その方がスムーズに話が進むと思うので。
今回は、学園にやって来た彼等、彼女等が一組に行くまでの間の話になります。
勿論、またもや主役である弥生の出番はありません。
次回までお待ちください。
人混みに塗れた学園祭へと招待されてやって来た面々。
今回の最大の目当てでもある一組の喫茶店に真っ直ぐ行くことも可能ではあるのだが、その前に彼等は各々に学園祭を楽しんでいた。
今回は、その様子を見ていこう。
まずは彼等から。
「いや~。最近の学園祭は本当に賑やかなんじゃな~。ワシらの頃からは想像も出来んわい」
「そうですね。でも、これはこれで活気があっていいと思いませんか?」
「そうじゃな。至る所から子供達の情熱が伝わってくるようじゃ」
大人な話をしながら歩いているの二人組は、弥生の養父にして日本の総理大臣でもある板垣平松と、彼の一番の親友でありIS学園の影の最大権力者でもある真の理事長の轡木十蔵。
彼等の正体を知っている者が見れば、驚愕のあまり気を失いかねない程の光景でもある。
「ところで、ちゃんと一組の場所は分かっていますか? よければ私がご案内しますが」
「ふむ……そう言えば、ここに来るのは初めてじゃから、まだ正確に各教室の位置までは把握しておらなんだ。ここは十ちゃんに案内を頼もうかの」
「分かりました。私も一度、平ちゃんの御息女に挨拶をしておきたいと思っていましたので」
「十ちゃんがか?」
「はい。以前、彼女はその身を賭して生徒達の命を救ってくれました。機密故に多くの者に知らされてはいませんが、それでも彼女が成した事は参れも無い善行。この学園を預かる者として、せめて私からお礼の言葉ぐらいは送りたいのです」
「今更じゃな」
「ははは……痛い所を突きますな。本当はもっと早くに言うべきでしたのでしょうが、色々と忙しくて……」
「無理もあるまい。十ちゃんの忙しさはワシと同じぐらいじゃしな」
二人が話ながら歩いていると、廊下の向こうからどこかで見た事があるような人物がやって来た。
ビシッと決まったリクルートスーツを着た白人の成人男性。
シャルロットの父親でありデュノア社の社長でもあるアルベール・デュノアだ。
「おぉ……ここに来れば会えると思っていましたが、よもや本当にお会いできようとは……」
「お主は確か……」
「おっと。これは失礼しました。私はアルベール・デュノアと申します」
「そうか……お主が……」
弥生の友達の中にデュノアの名を持つ少女がいる時点で予想はしていたが、まさか本人が直接、日本にまで態々出向いてくるとは思わなかった。
流石に内心では驚きを隠せないでいるが、そこは総理大臣。
表面上はいつもと同じ感じを完全に装っている。
「板垣平松。いつもならば高々と名乗りを上げる所なのじゃが、今日は総理としてではなく、一人の父として訪れておるからの」
「それはこちらも同じです。ところでそちらは……」
「私は轡木十蔵と申します。どうかよろしくお願いしますね」
「なんと……! 貴方が噂に名高いあの……!」
どうやら、十蔵の噂は遠く海を越えて伝わっているようだ。
それだけ、彼が凄まじい人間であるという証拠なのだろう。
「ここで話すのもなんですし、込み入った話は一組の喫茶店に行ってからしませんか? アルベールさんも行くつもりなのでしょう?」
「勿論です。自分の娘に会いたいのは当然ですが、ミス弥生にもお礼を言いたかったので」
「では、決まりじゃな」
「はい。一緒に参りましょう」
こうして、学園内でとんでもない即席パーティーが結成されたのであった。
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ラウラと弥生目当てでやって来たクラリッサは、訓練の時ですら見せない完全な本気モードの眼で周囲を観察していた。
「一年一組……一年一組……どこだ……どこなのだ……!」
クラリッサ自身が見目麗しい女性だからいいが、これがもしも男だった場合、間違いなく不審者確定で連行されるだろう。クラリッサは自分の親に感謝すべきだ。
「ねぇ、あの眼帯を付けた女の人……」
「うん。なんか雰囲気が一年一組のラウラちゃんにそっくりだね」
「関係者とか?」
早速、噂になっているが、それもある意味で当然だ。
なにせ、今の彼女の服装は私服ではなく完全な軍服。
何を思ってこれを着てきたのかは本気で分からないが、間違いなく悪目立ちしているのは確実だ。
