それに伴い、序盤の待機形態に関するセリフの一部を変えました。
これからオリジナル設定やオリジナルキャラも登場予定です。
果たして、弥生は一体どうなってしまうのでしょうか?
クラス対抗戦、一年の部の第一試合。
鈴と一夏の試合は、鈴の圧倒的な強さによって一夏が追い込まれ、絶体絶命のピンチに陥っていた……のだが……。
「なん……ですの……? あれは……」
突如として、二人の試合に割り込むような形で謎の物体がアリーナの上部を覆い尽くしているシールドをぶち破って落下してきた。
(いきなりの事で皆が呆然としている……。無理も無いか……。いきなり、こんな事が起きれば、誰だって普通は混乱する……)
原作知識を持っている私だって、こうなると分かってはいても、やっぱり大なり小なり驚きは隠せない。
「い…いきなりなんなんだ……?」
しかし、謎の物体は落下してから沈黙していて、アリーナ全体が完全に静まりかえっている。
耳が痛くなる程の静寂……。これが却って不気味さを演出しているように感じる。
「…………っ!?」
土煙の中で……何かが光った……?
まさか……あれはっ!?
思わず立ち上がって、ステージ中央で土煙に包まれた『ソレ』を凝視する。
「やよっち……?」
手が……手が震える……! くそ……!
分かっていても……分かっていても怖いものは怖い!
「あ……危…ない!!」
「「「え?」」」
次の瞬間、一筋の真紅のビームが発射されて、それを鈴と一夏がなんとか回避。
だがしかし、回避されたビームはそのまま二人の後ろまで直進し、あろうことか、強固に守られている筈のアリーナのシールドを易々と貫通した!
「くっ……!」
「そ…そんなことが……!」
爆音と閃光がこっちまで迫り、反射的に腕で顔を隠す。
数秒の無音状態の後、この場にいる皆は自分達が置かれた状況をようやく理解し、その恐怖心が一気に爆発した。
「「「「「きゃぁあぁああぁぁああぁあぁああぁあぁあぁぁっ!!!!!」」」」」
全員が一斉に観客席の出口へと殺到する。
皆は一種の恐慌状態に陥っていて、誰もが我先にと他の人間を押しのけて先に進もうとしている。
「私が先よ!! そこどきなさいよ!!!」
「うっさい!! あたしが先に来たんだから、大人しく後ろに下がれ!!」
「私は二年生よ!! 分かったらさっさとどいて!!!」
「早くっ!! 早く行ってぇぇぇぇぇっっ!!!」
「死にたくない! 死にたくないよぉぉぉぉっ!! お母さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
仕方が無いと言えばそれまでだけど、見てられない……。
全員が完全にパニックになって、精神状態が普通じゃなくなってる……!
「ど…どどどどどうしよう……やよっち……」
「本…音……」
完全に怯えている本音を少しでも安心させる為、彼女の手をぎゅっと握りしめる。
「け…煙が……晴れる……」
レーザーの発射の余波で煙が吹き飛ばされて、その姿が白日の下に曝される。
「あ……れは……」
そこには、私がよく知っている無人機の姿があった。
異常なまでに両腕部が長く、肩部と頭部が融合しているようなデザイン。
最も特徴的なのは、全身を完全に覆い尽くしている『
二次創作などのオリ主の専用機などは大抵がアレと同類になるが、この異様なまでの不気味さは普通じゃない……!
アレはまるで、最初から敵対する相手を畏怖させることが目的でデザインされたような感じだ……。
「くっ……!」
悔しそうに顔を歪めながら、セシリアは行動を開始する。
「箒さん! 弥生さんと本音さんを連れて、急いでここから脱出を!」
「お…お前はどうする気だ!?」
「代表候補生として、成すべき事を成すだけ……ですわ」
「せっしー……」
うわぁ……不謹慎だと分かってはいるけど、今のセシリア……ちょっとカッコいい……。
「まずは管制室まで行って、織斑先生達と合流をしながら通信で状況把握をしますわ。皆さんは一刻も早く避難を! 先程のように、今度はこちらにあの強力なビームが来るやもしれません!」
「わ…分かった! セシリアも気を付けろよ!」
「勿論ですわ!」
強気な笑顔を見せたセシリアは、彼女の専用機の待機形態であるイヤーカフスに手を当てながら皆とは逆方向に向かって走り出した。
「……私達も急ごう。走れるか?」
「う……ん……!」
「だ…だいじょーぶだよ!」
「よし! なら、逸れないように気を付けながら行くぞ!」
私は空いている方の手で箒の手を掴んで、一緒にこの場から避難するために走り出した!
