第1話 山は丸いとは限らない
「ふう温泉はいいね~」
俺は帰国後、弦巻さんの気遣いで地元から少し離れたとある山奥の温泉旅館へ来ていた。
長らく日本の温泉に浸かってなかった俺はお言葉に甘え、ただいま単独プチ旅行といった感じで束の間の休息を楽しんでいる。
「日本人に癒しはあってしかるべきだと思うんですよね、そう思いませんか?」
「ウキ?」
あ、人だと思ってたら野生の猿じゃねえか。
「こいつは失敬」
「・・・ウキッ」
サルは何か分かったような顔をして温泉を後にしていった。
あ、実際の野生サルは凶暴で非常に危険だからな!見つけても近づいたり食い物わたそうとしたりしちゃダメだからな(戒め)
筆者が墓参りの時お供えものを狙ったサルに出くわして”こわいおもい”をしたらしいからな!
「うわ~広いなぁ~」
「滑って転ばないでよ~」
そんな中、鳴り響くは女性の声。
いかんな。今の時間帯、この温泉は混浴。誰も来ないだろうと踏んでいたが予想外のイベントだ。
とりあえず変態扱いされて御用なんてゴメンなので声を上げることにした。
「すみません!男一人入ってます!見ないようにするんで!」
「えっ!?なんで男の人が!?」
「彩ちゃん。この時間はここ、混浴だよ」
「うぇ~アイドルが混浴なんてマズイよ~!」
ん??????
なんだこのやけにこころに響く癒しボイスとトラブルを運んできそうな不吉な声は・・・聞いたことがあるぞ・・・・?
「大丈夫大丈夫!だってアレ、奏也だもん!」
「やっぱり日菜か!!!!!」
思わず俺は立ち上がる。
「ということは隣にいるのは彩か!いや~久しぶりだな。まだ帰国の挨拶に行けてなかったよ。すまんな」
「あっあっあっあっ・・・/////」
「なんだよ彩、ハトがマテリアルバースト食らったみたいな顔しやがって」
「あのっ!奏也くん・・・会えたのは嬉しんだけど・・・その・・・前・・・・////」
「は?前?フロント?」
何かがおかしい。そして日菜よ、なぜおまえは笑いをこらえながら顔を背けている?
「前・・・前・・・前」
前にはタオルを巻き付けて恥ずかしがる彩。
まあ混浴だからね。こんな格好にもなるよ。
そして俺自身を確認する。なんてことない、鍛え上げた体に加え股間に棒が1本ぶら下がっているだけだ。
特に異常ないじゃないか。うん。
・・・・・うん??????
「きゃっ・・・・」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」
「あはははは!なんで奏也が彩ちゃんより先に悲鳴あげてるの(笑)」
「あああああああああああああああああああああああ」
「うーん、ぷくくっ・・・さすがに・・・くくっ・・・ここまでとは予想外だよ奏也・・・くくくっ・・・・!」
そのさまを見て俺はすべてを察した。
「日菜あああああ!お前ええええ!謀りやがったなああああああ!」
「そんなことはいいから隠してよぉ~~~~~////」
こうして俺と丸山彩は再会を果たした。
なんというか・・・うん、こんな形で。どうしてこうなった・・・
※
「おい日菜、改めて言うが謀りやがったな?」
「さっすが奏也、あの一瞬で見破っちゃうなんてさ」
話を聞くに今彩と日菜は二人で温泉ロケに来ているらしい。
それをいいことに弦巻さんに働きかけ、彩と俺を再会させるサプライズを企てたらしい。
そして今日は定休日で他の客はいないらしい。
道理で人にあわないと思っていたよ・・・・
「ん?そういやなんで俺が風呂に行くタイミングがわかったんだ?」
「そりゃ奏也、あたしたちの部屋ココだもん」
そういいながら到着したのは俺が止まっている部屋の隣。
「いや~ちょっと恥ずかしい思いさせるくらいで終わるつもりがまさかあんなことになるなんて・・・・くくっ・・・思い出したらまた・・・・ふふふ・・・」
「・・・・////」
