その方が私も有り難いので。
あ~…どうも。
突然ですが自己紹介します。
私は『板垣弥生』と言う、皆さんもよくご存じの『TS系転生者』って奴です。
因みにこれ、『いたがき やよい』って読むのであしからず。
今は立派な女になってますけど、前世ではちゃんと男をしてました。
今ではもう完全に女としての生活に慣れました……多分。
完全に恥の上塗りなので、転生までの詳しい経緯は今は省くけど。
テンプレの如く死んでから、これまたテンプレの如く神様に会って、テンプレの如く転生しました。
テンプレだらけの第二の人生を与えられた私は今……非常に拙い事になっています。
「ど…どうした!? 気分でも悪いのか!?」
「い…いや……私…はだい…じょう……」
「まぁ! 大変ですわ!」
「聞いて……」
クラスメイトの『篠ノ之箒』と『セシリア・オルコット』がこっちを心配そうに覗きこむ。
誰もそんな事を頼んでいないのに。
この二人を見れば分かると思うが、私は『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』の世界に転生した。
この世界がISだと気が付いた瞬間から、私は原作キャラとは一切関わらずモブキャラとして第二の人生を全うしようと思っていたのに……。
「大丈夫? 保健室にでも行く?」
「そ…そんな…事よりも……私…の事は放…っておい……」
「ほら。僕が背中をさすってあげるよ」
「そうだ! 軍から支給されている薬が部屋にあった筈。今から取ってきて……」
「話を聞いて……」
今度は凰鈴音とシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒか。
なんで揃いも揃ってヒロインズが私に構うんだよ~!?
私は一人が大好きなボッチ至上主義者だ。
どこぞの目の腐った男子高校生ではないが、一人でいられる時間をこよなく愛している。
前世でもずっとボッチを貫いてきた……と言うよりは、人見知りが激しくヘタレな自分にとって、誰かと一緒にいる事は苦痛でしかない。
大人になって引き籠りにジョブチェンジしてからは、より一層ボッチ主義が強くなった。
自分で言ってて悲しくなってきた……。
と…とにかく! こうして廊下のど真ん中で自分を中心に賑やかにされると、それだけでストレスで胃が痛くなる。
ほら、周囲の皆も何事だと思ってこっちを見てるし~!
うぐ……! 本格的に腹が痛くなってきたし……!
「や…弥生ちゃん! しっかりして!」
「お姉ちゃん、落ち着いて。下手に騒いだら弥生が困るよ」
「そう思う…のなら……私を一……人にして……」
って言っても、誰も聞いちゃいないんですけどね。
……やべ。マジで限界かもしれない……。
つーか、そこの更識姉妹は割と本気で黙れ。
「お…おトイ……レに…行って…きます……」
「弥生が心配だから、私も一緒について行こう」
「来な…くて…いい…です……!」
くそ……! おじいちゃん以外の人と話すこと自体が辛いってのに、この期に及んで私の数少ない安息の地であるトイレにまで一緒に来られてたまるか!
でも、私のような根性なしに面と向かってそんな事を言う勇気は無いわけで……。
一刻も早くこの場をなんとか切り抜けてトイレに行かないと、私の六法全書並に分厚い黒歴史にまた新たな一ページが刻まれてしまう!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふぅ~……」
ようやく一息つけた。
流石の彼女達も、トイレの個室にまでは入ってこなかった。
お蔭で私の精神ポイントも僅かではあるが回復してきている……ような気がする。多分。
「おじいちゃん……」
今世における唯一の家族であるおじいちゃん。
このIS学園に入ってから一体何回会いたいと思った事か。
私はとっくの昔にホームシックになっているのですよ。
「………出よ」
いつまでもこんな所にはいられない。
今の私にとって真の安息の地である学生寮の自室に帰って、そこでゆっくりと引き籠ろう……。
自分が座っている便座の水を態と流してから、そっと扉を開けて周囲を確認。
「……いない」
よかった~…。
意外だったけど、ここに誰もいないのは本当に有難い。
静かに扉を開けてから個室の外に出て、手を洗う為に洗面場に。
そこについている鏡に自分の姿が映し出される。
「はぁ……」
全く……こんな私の何処がいいのやら。
本気で理解に苦しむよ。
長い黒髪を太腿の辺りまで自然に伸ばしている私の姿は、確かに傍から見れば綺麗に映るかもしれない。
顔だって自分から見てもかなり整っていると思うし。
でも、その顔の左半分を前髪で覆い隠して、その下には訳あって包帯を巻いている。
それに……この体だって……。
「こ…んな
……ここで落ち込んでいても仕方が無いか。
今は部屋に戻る事を最優先にしよう。
と言う訳で、自分で自分に課した『学生寮にある自分の部屋まで帰還せよ!』ミッションを発令させて、気持ちを新たにトイレから出たのだが……。
「や…弥生! 大丈夫か!?」
な…なんでこいつが女子トイレの前にいるんだよぉ~~~!!!!!