「むむっ!? これはっ!?」
いきなりクラリッサの額がキュピーン! と光ってから彼方の方を見た。
「こっちから隊長の匂いがする!! 間違いない!!」
一体お前はどんな嗅覚をしてるんだ。
狙いを定めたクラリッサは、目標に向かって向かい出す。
勿論、学園内の廊下は走ってはいけないので早歩きで。
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偶の息抜きとして学園祭に来ていたチェルシーは、久々のプライベートを楽しんでいた。
彼女は名家であるオルコット家のメイド長という立場である為、他のメイド達と比べて仕事量が遥かに多い。
故に、こうした纏まった休みなど殆ど無いに等しい。
貴重な時間を噛み締めるように、チェルシーは華やかに装飾がされた廊下を歩いていた。
「日本に来たのはこれが初めてだけど……本当に凄い所なのね」
経済大国の名は伊達ではない。
特にISを開発した国というネームバリューは、今の世では非常に強大な意味を持つため、日本という国を大昔の黄金の国ジパングのように感じている外国人も少なくない。
「それに……はむ」
先程買ったクレープを一口食べて、その口の端にクリームをくっつて、それを舌でペロリと舐め取る。
「学生が作った物だからといっても侮れないわね。このクレープも中々の出来栄えだわ。それなりに売れていたし。折角日本にいるんだし、ここは飛行機内のネットで見た『オコノミヤキ』や『タコヤキ』とやらを食してみようかしら」
休みの日でも、やっぱりメイドとしての癖は治らない。
日本の食文化を少しでも学んでからイギリスに持ち帰る満々のチェルシーなのであった。
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「ま……迷った……」
意気揚々と学園内に入った乱音ではあったが、入って早々に迷ってしまった。
だからと言ってタダでは起きないのが彼女で、その手には既に戦利品であるかき氷が握られている。
現在、乱音は中庭にあるベンチに座ってから小休止の真っ最中だ。
「ったく……無駄に広過ぎなんだっつーの……モグモグ……」
文句を言いつつも、ちゃっかりとかき氷だけは食べ進める。
口では色々と言ってはいるものの、彼女なりに学園祭を楽しんではいるようだ。
「鈴お姉ちゃんの所に行ければ一番なんだけど、二組の教室がどこか分からないしな~」
一応、校舎内で配られる学園祭のパンフレットに簡易的な学園の地図が書かれてはいるのだが、彼女はそれを受け取らずに真っ直ぐに来てしまった。
妙なところで似た者同士の従妹同士だった。
だが、そんな彼女の元に意外な救世主がやって来る。
「アンタ……こんな所で何やってんのよ?」
「り…鈴お姉ちゃんっ!?」
呆れ顔でやって来たのは、真っ赤なチャイナドレスを着た鈴だった。
普段はツインテールに纏めている長い髪も、今日はシニョンで纏めてスッキリとしている。
かなり際どいスリットが入っているが、本人は全く気にしてない様子だ。
「な…なんでここに?」
「それはこっちのセリフ。休憩がてらに学園祭を少し見て回ろうとしてたら、廊下の窓からアンタがブーたれながら中庭のベンチでかき氷を食べてる姿が見えたのよ」
「う……!」
一部始終見られていた。
そう思うと途端に恥ずかしくなる。
「大方、あたしのいる二組に来ようとしてたんでしょ?」
「まぁ……一応……」
「じゃあ丁度いいじゃない。戻るついでに連れて行ってあげるわよ。その代り、ちゃんとこっちの売り上げに貢献しなさいよ?」
「それはいいけど……一体何をやってるの?」
「中華喫茶。でも、一組の人気のお蔭で閑古鳥が鳴いてるのよね~」
「それって……例の男子のせい?」
「原因の半分は間違いなくそうでしょうね」
「もう半分は?」
「弥生の耳かきね」
「は?」
一瞬、乱音は本気で呆けてしまった。
密かに尊敬している従姉の口から、いつもなら決して出ないような単語が飛び出してきたから。
「次の休憩の時には絶対にあたしも一組に行って、弥生の耳かきを堪能してやるわ……!」
意味不明な事で燃え上がっている鈴を見て、どうしたらいいか分からずに乱音は目が点になる。
(鈴お姉ちゃんがそこまで御執心になる弥生さんって、どんな人なんだろ……)
ここに来て、単純な好奇心から乱音も弥生に会いたいと思ってしまった。
