なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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本当の意味で文化祭編の本番です。

弥生がいる一組はどうしているでしょうか?






忙しすぎだろ!!

 別に全く待ってすらいなかった文化祭が遂に始まってしまった。

 各クラスが気合の入った事をしていて、学園全体の温度が上がってるんじゃないかと錯覚してしまう程に皆は熱狂している。

 なんて他人事のようにでも言わないとやってられないんだよね、実際。

 

「篠ノ之さん! 三番テーブルをお願い!」

「任せておけ!」

「オルコットさんは五番テーブルのお会計をお願い出来るっ!?」

「分かりましたわ!」

「ボーデヴィッヒさん! 廊下で並んでいる人達に少しだけ席が空いた事を知らせてきて!」

「了解だ!」

 

 ほんと……嵐のような忙しさだよね。我等が一組の『耳かき喫茶』は。

 店名に惹かれてやって来るお客さんが続出してる上に、ここには学園で唯一の男子である一夏もいる。

 この二つの相乗効果で客の入りがとんでもない事になっていた。

 なんせ、廊下に行列が出来ちゃって、クラスの子が【30分待ち】って書かれたプレートを持って立ってるぐらいだし。

 

「織斑君! 今さっき入って来たお客さんの所に行ってくれるっ!?」

「また俺かよっ!? 頼むから少しぐらい休ませてくれよ……体が持たないぜ……」

 

 一夏。地味にそれは死亡フラグだよ。

 ガブっといかれちゃうよ。ガブっとね。

 

「とっても忙しいんですね~」

「で……すね……」

 

 そんな中、私は何をしているのかと言うと……。

 

「あ……そこ……気持ちいい……♡」

「ん……ここ……も……」

 

 お会計の際に引くくじ引きで当たって耳かき券を獲得した、見ず知らずのお客さんの耳かきをしております。しかも膝枕で。

 不思議な事に、今までずっと女性客しか当たりを引いてないんだよね。

 メイド服を着た皆を目当てにした男性客もかなり多く来店してるのに。

 

「終わり……です……」

「あ……ありがとうございました……♡」

 

 このお客さん、少しだけ名残惜しそうにしてなかった?

 私が見落としてただけで、まだ取り残しでもあったのかな?

 

「とっても気持ちよかったです。なんだか子供の頃にお母さんにしてもらった耳かきを思い出しちゃった」

 

 どうして皆して私の事を『母親』というフレーズと一緒にしようとするの?

 そんなに私って老けてる?

 

「いってらっしゃい……ませ……お嬢様……」

「いってきます。可愛いメイドのお母さん♡」

 

 可愛いメイドのお母さんって……なんじゃそりゃ。

 それに対して私はどんな反応をすればいいの?

 

「はい。このくじを引いて当たりを引けば……あそこにいる母性の塊とも言える美少女メイド『弥生ちゃん』の最高の耳かきを体験出来ます!」

「うぉぉぉぉぉぉっ!! マジっすか!? あんなにも可愛い美少女の耳かきとか無敵だろっ!?」

「そうでしょう! そうでしょう! さぁ、レッツチャレンジ!」

「よっしゃぁぁぁっ!!」

 

 今、クジを引いてるのは男性客だね。

 でも、欲望丸出しの時ほど、当たりは出ないものなんだよ。

 

「はいハズレ~! 残念でした!」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ありがとうございました~!」

「ちきしょう……美少女メイドの耳かき……」

 

 ほらね。この法則はソシャゲのガチャで既に証明されているのだよ。

 ハズレを引いた男性客は、意気消沈した感じで猫背になりながら店と化した教室を後にした。

 

「板垣さん。さっきからずっと座りっぱなしで耳かきして疲れたでしょ? 少し下がって休んでていいよ。また当たりが出た時や指名が出た時はこっちから呼ぶから」

「ん……ありがと……」

 

 私の事を心配してくれた鷹月さん(最近になって話すようになった)のお言葉に甘えるように、私は簡易的に造られたスタッフルームに入っていった。

 そこではお客さんに出すお菓子やジュースの準備をしている皆があくせくと頑張っていた。

 

「あ、弥生。休憩に入ったの?」

「ん……」

「そっか。一夏もそうだけど、弥生の人気も凄いもんね。特に耳かきを体験した人達は」

 

 ここではシャルロットが準備の指揮を執りながら、同時に店の方にも出るというハードスケジュールで頑張っている。

 本当はここに一夏も加わる予定だったんだけど、アイツの人気がこっちの想定を遥かに超えていた為、結果として一夏は接客の方にかかりっきりになってしまった。

 

「はいオレンジジュース。これでも飲んでゆっくりしてて」

「ありが…とう……岸原…さん……」

 

 これまた最近になって話すようになった岸原さんにジュースを貰ってから、傍にあった椅子に深く座った。

 

(ふぅ~……なんか本気で疲れたよ~。主に精神的な意味で)

 

 たかが耳かき程度で、どうしてそこまで盛り上がれるのかな~?