(大丈夫だと信じたいけど……気を付けてね……皆……!)
何も出来ない無力な私ではあるが、それでも皆の無事ぐらいは祈りたい。
例え疎ましく思ってはいても……大事な人達である事には違いないのだから……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
同時刻。
試合に向けて待機していた簪も、いきなりの乱入者に驚き、周囲の混乱に巻き込まれていた。
「これじゃあ先に行けない……! 弥生たちの事が心配なのに……!」
彼女が待機場所として使っていた更衣室に備え付けられたモニターの向こう側では、謎の機体と鈴が交戦をしていた。
一夏は端の方で大人しくしている。
「下手にこの人込みに突っ込めば、どこに流されるか分からないし……。どうすれば……」
焦る気持ちだけが募っていく。
こんな時に自分の専用機が完成していれば……。
無駄だと理解していても、そう思ってしまう。
「セシリアが一緒にいるから、多分大丈夫……だよね……?」
セシリアの代表候補生としての実力は簪も十分に認めている。
頭脳明晰な彼女ならば、きっと皆をきちんと避難させている筈。
「……私は私で、自分に出来る事を探そう……! 私だって更識の人間で……日本の代表候補生なんだから……!」
自分で自分を鼓舞して、簪も覚悟を決める。
もうそこには、姉にコンプレックスを抱いていた気弱な少女はいなかった。
今いるのは、己の役目を全うしようと奮起している一人の選ばれし少女だった。
「必ず駆けつけるから、それまで無事でいてね……弥生……皆……!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「な…んなのよ……あの威力は……!」
「冗談……だろ……!?」
自分達に向かって放たれたビームの威力を見て、唖然とする鈴と一夏。
「アリーナを守っているシールドは、基本的にISと同じように出来ている。それを易々と貫通してここまで来た挙句、あんなバ火力なビームを見せつけられるなんてね……!」
間違いなく強者である鈴でさえも、冷や汗を隠しきれない。
鈴でそうならば、素人である一夏は……?
「一夏。取り敢えず試合は中止よ。って……流石に言わないでも分かるわよね?」
「当たり前だ! それよりもアレは……」
どうやら、素人すぎて逆に正しく状況判断が出来ていないようだ。
彼は驚きこそすれ、それ以上の感情は抱いていないようだった。
「「なっ!?」」
少し話した隙に、二人は相手によってロックオンされた。
白式と甲龍が警告音とメッセージを発信し、二人に危険を促す。
「アンタは急いでピットに戻りなさい!」
「はぁっ!? この状況で何言ってんだよ! そもそも、お前はどうする気だっ!?」
「決まってるでしょ……!」
苦笑いを浮かべながら、鈴はその手に双天牙月を握りしめる。
「なんとかして、アンタと観客席の皆が逃げる時間と、先生達がやって来る時間を稼ぐのよ」
「ひ…一人でかっ!?」
「そうよ。なんか文句ある?」
「当たり前だ! 女を一人置いて男の俺がおめおめと逃げるなんて、そんな情けない真似できるかよ!!」
「アンタ本気で馬鹿じゃないのっ!? 実力も無い! 体力も無い! SEも無い! 無い無い尽くしな上に碌な状況判断すらも出来ないアンタが、この場に残って一体何をするって言うのよ!!!」
「それ……は……」
はい論破。
一夏は急に黙りこくってしまった。
「ちっ! のんびり話もさせて貰えないっての!?」
「ちょ……うわぁぁぁっ!?」
再び放たれたビームを一夏を蹴飛ばしながら自分も回避。
蹴り飛ばされた一夏はアリーナの壁にぶつかり、そこで尻餅をついていた。
「今ので本当にSEも底をついたでしょ? 分かったら、大人しくそこで先生達が来るのを待ってなさい」
「ま…待てよ! 鈴!!」
一夏の言葉に耳を貸さず、鈴は謎の機体の前にせり出た。
そこに、管制室からプライベート・チャンネルで通信が入ってきた。
『凰さん! 織斑君! 無事ですかっ!? 無事なら、一刻も早くそこから脱出してください! すぐにでも先生達がISで駆けつけて鎮圧しますから!』