新たなフラグが建築された瞬間だった。
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「おい、そこの見るからに怪しい不審者」
「ギクッ!」
お粗末な変装をして学内をうろついている束だったが、遂に誰かに呼び止められてしまった。
そこらの連中ならば余裕で振りきれるが、今回ばかりはそうもいかない。
何故なら、彼女を呼び止めたのが束の唯一無二の親友である千冬だったから。
「お前……まさかそれで本気で変装をしているつもりか……束……」
「ワ……ワターシ、アヤシクナ~イ。タバネッテダレ? ワタシワカラナイヨ~」
「見ていて悲しくなるから、その口調だけは本気で止めろ。もしも箒が見たら本気で泣くぞ……」
「それだけは嫌だ」
急に素に戻る。
それなら最初から普通に話していればいいものを。
「はぁ……どうせ、お前も一組のメイド喫茶…というか、弥生の耳かきが目当てなのだろう?」
「……バレてた?」
「当たり前だ。なんせ、私も目的は同じだからな」
「ちーちゃん……」
自分の親友が同じ穴のムジナだった件。
でも、だからと言って馬鹿にしたりはしない。
それが束クオリティ。
「行くぞ」
「はい?」
「どうせ目的地は一緒だ。ならば、お前が変な事をしないように見張るのも兼ねて一緒に行くのが一番だろう」
「ち~ちゃ~ん♡」
「バ……くっつくな! 歩きにくいだろうが!」
なんだかんだ言って、やっぱり仲がいい二人なのでした。
「だが、一組に着けば私達は敵同士だ。弥生の耳かきは絶対に渡さん」
「それはこっちのセリフだよ……ちーちゃん……!」
前言撤回。やっぱおかしな関係の二人でした。
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幕南からやって来た美少女軍団はというと、各クラスを回りながら学園祭を存分に満喫していた。
「流石は天下のIS学園だな。学園祭一つとっても規模と気合の入り方が桁違いだわ」
「金だけはめっちゃ掛けてるからな~」
「周り中がハイテクの塊だしな」
本人達は至って普通にしているが、元々の容姿がアイドル顔負けのレベルに至っているので、嫌でも周囲からの注目を集めてしまう。
当人たちはいつもの事なので全く気にも留めていないが。
「さっき寄った美術部の爆弾解体ゲーム。桜井さんってば微塵も容赦なかったな~」
「向こうの子……マジで泣いてたしな」
「開始十秒でクリアはあんまりでしょ」
「そんな事言われても……まさか、あそこまで簡単だとは思わなかったんだもん」
六人の影に隠れがちだが、桜井も立派に人外級の実力は持っている。
弥生と同じように、本人は全く自覚していないが。
「腹減った~」
「植村……お前ついさっきたこ焼きと焼きモロコシとお好み焼きと焼きそばを食ったばかりだろうが……」
「あれだけじゃ全然物足りない! もっと食べなきゃ!」
「ほんと……弥生と同レベルの大食いだぜ……あれ?」
「どうした?」
「塩田はどこに行った?」
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廊下の端。全く人気が無い仄暗い空間に二人はいた。
塩田は背を向けた状態で立っていて、その背後では楯無が静かに跪いている。
暗部の長にしてIS学園の生徒会長である楯無が頭を下げるという事は、それだけで二人の関係が窺い知れる。
「お久し振りでございます……可憐様。勇気様と忍様、先代様はご健勝でございますでしょうか」
「その名はとっくに捨てた。今のオレは『鉄人』だよ。それと、姉さんと忍と父さんは相変わらず元気だよ」
「それは何よりでございます」
ここで会話が途切れ、場は沈黙が流れる。
「こうして顔を合わせるのは久し振りだな。いつ以来になるかな?」
「私が『楯無』を襲名し、貴女様が『鉄人』の名を襲名した日以来かと」
「そっか……電話越しに話す事は何回かあっても、直接会うのは数年振りになるんだな……」
柄にもなく懐かしい気持ちになる。
顔を見せていないのをいい事に、思わず微笑んでしまう。
「夏休みの時、お前の妹と会ったよ」
「簪ちゃんと……?」
「あぁ。弥生と仲良さそうにしてた。明るくなってよかったじゃねぇか。弥生に感謝だな」
「はい……本当に……弥生ちゃんには幾ら感謝してもしきれません……」