 私には全く理解出来ない領域であります。

 

「板垣さん。休んでいる所悪いんだけど、少しこっちに来てプリンを見てくれる?」

「い…いよ……」

 

 私達の開いている喫茶店では、前に私達が試作したプリンやフレンチトースト、オムレツを主力としながら、他にはスタンダードなチョコレートパフェやホットケーキやパウンドケーキを出している。

 ドリンクの方は各種ジュースに加えて、コーヒーやココア、セシリア特製の紅茶なんかも出している。

 特にセシリアの紅茶はかなりの人気で、口コミで噂が広がっているのか、殆どの客が注文してセシリアが忙しそうに紅茶を淹れていた。

 

「どうかな? ちゃんとレシピ通りに作ったんだけど……」

 

 見る限りでは全く問題無いように見える。

 形もちゃんと整ってるし、気泡なんかも見当たらない。

 

「大丈夫……だと思う……よ……」

「ホントっ!?」

「うん……」

「よし! 板垣さんのお墨付きなら問題無し! 次はこれを出すわよ!」

「「「は~い!」」」

 

 料理関係での私の信頼度が、なんか天元突破してますな~。

 頼られる事自体は普通に嬉しいんだけどさ。

 

「板垣さん! ご指名入ったわよ!」

「了……解……」

 

 耳かき以外で私が呼ばれるとは珍しい。

 何気に指名制になってる所がリアルだよね。

 

 呼ばれたのならば行くしかない。

 最初は心と体が拒絶しまくりMAXエディションだったけど、ここまで忙しければ嫌でも慣れと諦めの境地に至ってしまう。

 ははは……私も別の意味で強くなったな~……。

 

「板垣さんは二番テーブルをお願い。なんか猛烈に板垣さん押しだったんだけど……もしかして知り合い?」

「よく……分から…ない……」

「それもそっか。んじゃ、お願いね」

「ん……」

 

 二番テーブル、二番テーブル……っと。

 ここもまた女の子の集団4人組か。

 でも、女の子なのに一夏じゃなくて私を指名ってなんでだろう?

 

「お…お帰りなさいませ……お嬢様……」

「「「「キャ~~~!! 弥生お姉さま~~~~!!!」」」」

 

 むむ……! 私の事を『お姉さま』って呼ぶって事は、この子達は私や桜井さんの後輩……つまりは聖マリアンヌ学園の生徒達と見た!

 あの学園って一昔前の少女向け漫画に出てくる学校みたいに、上級生の女の子の事を『お姉さま』って呼ぶ謎習慣が根付いてるんだよね。恥ずかしいったらありゃしない。

 

「弥生お姉さまを追ってIS学園に入学した他のお姉さま達にお願いして招待状を貰って大正解ね!」

「弥生お姉さまのメイド服姿……感無量だわ……♡」

「麗しの弥生お姉さまのお姿を見る為だけに、ここまで来た甲斐があったわ……!」

「無念にも来れなかった皆に、最高の土産話が出来たわね……」

 

 相も変わらず大袈裟な事で。

 この子達の名前は全く知らないけど、顔だけならどことなく見覚えがあるような気がする。よくクッキーとかプレゼントしてくれたっけ。

 

「ご注文……は何にします……か……?」

「そうだった! 私達だけで盛り上がって弥生お姉さまにご迷惑を掛けられないわ!」

「注文……注文……!」

「ちょ…ちょっと待って皆! ここを見て!!」

「何よいきなり……って! これはぁっ!?」

 

 なに? 何を見つけたの? 凄く嫌な予感がするけど。

 

「ど…どうする?」

「いや。もうこれしか選択肢はないじゃない」

「だよね……」

「緊張するけど……このチャンスを逃したら、絶対に一生後悔する!」

「「「「うん!」」」」

 

 なんか一致団結してるみたいだけど、早く注文してくれないかな?

 割とマジで混雑してるから。

 

「こ……この…『メイドにご褒美セット』をください……!」

 

 え? なにそれ? そんなのがあるの? 嘘でしょ?

 

「あれ? 板垣さんには教えてなかったっけ?」

「何を……?」

「その子達が注文した『メイドにご褒美セット』ってのはね、お客さんがメイドさんにご褒美をあげられるサービスの事なのよ」

 

 なんじゃそりゃっ!? 本気で意味が分からんぞ!?

 そんな事をして、一体何処の誰が得をするって言うんだっ!?

 

「そんな訳だから、少々お待ちくださ~い♡」

 

 あっ!? ちょっとっ!? どこに行くのさクラスメイトさんよ~!

