毎日が忙しくて、一話一話少しずつ頑張っています。
やっぱり、一週目は苦労しますね……。
2週目以降は格段にスピードアップするんですけど……。
因みに、私はどんなスパロボでも最低は4周する派の人間です。
前作のVも、たっぷりと周回プレイをして、最終決戦の大量のネバンリンナ相手にモビルスーツだけの部隊で無双プレイをしてました。
一夏とセシリアの模擬戦が行われた日の放課後。
IS学園の生徒会室にて、二人の女子生徒が話をしていた。
片方は水色の髪の少女、もう片方は眼鏡を掛けた黒髪三つ編みの少女だった。
制服のリボンの色から、水色の髪の少女は2年生、眼鏡の少女は3年生である事が窺える。
「噂の男子君がイギリスの代表候補生と試合……ねぇ~……」
「見に行かれますか?」
「別にいいわよ。こんな事を言っては彼が可哀想だけど、見る前から勝敗は確定しているわ」
「そうでしょうね。男女云々以前に、彼と彼女とでは余りにも経験と実力の差が大きすぎます。将来的にはどうなるか分かりませんが、現時点では……」
「どんなに足掻いても、イギリスの子が勝つでしょうね。代表候補生はそこまで甘くは無いわ。彼女が慢心でもしない限りは……ね」
ハッキリと非情な現実を言い放つ水色の少女。
手元にある紅茶をクイッと飲んでから、目の前にある書類に目を通す。
「いずれは彼にも本格的に接触しないといけないでしょうけど、今はまだ様子見程度で問題無いわね。彼には非常に大きな後ろ盾が存在しているから」
「本人はそれを自覚していないでしょうけどね」
一夏の事が書かれた書類を机に置いて、もう一つの書類を手に取った。
「それよりも、現状として私が気にしなくちゃいけないのは……」
「例の『彼女』……ですね?」
「ええ。まさか、『あの人』の義理の娘が入学してくるとは夢にも思わなかったわ。確かにこのIS学園には色んな人間が集まるけど、その中でもこの子はぶっちぎりのVIPよ……」
体を伸ばしてから、首をコキコキと鳴らす。
「この子には比較的早めに近づいた方がいいかもしれないわ」
「護衛をする為……ですか?」
「それもあるけど……」
手に持っている書類を隅から隅まで見ていく。
書いてある事は至って普通のプロフィールだ。
「『あの人』の義娘にしては、書いてある事が普通過ぎるのよ。明らかに何かを隠しているとしか思えないわ」
「何か……とは?」
「それが分からないから、直接本人と会って確かめるんじゃない」
カップに残った紅茶を全て飲み干して、ソーサーに置く。
そこに、眼鏡の少女によって紅茶のお替りが注がれた。
「あまり無茶な事はしないでくださいね? お嬢様も分かってはいるでしょうが、彼女は本音や簪様とも非常に仲が良くて、完全に友達関係になっています。下手に彼女を刺激して入学初日の事件のような事が起きてしまえば……」
「間違いなく、簪ちゃんから軽蔑の眼差しで見られるわね……」
「その程度で済めば、寧ろ御の字だと思いますよ? 下手をすれば、簪様から敵視される可能性も……」
「やめて……想像もしたくないわ……」
ズ~ン……と落ち込みながら、司令のポーズをする。
「兎に角、彼女との接触には細心の注意を払うようにする。こっちだって、可愛い後輩を下手に怯えさせたりはしたくないし」
「それが賢明ですね」
こうして、また本人の全く知らない所で妙なフラグが立つのであった。
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・
次の日の朝のSHR。
そこでは、私が予想していた通りの光景が広がっていた。
「と言う事で、一組のクラス代表は織斑君に決定です。無事に決まってよかったですね~」
一部を除いた女子達は、まるで祭りのように大はしゃぎをしている。
私は昔から、祭りとかでそこまで騒ぐような性格じゃないから、彼女達の心境が全く理解できない。
一部例外もあるけどね。夏コミとか冬コミとか新作ゲームの発売日とか。
「あ…あの~……俺、確か昨日の試合で負けました……よね?」
「そうですね」
は…ハッキリと言うな~…山田先生。
「その俺がどうしてクラス代表になってるんですか?」
「それはですね~……」
山田先生が説明をする前に、オルコットが立ち上がって勝手に説明を始めた。
「貴方は本当に物覚えが悪いですわね」
「なんだと?」
「もう何回言ったか分かりませんが、もう一度だけ言って差し上げますわ。私は前にこう言いました。『私の目的は貴方を叩きのめす事。クラス代表なんてどうでもいい……』と」