「それが出来れば苦労しませんよ! 向こうは完全にこっちをロックしてるし、先生達が駆け付けるまでここを無人には出来ないでしょう? そうしたら最後、それこそアイツは縦横無尽に暴れますよ?」
『それは……そうですけど……』
「心配しないでください。アタシだって、出来る事なら一秒でも早くこんな所からおさらばして、弥生の胸に飛び込みたいんですから」
『凰さん……』
「代表候補生として、こんな状況で人命を無視する事なんて出来ませんからね。可能な範囲で時間を稼いでみせます。だから……」
『分かりました! こちらも急いで先生達をそちらに送るようにしますから! ですから、くれぐれも十分に気を付けてくださいね!』
「了解です!」
器用にビームを回避しながら、真耶と通信越しに会話をする。
口では強がっていたが、実際は鈴も焦りを隠しきれないでいた。
(意味不明な状況な上に、正体不明のIS……。マジでどうなってんのよ! あぁ……今、猛烈に弥生に会いたい……。会ってからギュッて抱きしめて貰いたい……)
愛しい彼女の事を思いながら、必死に避ける事に専念する。
(でも、ここでこいつを食い止めるって事は、弥生の事を守る事に直結するのよね……。そう思うと、なんだか元気が沸いてきた!)
迷いに満ちていた鈴の目が生き返った。
「さぁ……来なさい! 中国代表候補生、凰鈴音! そう簡単にこの首を取れるとは思わないことね!!」
回避をしながら、着実に自分の距離へと近づいていく。
そんな鈴の顔は笑っていて、八重歯が眩しく光っていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「お嬢様!! 早くこちらに来てください! 私達だけではもう耐えられません!!」
『分かっているわ! 私も急いでそっちに向かってるから、もう少しだけ待ってて!!』
生徒会書記にして、本音の実の姉でもある『布仏虚』は、生徒会役員の一人として、教師達と一緒に避難をしている生徒達の誘導を手伝いながら、通信機で生徒会長である楯無と連絡を取っていた。
「このままでは暴動も起きかねない……! それに、こんな状況では先生達も鎮圧に向かうことが出来ない……」
まさに八方塞な状況だった。
生徒達もそうだが、教師達も段々と精神を疲弊させていた。
「こんな感じじゃ、いつまで経っても避難が終わらないわ!」
「でも、だからと言ってここを離れる訳にはいかないでしょ!」
「ほらほら! 押さない駆けない喋らないを守って!」
これは避難訓練ではなくて、本当の危機的状況である。
混乱の渦にある生徒達に『お・か・し』を守る精神的余裕など、あるわけも無かった。
「本音……お願いだから無事でいて……」
生徒達を避難させながら、虚は密かに妹の事を案じていた。
それは、この場で彼女の許された唯一の自由だった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
箒と本音と一緒に避難をしていると、案の定と言うべきか、私達は圧倒的な人込みに巻き込まれていた。
「絶対に離すなよ! ここで逸れたら終わりだぞ!!」
「分か……ってる……!」
「うぅ~…!」
凄い奔流だ……! 万が一にでも足を崩したら、大怪我じゃ済まないぞ!
下手をしたら、本当に死んでしまいかねない!
先程まではしっかりと握りしめていた手も、今では離れる寸前になっている。
力を込めて離さないようにしないと、冗談じゃ済まされない!
(ここはどの辺りなんだろう……? かなりの距離を歩いたようにも思えるし、少ししか進んでいないようにも感じる……)
時間の感覚が無くなってきたかも……。
これは普通にヤバいな……。
『……ジジ……ジジジ……』
なんだこれ…? 上から聞こえる……放送?
『助け……! 腰が抜…て歩…な……』
途切れ途切れに聞こえる……。
まさか、まだ中継室にまだ誰かが残されているのか!?
(こんな状況じゃなければ、助けに行ってもよかったんだけど……)
助けに行くどころか、碌に身動きすら出来ない。
寧ろ、こっちの方を助けて欲しい。
そんな風に考え事をして油断をしていたせいで、ノロノロとしていた歩みが急に早くなった事に追いつけなかった。
「きゃぁぁぁぁっ!? やよっち! しののん!」
「「本音っ!?」」
しまった!! 本音と手が離れてしまった!
