「えー・・・・休館日?」
旅館に着くと旅館には休館の文字があった。
「あー・・・奏也にばっか気をとられてたけど、そういや従業員さんもケガしたんだった・・・そりゃお休みになるよね」
「日菜ちゃんにしては珍しいね、こんなミスするなんて」
「あはは、失敗失敗。どうしよーこれ」
いやあ参ったなあ、完全に抜けてた。
多分あたしなりに奏也のことで頭がいっぱいだったんだと思う。
でも今となっては言い訳かなー
「閉まっているものは仕方ないし、氷川さんの気持ちだけでも十分嬉しいよ。そうだね、せっかくここまで来たんだし自然を満喫しないかい?」
うーん、やっぱ調子狂うなあ・・・
でもせっかく提案してくれてるんだし乗っかるのもありかな。
このあたり、ハイキングコースもあるみたいだし。
「彩ちゃんはそれでいい?」
「私はそれで大丈夫!こんな自然の中ゆっくり歩くなんてことできないからね!」
「じゃあそれでいこうか。氷川さん、丸山さん、まずはハイキングコースに入ろう」
「あ、奏也。前から気になってたけどさ、その氷川さんってのやめない?」
「あー・・・丸山さんもちょっとなあ・・・」
私と彩ちゃんはかねてから気になっていたことを話した。
記憶がないとはいえそんな他人行儀にされるとるんっってこないしね。
「そうだなー・・・日菜さんと彩さん?」
「さん、もいらないよっ!」
「うん、なんか奏也くんに”さん付け”で呼ばれると違和感ある」
「そっか。じゃあ日菜、彩。いこうか」
「うん!るんっってきた!」
そんな感じであたしたちはハイキングに向かうべく歩き出した。
そこそこ距離があるけど歩きやすい山道。ぶっちゃけ到達するまえに満足しちゃうかもしれない。
「・・・・ん」
「どうしたの?奏也」
「いや・・・なんていうか。なんか嫌な感じがするんだよね」
そういえば。なんか空気が疼く感じがする。
これは敵意・・・・?そして
「・・・殺意。出てきなよ。もうバレてるからさ」
その気配がする方へ声をかける。すると覆面を被ってナイフや角材を持った人たちが四方八方から出てきて、あたしたちを囲んだのだ。
「大したもんだなァ・・・・・」
リーダー格と思われる男が声を出す。
「ようやくおでましって感じだね」
「ひ、日菜ちゃん・・・これって・・・」
「なんなだよこいつら・・・・」
実は、あたしはこころちゃんのお父さんから奏也のボディーガードの役割も仰せつかっていた。いくら奏也が最強っていっても記憶がないと限界があるっておもったから。
「・・・読んでいたのかねェ?」
「まあね。多分、どっかで来ると思ってた。けどここで来るとは予想外だったかな」
「カッカッカ・・・さすがだねえ日菜」
「・・・・?あたしのことを知ってるの?」
「そりゃあ今や大人気のアイドルグループの一員だからなあ・・・それに俺たち、昔会ったことがあるんだぜぇ?それに彩ァ!随分見ない間にキレーになったねえ。昔のあどけない感じもたまらなかったが今の感じもいい。思わず股間がおっきしちゃぜ」
「えっ・・・・・!?昔・・・私・・・?」
どうやら敵は彩ちゃんのことも昔から知っているようだ。
下劣で品のない言葉を突然ぶつけられた彩ちゃんは困惑している。
言われてみればどこかで聞いたことがある声な気がする。
「そして神剣奏也ァ!テメーに一番会いたかったよ・・・・俺をこんな目に遭わせたテメーになあ!」
「・・・・・うぇ!?僕たちどっかでお会いしてるんですか!?」
「ああそうか。今記憶がないんだったなァ・・・これは好都合だ。おい!まずはあの男を捕らえろ!今の奴なら数で押せば勝てる!」
「えっ・・・ちょっ・・・・」
狙いはやはり奏也!
「ぐぉぉぉ!」
「そうはいかないよ。確かに今の奏也じゃ数で押されたら厳しいかもね。・・・ま、あたしが一緒じゃなければだけど」
そういってはみるけど戦況は圧倒的不利。
足元が悪く、しかも奏也や彩ちゃんをかばいながらだと一度に相手にできる数には限界がある。
「馬鹿め!こっちだ!」
「しまった・・・!」
とにかく倒す。でもやっぱやはり数が多いね・・・・
下っ端を相手にしているとリーダー格の人が奏也に迫る。
奏也のところには彩ちゃんもいる。ここままじゃ・・・・!