「あ……」
ふぅ~ん……前にそんな事を言ってたんだ。
なんか意外だけど、無駄にクラス代表に拘るよりは好感が持てるかもな。
つーか、一夏は今思い出したんかい。
「分かります? あの試合に勝利した時点で、既に私の目的は達成されているのです。故に、私は自らクラス代表の座を辞退したのですわ」
「そうだったのか……」
ま、これもある意味で自然の流れだからさ。
大人しく諦めてクラス代表になっちゃいなさい。
「別に、貴方にクラス代表を押しつければ、弥生さんと一緒にいられる時間が増える上に、貴方を弥生さんから引き離せるなんて事は、これぽっちも考えてはいませんわ」
「いやいやいや! どう考えたって、そっちの方が本音だろ!?」
「私の事を呼んだ~?」
「「「「誰も呼んでませんよ」」」」
おう……山田先生を含む、原作キャラ四人同時のツッコみとは……。
なんか貴重なシーンを目撃した気がする……。
「なんか……板垣さんを中心に回ってない?」
「私も思った……。なんで?」
そりゃ私の方が知りたいですよ。
それと、別に誰がクラス代表になっても、私は簪と本音以外と一緒にいる気はないから。
これ、重要だからね。テストに出るぞ。
「あ~…お前等。気持ちは分かるが、少し落ち着け」
ここで織斑先生様のお言葉ですか。
と言うか、分かるな。分からないで。分からないでください。
「理由はどうあれ、クラス代表はお前に決定した。これはもう確定した事だ。ここで幾ら吠えても意味は無い。大人しく現実を受け入れろ」
「これが大人の社会か……」
そうだよ。いい勉強になったじゃないか。
学校はある意味で社会の縮図って言われてるからね。
(…………ん?)
な…なんか一夏がこっちを見てるんですけど……。
(いや……逆に考えるんだ。ここでクラス代表として頑張っている姿を弥生に見せれば、彼女も俺を見直すようになって、そして……)
またぞろ碌な事を考えてないと見た。
私がこれを言うのもあれだけど、ここは敢えて言わせて貰おう。
(男って……本当に馬鹿ばっか)
転生して、この事を改めて思い知りました。
これはある種の真理ではなかろうか?
「兎に角、クラス代表は織斑一夏。誰も文句は無いな?」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
「俺の意思はっ!?」
わ~…元気な返事。
私には真似出来な~い。
それと一夏、ここまで来たらアンタの意思とか関係無いから。
こうして、一組のクラス代表は原作通りに織斑一夏に決定しましたとさ。
ちゃんちゃん♪
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・・・
・・
・
4月も下旬に差し掛かり、少しだけ春から夏への季節の変わり目とも言うべき時期。
窓から見える青空はとても綺麗で、どこまでも透き通っていた。
(空はこんなに青いのに……)
なんで私は……
「う……ぐぐぐ………!」
朝っぱらから、こんなにも苦しまなくちゃいけないんだ……!
(お…お腹が痛い……! 猛烈に痛い……!)
眠りから覚めた途端に、この激痛が私を襲って、一気に目が覚めてしまった。
痛みに苛まれながら思い出したけど、この時期は丁度『あれの周期』に入ってるじゃないか……!
くそ……! ここに来て色んな事が一度にありすぎて、頭の中から忘れかけてた……!
一応、激痛と戦いながら、血で汚れた下着やパジャマは水を入れた容器に浸してあるけど、そこで私の限界が来て、そこからは這うようにしてベッドまで戻ってきました……。
言っておくけど、ちゃんと着替えはしたんだからね?
読者の皆が期待しているような恰好じゃないからな。
と言っても……ズボンまでは履ききれずに、布団の中はショーツだけなんだけど。
寝る時は基本的に腕袋と足を隠しているニーソは外して寝ているから、実際には結構恥ずかしい格好してるよな……。
(今日はもう絶対に無理だ……! なんとかして休む旨を先生に伝えないと……!)
でも、痛すぎて携帯なんて持てないし、かと言って誰かが都合よく来てくれるわけもない。
普段は呼ばなくても来るくせに、どうして肝心な時には誰も来ないんだよ!!
私の心が痛みに負けそうになっていると、やっと私の想いが世界に伝わったようだ。
「弥生? 起きてるか? 起きてるなら、一緒に朝ごはんでも食べに行かないか?」
い…一夏ぁ~! 今日だけはお前が来てくれたことが有難いよ~!
もうノックはいいから、とっとと入って来てくれ~!