彼女の姿が人込みに飲まれて消えていく!
「くっ! 本音ぇぇぇぇぇっ!!」
(なんで……なんで手を離したんだよ!! 私は!!!)
今、初めて自分の事を憎いと思った……!
こんな時に……こんな時に限ってなんで私は無力なんだ……!
「わ…私達も流される!?」
「く……あぁぁぁぁ……!」
「せめて弥生だけでも……!」
箒の手が先程よりも強く握りしめられた。
少し痛いぐらいだが、今はこれぐらいが丁度いい。
次第に端の方に追いやられ、壁にぶつかりそうになる。
このままじゃ……!
「弥生!!!」
「きゃぁあぁぁぁぁっ!?」
箒が私を庇うように抱きしめて、そのまま私達はどこかに入るように投げ出された。
強い衝撃が体に走って、痛みで僅かに心が冷静になる。
(床……に転がっている……のか……?)
人込みが無い……。ここは廊下じゃない……?
「や…弥生……大丈夫か?」
「なん……とか……」
「そうか、よかった……」
二人一緒に起き上がって、今いる場所を確かめる。
「ここは……?」
床に座りながら怯えている女子生徒達がいる。
一人は泣きながら頭を抱え、一人は端っこの方で震えていて、もう一人は虚ろな目で只管に『お母さん……お母さん……』と呟いている。
この場にいる全員が、恐怖によって精神が壊れかけてる……!
「ここは……?」
「中継……室……?」
すぐ傍に放送機器が転がっている。
と言う事は、さっきの放送はここから聞こえてきたのか……。
「なんで避難をしようとしないんだ……?」
「まさか……!」
急いで立ち上がって、中継室の扉に手を掛けた。
「やっぱ…り……!」
「ど…どうした?」
「このド…ア……壊れ……てる……!」
「なんだってっ!?」
箒も立ち上がってドアノブを握るが、ビクともしない。
「なんで……? ここには入ってこれたのに……」
「多…分……この騒動……で……扉…が壊れて……内側…から…は……開けられなく……なってる…んだと……思う……」
「そんな馬鹿な……」
きっと、この子達はこの壊れたドアによって逃げ道を阻まれて、精神的に追い込まれてしまったんだろう……。
よりにもよって、なんでこんな器用な壊れ方をするんだよ! もう!
「……! 箒! ドア…から手を離し……て!」
「なにっ!?」
彼女の手を掴んでドアノブから離す。
すると、扉の前に固そうなシャッターが下りてきて、完璧に逃げ道が無くなった。
「う……そ……!」
「冗談じゃないぞ……!」
そんな……こんな事が……。
「扉……が……ロックされ……た……!」
そういや、原作でも無人機がこんな事をしていたような気が……。
じゃあ、これも奴の仕業か!?
(ここがロックされたって事は、他の場所も……)
これは……確実に混乱の度合いが増すぞ……!
最悪の事態も想定しないといけなくなるかもしれない……。
「いやあぁぁぁあぁあぁあぁああぁぁあぁあぁぁあぁぁぁっ!!!!!!」
「出してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! ここから出してよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「助けてぇぇぇぇぇええぇぇぇぇっ!!!! 助けてぇええぇぇぇええぇぇっ!!!」
さっきよりも更に恐慌状態になった!?
「お…おい! なんか奴がこっちを向いているぞ!?」
「えっ!?」
なんでっ!?
別に箒はマイクを使って大声なんて出してないのに!?
「はっ!?」
恐る恐る設置されているマイクを見てみる。
(冗談……でしょ……?)
中継室のマイクのスイッチが入ったままになっている!?
これがこの子達の叫び声を拾ってしまったのかっ!
(アイツのビーム砲がこちらに向かって……!)
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!!
(やるしかない……のか……!)
自分の腕にある鉛色のリング。
私の『専用機』の待機形態。
専用機なんて言うのも憚られるような代物だけど、それでも……!
(今……なんとか出来るのは私しかいない……!)
覚悟を決める時が来た……のかもしれない……。
「私…は……!」
次回、遂に弥生の専用機が登場!?
やっとここまで来たって感じです。