なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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今回は事後の話。

けど、特定のキャラにとっては重要な回でもあります。




知らない所で終わった事件

「ん……?」

 

 なにやら人工の灯りが私の瞼を貫通して、直接眼球を刺激する。

 その感覚で私は重い瞼を開けた。

 

「……………」

 

 視界の先には清潔そうな天井が見えていて、全身に感じる柔らかな感触。

 私はどうやらベッドに寝ているらしい。

 と言う事は、ここは……

 

「見た事……も無…い天j「何を言ってんのよ……」……え?」

 

 起きて一番のボケに誰からかツッコまれてしまった。

 誰だと思って首だけを動かすと、そこにはいつもの原作キャラ達が勢揃いしていた。

 あ、山田先生はいないけどね。

 

「みん……な……?」

 

 あれ? なんで揃いも揃って心配そうにこっちを見るの?

 

「や…弥y「やよっちぃ~!!」ぬぁっ!?」

 

 箒が喋ろうとした瞬間、それを遮って傍にいた本音が私にいきなり抱き着いてきた。

 うん。いい匂いがする上にプニプニな二つのお山がたまりません。

 え? 自分にも立派なものがついているじゃないかだって?

 それはそれ。これはこれだよ。

 

「よかった……よかったよぉ~……」

「本音……」

 

 『よかった』は私のセリフでもあるんだけどね。

 人込みの中で逸れてからどうなったか、本当に心配していたから。

 

「弥生……自分がどうなったのか……覚えているか?」

「え……っと……」

 

 自分がどうなったかって言われてもな……。

 え~と……確か~……。

 

(例の無人機のビームを防ぐために、止む無くアーキテクトを起動させて、それから……)

 

 あ、もしかして私……気絶しちゃった?

 

「思い出したか?」

「気絶……する前後……が…少し曖昧……だけ…ど……」

「そうか……」

 

 お…おぉ? なんか箒が妙に大人しいぞ?

 どうした? 何かあったのか?

 また一夏に裸でも見られたのか?

 

「弥生っ!!」

「わぷ……」

 

 今度は箒が本音とは反対側から抱き着いてきたし!

 ぬぉぉ……! 彼女の日本人離れした二つのメロンが私に当たってててて…!

 

「ありがとう……本当にありがとう……! 弥生は間違いなく私の……私達の命の恩人だ……!」

 

 命の恩人……ね。

 まさか、この私がそんな風に言われる日が来るなんてね……。

 って言うか、私って今は制服を着た状態でベッドに寝てるから、こんな風に抱き着かれると制服が皺になるんですよね?

 ちょっと、分かってます?

 

「怪我……は……無い……?」

「私よりも自分の事を心配しろ! あれから大変だったんだぞ!」

 

 た…大変とな?

 一体、私が気を失ってから何があったって言うのさ?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 弥生が敵のビーム攻撃を身を挺して防いでくれた後、鈴とセシリアが二人がかりで敵機を撃破してくれた。

 その直後だった。私達がいた中継室に救助がやって来たのは。

 

「弥生!!」

「弥生ちゃん!! 皆!! 大丈夫!?」

 

 固く閉ざされた扉を破壊してやって来たのは、ISスーツを着た簪と、似たような容姿の上級生、それからリヴァイヴを纏った複数の先生達だった。

 後で聞いたのだが、彼女は簪の姉であり、この学園の生徒会長でもあるらしい。

 その生徒会長が、自らの専用機で扉をこじ開けるようにして救出に駆け付けてくれたんだ。

 

「か…簪!! 弥生が……弥生が!!」

「分かったから、まずは落ち着いて」

「ひっく……ひっく……」

 

 柄にもなく泣いてしまった私の事を宥めてくれた簪は、弥生の容体を会長と一緒に看てくれた。

 

「体に熱が籠ってるけど……」

「見た限りでは、これと言った外傷は無いみたいね……よかったわ」

 

 二人が言うには、弥生は単純に精神と体力の限界が来たから気絶してしまっただけであって、命に別状はない……らしい。

 詳しくはちゃんと調べてみないと分からないが。

 

「弥生……頑張ったね……」

 

 簪も今にも泣きそうな顔で弥生の頭を優しく撫でていた。

 本当は自分も私みたいに泣きたいだろうに、きっと我慢していたんだろうな……。

 私ももっと精進しなくては……。

 