「返事が無い……? 弥生、悪いけど勝手に入るぞ」
待ちに待った瞬間。
一夏が扉を開けて入って来て、真っ先に私の事を見る。
「弥生……? 弥生っ!? ちょ…マジでどうしたんだ!? 顔が真っ青じゃないか!?」
「一…夏……それ……とっ……」
「ど…どうすればいいんだ……!? ここは千冬姉を呼んで……いや、ここから寮長室までは遠いか……!」
直接呼びに行こうとせずに、普通に携帯使って呼び出せよ!!
それよりも、そこの机の上にある薬を取ってほしい……。
「弥生、いるか~? ……一夏……何故にお前が弥生の部屋にいる?」
「この男はまた……!」
篠ノ之にオルコット……! 天の助けがやって来た~!
男の一夏ならいざ知らず、同じ女子であるこいつ等ならきっと分かってくれる筈……。
「ほ…箒! それにオルコットさんも! 今は俺よりも弥生が!」
「……一体どうした?」
一夏の様子をおかしく思ったのか、二人もこっちまで来てくれた。
これでなんとかなるかも……。
「あ…ぐうぅぅ……!」
「や…弥生っ!? 大丈夫かっ!?」
「弥生さん! しっかりしてください!!」
「あれ……取って……」
「あれ?」
なんとか頑張って声を出して、目線で机を指し示す。
彼女達の前で生身の腕とか足とか出せないからね。
「これは……まさか……」
「そう言う事ですのね……」
薬のパッケージを見て察してくれたか……。
ヤバイ……痛みで朦朧としているせいか、二人に対する好感度が爆上げしてる……。
「一夏。お前は出て行け」
「はぁっ!? なんでだよ!? 俺だって弥生が心配で……」
「いいから出て行きなさい! 今回の事は男である貴方に出番はありませんわ!」
「な…なんだよそれっ!? 意味分からねぇよ!」
頼むから……ここで騒ぐのだけは止めて……。
普通に五月蠅いから……。
「弥生。一緒に朝ごはんに……」
「……なんで皆がいるの?」
ほ…本命キタ――――――――――――――!!!
簪と本音……君達の登場を心から待ってたよぉ~!!
「丁度いい所に来た! 二人とも、こっちに来てくれ!」
「どうしたの……?」
あぁ……ある意味で役者が揃った……。
余計な奴も一人いるけど…。
「や…やよっちっ!?」
「ど…どうしたのっ!?」
「これだ……」
後から来た二人に薬を見せる篠ノ之。
それを見て、納得した顔になった。
「成る程ね……」
「そ~ゆ~ことか~…」
私の痛みの原因が分かった途端、皆は動いてくれた。
「おりむ~? ちょ~っと私と一緒に行こうか~?」
「え? で…でも……弥生が……」
「聞き分けのない子は~……実力行使で追い出しちゃうよ~?」
あれ……? とうとう痛みで幻覚まで見えてきちゃったのかな……?
私の大好きな本音が、手の骨をゴキゴキと鳴らしながら一夏の事を凄い顔で脅している様子が見える……。
「ほら~…行くよ~?」
「いや……だから俺は!」
「私は先生にやよっちが休む事を伝えてくるね~」
「お願いね、本音」
本音は一夏の手を無理矢理引っ張って、部屋から出て行った。
その間に篠ノ之がコップに水を汲んできてくれて、背中を支えながら体を優しく少しだけ起こしながら、水と一緒に薬を飲ませてくれた。
「急がなくていいからな。そっと……そっとだ……」
「ん……ん……」
薬を飲んだ事で痛みが幾分か和らぎ、やっと考える余裕が出来た。
(前にコレが来た時って、ここまで痛かったかな……?)
もうだいぶ前の事だから、よく覚えてないんだけど。
少なくとも、ここまでじゃなかった気がする。
……成長期だからか?