 

「板垣さんは、その子達と一緒に座って待っててね~」

 

 マジですか……。

 でも、いきなり私が座っても、この子達だって迷惑なんじゃ……。

 

「「「「……………(『是非とも座ってください』と言っている目)」」」」

 

 なんか……すっごい断りずらい雰囲気なんですけど。

 はぁ~……仕方がない……。

 

「し…失礼し…ます……」

「「「「キャ~~~~~♡♡」」」」

 

 一々騒がないでよ………他のお客様にご迷惑でしょうが。

 

「まさか……弥生お姉さまと同じテーブルに座れる日が来るなんて……」

「間違いなく、今日で一生分の幸運を使い果たしたわね……」

「でも、全く悔いはない!」

「同じく!」

 

 大袈裟なんだよ、君達は。

 私なんかと一緒に座っても、何も面白くなんて無いでしょうよ。

 

「はい。お待たせしました。これが『メイドにご褒美セット』でございます。では、ごゆっくり~♡」

 

 さっきの子が戻ってきてテーブルに置いたのは、氷の入ったワイングラスに刺さっているポッキー。これで何をしろと?

 試しに隣の席を覗いてみると、そこでは他のクラスメイトの子がお客さんにポッキーを食べさせて貰っていた。

 

(まさか……あれが『メイドにご褒美セット』じゃあるまいな……?)

 

 だとしたら、一体どんな羞恥プレイだよっ!?

 これを考案した奴は本気で頭が狂ってるんじゃないのっ!?

 

「だ…誰から行く?」

「ここは平等にじゃんけんで決めましょ!」

「「望むところだ!」」

 

 一番の被害者である私を放置して盛り上がってますな~。

 そうこうしている間も、次々とお客さんが出たり入ったりを繰り返している。

 幸いなのは、私が仕事(?)をしている間に当たりくじが出ていない事か。

 出たら出たで、間違いなく今以上のカオスになる事は確実だしな。

 

「決定しました! まずは私から行きます!」

 

 そうかそうか。だったら早く済ませておくれ。本気で恥ずかしいから。

 

「で…では……参ります……!」

「ど…うぞ……」

 

 私の隣にいる女の子がポッキーを一本手に取って、私がそっと口を開ける。

 これは仕事……ちゃんとした仕事……! 仕方がなくやっている事……!

 

「あむ……」

「ど…どうですか……?」

「美味しい……よ……」

「はぅん……」

 

 ぱたりんこ。

 なんか知らんけど、一人撃墜してしまった。

 慣れない営業スマイルなんてしたのが拙かったんだろうか?

 普段からあまり感情を表に出さない女の笑顔なんて不気味で怖かったんだろう。

 

「なんて幸せそうな寝顔……!」

「アコってば、鼻血まで出してる……」

「自分に向けられる弥生お姉さまの笑顔の破壊力は、私達の想像を遥かに超越しているって事ね……!」

 

 私は一体何処の大量破壊兵器か。

 流石の私でも地味に傷つくぞ。

 

「つ…次は私、お願いします!」

 

 まだやるのかよ……。

 こうして、私は四人の後輩全員にポッキーを食べさせられるという意味不明な羞恥プレイをさせられたのでした。

 せめてもの幸運は、彼女達が会計の際に引くくじで当たりを出さなかった事か。

 これで耳かきでもしようものなら、どうなるか分かったもんじゃない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お疲れ様~、やよっち~」

「本音……」

 

 ご褒美と言う名の羞恥プレイから解放された私を真っ先に労ってくれたのは本音だった。

 今の状況でこの子の存在に心癒されるよ~♡

 勿論、ラウラにも癒されるけどね!

 

「さっきの子達って弥生の知り合いだったのか? 矢鱈と名前を呼ばれてたけど」

「中学…の時……の後輩……」

「「あぁ~…」」

 

 一夏の方も自分の客を捌いたのか、私と本音の会話に混ざって来た。

 つーか、二人して何に納得してるの?

 

「まだまだ客足は引きそうにないな……」

「やよっち、疲れてない?」

「まだ……大丈夫……」

 

 皆と一緒にいたせいか、私もしれっと心身共に鍛えられているのかもしれない。

 昔なら、とっくに疲労困憊になっててもおかしくないし。

 

「昼まで頑張れば少しはゆっくり出来ると思うから、それまでは気張っていこうぜ」

「「お~」」

 

 お昼までの辛抱か……。

 でも、まだまだ時間はたっぷりとあるんだよね……。

 私の体力と精神力はお昼まで持つんだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは、招待状で呼ばれたメンバーや他のクラスのヒロインズを出していこうと思います。

弥生の胃と心と体力は最後までもつのでしょうか?
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