 それからすぐに鈴とセシリアも駆け付けてくれて、皆の手で弥生を保健室まで運んだんだ。

 

 それと、私達の他にいた生徒達は、先生達にちゃんと保護されていた。

 かなり精神が疲弊していたようだったが、彼女達は大丈夫だろうか……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「そう……だったん……だ……」

 

 なんか、思った以上に皆に助けられたんだな……。

 なんと言いますか……感謝の言葉しか出ないな……。

 

「その……会長……さん……は……?」

「お姉ちゃんなら、まだやる事があるからって、先に行っちゃった」

「そう……」

 

 図らずも、私は更識楯無に助けられた。

 出来ればこの場でお礼を言いたかったけど、本人がいないんじゃ仕方が無い。

 いつか機会を作って、直接生徒会室まで足を運んで礼を言うしかないな。

 おじいちゃんの子供として、礼節を重んじるのは当然の事だ。

 幾らヘタレとは言え、感謝の気持ちすら忘れるような外道には成り下がりたくない。

 

「本当に……弥生が無事でよかったわ……」

「そうですわね……。目の前で気絶している弥生さんを見た時は肝を冷やしましたわ」

 

 こらこら。仮にもお嬢様が『肝』なんて言うもんじゃないぞ?

 

「ところで……」

「な…に…?」

 

 なにやら、皆の視線が私の腕輪……アーキテクトの待機形態に集まっているような……。

 

「弥生も専用機を持っていたのね。驚いたわ」

「えぇ。あの時はISを展開しておらず、遠目でしたのでよくは分かりませんでしたけど……()()()()()()()()()()ような気がしましたわ……」

 

 セシリアの見解は間違っていない。

 私の専用機『アーキテクト』は、ISに詳しく携わっている人間ならば、()()()()()()()()()()()()筈だから。

 

「あ~……板垣」

「先…生……」

 

 ここで我らが担任様のご登場です。

 後ろから悠然と現れましたよ。

 

「一応……な。ここの教師として、お前が専用機を所持している以上は、お前の機体を調べなければいけないのだが……問題無いか?」

 

 確かに。

 スペック不明のISとか普通に学園側も容認しにくいだろう。

 

「分か……りまし…た……」

 

 私は自分の腕から腕輪を外すと、織斑先生へと手渡した。

 

「済まんな。それと……」

 

 ほわ……。

 またこの人に頭を撫でられたよ……。

 これで通算何回目だ?

 

「教師としてはあまり無茶をするなと言いたいが、ここは敢えて一人の人間として言わせて貰おう」

 

 な…何をでっしゃろか?

 

「本当によく頑張ったな……弥生。お前の勇気によって助かった命がある。弥生のような生徒を教え子に持てた事を、私は心から誇りに思うよ」

 

 な……名前で呼ばれたですとぉっ!?

 あ…あれ? 私……なにかこの人の好感度を上げるような事をしましたか!?

 全っ然見当もつかないんですけどっ!?

 

「凰とオルコットもよくやった。まさか、教師部隊が到着する前に倒すとは予想もしなかったぞ。流石は代表候補生だな」

「い…いえ……。私は当然の義務を果たしただけですわ……」

 

 セシリアは照れくさそうに髪を弄っていて、鈴は……

 

「ち…千冬さんに褒められた……? 明日は雪かしら……」

「それはどういう意味だ? そうか。今からグラウンド100周したいのか。それは感心感心」

「すいませんでした!!!」

 

 はい。速攻土下座。

 鈴には『口は災いの元』と言う言葉を贈ろう。

 

「では、私はこれで失礼する。お前達も、あまり長居せずに早く戻れよ」

「あの……私……は……」

「板垣は念の為、今日一晩はここで寝た方がいい。保健の佐藤先生もそう言っていた」

「分かり……まし…た……」

 

 保健室でのお泊り。

 なんだかワクワクしますね~。

 私、結構ホラー物とかって好きですよ?