妹の心を開いて癒してくれたばかりか、命懸けで生徒達の事を守ってくれた。
それ以外にも陰ながら学園に貢献してくれた弥生の事を、楯無は冗談抜きで好きになっていた。
これまでの冗談染みたセリフは、実は本心から出ている言葉だったのだ。
「他の五人もお前さんに会いたがっていたよ。だから、そろそろ堅苦しいのは終わりだ。こっからは『神』と『臣下』じゃなくて、『先輩』と『後輩』に戻ろうや」
「鉄人様がそう仰られるのであれば……」
スッ…と立ち上がり、楯無はいつもの笑顔を見せた。
「まずは皆と合流して、それから弥生がいるっていう一組に行くつもりだけど、そっちはどうするつもりッスか? 楯無先輩♡」
「私も一組に行こうと思ってたし、私が皆を案内してあげるわ。鉄人ちゃん♡」
二人を覆っていた独特の空気は完全に消え去り、場に残ったのは二人の女子高生。
『普段の顔』に戻った二人は、揃って賑やかな廊下へと消えていった。
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「「「「……………」」」」
IS学園の中庭に設けられた屋台スペース。
そこの一角に、嘗て篠ノ之神社にて好評を得たオータムとスコールのラーメン屋台があった。
だが、その屋台には現在、なんとも言えない空気が流れている。
その原因は、屋台の目の前にいる二人だ。
「……なんでここにいるんだよ……アトロポス……」
「それはこっちのセリフなんですけど……どうして学園祭でラーメンの屋台をしてるんです?」
「金策の為に決まってるでしょうが……いけシャアシャアと……」
「まさか……また何か企んでるんじゃ……」
「いいえ。今回の私達は完全な休暇。プライベートです。偶には私達だってリフレッシュしたいんです……って、ラケシス姉さまがもう椅子に座ってスタンバイしてるっ!?」
オータムとスコールとアトロポスがシリアスな空気を醸し出している中、それを完全に無視してラケシスが鼻息荒く椅子に座って割り箸を持って待機していた。
「……………………」
「え? 御託はいいから、とっととお前達のラーメンを食べさせて貰おうか?」
「食べる気満々かよ……」
「なんか色々と台無しね。いいわ、ここからは追う側と追われる側じゃなくて、店側と客側になりましょうか」
「そうですね。この状態になったラケシス姉さまはもう止められませんし……無理に止めようとしても碌な事になりませんから」
「お前も苦労してんだな……チャーシュー一枚おまけしてやるよ」
「ありがとうございます……」
なんだか世知辛くなりそうな会話をしていると、そこに意外な来客がやって来た。
「では、私も一杯いただけますか?」
「へいよ……って、お前は祭りの時に来てた謎の美少女っ!?」
「小泉です。まさか、こんな場所でまたあの絶品ラーメンを再び堪能出来る機会が訪れるとは思いませんでした」
(((全く気配を感じなかった……)))
(早くラーメン食べたい)
歴戦の者達相手に全く気配を悟らせずに現れた小泉。
もしかしたら、この物語で最強なのは実は彼女なのかもしれない。
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・・
・
最後に、ゲストの中で一番の一般人である五反田兄妹はというと……。
「あれ? ここ本気で何処だっ!?」
学園の真ん中で完全な迷子になっていた。
「なにやってんのよ、お兄! 完全に迷子になってるじゃない!」
「んなこと言ってもよ……」
「こうしている間に弥生さんのメイド服姿を見逃したら、お兄のせいだからね!」
「俺だって美少女達のメイド服を見たいっつーの! よし、こんな時は壁に手をついて歩いていけばどこかに着く筈だ! なんか前になんかの本でそんな事を読んだ気がする! あれ? なんで同じ場所をグルグルと回るんだっ!? ええい! IS学園は人外の魔境なのかっ!?」
「お兄……それタダの柱だから……」
果たして、この二人はちゃんと無事に一組教室に辿り着く事が出来るのだろうか?
少なくとも、今の状態では無理そうである。
次回こそはメイドな原作キャラ達とゲスト達との出会いを書きたいと思います。
今回は所謂『繋ぎ』になるんですけど、だからこそ書いておかないと私の心がスッキリしないんですよね。
多分、この心境は分かる人には分かると思います。