「大丈夫……」
「ん……。少し……楽…になった……」
「よかったですわ……」
私もそう思うよ。
今回ばかりは本当に彼女達に感謝だ。
少しは見解を改めた方がいいかもしれないな……。
「用意はしてあるんですか?」
「そこの棚……にある……」
オルコット……いや、ここは感謝の意も込めて、二人を名前で呼ぶことにしよう。
セシリアが私の言った棚を開けて、中を確認する。
別に見られて恥ずかしい物は入ってないから大丈夫。
「有りましたわ。これなら安心ですわね」
箒がそっと私をベッドに寝かせてくれて、ついでにちょっぴりだけ頭も撫でられた。
「今日みたいな日は、お腹をよく温めてから体を楽にした方がいいんだよ」
「ん………」
そう言いながら、簪が布団を掛け直してくれた。
箒とセシリアに対する好感度は上がったけど、簪と本音に対する好感度は完全にカンストしちゃったよ……。
マジで二人と結婚したい。って言うか、もう簪と本音は私の嫁。これ決定。
「私達はもう行かなくてはいけないが、今日は大人しく休んでいるんだぞ?」
「放課後にまた様子を見に来ますわ」
「無理をしちゃ駄目だよ?」
この状態で何かをする程、私は根性無いからモーマンタイ。
それよりも、この場にいる三人に礼を言わなくては……。
「箒…さん……セシ…リア…さん……簪……」
「「えっ?」」
「弥生?」
「……ありがとう」
言えた~……。
なんか薬を飲んだせいで眠たくなってきた……。
瞼が重いや……。
「や…弥生が……」
「弥生さんが……」
「「名前で呼んでくれた……♡」」
「注目するのってそこ?」
三人の声が遠くなっていく……。
私の意識が段々と眠気に支配され、気がついた時には完全に眠りに落ちていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
放課後。
朝の痛みで精神的にかなり疲労したのか、弥生は昼食も食べずにぐっすりと眠っていた。
「す~……す~……」
彼女の寝顔はとても安らかで、今朝までの苦しみが嘘のようだった。
そんな安らぎの空間に、一人の侵入者がやって来た。
「うふふ……♡ 弥生ちゃんが戻ってくる前に、部屋の中で待ち伏せしましょうか……。授業が終わって即座にここまで来たから、大丈夫な筈よね?」
ノックもせずに無音で扉を開けて入って来たのは、生徒会室にいた水色の髪の少女こと、IS学園の生徒会長である『更識楯無』であった。
「あ…あれ? なんか人の気配が……って……」
抜き足差し足忍び足で奥まで進むと、彼女の目に穏やかな寝顔を見せている弥生が映った。
「……今日はお休みしてたのね。仕方が無い……弥生ちゃんと話すのは次の機会に……」
流石の彼女も、病人の睡眠を邪魔するほど馬鹿じゃない。
入室した時と同じように退出しようとしたが、ふと、弥生の額に汗が出ているのが見えた。
「このままじゃ風邪を引いちゃうわね……」
足音を立てないようにしてキッチンまで向かい、そこで備え付けのタオルを濡らしてから絞って、弥生の所まで戻って来てから、そっと額に浮かんだ汗を拭いてあげた。
「あら……首にも汗が……」
少しだけパジャマの首元を緩めてから、同じように汗を拭こうとするが、そこで楯無の手が止まってしまった。
「な…なに……これ……」
パジャマの首元を緩めた時に見えてしまったのだ。
普段から弥生がひた隠しにしている無数の傷跡、その一部を。
「き…傷跡……? それも……こんなに……」
見えるだけでも10か所近く傷跡が見えた。
そこから更に、首に大きな傷がついているのが見えた。
「この大きな傷跡は……!」
弥生の首には、横一文字に深く傷つけられた跡があった。
普段は服で首元を隠しているから見えない場所。
見ているだけで悲しい気持ちになってくる。
「んん~……」
楯無の手がくすぐったかったのか、弥生が寝返りをうつ。
それによって、弥生の生身の手が外に晒された。
「…………!?」
その手にも首元と同様に無数の傷跡があったが、それ以上に楯無に衝撃を与えた光景があった。
「爪が……無い……?」
弥生の両手の爪は全て無くなっていて、そこには爪の代わりに無残な傷跡があるだけ。
しかも、その爪は自然に剥がれたようには見えず、明らかに何者かによって強制的に剥がされたと思われる感じだった。
「どこのどいつが、こんな残酷な事を……!」
誰とも知らない人物に激しい怒りを覚える楯無。
だが、そんな怒りを一瞬で霧散させる存在が部屋にやって来た。
「お…お姉ちゃん……?」
「簪……ちゃん……?」
更識姉妹、弥生の部屋にてまさかの邂逅。
非常に気まずい空気が室内に流れるが、夢の世界にいる弥生には関係無かった。
「むにゃ…むにゃ……まだ…まだ……それぐらいなら……食べられる……よ……?」
楯無、まさかの大ピンチ。
弥生はまだまだ夢の中。
簪は軽く混乱中。
この状況……これから一体どうなるのだろうか?
本来ならある授業は無く、その代わりに弥生の『あの日』が到来。
そんでもって、楯無さんは登場早々にピンチに。