 

 そういや、さっきからずっと一夏が一番後ろで黙りこくっているけど、大丈夫なのか?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 千冬が保健室を後にする直前、去り際に一夏がそっと彼女に話しかけていた。

 

「千冬姉……」

「……なんだ」

 

 いつもならば『先生と呼べ』と指摘するが、一夏の様子がおかしいため、敢えて何も言わないでいた。

 

「俺……弱いのかな? 調子に乗ってたのかな……?」

「…………」

 

 心の中で密かに溜息を吐く。

 やっとその事に気が付いたのか……と。

 

 姉として、一人の教師として、ここはハッキリと言う事にした。

 

「そうだな。お前は弱い。恐らく、この学園で最弱と言っても過言じゃない」

「最弱って……」

「少なくとも、お前よりも布仏のほうが強いぞ」

「マジかよ……」

 

 まさか、いつも『のほほ~ん』としている本音よりも弱いと知って、愕然とする。

 

「板垣は言わずもがなだな。私もまだ完璧に把握しているわけではないが、それでも専用機を所持し、今日のあの局面での動きを見れば、ある程度の腕前は分かる」

「そうか……」

 

 流石はブリュンヒルデ。

 一度は世界の頂点に君臨したのは伊達ではないようだ。

 

「俺……何も出来なかった……。倒れた弥生の元に駆け付ける事すら……」

「…………」

 

 ここは黙って聞く事に。

 

「それで? お前はどうしたいんだ?」

「俺は……」

 

 ここで初めて、一夏の中に『迷い』が生じた。

 いつもは二言目には『守る』と言う筈の彼が。

 

「分かんなくなっちまった……。誰かを守れるような人間になりたいと思ったのは本当だけど、それだけでいいのかなって……」

「ふぅ……」

 

 ようやく『迷う』事を覚えた弟に対し、姉は一言だけ告げた。

 

「ならば、思う存分迷う事だな。強さへの道に正解のルートなんてものは無いし、強さへの答えもまた一つではない。私だって、昔は散々迷いに迷った」

「千冬姉も……?」

「だから」

 

 軽くポン…と出席簿で頭を叩いて、保健室の扉を開ける。

 

「お前はこれから沢山迷え。迷った分だけ大人になれる。それが青春と言うものだ、一夏」

 

 自分の頭を触りながら、一夏は去り行く姉の背中を見ていた。

 

「迷った分だけ大人になれる……か」

 

 織斑一夏、成長の時。

 ここから彼は変わっていく……のかもしれない。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 千冬が保健室から出ると、そこに待ち構えていたように白衣を着た黒髪の女性が立っていた。

 彼女こそが、先程の話にも出てきた保健教員の佐藤である。

 

「千冬。ちょっと時間ある?」

「今からか?」

「うん」

 

 かなり真剣な顔をしている彼女を見て、ただ事ではないと察した千冬は、携帯で真耶に少し遅れる旨を伝えた。

 

「大丈夫だ」

「じゃあ、こっちに来て」

 

 そう言って、千冬を先導するようにその場を移動する。

 

「ここでは出来ない話か?」

「まぁね。これはあの子の担任である千冬にしか話せない」

「私にしか……?」

 

 佐藤が言う『あの子』が弥生の事を指しているのは分かったが、それが何故自分にしか話せないのかが分からなかった。

 

 彼女について行った先は、普段は生徒や客人と内密な話をする際に使用する『面談室』だった。

 

 佐藤は密かに持っていた面談室の鍵を使って扉を開けて、千冬と一緒に中へと入った。

 

 供えられたテーブルに向かう合うように座り、白衣のポケットからある物を取り出してテーブルの上に置いた。

 

「説明するよりも、まずはこれを見て」

「これ……は……!」

 

 テーブルの上に置かれたのは、一枚の写真。

 そこに写されていたのは、無数の傷跡に晒された少女の腕。

 

「これは……あの板垣弥生ちゃんの腕よ」

「…………っ!!」

 

 見せられた瞬間に少しだけ予想していた事。

 しかし、面と向かって言われると、千冬と言えども動揺は隠しきれない。

 

「腕だけじゃない。こんな傷跡が体中に無数に存在しているの。それこそ、顔の下から爪先まで……ね」

「そんな……」

 

 普段から弥生が肌を決して出そうとしない理由が、ここでようやく判明した。

 この体にある無残なまでの傷跡を隠す為だったのだ。

 

「しかもね、これだけじゃないのよ……」

 

 次の写真を出そうとポケットの中を探る。

 