彩はさっきからこんな様子で黙っている。
うーむ、どうにもやりづらい。そりゃ久しぶりに会ったやつのイチモツを見せられたらそうなるか・・・アレは確かに俺が悪いし。
「ま、いーや!あたしはもうひと風呂浴びてくるからさ!二人は積もる話でもしなよ!」
「あ、おい日菜!」
「待ってよ日菜ちゃあああん!」
俺たちの制止も聞かず、日菜は去っていった。
「・・・・とりあえず部屋に入るか。こんなところ見られたらアレだし」
「・・・そうだね」
※
「いやもうほんとさっきはすみませんでしたゆるしてくださいなんでもしますから」
「う、ううん!いいよいいよ!それに・・・さ。私は奏也くんにまた会えたってことの方が嬉しいかな」
「彩・・・」
「それに奏也くん、凄くたくましくなったね」
「まあ向こうで鍛えてたからなあ。彩もさ。すごくいい感じだ」
「え!?」
そう、今の彩には品格がある。
昔のようなオーラは健在で、大人の女性として、ベテランアイドルとしてのオーラが出ている。
「でもやっぱ彩は彩だな。おっちょこちょいなところもテンパるところも昔のままだ」
「もう~///誰のせいだと思ってるの~」
「悪い悪い」
「まったく・・・あ、そうだ奏也くん」
「ん?なんだ?」
「おかえりなさい!」
「・・・・ああ、帰ったよ。ただいま、彩」
交わされる言葉。
彩の声を聞くとやはり帰ってきたんだと実感する。
「ずっと日本なの?」
「まあ仕事次第では海外もあるだろうが拠点はそうだな」
「よかった!昔言ってた役目、ちゃんと果たせたんだね!」
「・・・ああ。・・・彩もさ」
「え?」
「彩も理想のアイドル、やれてるか?」
「うん!奏也くんが海外で頑張ってるって思って私も頑張ったよ!今はお仕事も沢山あって、すごく充実してる」
よかった。話しててだんだんと実感する。やはり彩は彩だ。
何も変わらないし、ただひたむきに純粋な笑顔を振りまく彩のままだ。
「ま、これからもよろしくな」
「うん!」
その後しばらく世間話に花を咲かせる俺たちであった。
・・・のだがしばらくすると彩がそわそわしだした。
「どうしたんだ・・・?」
「あ、足が・・・・・」
この様子・・・
どうやら足がしびれているようである。
「おっ・・・大丈夫か大丈夫か」
「えっ!?なんで人差し指を出しながら近づいてくるの!?」
「そりゃお前お約束ってもんだ。俺がいた国のコメディだったらむしろやらないと失礼ってもんだ」
「ここ日本!だめ!つんつん!ダメ、ゼッタイ!」
「違法薬物の啓発みたいに言っても逃げられないゾ」
「いーやーあー!」
このあとメチャクチャつんつんした。
・・・・のであるがここで思わぬことが起きた。
「もうっ・・・やめてってばあ~ってきゃあ!」
「えっちょまま」
ゴチーン!
「ぬごおおおおおおおおおお・・・・」
体勢を崩した彩はそのまま俺に倒れ掛かる。そしてそのまま頭が俺の頭に落ちてきたのだ。
アイドルにあるまじきうめき声をだして悶える彩。ちなみに俺は鍛えているので痛みをあまり感じていない。
「す、すまん彩。さすがに調子に乗りすぎた。大丈夫か?」
「い゛だい゛」
しかしこの体制、非常によろしくないな。端からみたら彩が覆いかぶさって俺に抱き着いているようにしか見えない。
・・・・なんか記憶にあるぞこの流れ
スパンスパン!
「いや~つい長湯しちゃったよ!二人とも話はできたか・・・・な・・・・?」
勢いよく開かれるふすま。そして現れた日菜。俺に抱き着いている(ように見える)彩。加えて無抵抗の俺。
日菜は固定された笑顔のまま俺たちを見下ろす。
あっ・・・(察し)
「・・・・ごゆっくり~」スーッ
「待てええええええ違うんだ日菜ああああああ!!!」
「日菜ちゃああああん!無言でふすまを閉めないでえええええええ」
「おい、彩!立ち上がろうとしたらまた・・・・」
「あしがああああああああ」
ゴチーン!!
