俺の全存在をかけて。
何のためらいもなくそう思えた、そんな夜であった。
※
あれからさらに時間は経つ。仕事も香澄との関係もすべて良好。
あれから色々働いた結果、三科高校の教員不足はなんとか解消され、それに伴って俺の教員としての生活は終わりを告げた。
それでも俺と香澄の関係が変わるわけではない。俺は通常通り弦巻家で仕事を受け、香澄は教員として子供たちに色々なことを教えている。
そんな俺たちが休みのある日、俺たちは普段とは雰囲気の違うところに遊びに来ていた。
そして夜はめちゃくちゃ高いビルにある個室レストラン。この日のためにセレクトした店だ。
「わぁ~凄い景色!でもなんで?今日は私も奏くんも誕生日じゃないよ?」
その質問に対してい俺は少しこわばる。そしてポケットに手を突っ込みガラにもなく緊張する俺。
「いや・・・まあ色々あってな」
「色々?なんだろー?」
大体こういう感じって察するもんかと思ってたけど、香澄はマジでわかっていないようだ。
・・・・よしっ!意を決せ神剣奏也!
「香澄、これを見てくれないか」
「・・・?」
俺は小さな箱を出す。そしてそれを開くと、一言だけ言う。
「家族になってくれませんか」
※
時はさらに経つ。
俺と香澄の苗字が一緒になり1年くらいたった頃、仕事から帰ると玄関先で香澄がソワソワしながら待っていた。
「あれ?香澄どうしたの?今日は仕事じゃ?」
「うん、ちょっと調子悪いから早退してきたの」
「えっ!?ならここにいちゃダメじゃないか!早く中に入ろう」
慌てて俺は香澄を家の中にいれようとした。
しかし香澄は動く様子はない。
「あのねっ、調子が悪い理由・・・なんだけどねっ・・・!」
「・・・・ん?え、まさかヤバい病気とか・・・・?」
「あ、違うの!あの・・・えっとね。実は・・・家族が増えるんだ!」
「・・・・あの・・・それって・・・そういうこと・・・なんだよな?」
「う、うん。できました///」
「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
※
さて、俺と香澄のお話はここまでだ。
出会い、別れ、また出会い・・・そして家族になって、その家族が増えて。
世界はこんなにも輝いている。あの時から、そして今も。
香澄のおかげでキラキラドキドキっていうのかな。そんな幸せな日々を送れている。
「なあ香澄、今幸せか?」
すやすやと眠る我が子を抱きながら座る香澄に問いかける。
「なーに?急に~?」
「いや、なんか聞きたくなった」
「なにそれ!でもそうだねえ~うん、最高に幸せだよ!奏くんは?」
「ああ俺も」
「最高に幸せだ」
~fin~
おかげ様で香澄編の最終話を迎えることができました!
当初は3話くらいの短編をやるつもりが書いていると楽しくなって知らぬ間8話という本編の章より長いという結果に(笑)
まだ二人残ってるんですけど・・・書ききれるのか?私?
個別ルートということでいつもの勧善懲悪をだしつつ、結末もかなり好きに書かせてもらいました!
こんな結末は・・・皆様の好みでしたでしょうか?
結構初の試みなので感想などいただける嬉しいです!
不定期になりますが、それでは引き続きよろしくお願いいたします!