「彼女には悪いとは思うけど、私も保健室を任されている以上は、ちゃんとした精密検査ぐらいはしなくちゃいけないし、何かあった時はこうして資料として写真等を残しておかないといけない……っと、あった」

 

 二枚取り出したが、まずはその内の一枚を千冬に見せた。

 

「彼女の爪……全部剥がされてた。手だけじゃない、足の爪も……」

「くっ……!」

 

 見たくも無い現実。

 だが、弥生の担任教師である以上、ここで目を逸らす訳にはいかない。

 

「これね、自然に剥がれたような感じじゃなかった。明らかに誰かによって無理矢理剥がされた痕よ」

「なんて惨いことを……!」

 

 顔も知らない何者かに、激しい怒りを覚える千冬。

 その拳が強く握られて赤く滲む。

 

「けどね、一番酷いのは……これ」

 

 佐藤自身も本当に辛そうにしながら、もう一枚の写真を見せる。

 それを見た途端、千冬は思わず手で口を覆った。

 

「彼女の顔……左半分が酷い火傷を負っていたわ。髪や包帯で隠していたけど」

「なんでだ……なんでなんだ……!」

「それはこっちが聞きたいわよ。……この火傷によって板垣さんの左目ね……完全に機能を失っているの」

「失明している……のか……」

「そうなるわね。まだ右目があるから生活には支障は無いんでしょうけど」

 

 ここに来て知られてしまった弥生の体の真実。

 千冬は、これまで全く知ろうともしなかった自分を心の中で激しく責めた。

 

(私は……私は何をやっていたんだ……! アイツがこんな傷を背負っているなんて……全然知らなくて……! 担任失格じゃないか……!)

 

 悔しさと悲しさで思わず涙が零れそうになる。

 

「ねぇ……あの子って本当に何者なの? 体の傷と言い、顔の火傷と言い、明らかに普通じゃない。どう考えても、現代日本の女子高生が負うような傷じゃないのだけど?」

「……………」

 

 その問いには答えられない。

 正確には、その答えを千冬は持ち合わせていないのだ。

 

「その様子じゃ、アンタも知らないのね……」

「済まん……」

「別に責めてるわけじゃないわよ。でも、一度ちゃんと調べた方がいいと思う。これは……放置しておくには余りにも問題が大きすぎる」

「分かっているさ……」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、千冬は面談室から出ようとする。

 

「悪いが……そろそろ行かせて貰う」

「そう……。引き止めて悪かったわね」

「いや……。いずれは必ず向き合わなければいけない問題だ。いい機会だったよ…」

 

 暗い空気を漂わせる千冬の背中を見て哀れに感じた佐藤は、諭すように話しかけた。

 

「別に千冬が責任を負う必要は無いんだからね。勿論、板垣さんも悪くない。こんな傷、誰だって隠そうと思うわよ」

「そうだな……」

「一番悪いのは、彼女をこんな目に遭わせた腐れ外道。どんな奴かは知らないけど、そいつは紛れも無く最低最悪の人間ね……」

 

 佐藤も辛いのだ。

 なにせ、この傷跡を実際に目の前で目撃してしまったのだから。

 医学を志す者として、決して見逃してはいけない事例だった。

 

「板垣さんのこの傷はかなり古いもので、いくつかは治療する事も可能だけど、全部は……」

「そうか……」

 

 言われなくても分かっていた。

 あの顔の火傷など、素人目で見ても普通に治る事は無いと理解出来る。

 

「教えてくれて感謝する……。板垣の事……頼んだ」

「任されたわ。あの部屋にいる以上は私がちゃんと面倒を見るから」

「あぁ……」

 

 ガチャ……と扉が閉まって、室内には佐藤一人だけ。

 

「……彼女って無駄に責任感が強いから、変に気負ったりしなけりゃいいんだけど……」

 

 時期尚早だったかもしれない……と、全てを話してから密かに後悔する佐藤だった。

 

「これ……轡木さんにも報告すべき……よね? はぁ……また同じ事を話さなきゃいけないと思うと、気が重いわ……」

 

 思わず胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。

 煙草の煙が天井まで昇って、すぐに霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ事後処理の話は終わりません。

そうなると、必然的に弥生の出番がまた減るんですよね……。

これでいいのか!? 主人公!!

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