「ぬごおおおおおおおお・・・・」
「・・・お主、さてはアホの子じゃな・・・・」
再び倒れこむ彩。そして少し痛みを感じる俺。
うん。
や っ ぱ り こ う な っ た 。
このあと誤解を解き、ニヤニヤしながら彩をいじる日菜も加わって三人で話に勤しんだのだった。
※
「ふう、喋ったら疲れちゃった」
「あ、俺飲み物買ってくるわ。二人もいるか?」
「あ、じゃああたしふつーのお茶で!」
「じゃあ私は・・・なににしよ」
「なんなら彩ちゃんも行ってくれば?あたし待ってるからさ!」
「そうするか?」
「そうだね。じゃあお供します!」
部屋を後にする俺たちはフロン近くにある自販機へと行く。
どうやらこの温泉旅館、いわゆる秘湯的な感じでちょっと時代を感じる作りになっている。ルームサービスも終わっている時間帯なので飲み物の入手は、フロント付近にある自販機まで行かねばならないのだ。
・・・秘湯がロケやっちゃ秘湯にならない気がするのだがまあ細かいことはいいだろう。
ガサゴソッ
「・・・・なんだ」
「そ、奏也くん・・・」
それは気配。
常夜灯に照らされるフロント。
今確かに物音がして人の気配がしている。
「多分スタッフだろ」
彩を安心させるためにそう言うが明らかに気配が違う。
これは・・・よくない気配だ。
そして俺は目をこらす。するとその足元には・・・・
この旅館の制服を着て倒れている人と、全身真っ黒な服を着てフロントを漁る男の姿があったのだ。
「えっ・・・あれって・・・?」
「彩、見るな。すぐに部屋に戻れ」
そういうがすでに遅かった。
足元に倒れている人と不審者を視認した彩は恐怖のためか腰が抜けてしまったようで、その場にへたり込んでしまった。
そしてその物音を聞いた不審者は、こちらに視線を向けたのだ。
「あああ・・・・」
「みたなっ・・・!」
不審者は即座に俺たちの方へ走り寄る。
だがその走り方は素人。手に持つ刃物の握り方も素人。
まあこんな普通の温泉旅館に手練れがいたら怖いわ!ずっとそういうやつばかり相手にしてきたから過敏になってるなあ俺。
「・・・・!」
臨戦態勢になる俺。
しかし、次の瞬間。予想外のことが起きた。
「・・・・・」
タッタッタッ・・・・
「・・・・逃げるのかよっっっっ!」
そう、不審者はそのまま入り口に方向転換し、破ったと思われるドアから逃走を図ったのだ。
「待ちやがれ!」
俺は追う。この温泉は軽い山道を登った上にあるので自動的に山道を下ることになる。
日本の山道は走りなれてない俺であるが、まあこれくらいは余裕だろう。
「オラ!観念しやがれ!」
と、相手に言い放った刹那。
クンッ!
「なに!?」
不審者が躓いたのである。
しかし俺のスピードは殺せない。
俺はそのまま不審者に突っ込み・・・・そのままの勢いで崖下に落ちてしまったのある。
「いやあ・・・慢心はよくありませんねえ・・・・」
落下中、そんなことを考えながら落ちていった。
そして体に衝撃が走る。ふむ、どうやら高くない崖みたいだな。
しかしなあ・・・さすがにこれは
「キツイッス・・・・・」
俺はそのまま・・・
あろうことか意識を失ったのである。
※
目が覚める。そして最初に眼に映るのは白い天井だ。
「ここは・・・・」
あたりを見回す。
するとそこには一人の女性が涙ぐんでいた。
「奏也くん・・・!よかった、目を覚まして!」
察するにここは病院。
なるほど。僕は何らかの理由で意識を失い、そして病院に運び込まれたというわけだね。
「ずっとみていてくれたの?」
「あ、あたりまえだよ!」
「そうか。じゃあ一つ聞いてもいいかな?」
「いいよ!」
「あなたは・・・・僕のお知り合いの方でしたっけ」
「え・・・・?」
「いやー・・・なんも覚えてないんですわ。まいったね、こりゃどうも」
「ええええええええええええええええええ!?」
というわけでなんか色々と忘れてしまった今日この頃。
かわいらしい声で奏られる悲鳴を聞きながら、この病室の窓から見える風景をみていた。
2人目は丸山彩編!
前回はリサ→彩→香澄の順番だったので、今回は逆ということで進めてまいります。
今までありそうでなかった記憶喪失モノです。
最後まで書ききれるんですかね・・・・?
また、前回はたくさんの感想、評価ありがとうございました!
ものすっごく励みになります。
引き続きよろしくお願いいたします。