私の事を心から心配そうな顔をして寄ってくるのは、ISの原作主人公の織斑一夏。
皆もよく知っている人類史上最高峰の鈍感王だ。
「箒達が弥生の事を話してたの聞いてさ、心配になって後を着けたんだ」
「ちょ……」
お前はいつから私のストーカーになったんだ!! ふざけんな!!
「なんか長い事トイレに入っていたみたいだけど、どこか具合でも悪いのか?」
「えっと……」
お前等が私に付きまとうから、そのせいでストレスが溜まって胃が痛くなるんだろうが!
って声を大にして言いたいけど、こんな往来でそんな事を言う勇気は私にはなんですよぉ~! チクショ~!!
「大丈夫だぞ! 弥生は俺が絶対に守ってみせるからな!」
はいきました~。お得意の『守る』宣言。
こいつのこの発言が大嫌いだから、私はこの男と一切関わらないように心に誓っていたのに……。
「はぁ……」
「溜息? 何か困った事でもあるのか? 俺でよかったらなんでも相談に乗るぞ!」
お前がこの場にいる事に困ってるんだよ。
少しは私の『寄ってくんなオーラ』を感じ取って近づこうとするなよ!
ISに乗ってる時は無駄に勘がいいくせに、一度降りると馬鹿みたいに鈍感になりやがって!
「ちょっと! なに弥生に言い寄ってんのよ! 一夏!」
「げ……鈴。それに皆も……」
最悪のパターンだ……。
今の私にとってヒロインズと織斑一夏は『混ぜたら危険』な組み合わせなのだ。
本来ならばこの男のハーレムな筈なのに……。
「弥生! 一夏に何かされてはいないか!?」
「何かってなんだよ? 俺は別に何もしてないぞ?」
「その言葉を素直に信用できるとお思いで?」
「唯でさえ弥生は体が弱いのに……」
別に私自身は至って健康体だよ!
ただちょっと運動不足で体力が無くて、後ついでに外に出る機会が少ないから肌が人並み以上に白いだけで。
少なくとも、お前等が私に関わってこなければ、私だって飲みたくもない胃薬とフレンズにならなくて済んだんだ!
ちっとは自覚せんかい! このチョロインズが!
「貴様等、トイレの前で何を騒いでいる」
「こ…この声は……」
ギギギ……と壊れた機械人形のように後ろを振り向くと、そこには私の所属する一組の担任であり、このIS学園に置いて私が勝手に指定した『最重要危険人物』の一人でもある『織斑千冬』だった。
「千冬姉……!」
「私の事は『織斑先生』と呼べと、何回言えば分かるんだ。この馬鹿者が」
「ぶべらっ!?」
さ…炸裂した……!
やっぱり目の前で見ると凄い迫力だな……出席簿アタック……。
これがあるからこの人は怖いんだよ……。
「また、お前達は板垣の事で揉めていたのか?」
「それは一夏が!」
「黙れ」
鶴の一声。
彼女の『黙れ』で全員が沈黙した。
私は最初から静かにしてたけど。
「助けようとしている対象を困らせてどうする。少しは落ち着かんか」
「「「「「「「はい……」」」」」」」
完全に委縮している面々。
こいつ等を黙らせてくれたことに関しては素直に感謝しよう。
それでも警戒は解かないけど。
「板垣。何かあれば私の元に来い、喜んで力になってやる」
「ど…どうも……」
誰が好き好んで、お前みたいなブラコンで身内贔屓な暴力系女教師の所に行くか!!
って! 頭を撫でるな!その手で私の脳みそを握りつぶす気か!!
(いつ撫でても、こいつの髪はサラサラしているな……)
ひっ!? なんか今、物凄い悪寒が背中を走ったんですけど!?
全く……私からは何も特別な事をした覚えは一切無いのに、どうしてこいつ等は私に構ってくるんだよ~!
本当にもう……
「なんでこうなるの……?」
一体……何がどうしてこんな事になったのか、私には皆目見当がつかないよ……。
初めての勘違い系。
上手に書けるかが心配です。
あと、主人公のTSは完全に死に設定です。