「死ね!神剣奏也ァ!」
「やめっ・・・ぐああああああああああああああああ!」
「奏也くぅぅぅん!」
「奏也!!!!」
抵抗する間もなく攻撃を受ける奏也。
そしてそのまま山道を、斜面を転がり落ちていく。
そこは奇しくも・・・・奏也が転落し、記憶を失ったところだった。
「オラ、彩はこっちだ!」
「いやあああああ!」
「やめて!彩ちゃんを放して!」
形勢逆転。奴らの残った下っ端に彩ちゃんは捕らえられ、奏也は崖下で眠っている。
「おっと動くなよ?動いたら彩がどうなっても知らないぞ?」
「あなた達一体何なの!?なんで奏也や彩ちゃんを狙うの!?目的は何!?」
「お前に話すつもりはない。だが邪魔をするならお前も一緒に連れていく」
わからない・・・・ほんとうに分からない・・・・
考えてみれば付け狙われたのはあの日、旅館での事件があってからだ。さらにこの人達は彩ちゃんやあたしだけではなく6年もの間日本にいなかった奏也のことまで知っている。
しかもかなり強い恨みを抱いている様子だ。
待って・・・あの声、雰囲気。どこかで・・・・本当にどこかで・・・・・
「おい、神剣を回収してこい」
「わかりました」
リーダー格が下っ端に指示をする。そしてその人はその場を離れ、下にいる奏也のもとへ向かう。
くっ・・・でも彩ちゃんが人質になっている今は動けない。
じわじわと広がる不安。あたしはかつてない大ピンチに・・・嫌な胸の鼓動を感じていた。
「寝ちまったらそこらのつまんねー雑魚と一緒だなあ、テメエ。この前はよくやってくれたな。オラ、こっちへ来い・・・・な、な!?!?!?」
「えっ!?」
「どうした!?」
そんな声がした。上にいる全員は驚き、奏也が落ちた場所を見下ろす。
しかしそこには・・・・奏也の姿はなく、さっき降りて行った下っ端が倒れているのみだった。
※
この感覚を俺は知っている。
「奏也くぅぅぅぅん!」
「奏也!!!!」
俺を呼ぶのは誰だ?
待てよ、なぜ俺は俺だと知っている?
「おっと動くなよ?動いたら彩がどうなっても知らないぞ?」
うっすらとする意識。その中に聞こえてくる会話。
この声・・・・どこかで・・・・・?
「おい、神剣を回収して来い」
「わかりました」
ザッザッザ・・・
上にいる足音が遠ざかったと思ったら俺の近くに聞こえる。
神剣・・・奏也。
俺の名前。ズキズキと痛む体の衝撃が全身を伝播し、そして何かをこじ開ける。
そうか・・・・俺は・・・・!
「寝ちまったらそこらのつまんねー雑魚と一緒だなあ、テメエ。この前はよくやってくれたな。オラ、こっちへ来い・・・・な、な!?!?!?」
そして俺は―
目を開き、そして動いた。
※
「おい、どうなってる!?ヤツどこにいった!?」
「・・・・・・」
「おい、お前らなんで黙っている!?」
ドサッ・・・ドサドサドサ・・・・
それに対する返答はない。
奴とあたしの目線が下に注がれている間。
後ろにいたはずの下っ端たちが倒れ始めたのだった。
「なっ!?お前らどうした?」
倒れた下っ端の後ろ映る影。そう、それは・・・・・
「どうしたもこうしたもねーよ。俺がちょっとお礼をしてやっただけだ。彩、ワリィな。怖い思いさせちまって」
「奏也・・・くん?」
そういって彩ちゃんを抱き寄せる奏也の姿だった。
「ああ、こっからは俺に任せておけ。日菜!気をつけろ、まだ起きたる奴がいるぜ?」
「!!!!うん、わかった!」
その声に反応し、起き上がる下っ端を蹴散らすあたしたち、
うん!あの喋り方、顔つき、間違いない。
記憶が戻ってるんだ!
「さておめえ、どっかで聞いたことある声だと思うんだが・・・やっと思い出したぜ。オラ、ご尊顔拝ませてみろや」
しばらくして下っ端は全滅。
恐ろしいスピードだったね。やはり本気の奏也がいると早くて笑えて来るレベルだね。
「ぐぉっ・・・!やめろ・・・・!」
「アンタバカですか?やめるわけないでしょ?はいはいお顔みせましょうね~」
抵抗虚しく覆面を剥がれるリーダー格の人。
その下から出てきた顔は・・・・
―あの日の悪夢
彩ちゃん、奏也、そしてあたしがかつて対峙した敵。
「やっぱりテメエか宮野。おめえ服役中じゃなかったか?」
その敵の正体。
7年前。彩ちゃんと奏也を拉致し、大事件を起こした元ストーカー・宮野だった。
意外と早く戻ったなあ・・・・
滅茶苦茶マイペースですがゆっくり更新していきますので引き続きよろしくお願いいたします!